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9話─アンネローゼ、初陣!

 基地を出た二人は、テレポートを用いて闇の眷属たちが出現したポイントへ向かう。今回敵が現れたのはヴェリトン王国の南部。


 巨大な湖に面した観光地、リメラレイク。麗しき水の都は、闇の眷属の軍勢によって見るも無惨な状況になっていた。


「街を破壊しろ! 湖は汚染するな、後で飲用水の供給源として使うからな」


「シュヴァルカイザーが来ないうちに全員殺せ! これ以上作戦が失敗したら、親会社(うえ)に解雇されちまうぞ!」


 これまでの失敗から、侵略者たちは迅速果断に破壊活動を行う。が、街に常駐している騎士団がそこそこ強く、思うように進まないでいた。


「踏ん張れ、連中を押し戻すんだ! もうすぐシュヴァルカイザーが来るはず、それまで持ちこたえろ!」


「ですがレヴィン隊長、カストル王子から発見し次第シュヴァルカイザーを捕縛せよとの命令が」


「そんなこと知るか! 王子の命令より街と住民たちのことを第一に考えろ! 騎士たる者、常に人命を最優先するのだ!」


「は、はい!」


 騎士団を率いる中年の男が、部下を叱責しつつ剣を振るう。その時、一人の騎士が叫びをあげる。


「隊長、敵陣営から何かが飛んできます!」


「あれは……! 総員、退避せよ! 砲撃が来るぞ!」


 ラチが明かないと判断した闇の眷属たちは、切り札である巨大な大砲を用いての爆撃作戦を始めた。レヴィンが撤退命令を出すも、もう遅い。


「ダメです、もう間に合いません!」


「けけけけけ!! もう終わりだぜ、てめぇらは一人残らず木っ端微塵になるん……だ?」


「おい、何だこの突風は? って、砲弾が押し戻されてる!?」


「やべぇ! 逃げ……ぎゃああああ!!」


 砲弾が落下し始めたその時、闇の眷属たちに向かって突風が吹き始める。凄まじい勢いの風に押され、砲弾が押し戻された。


 闇の眷属たちの軍勢のド真ん中に落下し、味方に壊滅的な被害を叩き出す。何が起きたのか分からず、騎士たちが唖然としていると……。


「ふっふっふっふっふっ! 私だってやれば出来るのよ! ぶっつけ本番だけど、案外何とかなるものね!」


「!? だ、誰だ!? シュヴァルカイザーじゃ……ない?」


「あの姿……まるで天使様みたいだ」


 天空の彼方から、一人の戦乙女が降り立った。純白の鎧兜に身を包み、背中から生えた翼を羽ばたかせながら。


 右手には銀色に輝く槍が握られており、穂先には緑色の魔力の渦が宿っている。謎の助っ人の元へ、レヴィンが恐る恐る近付く。


「し、失礼。貴女様は一体……?」


「ふふっ、よくぞ聞いてくれたわね! 私はアン……コホン、ホロウバルキリー! シュヴァルカイザーの相棒(サイドキック)、風を操る戦乙女よ!」


 ビシッと決めポーズを取りながら、虚風の戦乙女(ホロウバルキリー)ことアンネローゼは高らかに名を告げた。何故彼女が一人なのか、それは……。



◇─────────────────────◇



「見えましたね、あれがアンネ様の初陣を飾る舞台ですよ」


「リメラレイクね、だいぶ前に屋敷の従者たちの慰安旅行で来て以来だわ」


 十数分前、フィルとアンネローゼはリメラレイク上空にて情勢を分析していた。互角に渡り合っている状況ではあるが、それもいつまで続くか分からない。


 早急にとは言えないまでも、加勢する必要は大いにあった。早速援護しに向かおうとするアンネローゼだったが……。


「さーて、それじゃ早速」


「ちょっとだけ待ってください、アンネ様。手短にサポート機能について説明しますから」


「っとと! 危な、バランス崩すとこだった……」


 「すみません、出鼻を挫いて。今回、アンネ様が安全に戦えるようサポート機能をオンにしてあります。ダイナモ電池に内包された戦闘データが、イメージとしてアンネ様の脳内に投射されるようにしてあります」


「?????」


 フィルから説明されるが、アンネローゼはよく意味が分かっておらず首を捻る。それを見たフィルは、言葉を噛み砕いて分かりやすく解説する。


「分かりやすく言うと、その場その場でアンネ様がスムーズに戦えるよう、戦い方や能力の使い方をイメージとして『見せる』んですよ」


「へー、なるほど! それだけ分かれば問題ないわ、それじゃあ一緒に」


「あ、すみません。僕は敵陣の奥に向かいます。どうやら、何か良からぬことを企んでいるみたいなので」


「えー!? 一緒に戦ってくれないの!?」


「ごめんなさい、そうしたいんですけどアンネ様を危険な場所に連れて行くのは時期尚早だと思ったので……。アンネ様は、騎士団を助けてあげてください。彼らも苦戦しているようですから」


