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《8・エルフの少年》 ~シン~

南の都…メトロポリスキャッスルで友達に『荷物』を届けた後、ベアブックに戻ることにした。

もちろん、借りた荷馬車を返すためであるが、正直、都自体にあまりいい印象を持っていないので長居をしたくない…というのもある。

俺が田舎者なせいもあるかもしれないが、同じように大きな町でもサセホやベアブックの方が居心地良く感じる。

恐らくは城と城下町をぐるりと取り囲むようにそびえ立つ石づくりの防壁のせいだろう。

都にはフレデリック王子の墓もあるが、行ったことはない。

ご遺骨も無い、形ばかりの墓に参っても意味がないからだ。

あの龍どもが死者に敬意を払うとは到底思えないから、ご遺体は…かつての王城のどこかで朽ちるがまま放置されているのだろう…。


 ― ― ― ― ― ―


ベアブックに着いたが、町は異様に静まり返っており、戦闘の気配がした。

ヤツら、また来やがったのか!

俺は馬車を町で一番安全な場所…教会の敷地内…に置き、音のする方向に走った…。


町の北側で、たった1人で龍と戦っているアーチャーがいた。

帽子を被っておりこちらに背を向けているのではっきりとは分からないが、身体の大きさからして女性か子供のようだ。

と言っても間合いの取り方、矢を射る早さや正確さはそれなりに戦い慣れているように見える。

町の人たちが教会に逃げるまでの時間稼ぎをしていたのだろう。攻撃と言うより牽制しながら自分も一旦引くつもりらしい。

しかしアーチャーの後ろから別の龍が迫っていた。

気付かれないよう背後から不意打ちをしようとした卑怯なそいつを…さらに背後からぶった斬ってやった。

「!?」

アーチャーが振り向いて俺を、それから斬られた龍を見た。

…明らかに外国人と分かる金髪の14、5歳ぐらいの少年だった。

驚いたように見開いた大きな目を見て…顔立ちは全然違うが、なぜか弟を思い出してしまった。

「…話は後だ。俺が前に出る。動けるなら援護頼む」

言葉が通じているかは分からないがとりあえずそれだけを言うと、俺はもう1匹の龍の前に飛び出して行った……。


「ありがとう。助かりました」

龍と立ち回っていたアーチャー少年はカイと名乗った。

金髪、色白、緑色の瞳、特徴的な大きくて尖った耳…エルフだ。

弓と笛の名手で、森と共生する種族だと何かの本で見た気がする。勿論、本物に会うのは初めてだ。

言葉は問題なく通じるようなので、俺はカイを『話はメシでも食いながらにしようぜ』と料理屋に引っ張って来た。

「…しっかしカイ。お前さんみたいな子供があんなの相手によく立ち回ってたもんだなぁ」

向こうの腹を探るつもりで軽く言ったのだが、カイは初対面であるにもかかわらず子供扱いされたことにカチンときたらしくムキになって反論してきた、

「僕は子供ではありません!」

いやいや、一人称が『僕』で、デザートにケーキなんか食ってるあたり、十分子供だと思うけどなぁ。

「何言ってんだよ。どう見ても14歳前後じゃないか。俺のおと……」

『俺の弟が生きてたらちょうどお前さんくらいだぜ』…そう言いかけてやめた。

3年前、血の海の中で両親と弟が倒れている光景…目を見開いたまま事切れていた弟の目を閉じてやったあの冷たい感触…今でも鮮明に覚えている。

「…いや…それよりカイ、お前さんってエルフだろ?」

「はい、そうですが…」

「エルフって他の種族に関わるのを嫌うって聞いたことあるぜ。なのにお前さん、なんで自分から首突っ込んでんだよ?町の人ら逃がそうとしてたんだろうが、自分がやられちゃ元も子もないぜ」

「う……」

龍どもは森を破壊しながら侵攻を続けている。多分こいつの本来の目的は龍どもから森を守るとかそういうことなんだろうが、たまたま町の襲撃に出くわして知らん顔はできなかったのだろう。

本で見たエルフはもっと冷たい感じがしたが、こいつは信頼できそうだ。


「…ま、何が目的かは知らないが、お前さん1人で龍退治は無理だ。…と俺が言ったところで引っ込む気はさらさらないんだろ?」

「当然です!」

「じゃあさ、俺と組まないか?俺が前で斬りまくる。お前さんは後ろから得意の弓矢それ)で援護する」

思いがけない提案だったのだろう、カイはややポカンとした顔で俺を見ている。

「お前さんの弓の腕はすげぇよ。だが、前に出るより後ろから援護する方が向いてるってことは分かるだろ。この国の民は基本的に旅人には優しい。治安もまぁ悪くはないだろう。だが、だからって得体の知れない外国人にホイホイ龍の情報をくれるヤツなんてまずいないぜ。あぁもちろん、龍退治で出る報酬は山分けな」


こいつ自身がこの国の掟をどこまで分かっているかは知らないが、ここで俺と組まなければ先に進めず立ち往生することになる。…それを分かっていて知らん顔するのは良くない気がしたし、何となく、こいつは連れて行くべきだ…と感じた。

弓の腕前は確かだし、見かけ年齢よりずっと賢そうだし、簡単に死ぬこともないだろう。

「分かりました。よろしくお願いします」

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