64話─親睦を深めよう!
フィルたちがとてもシリアスな話をしていた頃。アンジェリカに拉致され、別の部屋へと連行されていったアンネローゼはというと……。
「へえ~、そんなことがあったの! そっちはそっちで大冒険してたのね~」
「その通りですわ。アゼル様の手となり足となり、私は大活躍をしたのですわ!」
女子バナで盛り上がっていた。アンジェリカが身振り手振りを交え、かつて仲間たちと共に行った大冒険について熱く語る。
ところどころ話を盛ったり、自身とアゼルの存在しなかったはずのラブロマンス要素をふんだんに盛り込む等、やや暴走していたが。
「はー、面白かった! もう十分くらい経ってるのね、話に夢中であっという間だったわ」
「ふふ、熱心に聞いてくださりありがとうございますわ。紅茶も冷めてしまいましたし、新しく淹れ直しますわね」
「悪いわねー、あれこれやってもらっちゃって」
「お気にならさず。客人をもてなすのもレディの務めでしてよ」
すっかり打ち解け、気の置けない友人になったアンジェリカとアンネローゼ。新しく淹れた紅茶を飲みながら、また話に興じる。
「それにしても、驚いたわねー。アゼルくんだっけ、まさかあのナリで三人の子どものパパだなんて」
「あら、違いますわよ? 正確には十六人の子どものパパですわ。もっとも、一番上の二人は闇の眷属とのハーフなので成長が遅いのですけれど」
「ぶふっ! じゅ、十六人!? そんなにいるの……」
今度は過去の冒険の話から、現在の家庭の話に花を咲かせることに。これまでのドタバタで言えなかった感想を口にするアンネローゼに、爆弾発言が降りかかる。
「これでも少ないのですわよ? ベルドールの七魔神の方々は、もう孫世代まで含めて子孫が六千人を超えていますわ。少し前に、記念パーティーがありましたの」
「ええ……何だか想像も出来ないわね。というか、そんなにいっぱいいて問題とか起きないわけ?」
「問題はないようですわ。生まれたばかりの大地に移住してもらい、そこの守り人をしてもらっているそうですから」
クッキーを摘まみつつ、そんな話をする二人。その時、棚の上に置かれていた魔法石が震え始めた。仲間から連絡が入ったのだ。
一旦話を切り上げ、アンジェリカは立ち上がり魔法石を取って話を始める。少しして、話を終えて椅子に座った。
「アゼル様から連絡がありましたわ。本日、よければ泊まっていってほしいと。そちらの都合がよければ、寝室とお食事を用意するとのことですわ」
「あら、そうなの。フィルくんたちはなんて?」
「彼らは承諾したようですわ。まだまだ、積もる話があるとのことで。アンネローゼさんは如何致しますの?」
「そうねぇ、じゃあ私も泊まってくわ。せっかくの好意だもの、甘えさせてもらおっと」
「かしこまりましたわ。では、そのように答えておきますわ」
フィルたちが泊まっていくのに、自分だけ基地に帰るという選択肢はアンネローゼになかった。どのような食事が出るのか、今からわくわくしているようだ。
そんな彼女の思考を読み取ったのか、アンジェリカは自身満々に答える。
「お夕飯は期待していてくださいませ。宮殿に勤めるシェフが、腕によりをかけてフルコースを作りますわ!」
「なーんでおめぇが偉そうなんだよ、アンジェリカ。おめーは食う専門で作る方はからっきしだろうが」
そんな中、部屋の扉が開きシャスティが入ってきた。あきれ顔の彼女に、アンジェリカは得意気な態度を崩さず答える。
「いいじゃありませんの。ところで、わたくしの部屋に何の用ですの?」
「ん、いやよー。やることなくて暇だし、客相手に御前試合でもやろうと思って誘いに来たんだよ。あんたら、強えんだろ? 話は聞いてるぜ」
「御前試合? へぇ、面白いじゃない。いいわよ、なら四対四の勝ち抜きチーム戦なんてどうかしら」
