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32話─弟子、基地へ行く

 一旦城に戻り、これまでのいきさつと基地へ帰ることをボルスに伝えるフィル。事情を知ったボルスは、快く彼らを送り出した。


「申し訳ありません、ボルス陛下。途中でパーティーを抜けることになってしまって」


「いや、気にすることはありませんよ。またいつでも遊びに来てください。お二人なら、顔パスで通しますから」


「顔は見えてないけどね! じゃあね、王様! また遊びに来るわ!」


 城を出た二人は、街の外で待ってもらっていたイレーナの元に戻る。彼女を連れ、基地へ帰還する運びとなった。


 アンネローゼがイレーナを抱え、空に飛び上がろうとする。が……。


「おんも! 何なのこのアーマー、クッソ重いじゃない! 私一人じゃ持ち上げらんないわよ、これ」


「てへへ……実は、さっき重量軽減の魔法が切れちゃって。魔力バッテリーの容量、少ないんすよこれ」


「そんな状態でまあ、よくあれだけ飛べましたね。逆に凄いですよ」


「えっへん。外付けのデッカい魔力タンクを付けてたからね! 空っぽになったから途中で切り離したけど」


 ちょうどイレーナが着ていたガラクタポンコッツ百八号のバッテリーが切れ、重量軽減魔法の効果が失われてしまっていた。


 このままでは、フィルとアンネローゼの二人掛かりでも運ぶのに骨が折れる。そこで、フィルはとっておきの策を使うことを決める。


「仕方ないですね、こうなったらアレをやりましょうか」


「アレ? 何をするつもりなの?」


「ウォーカーの力を使って、二重に門を作ります。一つ目の門でどこか適当な並行世界に飛んで、すかさず二つ目の門で基地の座標に移動するんですよ」


「あー、なるほどそういうこと。そんな使い方も出来るのね、ウォーカーの力って」


「?? ?????」


 フィルの説明を受け、アンネローゼは納得し何度も頷く。一方、何も知らないイレーナは首を傾げてフリーズしていた。


「とりあえず、並行世界にジャンプしますよ。ホロウバルキリー、アーマーの反対側を掴んでください」


「はいはーい、お任せー」


「よく分かんないけど、シショーと姐御の言うことなら間違いはないっすね! じゃ、行きま」


「ワールドゲート、オープン!」


「アイヤァァァァァ!?」


 イレーナが元気よく腕を振り上げようとした瞬間、足下に金色の丸いゲートが開く。悲鳴をあげながら、イレーナはフィルたちと共に門の中に落ちていった。



◇─────────────────────◇



「……以上で、回収したコアに記録された情報の上映を終わります」


「ご苦労ダった。ふム、ブレイズソウルとキックホッパーが敗れルとは。少し、相手ヲ甘く見過ギていたヨうだナ」


 その頃、カンパニー本社ではヴァルツァイト・ボーグがホロウバルキリーとブレイズソウルの戦いの映像を見ていた。


 密かに回収された二人のエージェントのコアに記録されていた映像を眺めた後、腕を組みながらそう呟く。


「シュヴァルカイザーさえ倒せバ、問題は無いト思ってイたが……もう一人モ中々に厄介ダな」


「であれば、やはり特務エージェント全員を一度に……」


「それハ出来ぬ。彼ら全員ヲ呼び戻セば、ベルドールの七魔神とノ戦いに差し障ル。現段階でハ、呼び戻せルのは二人ガ関の山だろウ」


 秘書の言葉に、ヴァルツァイトは首を横に振る。別の戦場にエージェントたちを回しており、そちらが片付くまでは迂闊に異動させられない。


 効率的な用兵を行わなければ、あっという間に魔神たちに喉元へ迫られる。それをヴァルツァイトは、嫌というほど理解していた。


「しかし、大丈夫なのですか? エージェントだけでは、戦力的な不安が……」


「ほウ。お前は我が社ガ誇る特務エージェント……大魔公の力が劣るト思ってイるのか? たかガ大地ノ民如きニ」


「! も、申し訳ありません! 出過ぎたことを言いました」


「まあヨい。私モそこニついては考えテいた。……ここは一つ、『貸し』のカードを切るトしようか」


「貸し、ですか?」


 失言に気付き、慌てて謝る秘書。特段気にしていないヴァルツァイトだが、戦力の増強自体の必要性は認めているようだ。


 机の引き出しを開け、連絡用の魔法石を取り出す。それも、ただの魔法石ではない。魔戒王同士のホットラインとなる特別なものだ。


「百年前、『フィニス戦役』にテ私はとある魔戒王ニ貸しを一つ作った。本人ハもう退位してシまったが、息子ガいる。その者ニ、少し兵ヲ借りることにしタ」


