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80話─そして、幕が上がった

「反応に少しずつ近付いています! みんな、戦闘準備を!」


「いよいよね、フィルくんのお姉さんだろうと関係ないわ。大切な恋人を迫害した奴なんて、鼻っ柱へし折ってやる!」


 運命変異体が決死の逃走劇を始めた頃、オリジナルのフィルたちは長距離テレポートと短距離テレポートを駆使し、ウォーカー反応を追う。


 その甲斐あって、ついに反応の主……イーリンの元にたどり着こうとしていた。相手も移動しているため、速度を上げ追走する。


「! シショー、見つけたっす! たぶん、この反応の主が……!」


「……ええ、間違いありません。この反応こそ……僕の姉、イーリン・アルバラーズ・ウォーカーです」


「いよいよ戦いの始まりだ。フィル、アンネローゼ、彼女の相手を君たちに任せてもいいか? 私は運命変異体の保護に向かう」


「よろしくお願いします。イレーナ、ラインハルトさんに同行してフォローを。もしかしたら、すでにエージェントが引き取りに来ているかもしれませんから」


「かしこまりっす!」


 フィルの運命変異体を受け取りに来るであろうエージェントと遭遇した時に備え、イレーナ及びラインハルトと別行動をすることに。


 アンネローゼたちの標的は、ただ一人。里から離れ、姿を見せたイーリンだけだ。


「よし、では作戦開始だ!」


「成功を祈るわよ! さあ、一気に加速するわよフィルくん! トラウマを作った元凶を叩きのめしてやりましょ!」


「はい! アンネ様と二人なら、きっと……僕は、過去と決別出来る気がします」


 ハインハルトたちが離脱した後、フィルたちは森の中に突入する。木々の間を縫うように飛び、ついにイーリンと対面した。


「見つけたわよ、ずっとこの時を待っていたわ!」


「ん? 何だ、お前……ああ、そうか。我々の動きを察知して現れたというわけだな? オリジナルの……ゴミクズが」


「姉さん……いや、イーリン。久しぶりですね」


 振り返ったイーリンは、シュヴァルカイザーの姿を見てそう口にする。同時に、並々ならぬ憎しみが込められた視線でフィルを射貫く。


 フィルはフェイスシールドと認識阻害の魔法を解除し、顔を見せる。イーリン相手に、わざわざ正体を隠す必要はない。


「黙れ、存在自体が罪のゴミの分際で私の名を呼ぶな! よくも生き延びてくれたな、フィル。一族の恥さらしめ、何故潔く自害しなかった!」


「ふざけたこと言ってんじゃないわよ。散々いじめ抜いて捨てた挙げ句、死ねばよかったって? 実の弟に、よくそんなこと言えるわね!」


「口を挟むな、下等生物。これは一族の問題だ、邪魔者は死ね! ペインミラー!」


 運命変異体の追跡を邪魔され、苛立ちが募るイーリンはアンネローゼに狙いを定める。等身大の鏡を呼び出し、アンネローゼの姿を映す。


 そして、鏡面に映ったアンネローゼの腹目掛けて、魔力で作り出した短剣を突き立てようとする。それを見たフィルは、アンネローゼを押し倒した。


「ホロウバルキリー、危ない!」


「きゃっ!」


「チッ、邪魔をするなゴミが! ……ああ、そうか。わざわざ対消滅を狙う必要などもうないな。ここで直接お前を始末し、首を持ち帰ればそれで済むことだ」


 フィルがアンネローゼを押し倒したことで、鏡から姿が消えた。結果、突き立てられた短剣は虚しく鏡を砕くだけで終わった。


 怒りが頂点に達したイーリンは、一周回って頭がクールダウンしたようだ。目標を変更し、運命変異体の確保からオリジナルの抹殺へ意識を移す。


「そうと決まれば、すぐに終わらせてしまおうか。ここは狭い、ゴミの始末には不向き……なら!」


「わっ!」


「きゃあっ!」


「連れて行ってやる。私の『お気に入り』の場所にな。そこで貴様を殺し、一族の恥を消し去ってやるぞフィル!」


 イーリンはウォーカーの力を発動し、フィルとアンネローゼの下に黄金の門を作り出す。門を開き、二人を並行世界へと落とした。


 自身も門に飛び込み、決戦の地へと向かう。フィルとイーリン、二人のウォーカーの対決がついに幕を開けた。



◇─────────────────────◇



 一方、オボロと双子コンビは基地から西に十数キロメートルほど離れた場所にある、別のテーブルマウンテンの頂にいた。


 双子がじゃれ合う中、オボロは瞑想を行い精神を集中させる。彼の体内に組み込まれたレーダーは、確実に捉えていた。


 創造主であり、剣術の師でもあったマッハワンの反応を。今度こそオボロを抹殺せんと、決戦の地へと向かってきているのを。


「それっ、こちょこちょこちょー!」


「きゃっきゃっ! くすぐったーい!」


「……少し、いいか? 二人に聞きたいことがある」


 瞑想を終えたオボロは、くすぐりっこをして遊んでいたイゴールたちに声をかける。もしかしたら、今日で滅びるかもしれない。


 そう考えたオボロは、そうなる前に尋ねたいことがあった。二人を手招きし、質問を投げかける。


