46話─ギアーズを救え!
ギアーズ救出に向けて、フィルたちは慌ただしく準備を進める。出撃用意が調った頃、オボロもギアーズの居場所の特定を終えていた。
「フィル殿、ここだ。遙か東、海の果てにある島にマインドシーカーの反応がある。恐らく、ここに連れ去られたのだろう」
「ありがとう、オボロ。急いで向かいましょう、とはいえ……スーツに島の座標が登録されてないので、短距離テレポートを繰り返さないといけませんが」
「何でもいいわ、場所が分かれば問題なしよ。イレーナ、早速だけど実戦よ! 気合い入れて行くわよ!」
「はいっす、姐御!」
フィルとアンネローゼ、イレーナの三人はダイナモドライバーを装着する。変身を終え、オボロを連れ出撃していった。
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(うう……おのれ、奴め。わしを一体どこに連れてきたんじゃ? 布を被されとるせいで、何も分からん)
その頃、ギアーズはカンパニーのアジトに監禁されていた。猿ぐつわを噛まされ、頭に黒い布を被せられているため状況が分からない。
じたばたしても始まらないと、大人しくチャンスを待つギアーズ。すると、不意に布が外され視界が広がる。
「へえ、あなたがシュヴァルカイザーの仲間なのね。初めまして、私はテンプテーション。ヴァルツァイト・テック・カンパニーに所属する特務エージェントにして、大いなる魔の貴族よ」
「フン、肩書きばかりまあ大層なもんじゃな。わしを攫って、拷問でもするつもりか?」
「不要よ、そんな非効率的なことは。必要な情報は、全部手に入るの。マインドシーカーの力でね」
木製の椅子に座らされたギアーズは、手足を縛られ椅子に固定されている。逃げ出そうにも、相手は手練れのエージェント。
ギアーズでは到底敵う相手ではない。下手に抵抗すれば、すぐに殺されてしまうだろう。
「何をするつもりかは知らんが、わしは簡単に口を割らんぞ。懐柔出来ると思うておるなら、おぬしは大バカ者じゃな」
「懐柔? いらんよ、そんな手間のかかることは。ご老人、よく眠れたかね?」
「! 貴様は、わしを尾行していた……そうか、貴様がマインドシーカーか!」
「ククク、その通り。私には特別な能力があってね……相手の心を『読む』ことが出来るのだよ」
部屋の扉が開き、マインドシーカーが入ってくる。テンプテーションの隣に立ち、顔を覆う布越しにギアーズを見つめる。
その言葉と、布の奥から放たれる視線を浴びせられたギアーズは冷たいものが背中を流れるのを感じた。
「心を読むじゃと? そんなことが出来るというのか!?」
「そうとも。現に、思考を読んでやっただろう? お前を攫う時にな。すでに、お前の心の表層は粗方読ませてもらったよ。ロクな情報はなかったがね」
ギアーズが気を失っている間に、マインドシーカーはある程度心の中を見ていたようだ。が、幸いにも重要な情報は知られていないらしい。
「心の奥深くにしまい込んでいるな? シュヴァルカイザーに関する情報を。寝ている相手の心は、表層部しか読めなくてね。深層を読むために、こうして起きてもらったわけだ」
「なるほどのう。なら、わしの取る手は一つしかあるまい!」
「! まずい、こいつ毒を飲むつもりよ!」
シュヴァルカイザーの秘密を守るため、ギアーズは奥歯に仕込んでいたカプセルを噛み砕き毒を飲む。毒とは言っても、死には至らない。
一時的に意識を失い、数日ほど昏睡状態に陥るものだ。服毒阻止に失敗した二人は、やれやれとかぶりを振る。
「どういう行動に出るか試してみたが……思考を挟まずノータイムで毒を飲むとは。このご老人、覚悟が決まっているな」
「こうなった以上、プランBに切り替えるしかないわね。こいつをエサに、シュヴァルカイザーを誘き寄せるわよ」