「な、なるほど。しかし、どなたかは存じませんが、素直に協力してくれるでしょうか?」


「クク、心配は無用ダ。百年前の貸しハ大きい。アレがなけレば、この世界は存在してイないと言えるからナ。では、早速」


 意味深な笑い声をあげた後、ヴァルツァイトは魔法石を指で数回叩く。すると、石が振動し始めた。少しして、石が白く輝き出す。


『なんじゃ、こんな忙しい時に。しかも、よりによってお主か。ヴァルツァイト・ボーグ』


「久しイな、コーネリアス。以前話した百年前の貸し、コこで返してモらおう。単刀直入ニ言う、お前ノところの星騎士ヲ二人ホど派遣シてくれ」


 魔法石の向こうから、若い少年の声が聞こえてくる。心底嫌そうな声の主に、ヴァルツァイトは図々しくそう告げた。


 フィルたちの元に、新たな刺客が派遣されようとしていることを……ヒーローたちは、まだ知らない。



◇─────────────────────◇



「うっひゃー! すごーい、これがシュヴァルカイザーの基地……ふぉぉぉぉぉ!!!」


「すんごいはしゃいでるわね、あの子。アーマー脱いだ途端すんごい勢いで駆け出してったわ」


「一応、つよいこころ六号を付けてはいますが……置いてかれそうですね、あの様子じゃ」


 その頃、フィルたちは基地に帰還していた。憧れのシュヴァルカイザーの基地に着いたイレーナは、すぐに目を輝かせる。


 アーマーを速攻で脱ぎ、灰とススで汚れたオーバーオールとタンクトップ姿で走って行く。その様子を見て、フィルは苦笑する。


「十中八九、迷うでしょうね。基地は広いですから」


「そうね、私も来たばかりの頃は何度も遭難しかけたわ。さ、とりあえず博士のところに行きましょ。事情を話さないと」


「ですね。じゃ、ラボに行きましょうか」


 そんなこんなで、二人はラボラトリーへ向かう。ちょうど新しいシュヴァルカイザースーツを作っていたギアーズが、二人に気付く。


「ん? なんじゃ、もう帰ってきたのか。お早いもんじゃな、てっきり朝帰りするかと」


「こほん。博士、実は折り入ってお話が……」


 ギアーズの茶々を即刻切り捨て、フィルは一部始終を話す。話を聞き終えたギアーズは、興味深そうに顎ヒゲを撫でる。


「ほほう、自力でアーマーを作成とな? うむ、気に入った! 骨がありそうで大変よろしい、是非住み込みで働いて」


「おおー!? なにこれ、スッゲー! ひゃー、デッカいキカイがたくさんあるぞー!」


「……ちょうど来ましたね。おーい、イレーナさん。こっちに来てくださーい」


 イレーナに興味を抱いたギアーズは、彼女の仲間入りを快諾する。その時、タイミング良くイレーナがラボラトリーに入ってきた。


 興奮しながらあちこち見て回る彼女に、フィルが声をかける。すると、全速前進してすっ飛んできた。


「はいはーい! シショーの元に即座に参上!」


「イレーナさん、この方がシュヴァルカイザースーツの開発者……アレクサンダー・ギアーズ博士です。博士は貴女の仲間入りを認めてくれましたよ」


「えっ!? ほ、ほほほほホント!?」


「ほっほっ、勿論じゃとも。才能ある者がいるとあれば、是非その手腕を見たいと思うてな。これからよろしくのう、えーと」


「押忍、アタイはイレーナ・ヴィスコッティ! 博士、これからよろしくお願いします!」


 気合いを入れ、イレーナは腰を直角に曲げ深々とお辞儀する。それを見たギアーズは、うんうんと満足げに頷く。


「うむ、元気があって大変よろしい! ではイレーナ、早速じゃがおぬしが作ったアーマーを見せておくれ」


「は、はいっす! こ、こっちに置いてありまぁす!」


 ギアーズを連れ、イレーナは若干緊張しながら基地の一角に置いてあるアーマーの元へ向かう。二人を見送りながら、アンネローゼたちは微笑む。


「ふふ。これから、今まで以上に賑やかになりそうね」


「そうですね。僕たちの正体を知ったら、どんな顔するでしょうか。彼女は」


 新たな仲間が加わり、より騒がしく賑やかな日常がフィルたちの元に訪れようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回のコラボイベントはやけに早いな(ʘᗩʘ’) 既に密偵で七魔神からレケレス、星騎士からイザリーが密かに探ってるけどこれはヴァルツァイトにお仕置きするための証拠集めだろ(?・・) かつてマ…
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