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《1・始まり》 ~シン~

「おーい、兄ちゃんよ!」

鉱山で親父に頼まれた採掘を終え、現地に1泊した翌朝…帰り支度をしていたら山男(やまおとこ)の1人に呼ばれた、

「そんなに急いで帰らなくてもいいんだろ?帰る前に朝飯食ってけよ!」

山男とは、ここワガタ鉱山での採掘を生業とする男たちの通称だ。一見厳つくて怖そうだが気持ちのいい人ばかりだ。

俺のような月に1回採掘に来る程度の者にもよくしてくれる。


「遠慮は要らねえから、しっかり食えよ」

野菜たっぷりのスープと取り皿が渡され、麦飯のおにぎり、卵焼き、茹でたソーセージ、焼き魚、煮豆、根菜の煮物などテーブルに盛られたものを食べられるだけ取って食べる。

「兄ちゃん、見ねえ顔だな。新入りか?」

「何言ってんだ、ミツキ村の鍛冶屋の倅だよ。名前は…えーと、ケインっていったっけ?」

「自分はシン・トライヴァル、ケインは弟です」

「トライヴァル…おぉ!グレンの倅か!」

「言われてみりゃ、確かにグレンの若い頃に似てるなぁ」

「息子が2人いるとは聞いたが、こんなでかいとは思ってなかったぜ」

「いい跡取りがいてグレンも安心だな」

口々に言いながら飯をがっつく山男たちは半数近くがうちの親父と同年代だ。


俺は現在19歳、あと2ヶ月ほどで20歳になる。両親と9つ歳の離れた弟の4人家族で、家業は鍛冶屋だ。

鍛冶屋と言っても『人を傷つける武器は作らない』というのが親父の信念で、取り扱うものは鎌や鍬などの農具や包丁などの調理器具が中心だ。

親父は膝を痛めているため、ここ1年くらいは仕事に使う鉱石の採掘や簡単な修理の仕事を任されるようになった。

ゆくゆくは親父の後を継ぐことになるだろう。


この日もいつものように前日入山して採掘をし、山男たちに朝飯をごちそうになり、9時ぐらいに鉱山を後にした。

…まったくもっていつも通りだった。

ここまでは…。


俺たち一家が暮らすミツキ村は、さっきまでいたワガタ鉱山からは東の、海の近くにある小さな村だ。

俺が弟ぐらいの歳だった頃はもっと賑わっていた気がするが、当時いた人たちのかなり多くが都や大きな町での生活に憧れて、または田舎の不便さを嫌って村を出て行ってしまったため、人手不足が否めないが…村人同士がお互いに助け合って何とかやっている。

今日は休日だ。弟と、採掘から帰ったら釣りに行く約束をしている。

あいつのことだから、釣り竿を抱えて俺の帰りを待ちわびているに違いない。


さて……。

村が見えてきたが、違和感があるっていうか、何かおかしい気がする。

その違和感が何なのか分からないままひとまず帰って来たんだけど…村の入口で現実を目の当たりにして、思わず呆然と突っ立ってしまった。

目の前に広がる光景が信じられなかった。

多くの建物はどこかしら壊れ、古いものになると瓦礫の山と化しているものもある。

村のシンボルだった大きな楠の木の幹は真っ二つに折れ、枝や葉が散乱している。

何かが焼け焦げたような臭いと土埃のせいで空気が悪い。

そして…恐ろしいまでの静寂……。


時計を見ると、時刻は11時ちょっと前だった。

休日と言ってもこんな時間まで寝ていることはない。そろそろ秋の収穫の時期だから農場や果樹園は特に忙しくなる。村は総出で収穫の手伝いをすることになるし、毎年収穫後に行われる『豊穣祭』の準備もしなければなるまい。

…しかし、人の気配というものが感じられない。

この村で生まれ育ったのに、なんというか…このまま村に入るのをためらうくらい不気味な空気が流れている。

少なくとも、ただごとじゃないということは俺にだって分かる。

…とにかく、誰かこの状況を冷静に判断できる人を呼んだ方が良さそうだ。


俺は馬から荷車…採掘してきた鉱石やテントなどが積んである…を外し、その鼻面を撫でた。

「クロ、帰ってきたばかりで悪いが、ひとっ走り頼みたいんだ」

その名の通り真っ黒い毛並みの相棒は、わずかに目を細めた。

たぶん『分かっているさ』と言ったのだと…思う。

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