「それがいい。アッチェレランドにも伝えねばな。作戦の変更を」
ギアーズの自己犠牲により、心の中から情報を引き出す作戦に失敗した。そこで、エージェントたちは作戦を変える。
だが、彼らは知らなかった。すでにシュヴァルカイザーたちが、基地のある島に到着していたことに。
「……入り口に見張りが二人いますね。ここからなら、マナリボルブを跳弾させれば仕留められますが……」
「じゃあ、サクッと殺っちゃいましょうよ」
「そうもいきません。あの二人の傍に警報装置のスイッチがあります。片方を殺せても、もう片方がすぐに警報を作動させてしまいます」
一方、島に到着したフィルたちは岩の陰から基地の入り口の様子を窺っていた。地下基地へ入るための入り口は、見張りに守られている。
警報を鳴らされてしまえば、すぐに闇の眷属たちが集まってくるだろう。そうなれば、最悪エージェントがギアーズを連れて逃亡してしまうかもしれない。
「ふむ。なれば、ここはそれがしに任せてもらえないだろうか。それがしはカンパニー製のバトルドロイド。見張りに仲間だと誤認させられよう」
「なるほど……では、頼みましたよオボロ」
「御意。それがしにお任せを」
そう言うと、オボロは短距離テレポートを用いて見張りたちの前に移動する。そうしないと、相手に怪しまれてしまうからだ。
「む? これは珍しいな。八十年前に生産が終わったバトルドロイドが来るなんて。応援要員か?」
「左様。埃を被せておくよりは、戦闘時の弾除けにでもなろうと派遣された次第。中に入れていただきたい、特務エージェントに挨拶をせねばならぬ」
「おう、分かった。そういうことなら、すぐ中に入れっ!?」
「何を……ぎゃあっ!」
オボロを仲間だと思い込み、背を向ける見張りたち二人。直後、オボロは妖刀を顕現させて二人の首を一太刀ではねた。
警報を作動させる間も無い、鮮やかな手際の良さであった。入り口の指紋認証ロックを見張りの指で解除した後、オボロはフィルたちを呼ぶ。
「これにて落着だ。無事、基地の扉が開いた」
「へー、アンタやるじゃない。全く見えなかったわ、太刀筋が」
「すごいっす、オボロ! これで安全に基地に入れるっすよ!」
「ありがとう、オボロ。アンネ様、イレーナ、ステルスモードをオンにしてください。ここからは慎重に行きますよ」
見事見張りを仕留めたオボロに礼を言い、フィルはアンネローゼたちに声をかける。透明状態になり、基地の中に侵入する。
基地に潜入しているのがバレないように気を払いつつ、どこかに囚われているギアーズを探し出さねばならない。
(ねえフィルくん、この基地の奴ら妙にのんびりしてない? 私たちが博士を取り返しに来るかもって、上から伝えられてないのかしら?)
(多分、ここまで迅速に動くことを想定していないのかもしれません。相手はつよいこころ軍団のことを知りませんしね)
基地を進む中、アンネローゼは妙に警備が薄いことに気付く。隣にいるフィルに小声でそのことを伝えると、そんな返事が返ってきた。
(なら、必要以上に警戒する必要はないわね。二手に別れて探索しましょ)
(分かりました。でも、油断はダメですよ。僕はオボロと一緒に、この通路を右に行きます。アンネ様たちは左へ)
(リョーカイっす、シショー!)
全員で固まっていても効率が悪いと、アンネローゼは手分けして基地を探ることを提案する。結果、フィル&オボロ組とアンネローゼ&イレーナ組に別れた。
T字路で左右に別れ、フィルたちはそれぞれのルートへ進む。こうして、ギアーズ救出作戦の第一歩が踏み出された。が……。
「ふふふふふ。姿を消した何者かが、ワガハイのアトリエを練り歩いているな。だが、ムダなこと。どれだけ巧妙に姿を隠そうとも、心臓の鼓動が我が耳に届くぞ。では……迎撃するとしようか」
新たなるエージェントが、すでに動き始めていた。