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41話─コリンとアルバラーズ家

「うっ、まぶし! ……あら? どこかしらここ。ずいぶん見晴らしのいい場所ね」


「わしの別荘じゃよ。ラガラモン連峰の一部を買い取って屋敷を建てたのじゃ。空気が綺麗でいいところじゃろう?」


 アンネローゼたちが目を開けると、前方に雲海が広がっていた。標高の高い山に連れて来られたようで、空気がひんやりしている。


 コリンに促され、一行は上り坂を進む。少しして、立派な邸宅が見えてきた。避暑地として、この屋敷を利用しているのだと言う。


「旦那様、お帰りなさいませ。星騎士の皆様も、よくおいでになりました」


「よぉ、久しぶりだなマリアベル。二ヶ月ぶりか? 顔突き合わせるのは」


「はい。近頃色々と多忙を極めて……おや、そちらの方々は?」


「例のヒーローとその仲間じゃ。丁重にもてなしてあげてくれ、賓客としてな」


「はい、全て旦那様の仰せのままに」


 屋敷の入り口には、紫色の肌を持つメイドが立っていた。物腰柔らかな態度で、主人であるコリンたちを出迎える。


「専属のメイドまでいるのですか。それも、闇の眷属……」


「わたくし、コーネリアス様にお仕えするマリアベルと申します。以後お見知りおきを」


「はーい! よろしくっす、マリアベルさん!」


 深々とお辞儀し、自己紹介するマリアベル。その横では、コリンがラインハルトに指示を出していた。


「では、応接間に行こうぞ。ラインハルトはアシュリーたちを連れて別室に行ってたもれ。今回の始末書を書いてもらわねばならぬでな」


「ゲッ、マジかよ。いやでも、始末書で済むなら御の字か」


「それだけで済むと思うな。私からの説教もたっぷり三時間ほど聞かせてやる。覚悟しておけ、二人とも」


「は~い……」


 ラインハルトに睨まれ、アシュリーとカトリーヌは別室に連行されていった。彼らと別れた後、フィルたちはコリンとマリアベルに案内され応接間に向かう。


「何もないところじゃが、まあゆっくりしてたもれ。今、紅茶と茶菓子が来るでな」


「お気遣いありがとうございます。……失礼を承知で、一つ聞きたいことがあるんですが。よろしいでしようか?」


「なんじゃ? わしが答えられることなら何でも聞くがいい。じゃが、その前にまずはツラを見せてもらおうか」


 応接間に通されたフィルたちは、大きなソファーに並んで座る。対面にはコリンが座り、マリアベルに客をもてなすよう指示を出す。


 従者が戻ってくるまでの間に、フィルは質問をしようとする。そんな彼に、コリンはまず正体を現せと告げた。


「わしとしても、そなたらの正体を知っておきたい。イザリーからの情報で九分九厘は確信を得ておるが、念には念を、な」


「え? イザリーって……あのコンサートの歌姫!?」


「うむ。そういうわけで、はようツラを見せい」


「こうなった以上は、もう隠せませんね。僕たちが悪に与する存在ではないということを、理解してもらわないといけませんし」


 フィルはフェイスシールドを解除し、認識阻害の魔法を解く。アンネローゼとイレーナも彼に従い、自分の正体を晒した。


「改めて、名乗らせていただきます。僕はフィル。フィル・アルバラーズと言います」


「私はアンネローゼ・フレイシア・ハプルゼネク。元貴族令嬢よ」


「アタイはイレーナって言うっす! よろしくでっす!」


「ふむ、アルバラーズ……か。やはり、()()()()()()の者じゃったか。なれば、信用は出来よう」


 フィルたちの自己紹介を聞き、コリンは目を細める。相手の反応を見たフィルは、ある事を確信した。


「その反応……やはり、貴方なんですね? 百年前、僕の一族をカルゥ=オルセナに逃がしてくれたのは」


「うむ、そうじゃ。懐かしいものよ、あの頃は死に物狂いじゃったからな……」


「失礼致します。お紅茶とクッキーを持って参りました。よければご賞味くださいませ」


 コリンが遠い過去を懐かしんでいると、マリアベルが戻ってきた。ワゴンに乗せたティータイム用のセット一式と、クッキーが乗った大皿をテーブルに置く。


 主人と客に紅茶を淹れた後、一礼してワゴンを下げた。紅茶を一口飲んだ後、コリンは話の続きを口にする。


「フィル。知りたいのであろう? 何故そなたの一族をわしが助けたのかをな」


「ええ、物心ついた時から不思議に思っていたんです。どうして僕たちの一族だけが、魔戒王に助けられたのだろうって」


「理由なぞ簡単よ。わしとそなたの一族の間で、ある取り引きをしたのじゃ」


「取り引き? それってどんなやつなのよ?」


 コリンの口から語られた『取り引き』という言葉に、アンネローゼも興味をそそられる。一方、イレーナは話よりクッキーに夢中になっていた。


「美味い! 美味い! このクッキー、サクサクでいくらでも食べられるっす!」


「……こほん。取り引きと言っても、ウォーカーの一族からすれば簡単なものじゃよ。並行世界に存在する、オリジナルのわしと全く同じ性別と容姿をした遺体を持ってきてほしい……それを果たしたら、安全な大地に逃がす。そんな取り引きじゃよ」


