《11・サセホへ》 ~カイ~
翌日、僕らはベアブックから南に向かって馬車で移動していた。
この先にある港町から船に乗り、サセホの町に向かうそうだ。
昨日シンはベアブックのギルドで赤い紙と龍を倒した報酬を受け取った後、宿を取った。
シンがギルドであれだけ周囲と仲良く騒いでいたのを見ていた僕からすれば彼がベアブックの人でなかったことは驚きだったけど、シンの出身については『東のほう』としか聞けなかった。
まぁ、いいか。
宿でシンが説明してくれた。
「レッド・アイってのは符合なのさ。『赤紙』…ナンバーズにしか受けられない依頼を受け取るための、な」
「特殊な依頼…ですか?」
「あぁ。特に難易度の高い依頼、あとは王族がらみ…とかかな」
認識票を提示せずにレッド・アイを注文すると、ビールをトマトジュースで割ったものが出されるそうだ。
「赤紙を出せるのは、王族、兵士長以上の役職持ち、各町のギルドマスター、あとナンバーズだけだ。相手を指名する場合は相手の番号を知っていないといけない。一応言っとくがな、ギルドマスターに認めてもらうのスゲー大変だったんだぞー」
笑いながら軽く言ったけど、目は全く笑っていない。
僕はシンの実力を間近で見たからそんな重要な仕事を任せられるのも何となく頷ける。
今回シンが受け取った赤紙の依頼主は国王陛下。
依頼内容はこうだ。
『これまでの黒い龍とは比べものにならない強さの白い龍がサセホ近辺に現れ、既に被害が出ている。腕に自信のある者はサセホに集い、できるだけ速やかにこれを討伐してほしい』
白いからといって必ずしも龍王とは限らないけど、これまで白い龍の情報は全く出てこなかったというから、もしかしたら龍王につながる有力な手がかりになるかもしれない。
もちろん、前に戦った黒龍とは比べものにならない強さだというからしっかり準備をしておかなくては。
サセホは、ベアブックから見て北西、本土の最も西に位置する大きな町で、他国と行き交う船はここからしか出ておらず、輸入・輸出もこの港限定とされているそうだ。
僕も最初に訪れたはずなんだけど…右も左も分からない状態だったのであまり長く滞在せずにベアブック方面行きの船に乗ったため、どんな町だったかなどはあまりよく覚えていない。
本当は半島の北側を通る陸路の方が早いそうだけど、龍たちに途中の町を占拠されてしまったため半島の南側を通る海路を利用しての移動だ。
― ― ― ― ― ―
サセホの町には国王陛下直属の兵士たちも派遣され、厳戒態勢が敷かれていた。
家もほとんどの店も扉を固く閉ざしており、人通りは全くない。
町じゅうが何だか物々しい雰囲気に包まれていて、数日前に訪れたのと同じ町とは思えないくらいだ。
ここを龍たちに占拠されたら人や物資の輸送に影響が出る。
絶対に守り抜かねば!!
サセホのギルドもベアブック同様、多種多様な傭兵たちと、紺色の生地に左胸部分に白で『HAWKEYE』の文字と鷹を模したイラストの刺繍がある制服を着た水兵と思われる男たちが集まっていた。
が、カウンターにいる女主人の周りで何やら揉めている様子。
「おい、どうしたんだよ?」
シンが揉めている中に入って行った。
「あぁシン、帰って来てくれたんだね」
女主人はシンの顔を見るなり安堵の表情を浮かべた。
彼女はサセホのギルドマスターであるカレル・グランド氏の奥さんで、グランド氏が留守の時は代役を務めるのだ…とシンに聞いていた。
「カレルが留守にしているのに、白くてでっかい龍が現れた…なんて情報があったからどうしようかと思っていたんだよ。今回はあんたに任せるから頼んだよ」
「…分かった。ところで、なんか揉めていたようだが?」
「そうなんだよ…実はこちらのお嬢さん…外国の剣士らしいんだけど、自分も戦うって言ってきかないんだよ」
カウンター前に、明らかにナインステイツの人じゃないと分かる服装の女の子が立っていた。