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47話─組曲:蒼のソナタ

 二手に別れ、地下基地を進むフィルたち。右のルートを進むアンネローゼとイレーナは、特に警戒するでもなく廊下を歩く。


(透明になってるだけあって、だーれも私たちに気付かないわね。今なら後ろからザクッ! って殺れるわね、こいつら)


(姐御、流石に今騒ぎ起こしたらシショーに後で怒られるっすよ!)


(冗談よ、冗談。令ジョークよ、なんちゃって)


 侵入しているのがバレていないのをいいことに、アンネローゼはまたしても調子に乗っていた。ブレイズソウル戦でのことを、すっかり忘れているらしい。


 イレーナにたしなめられつつ、闇の眷属兵が扉を開閉するのに合わせて各部屋をチェックして回る。地下一階には、ギアーズは囚われていなかった。


(この階にはいないわね、下の階に行ってみ……? あら? 何かしら、この音色)


(何だか、嫌な感じがするっす。恨みと敵意がこもってるような、ゾッとす──!?)


 下の階に続く階段を探そうとする二人。その時、どこからともなくクラシック音楽が聞こえてくる。直後、彼女たちを異変が襲う。


 周囲の景色が揺らぎ、全てが蒼に染まっていく。無機質な基地の廊下が、鬱蒼とした森へと変化を遂げたのだ。


「な、何これ!? 一体何が起きてるの? まさか……敵の攻撃!?」


「あ、姐御! アタイどうしたらいいっすか!?」


「落ち着いて、イレーナ。魔法石を使ってフィルくんを呼ぶのよ。焦ったらダメ……」


「ゴルルルルルル……」


「フシャアアァァァ……」


 突然のことに、パニックに陥りかけるイレーナ。彼女を落ち着かせようとするアンネローゼだが、そこに邪魔者が現れる。


 森の奥から、巨大な狼と蛇の魔獣が姿を見せたのだ。どちらも敵意を剥き出しにし、唸り声を上げている。


「チッ、面倒くさいわね。まあいいわ、まずはこいつらを片付けるわよ。イレーナ、準備はいい!?」


「は、はいっす!」


「蛇の方は任せるわ、手こずるようなら手伝うから安心して! 武装展開、聖風槍グングニル&ローズガーディアン!」


「やってやるっす……姐御からの期待! ここで応えなきゃ女が廃るってもんすよ! 武装展開、リボルバー:ザ・キッド!」


 環境の変化の謎を解明する前に、まずは目の前の脅威を排除せねばならない。アンネローゼは狼を、イレーナは蛇を相手取る。


「グルガァッ!」


「来なさい、アンタなんか穴ぼこだらけにしてやるんだから! ウィンドスピア!」


「グルゥッ!」


「避けるなんて中々やるじゃない。ならこうよ! 武装展開、エアーリッパー!」


 狼に対し、槍による突きを放つアンネローゼ。が、ひらりと攻撃を避けられてしまう。相手の反撃を盾で防ぎ、今度は風の刃を放つ。


「ガァッ!?」


「へへん、しっぽを吹っ飛ばしてやったわ。これで多少はダメージに」


「グルゥガッ!」


「なってない!? っていうか、もしかしてこいつ……幻影? 血が全く流れてないわ!」


 風の刃が命中し、しっぽを斬り飛ばす。しかし、狼は怯むだけでダメージを受けていなかった。一切出血しないことに、アンネローゼは違和感を抱く。


「姐御、どうやら幻なのは確定っすよこいつら! アタイが散々バクレツ弾をお見舞いしてやったのに、あの蛇ピンピンしてますもん」


「ホントね、穴ぼこだらけなのに普通に動いてる……。まずいわ、これだとこっちが不利よ」


「グルル……」


「シュアァ……」


 イレーナの方も、蛇を仕留めるべく必殺の一撃を食らわせていた。だが、相手が幻影があるが故にまるで効いていない。


 相変わらず不快な音楽が鳴り響く中、二人は消耗戦を余儀なくされる。どうにかして幻影を消し去らなければ、勝ち目はない。


「てやっ! もう、どうすりゃいいのよこんなの!」


「何か、何かないっすかね!? あいつらを消し去る方法が!」


「そんなの分からな……ん? ちょっと待って。アイツら、この音楽が鳴り始めてから姿を現したのよね」


「うりゃっ! そうっすけど、それが何か……あっ!」


 狼の額に弾丸を撃ち込みつつ、イレーナはアンネローゼの問いに答え……彼女の言わんとしていることに気が付く。


 鳴り止まない音楽と、幻影の獣とこの森。何かしら関連があるかもしれないと考えたのだ。……もっとも、その関係が分からないことに変わりはないが。


「グルアッ!」


「ああもう、邪魔! 考えがまるで纏まらない、一体どうしたら」


「九頭流剣技……壱ノ型、菊一文字斬り!」


「ギャウン!? キャーン……」


 敵の対象に手間取り、焦るアンネローゼ。その時、狼の背後にフィルと一緒にいるはずのオボロが姿を現した。


 妖刀九頭龍を一閃し、狼の幻影を切り裂き消滅させてみせた。突然の援軍に、アンネローゼとイレーナは目を丸くした驚く。


「オボロ!? 何でアンタここにいるの!?」


「フィル殿より、お二人への加勢を頼まれ参上致した次第にござる。フィル殿から、この幻影から逃れる方法を伝えよと言づてを預かっている」


「おお、さっすがシショー! もう幻影の秘密を掴んだんすね!」


