66話─タッグマッチ、その行方
「さぁて、こっからはガチのバトルだ。詮索やら何やらは ナシ、頭空っぽにして行こうぜ! フルーガルカノン!」
「全く、どこまでも勝手な男だ。まあよい、話が終わったのなら試合を楽しむまで! インスードスラスト!」
ダンテとアーシア、マイティ・ランサーズの猛攻撃がフィルとアンネローゼに襲いかかる。お互い、息を合わせる気が全く無いのにも関わらず、その攻撃に隙は無い。
ダンテの攻撃を隙間をアーシアが潰し、アーシアの攻撃が途切れた時にはダンテが槍を差し込む。歴戦の猛者だからこそ可能な、即席のコンビネーションだ。
「くっ、このっ! 全然反撃する暇がないじゃないの!」
「ハハッ、嬢ちゃん見たところまだ戦い初めて半年にもなってねえだろ? 動きを見てりゃ分かるぜ、ド素人感丸出しだからな!」
「それ以上の侮辱は許しませんよ! ホロウバルキリー、こらちもコンビネーションの良さを見せてやりましょう!」
「勿論! バカにされたままじゃ終われないわ!」
防戦一方なアンネローゼを挑発するダンテ。彼女をバカにされたことに怒ったフィルをきっかけに、いよいよ反撃に転じる。
「食らいなさい! 武装展開、エアーリッパー!」
「っと! へぇ、お前も風の力を使うのか。前言撤回、どことなく親近感が湧くな!」
「うっさいわね、私アンタみたいなチャラチャラしてる男は嫌いなの!」
アンネローゼとダンテ、二人の槍がぶつかり合う。一報、フィルはアーシアの武器を弾き落とすことに成功し、ロックアップ状態で組み合う。
「さあ、掴みましたよ。こうなってしまえば、もうこっちのものです!」
「ふむ。そのアーマー、かなり高い技術で作られているようだな。暗域でも、ここまで高度なガジェットを搭載したアーマーは滅多に見ないぞ」
「お褒めの言葉、光栄です。じゃあ……次は、ご自身でこのシュヴァルカイザースーツのパワーを味わってくださいね! シュヴァルツスープレックス!」
スーツの動力をフル稼働し、なんとフィルはアーシアの腰を掴みそのままスープレックスを決める。ダンテは助けに来れず、大ダメージは必定……かと思われた。
「そりゃああっ──!?」
「フッ、驚いたな。確かに、豪語するだけの素晴らしいパワーはある。だが……上には上がいるということを、余が教えてやろう! アンジェリカ直伝の奥義を受けてみよ!」
投げられる途中、アーシアは身体を一回転させて綺麗に着地してみせる。並大抵のパワーでは到底出来ない、恐るべき芸当だ。
今度はアーシアが攻撃を仕掛け、フィルを抱えた状態で空高く飛び上がった。空中でフィルに関節技を決め、上下が反転した背中合わせの状態になる。
「シュヴァルカイザー! 今助けに」
「おっと、そうはいかねえな! あっちがフィニッシュしようってんだ、こっちも合わせねえとな! 行くぜ、ビーストソウル……リリース!」
「!? と、突風が……きゃあっ!」
相方の動きに合わせ、ダンテもアンネローゼに猛攻を仕掛ける。眠れる獣の力を解き放つべく、槍のオブジェが収められた灰色のオーブを呼び出す。
オーブを体内に取り込むと、突風が吹きアンネローゼを上空に吹き飛ばした。そのあいだに、ダンテは変貌を遂げる。
コートと身体が一体化し、一回り大きくなる。コートは毛皮へと変わり、頭には犬の耳が生える。オオカミの化身となり、半人半獣の姿になった。
「来るか……ダンテの奥義が。これでもう、勝負あったな」
「アーシアさんも粋なことしますわね! わたくしの技を使ってくれて嬉しいですわ!」
「来るぜ、二人とも! 衝撃に備えろ! 観客席をバリアで守れ!」
舞台の脇にいたシャスティたちは、落下の衝撃から観客たちを守るべくバリアを生成する。そんな中、アーシアが落ちてくる。
「これで終わりだ! 奥義、夜空流星落とし!」
「ぐっ、ああっ!」
「し、シショー! そんな、シショーが……」
両手足を封じられ、受け身を取ることも出来ずフィルは頭から舞台に叩き付けられる。途中でアーシアが減速していたとはいえ、スーツがなければ死んでいただろう。
「シュヴァルカイザー!」
「仲間の心配してる場合じゃねえぜ、嬢ちゃん。次はお前の番なんだからな! 槍魔神奥義、ウォルフガング・サーバント!」
吹き飛ばされたアンネローゼを追い、ダンテも空を駆ける。奥義を発動した瞬間、四体の分身が分離し共に獲物を襲う。
