36話─新たなるマキーナ、デスペラード・ハウル!
「ふう、今日は楽しかったですねアンネ様。また暇が出来たら来ましょうね、ここ」
「ええ! たっぷり楽しめたわ。ありがとう、フィルくん」
夕方、たっぷりと遊園地を堪能した二人は帰路に着いていた。一日では半分も回りきれなかったが、残りはまた今度……ということで、満足そうに基地へ帰る。
大量に購入したお土産を入れたトランクを抱え、リビングに向かう。ギアーズやイレーナの姿は無く、つよいこころマシンが掃除をしていた。
「ただいま、つよいこころ二号。博士とイレーナはいますか?」
「オカエリナサイマセ。オ二人ナラ、ラボデインフィニティ・マキーナノ開発ヲシテオリマス」
「分かった、ありがとう。アンネ様、お土産を渡しに行きましょうか」
「そうね、トランク二つ分も買ってきたわけだし。二人を喜ばせてあげないと」
ギアーズたちの居場所を聞いた二人は、ラボへ向かう。中に入った瞬間、眼前を緑色の『なにか』が猛烈な勢いで飛んでいく。
「わっ!? ちょ、今のなに!?」
「あ、シショーに姐御! お帰りなさいっす、デートは楽しかったっすか?」
「その声……イレーナ? なるほど、インフィニティ・マキーナが完成したんですね」
アンネローゼが驚いていると、人型をした緑色のソレが彼女らの前に降り立つ。丸一日かけて完成させた、第三のインフィニティ・マキーナのお披露目だ。
「おお、帰ってきおったか。いいタイミングだの。どうじゃ、わしとイレーナの合作……『デスペラード・ハウル』は。格好いいじゃろう?」
「ならず者の咆哮……これはまた、随分とワイルドな方向に舵を切りましたね」
「ふふん! シショーや姐御のマキーナは正統派な見た目っすからね、アタイのはワイルド系で攻めることにしたんすよ!」
イレーナとギアーズの言葉を受け、フィルとアンネローゼはデスペラード・ハウルを眺める。濃い緑色を基調とした、迷彩柄の分厚い装甲で覆われていた。
両腕はリボルバー拳銃の銃身及びシリンダーと一体化しており、胴体には斜め十字のベルトリンクが巻かれている。
「へー、中々いいじゃない。……でも、何で頭はガスマスクの上にテンガロンハットなのよ。だいぶチグハグじゃない?」
「いいんすよ、これがアタイの考えるワイルドっすから! むん!」
一部変な組み合わせはあったが、イレーナ本人が満足そうにしているためフィルたちはそれ以上の指摘をやめた。
そんな彼らに、ギアーズがとある提案をする。デスペラード・ハウルと模擬試合をしてみては、と。
「そうですね、新しいインフィニティ・マキーナの性能テストもしたいですし。イレーナや僕たちの訓練にもなって一石二鳥ですね」
「おお、シショーと手合わせ出来るっすか! ありがたいっす、ふつつか者っすけど全力でやらせてもらいまっす!」
「ふふん、いいわよ。私たちの尻を貸すわ、遠慮せず来なさい!」
「……貸すのは胸ですよ、アンネ様。それに、ふつつか者はこういう時に使う言葉じゃありませんよ?」
「そうとも言うわね!」
「そうとしか言いません!」
夫婦漫才をしつつ、一行は訓練場に移動する。イレーナは一旦スーツを脱ぎ、気合いを入れてストレッチを行う。
憧れのシュヴァルカイザーと手合わせ出来るとあって、興奮は最高潮。一方のフィルも、新しいインフィニティ・マキーナの性能に興味津々だ。
「最初は僕がテスターの相手を務めます。アンネ様はトラブルが起きた時に備えて、見学していてください」
「はーい。訓練とはいえ、手加減は無用よフィルくん。けちょんけちょんにしてやりなさい!」
「いや、流石にそこまではしませんよ……?」
トラブル対応係兼フィルのセコンドに付いたアンネローゼは、シュッシュッと拳を繰り出しながらそう告げる。
