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38話─北の大地の攻防戦

 イレーナの実戦見学を兼ねて、カンパニーの刺客たちとの戦いに赴くフィルとアンネローゼ。今回の戦いの舞台は、かつてコンサートを見に行った国。


 ラストゥール帝国だ。フィルたちは現在、帝国北西部に広がる荒涼とした広野にやって来ていた。街どころか村すらない、人気の無い場所だ。


「本当にこんなところに来てるの? 敵が。家一軒見つからないわよ?」


「つよいこころ十八号からの報告だと、今回襲撃されているのはこの地にある研究所だということらしいです。どうやら、キカイ技術の研究をしているようで……カンパニーの脅威になると判断したのかもしれませんね」


 空を飛びながら、アンネローゼに説明を行うフィル。話を聞いていたイレーナは、プンプン怒りをあらわにする。


「許せないっすね、カンパニーの連中! キチョーなキカイ技術を何だと思ってるんすか!」


「まあ、この大地では貴重でも彼らからすればありふれたものでしょうからね。……見えてきました、あの建物がそうです!」


 しばらく進むと、前方に大きな建物がいくつか見えてきた。ドーム状のバリアで建物全体を覆い、敵の攻撃に耐えているようだ。


 研究所の周りはカンパニーから派遣された部隊で包囲されており、大量に並べられた大砲による連続砲撃が行われている。


「砲弾をあるだけぶつけろ! バリアさえ破壊出来ればこっちのもんだ!」


「隊長、あれを! シュヴァルカイザーたちが接近してきています!」


「チッ、来やがったか。なら、用心棒の騎士殿たちの出番だな。アシュリー殿、カトリーヌ殿! 頼みますぞ!」


 防御用バリアを破壊するべき攻撃指示を出していた隊長は、部下の報告によりシュヴァルカイザーが来ていることを知る。


 彼らの足止めをするべく、部隊に同行していた二人の助っ人に声をかけた。荷車に寝っ転がってグースカ寝ていた二人が、目を覚ます。


「ん……ふあー、もう来たのか。何だよ、攻撃始まってから十分も経ってねえじゃねえか」


「お早い到着ね~。それじゃ、わたしたちは迎撃に行ってくるわ~。そっちには一切関わるつもりはないから、何かあったら自分たちでどうにかしてね~」


「そうそう。アタイらの相手はあくまでシュヴァルカイザー一人だからな。つーわけで、後よろしく」


 大きなあくびをした後、アシュリーとカトリーヌはそう言い残し荷車から降りる。気配をたどり、フィルたちの元へ向かう。


「む……反応が二つ近付いてきてますね。イレーナ、ここで待機していてください。戦いに巻き込むわけにはいきませんから」


「了解っす! でも、やれるところはサポートしまっすよ!」


「ありがとう。アンネ様はそのまま進んで、敵の本隊を叩いてください。こっちに向かってきてるのは、僕が相手をします」


「おっけー、任せたわよ。お互い無事に勝ちましょうね、フィルくん!」


 フィルの指示を受け、アンネローゼは先行し研究所へ向かう。残ったフィルは、イレーナを巻き込まないよう少しだけ先へ進む。


 二十メートルほど進んだところで、フィルは地上に二つの影を見つける。地に降り立ち、刺客たちと対峙する。


「来たね、カンパニーの刺客たち。お前たちも、ブレイズソウルやキックホッパーと同じ特務エージェントなのか?」


「特務エージェントぉ? ハッ、違うね。アタイらはあんな頭資本主義なヤローの部下じゃねぇ」


「わたしたちは~、偉大なる魔戒王……『落とし子の魔術師』コリンくんの仲間なのよ~。今回は、救援要請があって手伝いに来ただけなの~」


「……なるほど、サーチアイを使ってもカンパニーとの繋がりを感じられなかったのはそういうことか。でも、ヴァルツァイト・ボーグに与するのなら容赦はしない!」


 アシュリーたちと言葉を交わした後、フィルは身構える。それを見た赤青コンビも、それぞれの得物たる槍と鉄槌を呼び出す。


「へっ、いいぜ。そンじゃあ始めようか。アタイら星騎士の力、見せてやる! 『獅子星』アシュリー!」


「同じく『金牛星』カトリーヌ~、参るわ~!」


「来い。シュヴァルカイザー、オン・エア!」


 互いに名乗りをあげた後、フィルたちは同時に走り出す。少し離れた場所でイレーナが見守る中、戦いが始まった。



◇─────────────────────◇



「所長、このままではバリアが持ちません! あと一時間もしないうちに破壊されてしまいます!」


「くそっ、帝国騎士団はまだ来ないのか! 高い税金を払ってやってるのに、肝心な時に役に立たない連中だ!」


 一方、キカイ技術研究所の中では職員たちが立てこもり攻撃に耐えていた。いつまで待っても救援に来ない騎士団に、所長が愚痴をこぼしていたその時。


「! 所長、窓の外を見てください!」


「ん? あれは……おお、もしや彼女は! ヴェリトン王国でウワサになってるシュヴァルカイザーの仲間じゃないか! そうか、我々を助けに来てくれたのか! くー、神は我々を見捨ててなかったぞ!」


