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31話─宴と空飛ぶアーマーガール

 時は少しさかのぼる。フィルがアンネローゼたちを救出しに向かう、二ヶ月ほど前の事。


「ありがとう、シュヴァルカイザー! あんたにはいつも助けられてばかりだよ」


「気にしないでください。困っている人を助けるのも、ヒーローの務めですから」


「今度は遊びに来てくれよ、みんなで歓迎するからさ!」


「ふふ。では、そうさせてもらいますね。では、今日はこれにて!」


 その日、フィルはとある街に訪れ火事の消火作業を手伝っていた。カンパニーとの戦い以外にも、ヒーローには為すべきことがある。


 住民たちに見送られ、空へ舞い上がるシュヴァルカイザー。誰からも愛されるヒーローを、路地裏から眺める少女がいた。


「はぁー、いつ見てもカッケーなぁシュヴァルカイザーは。アタイも、あんなカッコいいヒーローになりたいな……」


 そう呟いた後、少女は路地裏に引っ込む。腰から下げた工具セットをいじりつつ、てくてく裏路地を歩いていく。


「よっし、決めたぞ! アタイもシュヴァルカイザーみたいなアーマーを作るんだ! そんで、みんなを助けるヒーローになる! よーし、そうと決まれば早速ジャンク漁りだ!」


 埃とススまみれの顔に笑みを浮かべ、少女は走り出す。その目には、希望の光が灯っていた。



◇─────────────────────◇



「ありがとう、シュヴァルカイザー。そしてホロウバルキリー。君たちのおかげで、私はこの城に戻ることが出来た。どれだけ感謝してもし足りないよ」


 そして、時は現在に戻る。カンパニーから送り込まれた刺客、ブレイズソウルとキックホッパーを撃破してから三日後。


 王国に巣くっていたカンパニーの勢力は国外に撤退し、フィルたちが保護していたボルス王子が新たな王として帰還した。


「お役に立てたのであれば、これほど喜ばしいことはありません。……今は亡き前王陛下も、お守り出来ていれば……」


「いいんだ、過ぎてしまったことはもう仕方ない。今はただ、この国に平和が戻ったことを喜ぼう。そうだろ? みんな!」


「おおーーー!!!」


 ボルス王の戴冠式に招かれたシュヴァルカイザーとホロウバルキリーは、感謝の言葉を伝えられる。民を交えた盛大な宴が、始まりを迎えた。


 二人とも修理したインフィニティ・マキーナを身に付けており、ピカピカに輝いている。


「わー、ほんもののシュヴァルカイザーだー! ねえねえ、あくしゅしてあくしゅ!」


「わたしもー!」


「わっわっ、そんないっぺんには……みんな並んで、順番に握手しますから!」


 宴が行われる中、シュヴァルカイザーは子どもたちに取り囲まれていた。握手や抱っこを求める子どもたちに翻弄されつつ、なんだかんだ楽しそうにしている。


 一方、ホロウバルキリーことアンネローゼはと言うと、マダムや令嬢たちに囲まれて女子トークに精を出していた。


「……というのが、シュヴァルカイザーのいいところなのよね。実質プロポーズってわけよ、この盾は」


「いい話じゃないの! 羨ましいわぁ、うちの主人にも見習ってほしいくらいね!」


「ホントホント! うちの主人なんて、結婚記念日も覚えてないのよ。頬引っ叩いてやろうかと思ったわ」


 こちらもこちらで、わいわい盛り上がっていた。ひととおり子どもたちを捌いた後、シュヴァルカイザーことフィルは城の屋根に登る。


「ふー……。やっぱり、同年代の相手は慣れませんね。これまで、あんまり関わってこなかったし……」


 そう呟きながら、今後のことについて考える。王国から逃げたメルクレア、そしてカストルの行方を追う必要があった。


 それだけでなく、新たに襲ってくるだろうエージェントたちへの対策も考えなければならない。やることの多さにため息をついていると……?


