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90話─悲しみの後の希望

 友を失った悲しみを乗り越え、アンネローゼは仲間と共に基底時間軸世界へと帰還した。それから数日が経過したある日、基地にて……。


「それじゃあ、頼んだわよ二人とも。アゼルさんによろしくね」


「うん! おとーさんにたのんで、いきかえらせられないかきいてみるね!」


「さいぼーぐ? はそせいできるかわからないけど、きっとおとーさんならだいじょーぶだよ! ……たぶん」


 エモーの死を受け、悲嘆に暮れるアンネローゼ。そんな彼女に、イゴールとメリッサがとある提案をしたのだ。


 抜け殻になったエモーの遺体を、彼らの父アゼルに預けてみてはどうかと。幼く未熟な自分たちでは無理だが、父なら蘇生出来るかもしれないと考えたのである。


 その提案に、アンネローゼはすぐさま飛び付いた。もう一度友に会える可能性があるなら、それに賭けてみたいと思ったのだ。


「しかし、コアを持っていかなくてよいのか? 蘇生させるなら必要になると思うが」


「いらないよ? さいぼーぐじゃなくて、なまみでいきかえらせるから」


「おとーさんならだいせいこうだよ! ……きっとね」


 ただ、流石のアゼルでもサイボーグのまま復活させることはいくらなんでも不可能なのでコアは不要とのことだった。


 形見を手放さずに済み、ホッとするアンネローゼ。だが、問題が無いわけではない。場合によっては蘇生出来ないかもしれないと、オボロが語る。


「社長のことだ、機密情報の漏洩阻止のために特務エージェントに蘇生出来ないようにするための処置を施している可能性が高い。そこだけは、覚えていてほしい」


「うん、分かったわ。期待半分だもの、失敗したからってアゼルさんを責めるようなことはしないわ」


 アンネローゼとしては、希望を見出せただけありがたいことだった。松葉杖を突くフィルやイレーナ、オボロと共に双子を見送る。


「二人とも、今回はありがとうございました。二人がいてくれたおかげで、作戦の負担が減りましたよ」


「ごめんねー、ぼくたちぜんぜんたたかえなかった」


「おーえんばっかりになっちゃったね、いーくん」


「いや、二人の応援は心強いものだった。それに……二人との問答があったからこそ、それがしは道を見出せた。戦わずとも、貴殿らは大きな貢献をしてくれたよ」


 終わってみれば、結局マッハワンとの戦いにはほとんど関与出来なかった双子はしゅんとしてしまう。しかし、オボロにとっては彼らがいたという事実が重要だった。


「アゼルさんに、よろしく伝えておいてください。お礼の手紙とクッキーを渡してくださいね。……途中でつまみ食いしたらダメですよ?」


「ぎくっ!」


「どきっ!」


 アゼルに宛てた感謝の手紙と、手作りのクッキーをたくさん詰めた大きな缶を手渡しつつ、やんわりと釘を刺すフィル。


 図星だったようで、イゴールとメリッサは思いっきり分かりやすいリアクションをする。それを見て、一同は大笑いする。


「あはは! ……っと、そろそろ帰った方がいい時間ね。じゃあね二人とも、いつでも遊びに来ていいわよ」


「アタイも大歓迎っす! 今度はお友達も連れてきていいっすよ!」


「いや、お主が決めていいことではなかろう」


「いいですよ、二人の友達なら悪い子ではないでしょうし。それじゃあ二人とも、道中気を付けてくださいね」


「うん! みんな、またね!」


「ばいばーい!」


 終始和やかな雰囲気の中、双子は故郷……ギール=セレンドラクへと帰っていった。だが、別れはこれだけで終わらない。


「さて、次ですね。二人とも、もう出てきていいですよ」


「やあやあ、だいぶ待たされたよ。でもまあ、あの子たちを先に返したのはいい判断だったね。興味本位で門の中に入られたら、大変なことになるだろうし」


「ええ、そうですね……フィル様」


 基地の入り口に、今度はフィルの運命変異体とエアリアが姿を現す。次は、彼が元いた世界へと帰る番なのだ。……恋人となった、エアリアを連れて。


「オリジナルのぼく、いろいろ迷惑かけちゃってごめんね。結局、おんぶに抱っこになっちゃって」


「いえ、気にしないでください。あなたのウォーカーの力を、取り戻せなかったので……おあいこですよ、僕たちは」


 イーリンとアルギドゥスを倒しても、運命変異体がウォーカーの力を取り戻すことは出来なかった。しかし、かえってその方が気が楽だと運命変異体は語る。


「いいんだよ、あの力があっても余計なトラブルばっかりで大変だったから。むしろ、今の自分の方がスッキリしてていい気分さ」


「そう、ですか。それなら、僕も幾分か気が楽になります」


「……あの、オリジナルのフィル様。最後に、一言いいでしょうか」


 二人のフィルが話しているところに、エアリアが入ってくる。オリジナルのフィルが頷くと、彼女は頭を下げた。


「私はずっと、後悔してきました。あの日、あなたの追放を止められなかったことを。私たち雑用奴隷を気にかけてくださった、あなたに恩を返せなかったことを」


「いいんです、もう一人の僕から言われたそうですけど……あの時反抗していれば、エアリアの命はなかったでしょう。結局、こうしてなるようになったのだから、結果オーライということでいい。そうでしょう?」


