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78話─新たなる戦いの始まり

「うーん、おかしいですね。やっぱり、昨日のは疲れからの幻覚なんでしょうか……」


 翌日、フィルは身体に不調があるのかを調べるためサーチアイを使い、基地を見て回っていた。各設備の詳細が把握出来るだけで、昨日のようなことは起こらない。


「あれ、シショーどうしたんすかその目! おめめが金ぴかになってるっす!」


「ああ、イレーナ。これは僕たちウォーカーの一族が備える、サーチアイという能力なんですよ」


「へー、どんなことが出来るっすか?」


 廊下を練り歩いていると、訓練場から部屋に戻る途中のイレーナと遭遇する。目の色が違うことに驚く彼女に、フィルが説明を行う。


「物であれば、どんな成分で構成されているかや毒性の有無などが分かりますね。生き物であるなら、健康状態や特定技能への適性のあるなしなんかを知ることが出来るんですよ」


「へー、便利な能力っすね! アタイも欲しいっす!」


「まあ、一日に合計十分までしか使えないという制約がありますけどね。……あ、そうだ。イゴールくんたちはどこにいます?」


 サーチアイを解除し、説明を終えたフィルはイゴールとメリッサの居場所を尋ねる。そろそろ、彼らを親元に帰さねばならない。


 フィルに尋ねられたイレーナは、廊下の奥を指差して答える。


「姐御のところにいるはずっすよ。あの子たち、だいぶ姐御に懐いてるみたいっすから」


「分かりました、ありがとうございます。じゃあ、アンネ様の部屋に行ってみますね」


 イレーナと別れ、アンネローゼの部屋に向かうフィル。が、その途中。またしても勝手に瞳が金色に輝き、不可思議な光景を見る。


 今回見えたのは、森の中を必死で走る二人の少年少女の姿。片方は、かつて里にいた時世話になった奴隷の少女、エアリア。


 そして、もう一人は──フィル自身だった。


『はあ、はあ……! ここまで来れば、あいつも追ってこられないはず……』


『いえ、まだ油断出来ません。気配を感じます……イーリン様の気配を』


「う、うう……また、変な光景を……。これは本当に、だの幻覚なのかな……」


「違うな。君が見たのは、少し先に起きる未来の出来事だ。言うなれば、簡単な未来視というわけだな」


 その場にうずくまり、呟くフィル。すると、背後から声をかけられた。振り向くと、そこにはラインハルトが立っていた。


「あなたはコリンさんの仲間の……! いつの間に基地の中に!?」


「済まない、緊急事態が発生してな。急ぎ知らせるべく、我が主の命により事前の連絡も無しに来訪させてもらった。まずは、そこを謝罪したい」


「いえ、それは構いませんが……緊急事態とは何なんです?」


「カルゥ=オルセナを観測していた私の仲間が、並行世界からの干渉反応を捉えた。この世界に、いてはならない者が呼ばれたことを伝えに来たのだ」


 ラインハルトは、フィルに対してそう告げる。ウォーカーの一族が、並行世界から『ある人物』をこの基底時間軸世界に呼び出したと。


「それは誰なんです?」


「君だよ、フィルくん。おそらく、彼らは君を抹殺するために動き出したんだろう。運命変異体と接触させ、ウォーカーの法則により対消滅させるつもりだ」


「──!? そ、そんな! 里は外のことには興味を持たないはず……僕が生きていることを、知るなんてあり得ない!」


 流石のフィルも、ラインハルトの言葉に驚いてしまう。里という狭い世界で完結した生活を送るアルバラーズ家の者が、自分が生きていることを知るのはあり得ない。


 そう思っていたフィルだが、実情は違うということを知らされる。アルバラーズ家なりに、外の世界の情報を集めていたのだ。


「我が主、コーネリアス主導で創設した『並行世界観測局』から報告が寄せられた。カルゥ=オルセナから現れた二つのウォーカー反応が、別の大地に移動し、また戻っていったと」


「そんなことが……いや、ここで話していても仕方ありませんね。みんなを集めます、談話室に行きましょう」


「ああ、それがいい。下手を打てば、君が消滅する事態になりかねん。それだけは避けなければならないからな」


 立ち話をしている場合ではないと、フィルは魔法石を用いアンネローゼたちを招集する。双子も含め、談話室に集合した。


「……なるほど、フィルの実家が動き出したというわけじゃな」


「そうです、ご老公。恐らく、アルバラーズ家の者はこれまで、フィルが生きていることを知らなかった。だが、里から出た二つの反応が、何らかの理由でそれを知った」


「そして、出来損ないの僕を抹殺するために並行世界から運命変異体を呼んだ……ということですか」


 ギアーズとフィルの言葉に頷き、ラインハルトは差し出されたコーヒーを一口飲み……顔をしかめた。


「む、これはブラックか。済まないが、角砂糖を貰えるだろうか。そうだな、十個は欲しい」


「十個ぉ!? アンタ、見た目に似合わずすんごい甘党なのね……イレーナ、悪いけどキッチンから砂糖のポット持ってきて」


「かしこまりっす!」


 イレーナが電光石火の速さで角砂糖を取りに行き、ラインハルトにポットごと渡す。角砂糖を大量にコーヒーに投入するのを見ながら、アンネローゼは疑問を口にする。


「それにしても、何で今更動き出したのかしら。やろうと思えば、もっと早くやれたでしょうに。ま、私が叩き潰すけど」


「現在、ウォーカーの一族はグラン=ファルダの神々と敵対関係にある。つい先日も、氏族の一つであるディラーブ家が魔神たちに滅ぼされたばかり。迂闊には動けないのだろう」