 てっきり、一緒に戦ってくれるものと思っていたアンネローゼは驚いてしまう。申し訳なさそうに謝りつつ、フィルは話を続ける。


「出来るだけ早く終わらせて、そちらに合流します。もし危ないと感じたら、すぐに連絡してください。ダイナモ電池を使えば、念話が出来るので」


「分かったわ。よーし、決めた! たくさん活躍して、フィルくんを驚かせちゃうから! それっ、今度こそ突撃ー!」


「気を付けてくださいね、アンネ様!」


 気合いを入れ、アンネローゼは翼を羽ばたかせ街へと向かう。その途中、砲弾が飛んでくるのを見たことでサポート機能が起動し、武装展開して突風を起こした……というのがこれまでの流れだ。


「な、なんと! あのシュヴァルカイザーに仲間がいるとは!」


「ふっふーん。今回が初陣なのよ。さあ、どこからでも来なさい、闇の眷属! 全員私が骨バキバキにしてやるんだから!」


「ホー、それハ楽しみだナ。やれるものナらやってミるがいい。我に骨ナどないがな!」


 ぶんぶん槍を振り回しつつ威勢よく叫ぶアンネローゼ。すると、敵陣の方から何かが走ってくる。現れたのは、黒ヒョウの姿をしたキカイの獣だった。


「来たわね、おあつらえ向きの獲物が。私の初勝利の礎になってくれるためにそっちから来るなんて、気が利いてるじゃない」


「ほザけ、小娘。貴様ノような見るカらに弱そウな雑魚、このリバサの敵でハない」


「言ってくれるじゃない。なら確かめてみなさいよ。私が雑魚なのかどうかね! みんな、手出しは無用よ。こいつの仲間の方を頼むわ!」


「了解した、邪魔者は排除しよう。全力で戦ってくれ、ホロウバルキリー!」


 黒ヒョウ……リバサの部下たちが押し寄せる中、アンネローゼは啖呵を切る。闇の眷属たちの相手を騎士団に任せ、リバサに突撃していく。


 そんなアンネローゼの脳内に、あるビジョンが映し出される。サポート機能による、戦い方の指南が始まったのだ。


「愚かナ。我が爪と牙で八つ裂きニしてくれル!」


「やれるものならやってみなさい。この『聖風槍グングニル』の錆にしてやるわ!」


「ガルアアア!!」


 リバサは大口を開け、鋭い牙で噛み付こうと走り出す。対するアンネローゼは、槍を振るい小さな竜巻の壁を作り出した。


「食らいなさい、トルネードウォール!」


「ムッ! だが、コんなもの回り込んデ避けれバい」


「おりゃあああああああ!!!」


「!? こいツ、バカか!? 自分から竜巻に突っ込んだダト!?」


 正面からの攻撃を避け、側面に回り込もうとするリバサ。が、何を血迷ったのか、アンネローゼは自分から竜巻に突っ込んだ。


 相手の奇天烈な行動に、思わず足を止めてしまったリバサ。直後、それが致命的な隙になってしまったことを知ることになる。


「食らいなさい! バルキリーロケット!」


「! コイツ、竜巻に乗って加速しテ……まずい、避けきれン!」


「ちぇすとおおおおおお!!!」


 竜巻を利用して加速したアンネローゼは、槍を構えつつ超高速の体当たりをブチかます。予測不能な攻撃に、リバサの反応が遅れた。


「チッ……グウッ!」


「やった! 後ろ脚一本獲ったどー!」


 サイドステップで攻撃を避けようとするも、完全に避けきれず後ろ右脚を根元から持っていかれた。脚が刺さった槍を掲げ、アンネローゼは満足そうに叫ぶ。


 対するリバサは、苦々しげに顔を歪める。自己修復プログラムを使い、傷口を塞ぎながらうなり声をあげ相手を威嚇する。


「よくモやってくれタな! 我が脚を奪った代償ハ高くつくゾ!」


「ふーんだ、そんなの知らないわよ。どんどん戦いのイメージが浮かんでくる……ふふ、次はどんな攻撃を叩き込んでやろうかしらね!」


 怒り狂う敵に怖じ気づくことなく、アンネローゼはニッと笑う。彼女の戦いは、まだ始まったばかりだ。

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[一言] >「けけけけけ!! もう終わりだぜ、てめぇらは一人残らず木っ端微塵になるん……だ?」 そうは問屋が卸さんのじゃあ!! ボキャア!!
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