表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/311

69話─追跡! オボロの謎を追え!

 ジェディンを迎え入れてから、数日が経った。その日、オボロは一人いそいそとどこかへ出かける支度をしていた。


 そんな彼を、物陰から見つめる者が二人。アンネローゼとイレーナだ。彼女らはオボロを見ながら、こそこそ話をする。


「ねえ、なーんか怪しくない? オボロ、昨日もどっか出かけてたわよね」


「そーっすね、姐御。どこに行くの聞いても、教えてくんないし……こりゃー後を尾行(つけ)てみるしかないっすよ」


 つい先日も、オボロはどこかへ出かけていった。フィルやギアーズは、悪いことをしているわけではないだろうと特に気にしてはいない。


 が、アンネローゼやイレーナは気になって仕方がないようだ。あのカタブツのオボロが、一体どこで何をしているのか。それを確かめるべく……。


「よーし、こうなったら尾行するわよ、イレーナ! オボロが何やってるのか、気になって夜しか眠れないもの!」


「姐御、普通お昼は起きてるものっすよ?」


 オボロを尾行することにした。本日、フィルはギアーズと共にラボにこもっており、ジェディンは情報収集のため留守にしている。


 そのため、アンネローゼとイレーナの二人で後を追うことにした。認識阻害の魔法を使って姿を消し、二人は基地を出る。


「街に来たっすね。ここで何するつもりなんすかね」


「見て、お店に入っていくわ。あれは……おまんじゅう屋さんね」


 テレポート機能を使い、オボロはとある街へやって来た。そんな彼を尾行していた二人は、オボロがまんじゅう屋に入るのを目撃する。


「主人、全種類の饅頭を十個ずつ貰えないか」


「へい、まいどあり! 包みはどうしやしょ?」


「各種類ごとに分けてくれると助かる。ついでに、大きな袋も貰いたい」


「はいよ、ちょいと待っててくださいね!」


 店に入ったオボロは、あんこやチョコレート、カスタードクリームなど様々な具が入ったまんじゅうを購入する。


 それらを袋に入れてもらった後、代金を支払い受け取る。その様子を遠巻きに見ていたアンネローゼたちのお腹が、ぐうと鳴った。


「姐御……アタイ、おまんじゅう食べたくなってきたっす」


「奇遇ね、イレーナ。お金ならあるし、私たちも一つ買いましょ。オボロが出てからね、じゃないと認識阻害の魔法解けないから」


「りょ!」


 花より団子ならぬ、花も団子もな二人はオボロが店から出たのを確認した後、自分たちもまんじゅうを購入する。


 アンネローゼはこしあん、イレーナはカスタードクリーム入りのまんじゅうを買う。店を出た後、まんじゅうを食べつつオボロを追う。


「あっ、見てくださいっす姐御。今度は本屋さんに入っていくっすよ」


「本? 何かしら、剣術の指南書でも買うのかしらね。そんなの読まなくても、十分強いと思うけど」


 続いてオボロが立ち寄ったのは、小さな本屋であった。他の客の出入りに合わせ、アンネローゼたちは素早く店内に入る。


 てっきり、武術書でも買うのかと思っていた二人だが……意外にも、オボロが立ち寄ったのは絵本が置いてあるコーナーだった。


「えっ、絵本? あのオボロが……絵本!?」


「姐御、これは重大事件っすよ! 明日はカンパニーのエージェントが大挙して押し寄せてくるんじゃないっすか!?」


「やめてよね、そんなの想像しただけで胃が痛くなるじゃない!」


 まさかの光景に、二人はヒソヒソ声で話をする。認識阻害の魔法があるとはいえ、大声は出せない。オボロには普通にバレる可能性があるのだ。


「ふむ、この絵本新刊が出ているのか……では、新しいのと合わせて買っていこうか」


「店を出たわね。次はどこに行くのかしら?」


「あ、この絵本面白そうっすね。買って帰ろーっと」


 本屋での買い物を済ませたオボロは、大荷物を持って店を出る。すかさず後を追い、つかず離れずの距離を保って尾行する二人。


 次にオボロがやって来たのは、花屋だった。これまたイメージとかけ離れた場所を訪れたオボロに、アンネローゼは首を傾げる。


「んー、何をしたいのかさっぱり読めないわね。まんじゅうに絵本に花……ん? この組み合わせって、もしかして……」


「わー、綺麗なお花! シショーにプレゼントしたら喜んでくれるっすかね?」


「そうね、フィルくんならこっちの花とか喜ぶんじゃない? ふふ、お土産に買って帰ろうかしら」


