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79話─対消滅作戦、始動

 その日の午後、基地に運び込んだ機材を操作していたラインハルトがフィルに報告を行った。二つの生命反応を伴った、ウォーカー反応が現れたと。


「この二つの反応のうち片方は、恐らく並行世界から連れてこられた君自身のものだろう。逃亡されないよう、ウォーカーの力は剥奪されているだろうな」


「ええ、僕もそう思います。だからこそ、ウォーカー反応がないんでしょうが……問題はもう一つの反応ですね。多分、僕の推測が正しければ……」


 未来視の内容を鑑み、フィルはモニターを見ながら考える。十中八九、第三の反応の正体はかつてフィルが世話になった奴隷、エアリアだろう。


 そして、肝心のウォーカー反応の正体……それは、彼の姉の一人イーリン。一族の中でも特異な、鏡の魔法を操る優秀な戦士だ。


「早速出かけよう。君の運命変異体を確保し、元いた世界に戻す。そうすれば、対消滅の危機は終息だ」


「腕が鳴るわね。ところで、ラインハルトさん? そのウォーカー反応を出してる奴、ブン殴ってもいいかしら。フィルくんへの扱いについて、いろいろ思うところがあるのよねぇ」


「構わない。むしろ、相手の目的を考えれば交戦は避けられまい。ウォーカーの一族はみな、油断ならない者ばかり。気を引き締めていくぞ!」


「ええ!」


 イーリンの反応を捉えたフィルたちは、基地を発ち出撃する。一方、残ったオボロはイゴールとメリッサを連れ、フィルたちとは真逆の方向へ向かう。


「では、それがしたちも出立する。二人とも、行くぞ」


「はーい!」


「よーし、がんばろー!」


「気をつけるのじゃぞ。わしらも適宜サポートするからの。安心せい」


「かたじけない。必ず勝とう、剣士に二度の敗北はあってはならない……それが師の言葉だからな」


 こうして、同時進行で二つの作戦が始まった。一方その頃、エモーは以前訪れた荒野を抜けた先にある、森林地帯を訪れていた。


「はー、マジサイアク。ここまでテクらせるとかあのGGI(じじい)ホントテンサゲ(テンション下がる)なことさせるわー」


 こちらもこちらで、任務をサボってお茶していたことがマッハワンにバレて大目玉を食らったようだ。散々説教をされ、文句をぶー垂れている。


 流石に二回もサボったら名刀虎徹の錆にされてしまうので、今回は真面目にウォーカーの反応を探してあちこち歩き回っていた。


「あーあ、さっさと里見つけてノリコ(カチコミ)しないと怒られるしー。こんな時にアンナちんがいればうれぴーまん(めっちゃ嬉しい)なんだけどなー」


 拾った木の枝で藪を払いつつ、先へ進むエモー。思い出すのは、先日出会った気の合う友人……アンナことアンネローゼだ。


 ぶつくさ文句を垂れていると、腰から下げていたレーダーにウォーカー反応が現れた。しかも、以前と比べ非常に強い。


「お!? マジ? もう反応アリ? かー、テンアゲ(テンション上がる)っすわこれ! 反応は……こっちだ!」


 今度こそ当たりだと確信したエモーは、反応を追って先へ進んでいく。道なき道をしばらく進むと、開けた広場に到着した。


 レーダーは、この広場で最大の反応を示している。キョロキョロ周囲を見渡していると、突如金色の門が現れた。


「誘導には成功したな。やはり、お前が例のエージェントとやらだったか」


「おろ? あんた誰? あ、もしかしてウォーカーの一族ってやつーぅ?」


「その通り。あまり里の外にいたくないから手短に要件を伝える、よく聞け。並行世界からフィルの運命変異体を連れてきた。こいつを使って対消滅を引き起こせ」


 そう言うと、イーリンは門の中からフィルの運命変異体を引きずり出し、地面に叩き付ける。猿ぐつわを噛まされ、腕を後ろ手に縛られている運命変異体は顔から激突する。


「むぐっ! うう……」


「お前たちの狙いは分かっている。シュヴァルカイザーと言ったか、そいつの正体であるフィルを消したいのだろう? その点では、我々も利害が一致しているから協力してやる。ありがたく思え、下等生物」


