43話─ガラクタとの出会い
元いた広野へと戻ってきたフィルたち。一旦研究所に寄り、問題が無いか確認してから基地へ帰ることになった。
再び認識阻害の魔法をかけ、研究所に向かうと所長以下研究員たち一同に熱烈な歓迎をされた。話を聞く限り、幸いにも死傷者は出なかったらしい。
「いやー、シュヴァルカイザーさんたちは頼りになりますねぇ! 帝国騎士団の亀どもにも見習ってほしいもんですよ!」
「ふふん、もっと褒めてもいいのよ? ……それにしても、随分匂うわねここ。何の匂いなの?」
「そりゃーここで匂いものがあるとしたら一つしかないっすよ、姐御。キカイを動かすためのオイルっすよ、オイル」
所長に褒められ、気を良くするアンネローゼ。少しして、クンクン鼻を鳴らして研究所内の匂いを嗅ぐ。
そんな彼女に、イレーナが説明を行う。話を聞いていた所長は頷き、奥の方を指差す。
「そうそう、そうなんだよ。まだ試験段階なんだけどね、いろいろ作ってるんだ。よかったら見学して行くかい?」
「わあ、是非見たいっす! シショー、ちょっとだけ中を見てもいいっすか?」
「いいですよ、僕も後学のために見て回りたいと思ってましたから」
「おお、なんと! あのシュヴァルカイザーが、我が研究所の見学を……お前たち、これまでの成果を存分に見せてやれ! いいな!」
「イエッサー!」
憧れのシュヴァルカイザーが見学するとあって、研究員たちはにわかにやる気を見せる。これまで造り上げてきた数々のキカイを見てもらおうと、みな張り切っていた。
「ホロウバルキリーはどうしますか?」
「あー、私はいいわ。オイルの匂いが移っちゃったらやだし。先に帰ってシャワー浴びてるわ」
「分かりました、お夕飯の時間までには戻るのでのんびりしててください。では行きましょうか、デスペラード・ハウル」
「はーい! はー、楽しみっす!」
特段興味のないアンネローゼは一足先に基地へと帰り、フィルとイレーナは見学を行うことになった。所長に連れられて研究所の内部に進むと、タイヤが付いた巨大なキカイが広いフロアを横切っていった。
「おお!? 今のなんすか!? めっちゃ大っきいのが通ってったっすよ!」
「あれは荷物運びをしてる運搬用のキカイだね。もう少し小型化したいんだけど、これが中々上手く行かなくて……魔力バッテリーの消耗も激しくて、二時間くらいしか動かせないんだ」
「確かに、あれを馬車サイズまで小型化した上でバッテリーを一日ほど持続させられるようにすれば……」
「そう! 流通に大きな革命が起こる! 馬のコンディションに左右されず、悪路も超えて大量の荷物を運べるんだからね!」
わいわいキカイ談義に花を咲かせつつ、三人は奥のフロアへ向かう。他の研究員たちは自作のキカイを披露しようと、それぞれの研究スペースに散って行った。
三人が足を踏み入れたのは、生活を楽にするためのキカイを研究しているフロアだ。中に入ると、女研究員が一行を出迎える。
「来ましたね、皆さん! さあ、私の研究しているキカイをお見せしますよ! これです!」
「これは……箱ですか?」
「ノンノン、ただの箱ではありません。これは魔導洗濯機! この中に服を入れると、どんなガンコな汚れも綺麗さっぱり落としてくれるんです!」
研究員の隣には、成人男性よりやや小さいくらいの高さがある箱が設置されていた。フィルたちが観察する中、研究員は蓋を開ける。
「えー? ホントっすか? それ」
「ふふふ、疑ってますね? では、今から実演しましょー! このソースでベッタベタになった私のシャツをー!シュゥゥゥゥト!!」
イレーナが訝しむ中、研究員はどこからともなく取り出したクッソ汚いシャツを箱の中に入れる。上部にあるパネルの操作して蓋を閉め、魔力を流して洗濯を行う。
「お、動き出し……う、うるさ! なんかめっちゃごうんごうん鳴ってるっす!」
「そうなんですよー、これ騒音がめっちゃ出るって欠点がありまして。そこを解消しないと、とても商品にはなりませんよ、ええ」
「た、確かに。確実にご近所さんと揉めますよ、これ」
洗濯機が起動し、凄まじい騒音を撒き散らしながらシャツを洗い始める。あまりのうるささにイレーナたちが辟易する中、数分で作業が終わった。