「貴殿らの父君は、死者をよみがえらせる力を持つと聞いた。そんな父君を持つ貴殿たちだからこそ、それがしは問いたい。……命とは、何であろうか」


 孤児院へ度々顔を出し、子どもたちと戯れ命の価値を知ろうとしているオボロ。だが、未だ答えは見出せずにいた。


 問いかけられた双子は、それまでの無邪気さが嘘のように引き締まった表情をする。そこには、父アゼルのような威厳があった。


「むずかしいことをきくんだねー。でも、ぼくたちはしってるよ。ね、めーちゃん」


「うん、そうだねいーくん。あのね、おとーさんがいってたの。いのちはね、かぎりあるものだからうつくしくとうといんだって」


「限りあるが故に、美しく尊い……」


 メリッサの言葉を、オボロは反芻する。そんな彼に近付き、双子は彼の胸に手を当てる。すると、オボロの脳裏に彼らの記憶が流し込まれた。


『ねーねーおとーさん、おとーさんはぼくたちがうまれたときにどんなことをかんがえてたの?』


『うん? どうしたの、いきなり。そんなことを聞いて』


『あのねー、きょうエルダせんせーにしゅくだいだされたの。おとーさんたちに、わたしたちがうまれたときのことをきいてきなさいって』


 広い部屋の中、肘掛け椅子に座り音楽を聞くアゼルがいた。彼の膝の上に座り、双子は問いかける。少し考えた後、アゼルは答えた。


『イゴール、メリッサ。二人が生まれた時、ぼくは命の尊さを感じて喜びの涙を流しました』


『そーなの?』


『おとーさん、ないちゃったのー?』


『ええ。ぼくは死者を生き返らせる力を持っています。でも、それも万能ではありません。いくつも制約がありますから……本当に生き返らせたかった人を、蘇生出来なかったこともあります』


 遠い昔を思い出しながら、アゼルは語る。イゴールたちの頭を撫でながら、微笑みを浮かべ。己の想いを口にした。


『だからこそ、ぼくは……二人が生まれた時、強く実感したんです。命が持つ重み、暖かさを。あの日、産声をあげた二人を抱き上げた時のことは、永遠に忘れません』


 そう口にする父を見上げ、イゴールとメリッサは嬉しそうにしている。アゼルが、自分たちのことを大切に思っていることが理解出来たのだ。


『死者蘇生の力を継いだ二人に、大切なことを教えておきます。寿命の長さはあれど、人も神も闇の眷属も……いつかは死に、土へ還る時が来る。だからこそ、命の輝きを……尊さを。覚えておいてくださいね』


『はーい!』


『わかったー!』


 元気よく返事をするも、双子はアゼルの言っていることを半分も理解していない。もっとも、アゼル自身それを分かっている。


 今すぐ理解する必要はない。身も心も成長していく中で、ゆっくりと理解してくれればいい。たった一つの、命の輝きを。


 アゼルはそう願っていた。


「……そうか。これが、貴殿らの父君の想いか」


「そーだよー! おとーさん、とってもやしくてかっこいいんだよ!」


「うん! わたし、おとーさんだいすき!」


 オボロは、アゼルのことを誤解していた。死者蘇生の力を持つが故に、命をぞんざいに扱っているだろうと。


 だが、双子の記憶を見て考えを改めた。アゼルの教えを、幼いながらも二人は理解している。それを知ったオボロもまた、道を見つけた。


「命とは、儚く消えるもの。修理さえすれば、永遠に存在し続ける我らキカイとは違う。その一瞬とも言える儚い輝きこそが、命の……む!」


「やあ、こんなところにいるとはね。これはもしや、まんまと釣り出された……というところかな?」


 答えにたどり着きかけたその時、ついにマッハワンが姿を現した。オボロは双子を下がらせ、ゆっくりと立ち上がる。


「……師よ。それがしは今、思索の途中だった。かねてより探し求めていた、命とは何か……その答えを得るために」


「ああ、なるほど。変わらないな、お前も。その様子だと、何か得られたようだね」


「ええ。彼らのおかげで、それがしは道を見つけた。されど、まだ歩み出せてはいませぬ。そのためには……」


「拙者を倒す以外にはない。今のお前は、以前とは違う気迫を持っている。男子三日会わざれば刮目して見よ、ということわざがある。道を見つけたお前の力、拙者に見せてもらおうか!」


「無論、そのつもりだ。師を打ち倒し、それがしは歩む! いざ……尋常に勝負!」


 フィル&アンネローゼVSイーリン、そしてオボロVSマッハワン。それぞれの戦いの火蓋が今……切って落とされた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実の姉だろうが外道は! ブチのめすのだァァァァァ!! そんで魚の餌ァァァァァ!!
[一言] 今までのざっと姉ショタ路線でやって来たのに(ʘᗩʘ’) ここまで外道な姉が出てくるのは(↼_↼) コイツの改心は期待出来ないな(◡ ω ◡) いつかのザマァ三号はお仕置きで顔面潰れてドン底に…
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