鋭く伸びた爪と、得物たる槍。二つの武装を用い、分身を従えアンネローゼに連続攻撃を放つ。狼の狩りの神髄たる、集団でのハンティング。
アンネローゼは、その獲物だ。
「ぐ、うぐっ、がふっ!」
「反撃の隙は与えねえ。獲物をいたぶって遊ぶこともしねぇ。淡々と標的を仕留める……それがオレの『狩り』なのさ」
「このチャラ男……つよ、い……」
そう呟き、アンネローゼは地上へ落下していく。もはや完全にグロッキーになっており、自力で受け身を取れそうもない。
すでに地上に降り、技を解いていたアーシアが落ちてくるアンネローゼを受け止めようと身構える中……。
「よし、このままキャッチすれば……」
「その役目は……流石に、譲れませんよ!」
「嘘だろ!? あいつモロに奥義食らってまだ立てるのかよ!」
「凄まじい耐久力ですわね。すでに気絶しているものかと思っていましたが……」
倒れていたフィルが起き上がり、残る力を振り絞り落ちてきたアンネローゼを受け止めた。だが、その衝撃に耐えられるわけもなく。
ふらふらと後ずさり、仰向けに倒れてしまう。さらに悪いことに、先ほどのアーシアの奥義を食らいヒビが入っていたヘルメットが割れて、顔の一部が露出してしまった。
「シュヴァル、カイザー……」
「もう、大丈夫ですよ……ホロウバルキリー。貴方は、僕が守りました……から……」
「あり、がとう……」
そう口にし、アンネローゼは露出してしまっているフィルの顔に翼をかけ、観客やリリンたちに見えないように覆う。
そのまま力尽き、気絶してしまった。互いを思いやる二人の姿に、観客たちは拍手を送る。
「まさか、僕たちが手も足も出ずに完敗するなんて……。やっぱり、世の中は広いです」
「ここまでだな。勝負アリ! 勝者、マイティ・ランサーズ!」
「わあああああああ!!」
もはや勝負は決したと、リリンがダンテ&アーシアチームの勝利を宣言する。激しい戦いを見せてくれた両チームに、観客が声援を送る。
「そ、そんなぁ……シショーと姐御が、負けちゃうなんて……ぐすっ、ふええ……」
「あの二人ですら勝てぬ、か。やはり、先達は強いものだ。英雄の力……侮ることは出来ぬな」
絶対に勝つと信じていたフィルとアンネローゼの敗北に、イレーナはショックを受け泣き出してしまう。一方、アーシアはというと……。
「シュヴァルカイザー、聞かせてほしい。貴殿にはまだ余力があった。相方を救わず、余を攻撃すれば勝てていただろう。何故そうしなかった?」
「決まってますよ……げほっ。そんな勝ち方をしても、貴方に真正面から勝ったことにはなりません。それに、ホロウバルキリーは……僕の大切な恋人ですから」
「……フッ、そうか。野暮なことを聞いて済まなかったな、その絆と愛情……実に素晴らしい。久々に、胸が熱くなったよ」
フィルの答えを聞き、アーシアは満足そうに微笑む。そこへ、今更降りてきたダンテが歩いてくる。
「よーぅ、随分派手に負けたな。敗北はいいぞ、自分の足りねえところを見つめ直すいい機会になるからなぁ。はっはっはっ……いたっ! ちょ、槍で小突くなっての!」
「お邪魔虫め、さっさと帰れ! 余のいい気分を台無しにしおって、この駄犬が!」
「そーだそーだ! もう用はねえだろ、帰らねえとあの猫オババが怒るんじゃねえのかー!?」
チャラチャラした態度にイラッときたアーシアは、槍でダンテの脇腹をつつく。わりと強めに。シャスティも文句を垂れ、ダンテを帰らせようとする。
「ちぇ、オレも嫌われたもんだ。分かりましたよ、お邪魔狼は巣に帰りますよーだ! あ、そうそう。その男気に免じて、素顔は見ないでおいてやったぜ」
「お前は目がいいからな、あの距離でもバッチリシュヴァルカイザーの顔を見られるだろう。……本当に見なかったんだろうな?」
「見てねえって! 嘘なんかつかねっつの、怖えから電撃パリパリさせながらこっち来んな! ばーかばーか、この雷ババ」
「殺す! 囲めシャスティ、アンジェリカ! この駄犬の【ピー】と【ピー】を引っこ抜いてくれるわ!」
「やべっ、地雷踏ん……ぎゃああああ!!」
よればいいものを、ダンテは余計な一言を口にしリリンたちにフルボッコにされる。敗北を糧にして、もっと強くならねば。
心の中でそう決意しつつ、フィルは意識を手放して気を失った。