「左様。アンネローゼ殿、スピーカーを。この音楽を発生させているスピーカーが、幻の中に紛れている。それを見つけ出し、破壊すればこの森と獣は消える!」


 基地の別エリアにて、フィルとオボロも同様の幻に襲われていた。幸い、そちらはフィルが持ち前の頭脳と洞察力を活かし、幻影の秘密を見破れた。


 そして、幻影を切り裂く力を持つ妖刀が使えるオボロを、アンネローゼたちの元に伝言を伝えるため送ったということだった。


「秘密が分かったのはいいけど、そんな無茶言わないでくれる!? こんな鬱蒼とした森のどこかにあるスピーカー探すなんて、無理に決まってるでしょ!?」


「いや、そうでもないっすよ姐御。よーく耳を澄ませて、音の出所を探ればいいんすよ!」


「左様。あの幻影の獣たちは、それがしが相手を。お二方はスピーカーの捜索を!」


「しょうがないわね……分かったわ、やってみる!」


 アンネローゼたちに教授しながら、オボロは蛇の首を落とす。直後、森の中から新手の獣たちが続々と姿を見せる。


 狼に蛇、フクロウ、イノシシ……ここで三人を仕留めるつもりだと、誰が見ても明らかだ。オボロに獣たちを任せ、二人はスピーカーを探す。


「どこ!? どこにあるの!? 急いで見つけ出さないと、獣の群れに蹂躙されちゃうわ!」


「ここにもない……ここも違う……ちょっとずつ音源に近付いてはいるっすけど、こうやぶが多いと……」


 オボロが刀を振るっている間、アンネローゼたちは音源を探す。耳を澄ませ、少しずつ音楽が聞こえてくる場所を特定する。


「九頭流剣技、弐ノ型……天風廻天独楽!」


「ギィィヤアッ!」


「ゴブァッ!」


「来い、偽りのけだものらよ。我が妖刀のサビとしてくれようぞ!」


 一方、オボロは二桁にのぼろうかという数の獣を相手に無双していた。全方位から攻撃を浴びせられてもビクともせず、カウンターを浴びせかける。


 廃棄された旧型とはいえ、カンパニー製のバトルドロイドの実力はかなり高いようだ。最後の一体を屠り、アンネローゼたちに向かって叫ぶ。


「幻の獣は滅した! 急いでスピーカーを!」


「んなこと言ったって、そうそう見つかるわけ……ん? つま先になんか堅いものが……もしかして!」


「おお、多分これっすよ姐御! この丸いのがスピーカーだと思うっす!」


 藪をかき分けていたアンネローゼの足に、何かがぶつかる。それを拾い上げ、二人は確信する。これこそが幻を生み出しているスピーカーなのだと。


 その証拠に、丸い装置から怪しげなクラシックが流れている。アンネローゼは地面に盾を突き刺し、そこにスピーカーを叩き付けた。


「やろぉぶっ壊してやぁぁぁる!!! オラァァァァァ!!!」


 気合いと共に腕を振り下ろし、渾身の力でスピーカーを盾のフチにぶつける。凄まじいバカ力により、一撃でスピーカーが破壊された。


 すると、風景が揺らぎ、蒼い色が薄らいでいく。少しして、元の基地へと風景が戻った。が……。


「ひっ! あ、姐御にオボロ! ろ、廊下が……」


「闇の眷属たちの死体だらけじゃない! 何だって言うの? まさか……」


「うむ。どうやら、あの幻影の正体は闇の眷属たちだったらしい。どのような原理でこうなっているのやらな……」


 元に戻った通路は、死屍累々の状態だった。オボロは刀を振り、鞘にしまう。酷たらしい光景に呆けているイレーナの手を引き、アンネローゼは歩き出す。


「二人とも、行くわよ。これ以上襲撃される前にフィルくんと合流して博士を助けるの。急がないとまた幻影に襲われるわ」


「は、はい! 分かったっす!」


「急ごう、この先でフィル殿が待っている」


 幻影を退け、三人はフィルと合流するべく先へと進んで行くのだった。



◇─────────────────────◇



『データ照合カンリョウ。カルゥ=オルセナニハ、フィルトイウ名前ノ大地ノ民ガ三万四千人存在シテイマス』


「なるほど、よく分かった。では、アレクサンダー・ギアーズと関連のある、フィルという名前の人物を検索しろ」


『カシコマリマシタ。データノ照合ヲ開始シマス』


 その頃、基地の最下層ではカンパニー本社から運び込んだマシンによるシュヴァルカイザーの正体探しが行われていた。


 アッチェレランドがデータ照合を進める中、ついに……。


『照合カンリョウ。検索結果、一件ヒット。フィル・アルバラーズのデータヲ表示シマス』


「くくく、ついに判明したな。シュヴァルカイザーの正体が。これは面白いことになってきたぞ……ふふ、ハハハハハ!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] チィ! フィルの正体がバレたら不味い事になる!! 氷獄猫オババがカチコミを仕掛け(氷漬けにされた
[一言] 音波幻覚は結局の所、音を聴くからなる物であり、音を遮断(耳栓)するか空気を吹き飛ばして真空にすれば音は響かんだろ(ʘᗩʘ’) ハイテクスーツなのに耳栓もないのか(?・・) しかしカイザーの…
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