94話─選ばれた刺客たち
「はーい、これにてバトルロワイヤルしゅーりょー! 最後に勝ち残ったのは……僕でした! はい、はくしゅー」
「わー! ぱちぱちぱち……じゃねえよ! 審査する側が優勝してどうすんだ!」
「叔母様、それはあなた方全員に言えることですよ」
フィルたちが暗域でデートをしている頃。グランゼレイド城の大広間は、死屍累々の惨状となっていた。
親世代が乱入した結果、最終的に子世代が全員蹴散らされ……いつものようにリオが勝ち残る結果で終わったのだ。
カレンがツッコミを入れるも、そこへソロンがさらにツッコミを入れる事態となった。これでは、オーディションをした意味がない。
「まあ、子世代全滅まで最後に残った五人は覚えてるから大丈夫だよ。厳密には六人いたけど」
「ちゃっかりしてんな。いや、よく見てると言うべきか」
「もちろん! 主旨は忘れてないよ、そうじゃないと大暴れしただけで終わっちゃうし」
そう口にすると、リオは目を閉じて念じる。アブソリュート・ジェムの一つ、『創造のエメラルド』を呼び出し魔力を練り上げていく。
ジェムの力を使い、緑色の円盾を作り出すリオ。それを天井近くまで投てきし、指を鳴らして弾けさせた。
「みんなお疲れ様! それっ、ヒーリングレイン!」
「おおー、疲労が消える……力が沸いてくるぞー」
「さんきゅーパッパ、愛してるー!」
「これでもう一戦出来るぞ!」
盾が緑色の光の粒子になり、雨となって降り注ぐ。過酷なバトルロワイヤルで疲労困憊になった子世代の魔神たちが、みるみる元気を取り戻す。
「最後まで残った六人に与えた癒やしの粒子には、赤いマークが浮き上がるようにしてあるよ。マークがある子たち、この指とーまれ!」
「はーい!」
「っしゃあ! 俺だぁ!」
「今いきまーす!」
バトルロワイヤルにて、子世代が全滅するまで生き残っていた上位の六人がリオによってピックアップされる。
負けた連中が羨望の眼差しを向ける中、選抜された刺客たちが父親のところに突撃していく。栄えある刺客たち、そのラインアップは……。
「えっへっへっ、これでまたお父さんに褒められちゃうなぁ。えっへっへっへっ」
「はーい、というわけで最後まで残った子の一人目はー、僕とダンねえの娘のルテリちゃんでーす! はい、みんなはくしゅー」
一人目は、リオとダンスレイルの娘……オウムの化身たる斧の魔神、ルテリ。ほんわかした垂れ目が可愛らしい少女だ。
「五位だったか……まあいいさ、親父どのに俺の実力を見せ付けてやったからな!」
「うん、ガティスのパンチ中々強烈だったよー。今度は一体一でやろうね!」
「っつーことで、二人目はアタイとリオの自慢の息子だ。ガティス、よくやった! 後でご褒美やるぜ!」
二人目は、リオとカレンの血を引くサソリの化身、鎚の魔神ガティス。ガッシリした筋肉質の身体を持つ、ワイルドな偉丈夫である。
「お次は……おお、拙者の子たちじゃないの。うんうん、やっぱり生き残ると思ってたよ。やるじゃん、二人とも」
「えへへ、褒められたねリリー」
「そうだね、嬉しいねルルー」
三人目と四人目は、双子の姉妹。リオとクイナの娘たち、タコとイカの化身として生を受けた牙の魔神たち……前髪で目を隠した双子、リリーとルルー。
「いやー、ワイが勝ち残れるなんて思っとりませんでしたわ! やっぱ、マッマ譲りの頑丈さが明暗を分けた感じやな! 頑丈に生んでくれて感謝しとるで、サンキューマッマ!」
「へへへー、鎧の魔神の子なんだからね。ちょっとやそっとじゃ傷なんてつかないくらい丈夫だよ!」
「いや、戦ってる最中に腹ブチ抜かれてなかったかあいつ」
「しっ、今それ言っちゃダメだよダンテさん」
五人目として生き残ったのは、リオとレケレスの息子だ。愛嬌のあるまん丸い顔に、メガネをかけたのんびり屋の青年……カメの化身たる鎧の魔神、アルガ。
そして、最後の一人は……ちゃっかり戦いに参加していたシシの化身、盾の魔神ソロン。以上の六人が、対フィル用の刺客として選抜されることとなった。
「ちょっと、わたくしと旦那様の子が一人もいないじゃありませんの! 全く、軟弱にもほどがありますわ! これは後で鍛え直さないといけませんわ!」
「そうだぞー、オレのガキも生き残ってねえじゃねえか。ったく、もうちょっとシャキッとしろよなー」
「ごめんなさーい」
「すんませーん、オヤジー」
無事自分の子が選抜されたダンスレイルたちが喜ぶ一方で、息子や娘が勝ち残れなかったエリザベートとダンテがぼやく。
彼らの子たちは、これからまた厳しい鍛錬を課されることになるだろう。無事刺客の選抜が終わり、選ばれなかった者たちは帰っていく。
「じゃあ、まずは大広間を修復しよっか。それっ!」
