表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/37

《3・変事(2)》 ~フレデリック~

ひとしきり村じゅうを調べて回り、都から増援の兵士たちを呼び寄せ、犠牲となった村人たち全員の確認ならびに埋葬が終わったのは翌日の昼過ぎだった。

私は、家族の墓前で呆然と立ち尽くすシンの傍に立った。

彼は首だけをこちらに向けた。

「……俺たちが、いったい何をしたっていうんだよ……」

こちらを向いてはいたが、その瞳は虚ろで、私を見てはいなかった。

「…リチャード陛下の善政と、日々の(かて)を与えてくれる大地の神様に感謝しながら、それぞれがそれぞれの仕事をして、助け合って暮らしていただけだ…。なのになんで、なんでこんな惨いこと…」


いつの間にか、その手には鉱石の採掘に使う(たがね)が握られていた。

小さいとはいえ、その刃先は鋼でできた鋭利なものである。使いようによっては十分凶器になるであろう。

私の後ろにいた兵士たちが私を守るべく剣の柄に手を掛けたのが気配で分かった。

しかし彼はその刃先を自らに向けた。

「…みんないなくなって、俺1人残ったって…意味なんか…」

「シン!よせ!」

彼がそれを自らの喉元に突き立てようとした…寸前のところで、私は彼の腕を掴んで止めていた。

今は何よりも彼から(やいば)を取り上げることが先決である。


「放してくれ!もう俺には何も無いんだ…!」

半狂乱で私の手を振りほどこうとする彼から強引にそれを奪い取ると、私は彼の頬を平手打ちした。

痛みより驚きが大きかったのだろう、彼は驚いた顔で私を見た。

「そなたの父グレンは、かつて都で兵士を相手に剣や槍を作っていた、大変腕の良い鍛冶屋だったと聞いている。しかし突然『もう武器は作らない』と言い残して都を去り、故郷であるここに帰ったという。何故だか分かるか?」

初耳だったのだろう。彼は驚いた顔のまま、首を僅かに横に振った。

「妻が子を宿したことを知ったからだ。…そうして生まれた子供が…シン、そなただ」

「………」

彼は父の墓標を見た。

「もう4年前になるか…私は成人の儀を行う少し前にここに来たことがある。…腕の良い鍛冶屋がいるとの噂を聞き、剣を作ってもらおうと思ってな。丁重に断られたよ。『私は息子たちに誇れる仕事をするため武器作りをやめた身です。たとえあなた様の頼みであっても…武器は作れません』と言っておった」

「………」

「良いか、シンよ」

私は左手で握った鏨を示した、

「これはそなたの父が『息子たちに誇れる仕事』をするための道具の1つだ。決して人を傷つけるためのものではない。ましてや自害に使うなどもってのほかだ」

「…親父……」

彼はがっくりとその場に膝をつき、座り込んでしまった。

その目からは涙がとめどなく溢れ出している。

私もその場に腰を下ろし、彼の肩に手を置いて諭した…

「そなたは私より若いではないか。これから先どうするかはゆっくり時間をかけて考えるが良い。ただし、父の名を汚す真似だけは絶対にしてはならぬ。良いな?」

「……はい……」

「分かれば良い」

私はシンを抱きしめた。

彼は驚いたらしく一瞬ビクッと身を震わせたが抗いはしなかった。

「今は…家族や村の者たちのために思い切り泣くが良い」

「…王…子……」

「20年も生きぬうちから、生きる意味が無いなどと言うでない。そなたを守るためならどんなことでもしよう。今は辛かろうが…そなただけでも生きていてくれ」


あとはむせび泣く彼の背中をただただ撫でていた。

何となく弟に接しているような気分だった。

私には弟はいないが、もしいたらきっとこんな感じなのであろう…。


帰り際、私はシンに再度絶対に自害はせぬことを約束させてから鏨を返した。

彼は、母方の叔母が都より西に位置するタリアの町に居るはずなので、今回の変事が解決するまではそちらに身を寄せるつもりだ…と言っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