 研究員の一人がホロウバルキリーが来たことに気付き、所長に報告する。所長たちが小躍りして喜ぶ中、アンネローゼはというと……。


「オラオラオラオラオラオラァ! 死にたくない奴はさっさと逃げなさーい! まあ、逃げても追いかけてぶっ殺すんだけどね!」


「む、無茶苦茶すぎゅぺ!」


 包囲網の背後から奇襲を仕掛け、敵兵たちを千切っては投げ千切っては投げの大立ち回りを演じていた。スーツのパワーを活かして大砲を片手で持ち上げ、二刀流で振り回す。


「大砲をブン回す奴なんて見たことねえぞ!? あいつに近付くな、砲撃を浴びせてやれ!」


「む、無理だ! 方向転換してる間にやられぐわっぱ!」


 逃げ惑う兵士たちを轢き潰し、反撃しようとする者も容赦なくぶっ飛ばす。無法にも程がある大暴れを繰り広げ、アンネローゼは包囲網を壊滅させていく。


 これは手に負えないと、一般兵たちが諦めかけたその時。地面が揺れ、土が盛り上がる。直後、キカイ仕掛けの巨大なモグラが姿を現した。


「お前たチ! 何をヤっているのダーネ! ワシが帝国軍の足止めをしていル間に、研究所ヲ落とせト言っておいたローネ!」


「ル、ルズマール様! そんなこと言われても無理ですよ、見てくださいよあれ! ホロウバルキリーが滅茶苦茶やってるんですよ!?」


「ムゥ、あいつは! なるほド、これはお前タちには荷ガ重いノーネ。仕方ナい、ワシが奴の相手ヲするノーネ。お前たちハ引き続き、研究所ヲ攻めるノーネ!」


 モグラ型のアンドロイド、ルズマールは鼻先に生やしたカイゼルヒゲを爪で撫でながら指示を出す。そして、地中に潜り突進する。


「む、敵が来るわね。いいわ、ちょうどでっかい得物を持ってることだし。モグラ叩きゲームの始まりよ!」


『威勢ノいい奴なノーネ。だがシかぁし! このワシを倒すことナど不可能! お前なんゾには百年早いノーネ!』


 地中から響いてくる、くぐもった不気味な声を聞いたアンネローゼはニヤリと笑う。両手それぞれに持った大砲を地面に叩き付け、余計なパーツを落とす。


「上等よ! その言葉ソックリ返してやるわ。アンタのつるっパゲの頭、全力で叩き潰してやるから覚悟しなさい!」


『愚かナ、やれるものナらやってみるノーネ!』


 挑発されたルズマールは、地中深くへ潜行しアンネローゼの背後に回り込む。土の盛り上がりを防ぎつつ、奇襲せんと飛び上がる。


「そこなノーネ! スパルタンクロー……あれ、いないノーネ!?」


「バーカ、誰が大人しく地上で待つもんですか! オラッ、これで一点獲得ゥ!」


「へぶちっ!」


 勢いよく飛び出したはいいものの、そこにアンネローゼはいなかった。バカ正直に地上で待っているなんてことはなく、相手が手出し出来ない空中にいたのだ。


 アンネローゼは相手をバカにしつつ、全力で腕を振り下ろす。大砲を叩き込み、ルズマールに大ダメージを与えることに成功した。


「ぐ、ぐおオ……!」


「ルズマール様!」


「へぇ、機能停止にはならないのね。ムダに頑丈ね、アンタ。ま、そうでなくちゃ張り合いがないから問題ないけど」


「オ、おのれ! よくもワシをコケにしてクれたノーネ! 絶対に許さないノーネ!」


 ケラケラ笑うアンネローゼに、ルズマールは怒りをあらわにする。フィルとアンネローゼ、それぞれのバトルが幕を開けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] フム(ʘᗩʘ’)てっきりアシュリー達をカイザーとバルキリーに差し向けて2対2にするかと思ったけど2対1で潰しに来たか(٥↼_↼) アシュリー達に侵略軍の相手もしなきゃならんが真打ちの登場は…
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