53話─銃は剣よりも穿ち、剣は銃よりも断つ
「お前たチ、何をヤってイるパオ。たった二人ヲ相手に、手こずりスぎではナいパオ?」
「わっ、デカいのが出てきたっす! あれ、何すかねオボロ」
「あれは象という動物だ。もっとも、その姿を模しているというだけのバトルドロイドだが」
オボロと合流したイレーナの前に、頑強な鎧を身に付けた巨大な象型のバトルドロイドが姿を見せた。どうやら、これが部隊の親玉のようだ。
「も、申し訳ありませんパズロ様! まさか、カンパニー製作のバトルドロイドが敵に回っているとは思わず……」
「なにぃ? オ、本当だパオ。お前ハ……お、知ってイるパオ。八十年前に型落ちになったレトロなバトルドロイドじゃナいか」
「そういう貴殿は、動物タイプのドロイドか。性能が高いとはいえ、下等生物のボディしか与えられないとはよほど上から期待されていないと見える」
「あ゛? 貴様、言わせテおけば図に乗りオって! スクラップにしてやるパオ!」
事前にイレーナに言った通り、旧モデルであることをバカにされたオボロ。パズロに対し、辛辣な言葉を返した。
カンパニーでは、格の高いバトルドロイドほど人型に近いボディを与えられるという特徴がある。逆に、動物や魔物型は捨て駒に使われることが多い。
そのことは当然パズロ自身も知っている。そして、そこにコンプレックスを持っているのだ。逆上したパズロは、オボロに向かって突進する。
「轢き殺してやるパオ!」
「来るっすよ、オボロ! ……アタイはどうしたらいいっすか!?」
「随伴している雑兵の処理を。奴の能力と特性を把握し次第、追って指示を出す」
「りょ!」
イレーナに雑魚処理を任せ、オボロは突進してくるパズロの方を向く。一旦刀を鞘に納め、ギリギリまで相手を引きつけながら腰だめに構える。
パズロが到達するまであと少し、というところでオボロが動いた。すり足で相手の側面に回り込み、抜刀術を浴びせかける。
「死ぬパ」
「九頭流剣技、参ノ型! 地ずり昇竜斬!」
「パオォ!?」
刀を抜いた勢いで加速し、パズロの右脇腹にアッパーの要領で強烈な一撃を叩き込む。が、頑丈な鎧に阻まれ思うようなダメージを与えられない。
表面の赤い塗装が剝げ、少し刃が食い込んだだけで終わってしまった。真正面からの攻撃は、出力を上げないと効果が薄いと判断するオボロ。
「なるほど、鎧は見せかけではないということか」
「当たり前パオ。私ノ防御力を甘ク見た奴から死んデいくんだパオ! 食らえ、ノーズハンマー!」
自慢の装甲で攻撃を防いだパズロは、お返しとばかりに長い鼻を用いてオボロへ殴打を加える。オボロは刀を煌めかせ、鼻を細切れにした。
「フンッ!」
「パオォ!? そ、そンなバカな!」
「確かに鎧は頑丈だ。だが、柔軟に動かす必要のある鼻はそうもいかなかったな」
「ぐうっ、オのれ……パオッ!?」
突如、パズロの尻に強い衝撃が加わる。視界拡大システムを用いて背後を確認すると、イレーナが銃を向けていた。
闇の眷属兵たちをあっという間にハチの巣に変え、オボロの手伝いに来たのだ。次弾を装填しながら、イレーナはガスマスクの下で笑う。
「へっへーん、見事命中! オボロ、ここからはアタイも加勢するっすよ!」
「鬱陶しい奴パオ! お前ノ相手をしてヤる暇はないパオ! 踏み潰してヤるパオ!」
パズロは足の裏にローラー型の車輪を出現させ、勢いよく後ろへ下がる。そのまま尻を降ろし、イレーナを踏み潰すつもりのようだ。
「おっと、そうはいかないっす! 悪いお尻には、ズプリとやっちゃうっすよ! ギガバレルドリラー!」
「!? お前何を……まさカ!」
相手が尻を向けたまま突進してくるのを見たイレーナは、両足と背中の装甲を展開し、地面に突き刺して身体を固定する。
そして、右腕を真っ直ぐ前に伸ばし接続されている銃身の先端を鋭く尖らせた。それを見たパズロは、相手の狙いを悟り慌てて止まろうとする、が。
「止まる必要はない。自慢の鎧が、銃撃されて強度が落ちた状態でなお……如何なる攻撃も寄せ付けずにいられるのか、試してくるがいい!」