いくらなんでも、新人をボコボコにするわけにもいかないのでフィルは苦笑いしつつそう答えた。一方のイレーナはというと……。
「うおー! アタイは今燃えている! シショーにこのデスペラード・ハウルの力を見せ付けて! 褒めてもらうっすよ!」
「適宜わしがサポートするから、安心して戦うといいぞい。じゃが、無理は禁物じゃぞ。メカニックの才はともかく、戦いに関しては素人じゃからな」
「はい! 博士、頼んまっす!」
こちらはこちらで、ギアーズがイレーナのセコンドに着くことになっていた。訓練用のウェアに着替え、ダイナモドライバーを装着したフィルとイレーナは向かい合う。
「手加減も遠慮もいりませんよ、イレーナ。今回は新しいスーツの性能テストと、貴女がどこまで動けるかのチェックが目的です。結果は気にせず、思いっきり来てください!」
「はいっす! シショーを落胆させないように、全身全霊で行きまっす!」
「では、始めますよ。ダイナモドライバー、プットオン!」
フィルとイレーナは、腰に巻いたベルトに触れダイナモドライバーを起動させる。それぞれの身体をインフィニティ・マキーナが包む中、高らかに叫ぶ。
「シュヴァルカイザー、オン・エア!」
「デスペラード・ハウル、オン・エア!」
「それでは、シュヴァルカイザー対デスペラード・ハウル……模擬試合開始!」
変身を終えた直後、ギアーズのかけ声により模擬試合が始まった。先手を取ったのは、血気にはやるイレーナだ。
両腕に装着しているシリンダーを回転させ、ダイナモ電池から供給される魔力を弾丸へと変換していく。
「行くっすよ、シショー! でたらめバースト!」
「弾丸をバラ撒いてきた……なら! マナリボルブ・カノーネ!」
左右の銃身それぞれから六発ずつ、計十二発の弾丸が放たれる。名前通り、狙いすら定めないでたらめな軌道でフィルに襲いかかる。
対するフィルは、右手を前に出し手のひらから魔力の砲弾を発射する。ある程度進んだところで砲弾を爆発させ、弾丸を巻き込み消滅させた。
「おお、やるのうフィルの奴。遠隔操作でマナリボルブを破裂させるとは……日々進化しておるようじゃの」
「流石っす、シショー! でも、アタイだってこんなもんじゃないっすよ! それっ、ドリルバレット・ショット!」
「別の弾丸……なら、今度は撃ち落とす! マナリボルブ!」
応用技で華麗に初手を凌いだフィルを見て、ギアーズとイレーナは賞賛の声を送る。直後、イレーナは再度攻撃を放つ。
もう一度迎撃しようと、フィルは魔力の弾丸を発射する。が……二つの弾丸がぶつかり合った瞬間、魔力の弾丸が貫かれた。
「!? こ、これは!」
「嘘!? フィルくんのマナリボルブが貫通されちゃった!」
「へっへーん! デスペラード・ハウルが使える弾丸は一種類だけじゃないっすよ! 変幻自在の弾丸マジック、とくと味わえー!」
驚くフィルとアンネローゼに対し、得意げになりながら叫ぶイレーナ。だが、彼女はまだ理解していなかった。
シュヴァルカイザーの実力を。この程度の技で、簡単に勝てる存在ではないということを。
「なるほど、いい技です。しかし、その一発で僕を倒すことは出来ません! 武装展開、漆黒のの刃! ……はあっ!」
「ひえっ!? だ、弾丸を真っ二つにしちゃったぁっ!?」
「この程度、造作もありませんよ。カンパニーの連中の中にも、銃を使う相手はたくさんいますからね!」
「やったーカッコイイー!」
フィルは呼び出した剣を一閃し、飛んできた弾丸を叩き斬ってみせた。目を丸くし、口をあんぐりさせて驚愕するイレーナにそう答える。
「さあ、今度は僕の番です。どこまで対応出来るか……見せてもらいますよ、イレーナ!」
「は、はいっ! バッコォォォイ!!」
師の一言で我に返り、イレーナは大声で叫ぶ。二人の模擬試合は、次のフェーズに進もうとしていた。