その後で、リオはアブソリュート・ジェムの一つ『時間のルビー』と『空間のサファイア』を使い、大広間の時を巻き戻し、破損する前の状態に戻す。
そして、ジェムの力で広げていた部屋の大きさを元に戻した。そうして後片付けを終えたところで、改めて刺客たちに命令を下した。
「さてと……それじゃあ、改めて説明するよ。みんなには、シュヴァルカイザー……フィル・アルバラーズを試すために彼と戦ってほしいんだ」
「知ってるぜ、ソロンの兄ぃから聞いたよ。あのいけ好かねぇウォーカーの一族に属してる奴だろ?」
「ヒーローやってるんだって? あのクズ一族にしては見所あるね!」
リオはアイージャが取り出した水晶玉に魔力を込めて、空中に映像を投射する。映し出されたのは、フィルの立体映像だ。
シュヴァルカイザースーツまで完全再現されており、子どもたちはジッと観察する。ガティスとルテリは、それぞれそう述べる。
「行動だけで判断しちゃダメだぞ、二人とも。相手はウォーカーの一族だ、本心がどうかは実際に相対するまで分からねえ。最悪、猫被ってる可能性もあるしな」
「そこなんだよね、僕が危惧してるのは。誰だって、本性を隠して行動することは出来るからね。彼が本物の英雄なのか、偽りの英雄なのか……後者なら、殺さないといけないよ」
フィルの活動はすでに把握している子どもたちだったが、彼らにカレンが忠告をする。それに頷き、リオは冷たい声を出す。
立体映像へ向けられる冷徹な眼差しに、子どもたちは背筋をゾクゾクさせ……リオの妻たちは若干発情していた。
「おお、見なよみんな。リオくんのあんな表情、とてもレアだと思わないかい?」
「わかるわかるー。いつものほんわかした人懐っこい笑顔もいいけど、ああいうつめたーい表情もいいよねー!」
「そうですわ! 今宵は是非この表情を浮かべてわたくしを踏んで」
「人の息子の前でなにをしておるんじゃ貴様らはー! リオが恥ずかしさのあまりフリーズしとるじゃろが!」
「へばぶっ!」
話がアブない方向に逸れそうになった瞬間、アイージャがエリザベートにバックドロップを叩き込む。リオは赤面し、固まってしまう。
「……と、とにかく! みんなはシュヴァルカイザーを試してほしいんだ。彼が真に英雄たり得る人格の持ち主なのかをね。もしそうだと判断したら、それとなく僕たちの元に誘導してね」
「おう、分かったでパッパ! でも、違うわーってなったらどないしたらいいんや?」
「殺していいよ、その時は。どのみち、ウォーカーの一族だから根絶対象に含まれてるしね」
「はーい、分かったよパパ!」
「私たち、頑張るー!」
アルガに問われ、リオはそう答える。リリーとルルーが元気よく返事をした後、ソロンが総括を行う。
「では、ここからは我々にお任せください。詳細な襲撃プランを立て、父上の満足する結果を出せるようコンディションを整えておきます」
「うん、任せたよソロン。でも、あんまり気負い過ぎなくていいからね。ウォーカー相手に死ぬまで戦う必要はないよ。一人でも死んじゃったら、僕悲しくて立ち直れないかも……」
「安心してくれや親父どの! 俺たちゃそう簡単に死なねえからよ! アゼルどのにゃあ、今は頼れねぇからな。ほどほどに終わらせてくるぜ!」
「えへへ、みんな物わかりがいいね。よーし、それじゃあ今日は解散! 美味しいもの食べてぐっすり休んできてね。はい、これお小遣い」
景気付けにと、リオは転移魔法を使い息子たちにたっぷり金貨が入った袋を渡す。ルテリたちは目を輝かせ、大広間を出て行く。
「やったー! お肉食べようよお肉! たっぷり精がつくよ!」
「なら焼き肉だな! カルビをたらふく食いてえ気分なんだ俺は」
「小生はステーキを希望しますぞー! サーロインなどよろしいでしょうなー!」
「どっちも美味しそうだよ、ルルー」
「両方食べればいいんじゃないかな、リリー」
「なるほど、それは効率的ですね。では、私の行き付けの店に……」
腹違いの子どもたちは、和気あいあいとした雰囲気の中大広間を去って行く。彼らを見送った後、リオはアイージャの腕を尻尾でつんつんする。
「ねえねえ、ねえ様ねえ様」
「ん? どうしたリオ」
「どう? さっきみたいな表情……似合うかな?」
映像を見ていた時のような冷たい視線を送られ、アイージャは固まる。少しして、リオを抱え上げダッシュでエスケープする。
「え、ちょ、ねえ様!?」
「ふふ、いけない子じゃなリオは。よほど……妾をケモノにしたいと見える」
「あっ、抜け駆けしやがったぞあいつ! 追え、こうなったら昼から夜戦してやる!」
「それっ、追いかけろー!」
「……元気だなぁ、こいつら」
抜け駆けしようとするアイージャを追い、カレンたちも大広間を去って行く。残ったのは、やれやれとかぶりを振るダンテと轟沈されたエリザベートだけであった。