表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/37

《2・変事(1)》 ~フレデリック~

『どっちでもいいから、とにかく一緒に来てくれよ!村が!俺の村が!大変なことになってるんだよ!!』


若い男のものと思われるその叫び声は、門の方から私たちがいた謁見の間にまで響いてきた。

「…フレッド」

父上が私を見た。

父上はこの国の王であり、私をこう呼ぶのは今は父上だけだ。

いちいち言葉にしなくとも目を見れば分かる。『様子を見て、必要あらば対処せよ』というのだ。

「はい」

父上と私との間においてはそれ以上の返答も必要ない。

「王子、私も参りましょうか」

第二兵団長で私の幼なじみであるミュラーが近付いて来た。

「いや、私だけで十分であろう」

私はミュラーにそう言い、父上に一礼し、謁見の間を後にした…。


城門の前で、歳の頃は18歳前後と思われる若い男が門番兵2人と押し問答をしていた。

「あんたらが無理だっていうんなら!宰相なりあんたらの上官なり話が分かりそうな人に取り次いでくれよ!陛下に会わせろとまでは言わないからさ!!」

若者は興奮状態で喚き散らしている。

長身で、肉体労働をしているらしくがっしりした身体つきをしている。兵士が2人がかりで何とか宥めようとしているが、力ずくで突破されそうな勢いだ。


「何を騒いでいる。父上のもとまで聞こえておるぞ」

私は兵士たちの後ろから声を掛けた。

押し問答をしていた3人が一斉にこちらを見た。

「お、王子…」

「王子って…あなたがフレデリック王子!?」

若者は大層驚いた様子でほとんど飛び退くようにして兵士たちから離れ、その場に跪いた。

「し、失礼致しました!」

「構わぬ。それよりそなた、村がどうこうと言っておったな?落ち着いて詳しく話してくれぬか?」


私は彼から聞き出せる限りのことを聞き出した。

彼の名はシン・トライヴァル。

『都』と呼ばれているここキングスキャッスルより東の臨海に位置するミツキ村の者だそうだ。

昨日、鍛冶屋である父親に頼まれてワガタ鉱山にて夕刻まで鉱石の採掘をし、現地に泊まって先刻村に帰って来たところ、村が滅茶苦茶に破壊されていたので驚いて知らせに来た…という。

ここで時計を見た…14時を回ったところであった。

彼が鉱山を出たのは今朝9時頃、村に戻り異変に気付いたのは11時頃だと本人に確認した。

今日は休日だ。鉱山夫たちも休んでいるはずだからすぐに裏は取れるだろう。

「あの辺りで地震や竜巻が起きたという知らせは今のところ無いようだが…。そなたの家族や村の者たちはどうしている?」

そう問うたところ、彼の顔がみるみる青ざめた。

村の入口で惨状を見て、とにかく誰か呼んでこようと馬を駆ってここに来たので家族や村の者には会っていないという。

これは…最悪の事態も覚悟しておかねばならないかもしれぬな…。


私は直ちに父上に事情を話し、シン本人と数人の兵士、それに医者を伴い、ミツキ村に来た。

シンが語った通り…村は無惨なまでに荒らされ、破壊されていた。

よく見ると、地面に何かの足跡らしきものが幾つも残されている。私はその型を取るよう兵士の1人に命じ、まずは彼の家に向かった。

扉を開けた彼の絶叫が響いた。

そこには、彼の両親らしき男女と弟らしき少年の変わり果てた姿があった…。


「シンよ…気を確かに持て」

私は今にも崩れ落ちそうな彼の胸元と背中に手を当て、その身体を支えた。

地震や竜巻などで建物が壊れて下敷きになっていた訳ではない。

3人は明らかに、何者かによって殺害されていた。

「辛いだろうがよく確認せよ。彼らはそなたの家族なのか…?」

「……はい、両親と…弟です…。ケイン…なんで、なんでこんなことに……」

シンの震える手が、血溜まりの中で仰向けに倒れた弟の見開いたままになっていた目をそっと閉じさせた…。


結論から言うなら、合わせて6家族17人、すなわちシンを除く村人全員が殺されていた。

遺体や家の中の状況などから、昨日の17時から19時頃…恐らくは夕食中または夕食を食べ終わり家族で団欒していたところを突然襲われたのだろうと考えられる。

背中や胸、腹などを鋭い刃物か何かで大きく斬られ、各々の家の中で倒れていた。

人々が血で赤黒く染まった部屋の中で絶命している光景は…日々鍛錬をし、ある程度血を見ることに慣れている私たちですら思わず戦慄するほどの、まさに地獄絵図だった。

シンは…顔面蒼白でがたがたと震えながら『…嘘だ…嘘だよな…』と譫言(うわごと)のように繰り返しながら座り込んでしまっている。


「王子…もしやあの者が村人たちを…」

兵士の中には彼に疑いを向ける者もいた。

「無理だ」

私は即答した。

都からここに来るまでの間、終始不安げな彼の気を紛らわせるため様々な話をしたが、家族と故郷を愛する心優しく純朴な青年だと思った。

自分の両親や弟、友人や顔見知りを惨殺するなど、彼に出来る筈がない。

今回の件は少なくともまともな人間の仕業ではないと思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