「……そうか、だからその二つの反応は里を出たんですね。多分、ディラーブ家の里へ様子を見に行ったんだと思います」


 奴隷の確保以外で里の外に出ないアルバラーズ家の者たちが、何故外へ出たのか。その答えに至り、フィルは呟く。


 そして、先ほど見た光景の意味を理解する。並行世界から連れてこられたフィルの運命変異体を逃がすべく、エアリアが奮闘しているのだと。


「実は僕、昨日こんな光景を見たんです。最初はただの幻覚だと思ったんですが……」


 確信を得たフィルは、エアリアとの関係も含め全てをアンネローゼたちに話して聞かせる。自身の消滅を避けるため、そしてエアリアを救うため。


 フィルはアルバラーズ家の者たちと……血の繋がった家族と戦うことを決めた。それが、心に負ったトラウマを刺激することになろうとも。


「そんな光景を見たのね……。いいわ、全面的に協力する。フィルくんがいなくなったら、私生きていけないもの」


「勿論アタイも! もう一人のシショーを、華麗に救ってみせるっす!」


「私も手を貸そう。そうするようにコーネリアスから勅命を受けているからな」


「みんな、ありがとうございます。オボロはどうですか?」


 即座に協力を表明したアンネローゼたちとは違い、オボロは考え込んだままだ。彼の意見を聞こうと、フィルが問いかける。


「それがしは……迷っている。それがしが同行すれば、間違いなく我が師……マッハワンが現れるだろう。そうなれば、作戦遂行どころではなくなってしまう」


「あ、そうか……カンパニーの方も対処しないといけないわね。二正面作戦になっちゃうのか……」


「なら、ぼくたちがおじちゃんをまもるよ! ね、めーちゃん!」


「うん! だからおにーちゃんたちはなにもしんぱいしなくていいよ!」


 オボロの居場所は、常にマッハワンに探知されている。作戦に同行すれば、ここぞというところで妨害される危険性があった。


 故に、オボロは別れて行動するべきだと考えていたのだ。が、一人ではマッハワンには勝てない。そこに、イゴールたちが名乗りを上げた。


「そういわけにはいきませんよ、二人に何かあったらアゼルさんたちに合わせる顔がありません。助けてくれたことには感謝しています。でも、もう家に帰るべきです」


「や! まだおてつだいおわってないもん! いまかえったらままにおこられるよ!」


「そーだよ! おうのこどもたるもの、あたえられたしごとはさいごまでやりきれ! っておしりぺんぺんされちゃう!」


 が、フィルは彼らの参戦を拒み、帰還させようとする。……しかし、イゴールとメリッサも頑として首を縦に振らない。


 フィルが困っていると、ギアーズがそっと耳打ちしてきた。


「……フィル。ここがちょうどいい機会なのやもしれん。おぬしの中に息づくトラウマ、ここで払拭してみてはどうじゃ?」


「では、あの子たちに協力してもらえと?」


「そうじゃ。もう一度、信じる心を取り戻してみい。大丈夫、あの子たちは強い。オボロと一緒なら勝てるじゃろうて」


 ギアーズの言葉を受け、フィルは考え込む。しばらくして、フィルは頷いた。ギアーズの言う通り、心の傷を拭い去ろうと決意したのだ。


「……分かりました。では、オボロのことは任せましたよ。イゴール、メリッサ」


「うん! ぼくたちにまかせてね!」


「わるいやつはやっつけちゃうんだから!」


「決まったな。俺は事態がどう転んでもいいように先生と一緒に待機しておく。何かあったら、遠慮なく呼んでくれ」


 不測の事態に備え、ジェディンはギアーズと共に基地で待機することに。これで、全員の役割が決まった。


 フィルチームはエアリアたちの救出。オボロチームはマッハワンをおびき寄せ、足止めを行う。


「待っていてください、エアリア。そして、もう一人の僕。必ず助けますからね」


 こうして、フィルの運命変異体救出作戦が始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] フィルを追放しただけでなく、その運命変異体を利用して存在を消させようとするとは、もはや道外れてやがる。 アルバラーズ家のクソ共を全員血祭りにあげて来い。
[一言] 遂に運命が周り出したか(ʘᗩʘ’)救出作戦と誘き出し作戦の同時進行だけど(↼_↼) 手早く済ませんとリオ達が嗅ぎ付けて来るかもしれんし(>0<;) ラインハルトも糖分を恵んで貰ったんだし…
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