「し、死体を? 一体何故そんな取り引きをもちかけたんですか?」


 取り引きの内容を聞かされ、フィルは驚く。どうしてそんな取り引きをしたのかを問われたコリンは、自身の左手を見つめる。


「……お主らは、百年前に起きたフィニス戦役のことは聞いているかえ?」


「大筋は知ってるわ。それと何の関係があるの?」


「わしが当事者だったのじゃよ、フィニス戦役のな。いや、当事者と言うより主役と言ってもよかったかもしれんな」


 アンネローゼの問いに、コリンはフィニス戦役に至るまでの全てを語る。自身の祖母でもある、とある邪神との戦い。


 邪神とその子らによって悲劇にまみれた世界を救うため、上位の魔戒王の力を借りて歴史改変を行ったこと。


 その結果起きた揺り戻しとウォーカーの一族に属する魔戒王の陰謀により、並行世界からの来訪者……フィニスとその仲間を相手に全ての世界を守るための死闘を演じたことを。


「そんなことが、あったんですね……」


「そうじゃ。フィニスが用いていた特異点の結晶……『アブソリュート・ジェム』を逆に利用することで戦いは決した。じゃが……その代償に、わしの身体は破壊の力に蝕まれた」


 そう語った後、コリンは紅茶を飲みクッキーをかじる。その目は、どこか虚ろなものであった。


「左腕を失い、左半身の失調に陥っただけならまだよかった。じゃが、破壊の力はじわりじわりと全身に及び……余命幾ばくもない状況まで追い込まれた」


「悲惨ね……世界を救ったってのに、そんなことになるなんて」


「当時、わしはあらゆる手を尽くして破壊の力を消し去ろうとした。わしの友人の手を借りて、一旦死んでから蘇生することも試してみたが……全てムダに終わったよ」


「つまり、破壊の力を消し去ることは出来なかった……ということですね?」


 フィルの問いに、コリンは頷く。いつの間にか、イレーナがクッキーを食べる手を止めて話に聞き入っていた。


 それだけ、コリンの話は好奇心を刺激される話だったのだろう。


「うむ。もうダメかと絶望したその時、ウォーカー狩りの話を聞いた。そこでわしは閃いたのじゃよ。並行世界からわしの遺体を持ってきてもらい、そっちに魂を移植して復活しようとな」


「なるほど……そのために、僕の一族に取り引きを持ちかけたということですか」


「うむ。我ながら無茶振りもいいとこじゃと思うておったが、奴ら自分たちの進退が関わっているとあってあっという間に目的を果たしてくれた。おかげでほれ、わしは見事完全復活じゃ!」


 アルバラーズ家の協力により、コリンは自分の運命変異体に魂を移植した。そうして無事破壊の力から逃れ、五体満足で復活したのだ。


「そういうわけで、そなたの一族には感謝しておるのじゃよ。……そうそう、感謝ついでに一つ忠告しておこうかの」


「忠告、ですか?」


「天上の神々……ファルダ神族には関わってはならぬ。特に、ベルドールの七魔神にはな。そなたが善の側の存在であろうと、正体が知られれば問答無用で滅されるぞよ」


「何それ? ベルドールの七魔神もヒーローなんでしょ? だったら、正体がどうあれフィルくんの敵にならないと思うんだけど」


「数十年前までなら、な。じゃが、今のあやつらは……とある事件のせいで穏健派から転向しておるのじゃ。ウォーカーの一族根絶を掲げる、過激派へとな」


 アンネローゼの問いに、コリンは真剣な表情で答える。フィルを、ひいてはウォーカーの一族を取り巻く現状を、彼らは知ることになる。


 フィルたちの知らないところで、神々とウォーカーの一族の間に……埋めることの出来ない亀裂が生じていたのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] なる程、その方法で五体満足で復活したかー しかしリオたちがウォーカーの根絶を掲げる過激派に? あの氷獄猫オババとも戦うわけ? あすみません出番はまdぎゃあああああああああああ!!!
[気になる点] あれ?何か珍しくマリアベルがキレキャラじゃなくてメイドキャラになってるが(?・・) 今回の教育指導役はラインハルトに任せてるのか?(↼_↼) [一言] まさかコリンの体がそこまで蝕ま…
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