52話─遊ぶ者、戦う者
ナンパ男たちを撃退し、ついでにキスの雨を受けることになったフィル。しばらく放心状態になっていたが、我に返り顔を赤くする。
「もう、アンネ様ったら。人がいないからって、あんな熱烈な……」
「ごめーんね。でも、フィルくんが可愛かったからついね。もしかして、弟扱いされて拗ねちゃった?」
海の家に到着し、二人分の焼きそばを買って食べる二人。目の前にいるフィルに、アンネローゼはからかうように尋ねる。
「そう、ですね。僕としてはアンネ様の彼氏として見てもらいたいとは思ってますが……やっぱり、そうもいかないですよね」
フィルとしては、一緒にいる以上アンネローゼの恋人として見られたい。が、彼らの年齢差では恋人と言うより姉弟に見えるのも事実。
先ほどのナンパ男たちの言葉を思い出し、しょんぼりするフィル。アンネローゼに釣り合う、頼れる大人になれたらいいのにとため息をつく。
「いいのよ、他人には好き勝手言わせておけば。フィルくんが恋人だって事実は、誰に何を言われても変わんないわけだし。そうでしょ?」
「それは……確かにそうなんですが」
「そこまで気にしちゃうならさ、行動で周囲に示せばいいのよ。私たちがラブラブカップルだってことをね! というわけで、はい」
「えっと、何してるんですか?」
「あーんよ、あーん。こうすれば私たちがカップルだって一目瞭然でしょ?」
思い悩むフィルの顔の前に、アンネローゼは焼きそばを巻き付けたフォークを差し出す。彼女の言うことも一理あると考え、フィルは差し出された焼きそばを食べる。
「ふふ、それもそうですね。それじゃあ、あーん。もぐもぐ……」
「元気出てきた? うんうん、やっぱりフィルくんは笑ってるのが一番ね。私、好きよ。フィルくんの笑顔が」
「ごっくん。僕も好きですよ、アンネ様の全部が。笑ってる顔も、怒ってる顔も」
焼きそばをお互いに食べさせ合いながら、それぞれの好きなところを列挙するフィルとアンネローゼ。暖かく幸せな時間が、二人の間に流れていた。
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「そりゃっ! えいっ!」
「お見事、全弾命中じゃな。日に日に射撃の腕前を伸ばしておるのう、イレーナは」
「へっへーん。いつまでもシショーや姐御におんぶに抱っこっ、てわけにはいかないっすからね。アタイ一人でも戦えるように、日々精進するっす!」
アンネローゼたちがデートを楽しんでいる中、イレーナは訓練場で一人特訓に励んでいた。ギアーズが見守る中、突如基地に警報が鳴り響く。
「むっ、これは! どうやら、敵さんのお出ましじゃな。フィルたちがいない時に来るとは……」
「博士、エージェントはいるっすか?」
「ちょっと待っとれ、今つよいこころ二号とコンタクトを取って確認するでな」
主戦力であるフィルとアンネローゼがいないという、手痛い状況での襲撃警報。幸いにも、マインドシーカーやアッチェレランドらエージェントはいないようだ。
「エージェントは同行しておらんようじゃ。恐らく、シュヴァルカイザーの正体暴きに忙しいんじゃろう」
「なら、アタイが行くっす! エージェントにはまだ勝てないけど、普通の敵なら……」
「ううむ、おぬし一人ではまだ不安じゃのう……オボロ! オボロよ、いるか!?」
「お呼びにござるか、ギアーズ殿」
いくら訓練を積んでいるとはいえ、イレーナ単独での出撃はまだ荷が重いと考えるギアーズ。デート中のフィルたちを呼び戻すのも悪いと、考え、オボロを呼ぶ。
「済まぬが、イレーナに同行してもらえるか。おぬしは戦い慣れておるじゃろ、適宜サポートしてやっとくれ」
「承知した。それがしを見れば、相手も油断しよう。八十年前に廃棄された旧型ゆえ、確実に舐めてかかってくるだろうからな」