蓋を開けてシャツを取り出すと、真っ黒になっていたシャツが純白の輝きを取り戻していた。しかも、ご丁寧にキッチリ乾燥もしている。
「でも、ほら! うるさいだけあってシャツはちゃーんと綺麗になってますよ! ね!」
「確かに、シミ一つ残ってませんね。騒音問題さえ解決出来れば、洗うのと干す作業がいらなくなって快適になりますよ」
「そうそう、こんな感じで私たちは日々研究を続けているのです。では、奥へどうぞ」
研究員と別れ、先へ進むフィルたち。その後も彼らは、研究員たちが造り出したさまざまなキカイを見学する。
一通り彼らのプレゼンテーションを楽しんだ後、研究所の地下にあるゴミ集積場に足を運ぶことに。
「おったから! おったから! お宝の匂いがプンプンするっす! これは捨て置けないっすよ!」
「すみません、所長さん。弟子が無理を言って」
「いやいや、気にすることはないよ。ここにあるものは、もう我々が使わないものだから。気に入ったのを好きなだけ持って行っていいよ!」
イレーナの希望を受け、魅惑のガラクタ拾いタイムが始まった。くず鉄の山に飛び込み、目を輝かせて漁るイレーナ。
もっとも、ガスマスクを着けているため顔は見えない。しかし、とても楽しそうにガラクタを漁る姿を見てフィルは微笑む。
「おー、これなんてまだ使えるっすよ! にっへっへっ、儲けた儲けた……ん? なんか出っ張ってるのがあるっすね。これは……おたからの予感!」
デスペラード・ハウルが汚れるのにも構わず、ガラクタを集めて回るイレーナ。しばらくして、ゴミ山から二本の棒のようなものが突き出ているのを見つけた。
「うーん、うーん! 途中で引っ掛かってるみたいっすね、一人じゃ抜けない……シショー、ヘルプミー!」
「やれやれ、仕方ないですね……もう、あんなにスーツを汚して。ギアーズ博士が怒りますよ、はあ……」
「はっはっはっ! 元気でいいじゃあないですか! うん!」
一人では引っこ抜けないと悟ったイレーナは、フィルに助けを求める。ため息をつきながら、フィルもゴミ山に登る。
「僕はこっちを持ちます。せーので引っ張りますよ、いいですね?」
「オッケーっす、シショー!」
「では行きますよ。せーの……それっ!」
「よいさあっ!」
二人は力を合わせ、棒のようなものを引っこ抜く。くず鉄を吹き飛ばしながら、埋もれていたモノが姿を見せる。それは……。
「これは……アンドロイド、ですか? かなり錆び付いてボロボロですね」
「あっちこっち欠損してるっす。よくまあ、人の形を保ててたっすねこれ」
現れたのは、風化してボロボロになったアンドロイドだった。辛うじて下半身が原型を留めていたものの、上半身はほとんどが欠損している。
「ああ、それね。だいぶ前に、原っぱに捨てられてるのを見つけたんだよ。多分、闇の眷属たちが捨ててったんだろうね。修復しようにも、構造が分からないから放置してたんだ」
「なるほどー。……! ショチョーさん、これアタイが貰ってもいいっすか?」
「もちろんいいとも! ここに放置しておくより、君たちに有効活用したもらった方がそのアンドロイドくんも喜ぶだろうしね」
「わーい、ありがとっす!」
朽ちたアンドロイドを見て、何かを閃くイレーナ。所長の了解を取り付け、アンドロイドも持ち帰ることになった。
「今日はお世話になりました。いろいろなキカイを見学出来て楽しかったです」
「いえいえ、こちらこそ! 皆やる気になってますよ、次に来てもらう時までに改良を進めるんだってね。またいつでも遊びに来てくださいよ、お二人さん!」
「はーい。また遊びに来るっす!」
見学を終えた二人は、お礼を言って研究所を後にする。基地に戻り、ラボにお土産を置く。
「さて、イレーナ。何か算段があるんでしょう? このアンドロイドを貰ってきたということは」
「はいっす! シショーが貰ったコアを使って、この子を復活させてみたいと思うんすよ。シショー、手伝ってくれますか?」
「ふふ、もちろん。でも、それは明日。今日はスーツの整備をしますよ。ガラクタを漁って汚れまみれですから。言っておきますが、手洗いですよ」
「うう……こんな時にあの洗濯機があれば、だいぶ楽になるのにぃ」
がっくりと項垂れながら、イレーナはそう呟いた。