「パオアアァァァ!!?!!??!」
マグナム弾の直撃を食らい、鎧の一部に小さな亀裂が入っていた。加速が付いた状態で、ピンポイントにその部分を鋭いモノで突かれれば……どうなるかは言うまでもない。
焦るパズロの顔面に、オボロは容赦なく強烈なドロップキックを叩き込む。結果、完全に止まれなくなりイレーナ目がけて突っ込んでいく。
「行くっすよ、食らえー!」
「アーーーーッ!!!」
「いい断末魔の声だ。手応えあったな」
どっしりと大地に根を張ったイレーナの待ちの一撃が、パズロの尻を覆う鎧を砕いた。が、それだけでは勢いが止まらない。
パズロの身体はどんどん後ろに下がり、同時に内部機構が破壊されていく。結果、後ろ半身は完全に機能を喪失し、使い物にならなくなった。
「ぱぉぉぉぉ……貴様、ヨくもやってクれたな!」
「イレーナ、そのまま仕上げだ! トドメを刺してやるといい!」
「はーい! 食らえ! スペクタクル・パレードショット!」
相手の体内に腕を突っ込んだまま、イレーナは弾丸を連射する。頑強な鎧が仇となり、弾丸が体内を乱反射しながら全てを破壊していく。
「ぱ……ぱ……ぱおんぬ!」
「ぱおんぬて」
「気の抜ける末期の言葉だったな……」
モーターから各種回路、コアまでことごとく破壊し尽くされたパズロは、何とも情けない鳴き声をあげた末に崩れ落ちた。
遙か後方で様子を見ていた闇の眷属兵たちは、クモの子を散らすように逃げ出した。パズロが破れた以上、勝ち目はないと判断したらしい。
「もうダメだ、逃げろぉぉ!!」
「あんな奴ら、勝てるわけねぇ! さっさと退散だぁ!」
「むっ、逃げていくっすよ。オボロ、追うっすか?」
「不要だ。深入りはトラブルを招く。勝ちてなお、敗走兵を追う必要はあるまい」
追撃しようか判断に迷い、オボロにアドバイスを求めるイレーナ。かつての戦場での経験から、オボロは首を横に振った。
そこに、遠巻きに戦いの様子を眺めていた騎士団の面々がやって来る。一様に頭を下げ、イレーナとオボロに感謝する。
「ありがとう、助かったよ。いやぁ、それにしてもシュヴァルカイザーに新しい仲間が出来ていたなんて。知らなかったよ」
「ふっふーん。ま、知らなくても仕方ないっすね。アタイたちはまだ新顔っすから」
「そうなんだ……じゃあ、前に私たちを助けてくれた双子もそうなのかな?」
「え? 双子?」
得意気に胸を張ってきたイレーナだか、騎士の発言に疑問を抱く。一体どういうことなのか、騎士に尋ねてみると……。
「実は数日前、落石事故にあったキャラバンの救出任務に赴いてね。落石に巻き込まれて、ほぼ全滅状態だったんだけど……」
「痛ましいことだ。その者たちも、まだ生きたかったろうに」
「ところがどっこい、遺体を運び出そうとした時にどこからともなく骨風の見た目の鎧を着た双子の子どもがやって来たんだよ。その子たちに聞いたら、シュヴァルカイザーの仲間だって言うんだ」
「えー……? そんな子たち、知らないっすよ。シショーも多分知らないと思うっす」
どうやら、何者かがシュヴァルカイザーの仲間を騙っているらしい。そのことを知り、憤るイレーナ。が、次に騎士が発した言葉に、オボロ共々唖然としてしまう。
「で、凄いのがそこからなんだ。その子たちが遺体に手を触れた途端、紫色の炎が吹き出したんだよ。で、それが遺体に吸い込まれてったと思ったら……なんと! さっきまで死んでたはずのキャラバンの人たちが生き返ったんだ!」
「なに? あり得ぬ、死者がよみがえるなど……いや、待て。そうか、思い当たる話があるぞ……」
「ちょ、オボロ!? どこ行くっすか?」
「一度、それがしの故郷……暗域へ戻る。調べねはならぬことが出来た。明後日までには戻るとシュヴァルカイザーに伝えよ」
そう言い残し、オボロはどこかへ去って行った。一人残ったイレーナは、謎を抱えつつ基地へ帰還する。新たな波乱の種が、芽を出そうとしていた。