「うわ、感じわるー。なにあんた、マジホワイトキック(しらける)なんすけど」


 本来ならば、カモがネギどころか調理器具一式を持ってやって来たくらいの幸運なのだが……エモーは、相手の一方的かつ高圧的な態度が気に食わないようだ。


「なんだ、下等生物風情が文句でもあるのか? 嫌ならこのまま、こいつを連れて永久に姿を消すぞ」


「チッ、こいつホントチョヅいて(調子乗って)るわー。ま、いいか。そいつちょーだい」


「監視役も連れてきている。そいつと一緒にこいつを持って行け。おい、出てこい奴隷」


「は、はい」


 イーリンに呼ばれ、おどおどした様子のエアリアが姿を現す。地面に降り、倒れたままの運命変異体を助け起こした。


「フィル様、大丈夫ですか?」


「ふぐ、むう」


「フン、そんな奴を心配する必要などないというのに。こんな出来損ないには、これくらいしてやればいいんだ!」


「むぐうっ!」


「フィル様!」


 それが気に入らなかったのか、イーリンは運命変異体の脇腹に強烈な回し蹴りを叩き込む。悶絶する少年に、エモーは哀れみの視線を向ける。


「わー、かわいそ。よしよし、うちと一緒に行こうねー。ほら、そっちのおじょーちゃんも」


「今よ! フィル様、走るわよ!」


「なっ、こいつ……ぐうっ!」


 エモーに運命変異体が引き渡されようとした、その瞬間。エアリアは服の下に隠し持っていた閃光爆弾を取り出し、炸裂させた。


 強烈な閃光にイーリンたちが怯んでいる間に、エアリアは少年を連れてその場から逃げ出した。数秒後、目が回復したイーリンは怒りをあらわにする。


「あのクソ奴隷……よくもやってくれたな! 倉庫番の奴隷とグルで計画していたな……奴を逃がすつもりか!」


「えー、それマジめんでぃー。さっさと追いかけ……ん?」


 ここで逃亡されたら、計画がおじゃんになってしまう。エモーにとってもイーリンにとっても、それは決して許されないことだ。


 即座に後を追おうとするエモーだが、体内に内蔵されたセンサーが接近してくる反応を捉えた。よりによって、このタイミングでやって来たのだ。


 シュヴァルカイザーと、その仲間たちが。


(うわ、っべー。こんな状況でシュヴァルカイザーとも戦わなきゃなんないとかマジやばたんピーナッツ(マジ無理)なんすけど。しゃーない、ここはソクサリ(戦略的撤退)しますわー)


 そんなことを考えている間に、イーリンはエアリアたちを追い広場を去った。一方のエモーは、漁夫の利狙いに思考を切り替えその場を後にする。


「あいつらが出会して争ってる間にー、うちが全部かっさらえばいんじゃね? かー、うちってあったまいいわー」


 レーダーによる解析の結果、シュヴァルカイザーたちの動きは明らかにイーリンの方に向かっていることが判明した。


 自分が狙いではないのなら、横からかっ攫っていくチャンスがあるはず。そう考え、エモーはステルスシステムを起動させつつ森の奥に身を潜める。


 一方、無事逃げ出したエアリアたちは……。


「フィル様、もう大丈夫です。これで枷は外れましたよ」


「ぷはっ。ありがとう、エアリア。うう、脇腹が痛い……。あいつ、容赦なさすぎだよ」


 日々の過酷な労働で鍛えられたエアリアの足をもってすれば、数分で森を走破するのは訳もない。運命変異体の方も、案外身体能力が高かった。


 洞窟に身を潜めている間に、エアリアが密かに持ち出してきた万能カギによって運命変異体は自由の身になる。猿ぐつわを取り、一息つく。


「助かったね、エアリアの友達が協力してくれて」


「ええ。別世界の存在とはいえ、フィル様を助けるのに惜しみない協力をしてくれました。彼のおかげで!里秘蔵のマジックアイテムをくすねられたのは幸運でしたよ」


 エアリア以外にも、密かにフィルを慕う奴隷は多かった。彼らもエアリア同様、助けられた恩を返すべく内密に動いてくれていた。


 バレればその場で死罪になるリスクを犯してでも、フィルに恩返しがしたかったのだ。結果、宝物庫の番をしている奴隷の協力を得られた。


「少し休憩したら、移動しましょう。街にさえたどり着ければ、イーリン様も追跡を諦めるはずですから」


「うん、頑張って逃げ延びよう! 二人で一緒に、自由を掴み取るんだ!」


「はい!」


 二人は互いの手を取り合い、洞窟から出て獣道へ飛び込んでいく。先に彼らと接触することが出来るのは、オリジナルのフィルたちか……それとも……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 潰すのだ! 消すのだ! イーリンから血祭りにあげるのだァァァ!!
[一言] な〜んか嫌な?面倒な?匂いがしてきたけど?(ʘᗩʘ’) 今回の作戦は迅速に救出して確保がメインだけどエアリア達には巡り合わせる当てがないだけにこの場で1番鼻がよく、嗅ぎ付けて来そうな奴と言え…
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