 買い物のラインナップを見て、アンネローゼはもしやと思い当たるものがあるようだ。イレーナと雑談する中、ふと顔を上げると……。


「げっ、しまった! オボロを見失っちゃったわ。急いで居場所を特定しないと!」


「あちゃー……ごめんなさいっす、姐御」


「いいのよ、気にしないで。さて、レーダーを確認……え、もうこの街にいない!? それに、今オボロがいるのって……」


 オボロの姿が消えていた。二人が雑談している間に、会計を済ませてしまったようだ。慌てて店を飛び出し、小型の魔力レーダーを取り出す。


 それを用いてオボロの居場所を特定したアンネローゼは、彼の行動の意味を知る。今オボロがいるのは、かつてフィルが世話になった孤児院だった。


「みな、待たせたな。今日も土産を持ってきたぞ」


「わーい、おじちゃんだー!」


「あそんであそんでー!」


 オボロを追い、テレポートで移動するアンネローゼたち。以前フィルと共に慰安に訪れた孤児院に、オボロの姿があった。


 たくさんの子どもたちに囲まれ、道中で買っていたまんじゅうや絵本、花を渡している。年若いシスターが、頭を下げる。


「昨日に続いて、ありがとうございます。みんな、オボロさんにお礼を言いましょうね」


「おじちゃん、ありがとー!」


「なに、気にすることはない。これはそれがしの学びのためでもある。命とは何か……それを学ぶためのな。ところで……そこな二人、隠れてないで出てきたらどうだ?」


 孤児院の近くにある木の陰から見ていたアンネローゼたちだが、オボロにはとっくにバレていたようだ。仕方なく、変身してから二人は姿を見せる。


「なんだ、バレてたの。いつから知ってたの? 私たちが尾行してるのは」


「まんじゅう屋に入る時からだな。認識阻害の魔法が切れた瞬間、気配を探知した」


「うへー、欲望に負けた結果バレちゃった感じっすかぁ」


「わー、ホロウバルキリーのおねえちゃんたちだー」


「あそぼ! あそぼ!」


 バレてしまっては仕方がないため、アンネローゼたちもオボロと共に子どもたちと遊ぶことに。追いかけっこやかくれんぼをする中、アンネローゼは問う。


「で、なんでここに来てるわけ?」


「それがしは、機能停止する以前から疑問に思っていた。命とは何か……生きるとは何かとな」


「そりゃ難しいこと考えるわね……キカイなのに」


「だからこそ、だ。それがしたちキカイは、部品を取り替えれば半永久的に生き続けられる。だからこそ知りたいのだ。短い時を生きる大地の民について」


 庭を走り回る子どもたちを見ながら、オボロはそう口にする。そして、以前フィルたちと一緒に慰問に来た時……ふと思い付いたのだと言う。


「ここには、幼き者たちが多くいる。彼らと共に過ごせば、もしかしたら……それがしの疑問への答えが得られるかもしれぬ、と」


「そうなんだ……フィルくんはこのことは?」


「すでに了承を得ている。情勢にもよるが、定期的に子どもたちの相手をしてほしいと言われた。みな、それがしに懐いていると言われたのでな」


「まあ、実際凄い人気だもんね。ちょっと嫉妬しちゃうくらいには」


 疑問が氷解し、アンネローゼは微笑む。そんな理由であるならば、いくらでも孤児院に行ってもいいと思ったのだ。


 命の尊さを知ることは、オボロの大きな成長の糧になる。フィルもそう思っただろうことは、子どもたちと戯れるオボロを見れば一目瞭然だ。


「おじちゃん、またおもしろいはなしして!」


「おはなしよりあそぼうよ! またけんごうごっこしたーい!」


「はは、では順にやるとしよう。なに、焦ることはない。時間はいくらでもあるからな」


 子どもたちに囲まれたオボロの口角が、僅かに上がっている。それを見たアンネローゼも、嬉しそうにしていた。


「……いつか、理解出来るといいわね。命の素晴らしさ、生きることの尊さを」


 そう呟くアンネローゼのすぐ側を、爽やかな風が通り抜けていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 侍なれども機械、けれども心を持つか(ʘᗩʘ’) 機械は部品で換え繋ぐ生命だか人の生命は愛し、育み、未来を託す形で繋がっていく物だか(◡ ω ◡) ファティマ達、自動人形は機械であり生身で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