シャスティからの提案に、アンネローゼはすぐに飛び付いた。仲間内での戦闘訓練は、すでに互いの手の内を知り尽くし飽きてしまっていた。
まるで違う相手なら、マンネリを感じずに戦えるだろうと考えたのだ。威勢よく承諾し、さらに戦い方を逆に提案する。
「ほー、チーム戦か。いいぜ、メレェーナは当分グラン=ファルダから帰ってこねえし……アタシとリリンにアンジェリカ、アーシアの四人で相手してやる」
「まーた勝手にお決めになられて。後でリリン先輩にどやされても知りませんわよ、わたくし」
「へっ、問題ねえよ。ああ見えて、あいつも暇してるからな。すぐ誘いに乗るさ」
そんなこんなで話が纏まり、三人は応接間へと向かう。御前試合の話をアゼルたちにすると……。
「まお前は勝手なことを! いつもいつも、なんで事前に相談しないのだこのたわけが!」
「アバーッ!」
思いっきり、リリンに怒られた。文字通り雷を落とされ、シャスティは黒焦げにされる。それを見て、赤ん坊はきゃっきゃと笑う。
「……まあ、よい。腕が鈍るのもよくないからな、御前試合も悪くあるまい。だが、やるからには勝たねばならん。シャスティ、アンジェリカ、分かっているな?」
「い、イエスマム! ですわ!」
もし負け越したら言葉に出すのもはばかられる地獄を味わわせてから殺す。目でそう訴えながら、アンジェリカを睨むリリン。
やるからには勝つ。誰よりも強く闘志を燃やし、仲間に脅迫……もとい発破をかけていた。一方、フィルたちもやる気は十分。相手にとって不足はない。
「あっちは凄いやる気っすよ、シショー。こりゃ負けらんないっすね!」
「ええ、やるからには勝利を目指しましょう。僕たちの力が、彼女たちにどこまで通用するか……試してみたいですし」
「暗域でも伝説として語り継がれている者たちの実力を、直接肌で感じられるのはありがたい。良き糧になるだろう」
「やるわよ、みんな! えいえいおー!」
こちらはスクラムを組み、みんなで勝利に向けて気合いを入れる。そんな彼らを、赤ん坊を膝に乗せたアゼルが優しく見守る。
「ふふ、御前試合ですか。ぼくの代になってからは、これで四回目ですね。楽しみだねー、カイル?」
「あうっちゃ!」
よだれまみれの手をぶんぶんさせながら、赤ん坊は楽しそうに答えるのだった。
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数時間後、夕飯の前に一試合……と、御前試合が行われる運びとなった。宮殿が地上へと移動し、隣に巨大なコロッセオが現れる。
アゼルたちが暮らす大地、ギール=セレンドラクの住人たちが観客として招待され、席に座っている。みな、王の側近たちが戦うとあって興奮していた。
「皆さん、お久しぶりです! 今回も御前試合を観覧しに来ていただき、ありがとうございます!」
「いいぞー! 早く始めろー!」
「王の従者の強さを見せてくれー!」
コロッセオの中央に、車椅子に乗ったアゼルが現れる。夕方だというのに、観客席がぎゅうぎゅうになるまで来てくれた観客たちにお礼を言う。
「では、本日の対戦カードを発表します。別の大地からやって来た、四人のヒーロー! シュヴァルカイザーと仲間たちでーす! では、どうぞ!」
「はっ!」
「てやっ!」
「っすー!」
「参る!」
アゼルのかけ声に合わせ、あらかじめ通路でスタンバイしていたフィルたちが舞台に飛び出す。勿論、全員完全武装している。
異界のヒーローたちの登場に、観客たちは歓声をあげる。その中で、ただ一人。席に座ったまま、舞台を見つめる男がいた。
「へえ、アイツがレケレスの言ってたシュヴァルカイザーか。コーネリアスの奴、なーんか隠してるんだよなぁ。このダンテ様が、あいつの秘密を暴いてやるぜ。とびきりのサプライズと一緒にな」
灰色のコートを身に付けた男が、小さな声でそう呟く。波乱の嵐が、巻き起ころうとしていた。