「……本当に、あなたは優しいのですね。どれだけ虐げられてもなお、他者を気遣い慈しむ……そんなあなたを、私は──好きでした」


 突然の告白に、運命変異体を除く全員の動きが止まった。ただ一人、運命変異体だけが口笛を吹いて囃し立てている。


 オリジナルのフィルが石のように固まり、アンネローゼは口をあんぐりさせ、イレーナはあたふたし……オボロも動揺していた。


「ですが、今のあなたには素敵な恋人がいます。だから、私は……もう一人のあなたと一緒に、この世界を去ります。もう一度、『私』の人生をやり直すために」


「エアリア……。ありがとう、こんな僕を好きでいてくれて。あなたの想いに応えることは出来ないけれど……新しい旅立ちを、心から応援します」


「彼女のことはぼくに任せて、オリジナルくん。大丈夫、この命にかけてエアリアを幸せにするから」


「ええ、頼みましたよもう一人の僕。つらい人生を歩んできた彼女に……どうか、抱えきれないほどの幸せをあげてください」


 二人のフィルは、堅い握手を交わす。そうして、フィルの運命変異体とエアリアはオリジナルの力を借りて去って行った。


 愛と幸福に満ちた、素敵な人生を送るために。そうして、フィルの対消滅の危機は去り……心の傷も、ある程度拭い去ることが出来た。


 だが……この時、彼らはまだ知らなかった。最大最強の脅威が、すぐそこまで迫ってきていることを。



◇─────────────────────◇



「父上、ただいま参上致しました。して、何用でしょう」


「やあやあ、忙しいところごめんねソロン。実はね、今日は頼みがあるんだ」


 ベルドールの七魔神の拠点、キュリア=サンクタラム。遙か天空にそびえる街の中央にある城の玉座の間に、二人の人物がいた。


 片方は、盾の魔神リオ。そして、もう一人の青年……リオの息子にして、新世代魔神たちの長兄。ソロンの二人が。


 自身と同じ褐色の肌を持つ息子に、リオは告げる。ついに、シュヴァルカイザーの正体を特定し……そして、カルゥ=オルセナにウォーカーの一族がいることを暴いたと。


「シュヴァルカイザーことフィル・アルバラーズくんもウォーカーの一族なんだよねぇ。あの一族を滅ぼせば、()()()()()()()()ウォーカーの一族は全部根絶したことになるんだ」


「なるほど、ついに長い戦いが終わるのですね」


「うん、そうなんだけどねー。ちょっとたしかめたいことが出来てさ。フィルくんに関しては問答無用で殺す、ってわけにはいかなくてね」


 玉座に座り、尻尾を揺らしながらリオはそう口にくる。ウォーカーの一族と戦う中で、彼はいくつかの疑問を抱いていた。


 フィルがその答えを得る手がかりになると、彼は考えていた。そこで……フィルは、自分の息子や娘たちを刺客として差し向けることにしたのだ。


「僕たちがアルバラーズ本家を叩いてる間に、ソロンたちにはフィルくんを試してほしいんだ。で、彼が本家に戻るよう誘導してほしいんだよね」


「刺客を打ち破ったのち、最後には父上自身が見定める……そういうことですね?」


「うん。途中で負けて死ぬようなら仕方なし。僕と相対出来ても、失望させるようなことになれば……その時は容赦なく殺すよ」


 その言葉に込められた本気の殺意に、ソロンは怖気を覚える。それと同時に、彼は父への敬意を抱いていた。


 いつ如何なる時でも、情に流されず使命を果たす。その姿勢に、彼は多くを学ばねばならないと考えていた。


「かしこまりました。では、こちらの方で刺客に最適な者をリストアップしておきます。後でじっくり、その中から選んでいただければと。まあ、すでに何人かには声をかけてありますが」


「さっすが、ソロンは話が早いね! それでこそ、僕とねえ様の自慢の子だよ!」


「いえ、私など父上や母上に比べればまだまだ未熟。ですが、お褒めの言葉……とても嬉しく思います」


 リオに褒められ、ソロンは嬉しそうに尻尾をゆらゆらさせる。それを見て、リオもより一層尻尾を強く振った。


 少しずつ、カウントダウンが進む。フィルとベルドールの魔神たちとの、戦いに向けて。

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― 新着の感想 ―
[一言] やれやれ一難去ってまた一難とはこの事か(ʘᗩʘ’) 姉弟ケンカから兄弟ケンカのラウンド2を制覇して間もないのに遂に本命の宿敵との決戦か(↼_↼) その上、長年正体不明であったリオの息子達…
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