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《5・襲撃者》 ~カレル~

シンがサセホに来ておよそ3ヶ月が過ぎた。

酒場での煮炊きに使う薪割りはすっかりあいつの仕事になっていた。


俺は『ホークアイ』の頭領を継ぐに当たって剣術を習得していて、シンにも請われて手解きをした。もっとも、この国では長さ70センチ前後の剣と盾を持つのが主流だが、あいつの剣は両手で持って攻防の両方をこなすものだから、教えたのは基本的な動作だけだが…あいつはメキメキと力をつけていった。

元々、親父さんや村の人たちの手伝いで鉱石の採掘や薪割り、農作業など力仕事をやっていたそうで、あのでかい剣を扱うのに必要な筋肉や腕力もそれなりに持ち合わせていたが、あいつにはそれ以上にセンスがあった。3ヶ月もしないうちに俺の部下では相手が務まらなくなったぐらいだ。

多分鍛錬を続けていけば近い将来フレデリック王子にも引けを取らない剣士になるだろう。

そうなって欲しいような、欲しくないような…複雑だな。


俺はフレデリック王子に呼ばれて再び王城に来ていた。

この3ヶ月の間にもミツキ村やウーサ村近辺の村や町が次々と例のバケモンに襲われて住人や兵士たちが犠牲になっていたのだが、王子によるとそのバケモンは『龍』だと判明したとのことだ。

「龍…ですか…」

「他国のことに詳しいそなたならタオファ国の神を連想するであろうな」

「はい…」


ナインステイツより西に位置する大国タオファ(タオファ共和国)では、龍は神様として崇められており、それを模した絵や彫像などが美術品または魔除けとして出回っているが、それらの龍は神々しく美しい姿をしている。

一方、この国に現れた龍は…目撃情報をもとに描かれた絵を見せてもらったが、なんと言うか…黒い大トカゲにコウモリのような翼をくっつけて後ろ足だけで立たせたような奇妙な生き物だった。

少なくとも、タオファの神様とは似ても似つかない。


「妹や大臣が言うには、タオファ国の神は天界から舞い降りた龍で、此度我が国を襲った龍は魔界からの侵略者である可能性が高いそうだ…」

王子は前に謁見した時と比べてお疲れになられているように見えた。

被害状況の調査と対策…防衛の指揮や逃げ延びた人々の生活の確保など…が忙しくあまり休めないのだろう。

教会では、俺たち人間が暮らすこの世界…すなわち『人間界』とは別に、神様や天使たちが住む『天界』と、神様に背いた人ならざる者たちが暮らす『魔界』が存在する…と教えている。

国や地域によって多少異なることはあるが、概ねどこの国でも似たような概念はあるようだ。

「彼らがなぜこの国を襲っているのかは分かっていないが、これ以上この国を彼らの好きにさせる訳にはゆかぬ」

王子はテーブルに地図を広げた。

地図には村や町が襲撃に遭った日付とそれらを日付順に矢印で結んだ書き込みがなされていた。

「これを見れば分かると思うが、彼らは最初のミツキ村以降、徐々に西に向かって進んで来ておる」

「となると…彼らが次に狙うのは…ワガタの町でしょうか」

「私もそう考えておる。非戦闘員はあらかじめ町から避難させ、ここに兵を集めて彼らを食い止めるつもりだ。ただ、現時点で兵の中にも負傷者が多数出ており、残っている者だけでは力不足が見込まれるゆえ、そなたら『ホークアイ』にも協力を要請したい」

「我々でお力になれるのであれば喜んでお手伝い致します。『ホークアイ』所属でなくても宜しければ、海戦経験のある者や腕の立つ者を何人か連れて参ります」

「本人が希望するのであれば所属は問わぬ。ただ、厳しい戦いとなるであろうことは必ず伝えるように」

「畏まりました。…ところで王子、ミツキ村のシン・トライヴァルを覚えておいでですか」

「勿論だ。もしやそなた、彼に会ったのか?」

「はい、会ったと申しますか…前に王子とお目にかかった後本人がサセホに来まして、今もサセホにおります。皆の無念を晴らしたいと鍛錬を重ね…今や私の部下でも相手が務まらないほどの大剣使いです」

「……そうか」

王子は一瞬悲しげな目をされた。

以前、王子はシンのことを『家族と故郷を愛する純朴な若者』として好意的に見ておられた。そんなシンが復讐に身を投じることを望んでおられなかったのだろう…。

しかし戦闘に当たって余計な私情を挟まないあたりは流石に一国の王子である。すぐいつもの引き締まった顔に戻りこう仰った…

「…そなたが認めているのであれば問題無いであろう。そなたには一度サセホに戻り態勢を整えて現地に来てもらいたい。4日で可能か?」

「はい」


しかし、約束の4日後、ワガタの町ではなく都が龍たちの襲撃に遭い、王子は陛下や妹のリーザ姫、城や城下町の人々が都から逃げ延びる時間を稼ぐべくたった1人で龍たちに立ち向かって行き…そのままお帰りにならなかった…。


そして、その日を境にあいつは笑わなくなった…。

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