「おお、オボロが着いてきてくれるってなら安心っすね! そいじゃ、行ってくるっす! デスペラード・ハウル、しゅつげきー!」
オボロを引き連れ、イレーナは基地を出発する。いよいよ、初陣の時を迎えるのだ。テレポートを駆使し、向かうはラストゥール帝国南東部。
彫刻家たちが住まう街、ミーズン。カンパニーから派遣された部隊と、帝国騎士団が激しい戦闘を繰り広げていた。
「ボウガン隊、構え! 新兵器の四連速射ボウガンの餌食にしてやれ!」
「ハッ! 第一列、てー!」
三列に並んだボウガン部隊が、街に迫り来る闇の眷属兵たちに向かって矢の雨を浴びせかける。が、先頭にいる鎧を纏ったサイたちに弾かれてしまう。
「なっ!? 矢が効かないだと!?」
「はっはっはっ! バカめ、アーマードライノの群れにボウガンなぞ効くものか! このまま突進して守りを崩しのあぁ!?」
「食らえー! ナパームレイン!」
帝国軍の猛攻をいとも容易く防ぐ闇の眷属たち。そのまま攻め入ろうとするも、突如空から雨あられとナパーム弾が降り注ぎ大炎上する。
流石のアーマードライノも、ナパーム弾の前には鎧が意味をなさず倒れていく。突然のことに、騎士団も闇の眷属たちも驚き戸惑う。
「な、なんだ今のは!? シュヴァルカイザー……が来た、のか?」
「それにしては、あまりにも攻撃が派手過ぎるような気も……」
「へへーん、残念だったっすね。シュヴァルカイザーの代わりに、アタイが参上したっすよ!」
騎士たちが混乱している中、デスペラードアーマーを纏ったイレーナが降り立つ。新たなヒーローの登場に、騎士たちはどよめく。
「あ、あなたは一体……?」
「アタイはデスペラード・ハウル! シュヴァルカイザーの新しい仲間……むっ!」
イレーナが得意気に自己紹介していると、燃え上がる炎の中から複数の砲弾が飛んできた。素早く弾丸を五発撃ち、全て撃ち落とす。
「おお、凄い! あの数を全部撃ち落とすとは!」
「ここからは加勢するっすよ、アタイとオボロが! おーい、オボロー!」
「ここに。九頭流剣技、弐ノ型……天風廻天独楽!」
イレーナが呼びかけると、消火作業でてんてこまいになっている敵陣のド真ん中にオボロが姿を現した。敵が驚いている間に、抜刀術を浴びせかける。
「なっ!? お前どこからぐあっ!」
「斬り捨て御免……」
「貴様、カンパニー製のバトルドロイドだな! 社長を裏切るとは……この面汚しめ! お前たち、かかれぇっ!」
オボロの正体に気が付いた闇の眷属たちは、裏切り者を始末せんと一斉に襲いかかる。が、頭に血が昇っている彼らはすっかり忘れていた。
敵は一人ではなく……自分たちと相性のいい、遠距離から高火力の弾丸を延々と叩き込める者がいるということを。
「おーっと、アタイを忘れちゃーダメっすよ。これでも食らうっす! 遠撃でたらめバースト!」
「しまった、アーマードライノを盾に」
「背中を見せたな? それがしを前にして」
「ぐぎゃっ!」
オボロを倒そうとすると、射程距離外からイレーナの銃弾が飛んでくる。かと言って、イレーナを倒しに行こうとすると今度は背後からオボロに斬られる。
どうにもならない板挟みの中、闇の眷属たちは少しずつ数を減らしていく。二人のコンビネーションを見ていた騎士たちは、圧倒的な制圧力に唖然としていた。
「つ、強い……前に噂を聞いたホロウバルキリーもかなり強いとのことだが、この者たちもかなり……」
「ふふーん、当然っすよ。シュヴァルカイザーに選ばれたヒーローっすからね、アタイたちは!」
「デスペラード・ハウル、大物が来る! 至急こちらに馳せ参ぜよ!」
「はーい、今行くっす!」
オボロの呼びかけに応え、イレーナはスラスターを吹かせ移動する。彼女の初陣は、まだ始まったばかりだ。