「……ん? 何か近付いてきてますね。あれは……鳥……ではないですね。一体なに──!?」


「ひゃああああ!! こ、コントロールが利かない~! お、落ちる~!」


「まさか、人!? それにあのスーツは……!」


 人の形をした金属の塊が、城の方に飛んでくるのが見えた。今にも墜落しそうなほど危なっかしい軌道をしており、大層不安に駆られる。


「ホロウバルキリー、来てください! 何かがこっちに近付いてきてます、キャッチするので手伝いをお願いします!」


「ん、オッケー! じゃあねみんな、悪いけど行ってくるわ!」


「はーい。また素敵なお話、聞かせてね!」


 フィルと一緒に屋根に登るアンネローゼ。ちょっと離れている間に、謎の飛行存在は城にかなり接近してきていた。


 全く減速する様子もなく、このままでは城にぶつかり破壊してしまいかねない状態だ。そうなる前に確保しようと、二人は相手に近付く。


「おーい! そこの人、大丈夫ですか!?」


「おおっ!? し、シュヴァルカイザーだぁ! うっひょー、ホンモノだホンモノ! ……って、喜んでる場合じゃない! ちょっと助けて、ブレーキが故障して止まれないの!」


「やれやれ、しょうがないわね。シュヴァルカイザー、受け止めて安全な場所に降ろしてあげましょ」


「そうですね、安全を考慮して街の外に降ろしてあげましょう」


 二人掛かりで空飛ぶ金属を抱え、街の外へ向かう。街道から離れた草原に降ろし、即座にフィルが魔力を注入した。


「よっと。許容限界を超えた魔力を流し込んで、アーマーの機能を全部止めました。これで、もう暴走はしないでしょう」


「ひゃー、助かった! あんがと、シュヴァルカイザー! にしても、ホンモノに助けてもらえるなんて……へへ、アーマー頑張って作った甲斐があったな!」


「え、それアンタが作ったの!?」


「へっへっへっ、そうだよ。カルゥ=オルセナの未来を担うすぅぱぁエンジニア、イレーナ・ヴィスコッティさまに不可能はないのだ!」


 驚くアンネローゼに自信満々に答えた後、空を飛んでいた人物はヘルメットを脱ぐ。その下からは、勝ち気そうな少女の顔が現れた。


 少女……イレーナがフンスと胸を張る中、フィルは興味深げに彼女が着ているアーマーを観察する。


「ふむ……素材こそくず鉄ですが、意外にもしっかりした構造をしてますね。暴走してたとはいえ、飛行を可能にするだけの機構を組み込む技術もあるようですし。これは凄いことですよ」


「でしょ!? でしょ!? やっりー、シュヴァルカイザーに褒められたー! わーいわーい!」


 フィルに褒められ、イレーナは大喜びする。少しして、何かを思い出したかのようにハッとした表情を浮かべた。


「あっ、そうだ! シュヴァルカイザーに会ったら頼みたいことがあるんだった!」


「頼みたいこと、ですか?」


「お願い、アタイを弟子にして! アタイもシュヴァルカイザーみたいな、みんなを守るヒーローになりたいんだよ!」


 イレーナはその場で土下座し、フィルに頼み込む。いきなりのお願いに、フィルムとアンネローゼは顔を見合わせる。


「いや、いきなりそう言われても……」


「頼むよ、どんな雑用もやるから! 料理洗濯掃除に裁縫、アーマーの整備まで全部やる! 厳しい訓練もやるし、どんなことも我慢する! だからお願い、弟子にしてくださーい!」


 最後まで言い終える頃には、もはや土下座を通り越して五体投地になっていた。ここまで頼んでくるのを無下に断る、というのは流石に酷だ。


 そう考え、フィルはとりあえず了承することを決めた。今後のことを考えれば、戦力は多ければ多いほどいい。という算段も込みで。


「……分かりました。弟子にするかはともかく、一旦基地に行きましょう。博士に話を通して、それから決めます」


「わーい! やったやったー!」


「いいの? シュヴァルカイザー。どう見ても、私よりちょっと下くらいの歳よ。この子」


「むしろ、その歳でここまでのアーマーを独力で作り上げた才能を買いますよ、僕は。彼女は伸びますよ、それは保障します」


 無邪気に大喜びするイレーナを余所に、アンネローゼはフィルに耳打ちする。そんな彼女に、フィルはそう答えた。


 フィルとしても、イレーナのアーマー作りの才能を高く評価している。今はまだ、独学故の荒削りな部分が目立つが……。


「ちゃんと学べば、彼女はさらに飛躍しますよ。博士もそう言いますよ、あのアーマーを見ればね」


「ふぅん、まあ私は別にいいけど……」


「それじゃー、これからはホロウバキリーさんのことは姐御って呼ばれてもらうよ! よろしくな、姐御!」


「!? 姐御……いい響きね、気に入ったわ。今日からアンタはうちの子よ! こっちこそよろしく頼むわイレーナ!」


「ちょ、ちょろい……!」


 イレーナに姐御と呼ばれ、アンネローゼはあっさり賛成派に回った。体育会系な彼女の陥落の早さに、フィルは思わずずっこける。


 こうして、偶然の出会いから新たな仲間を得たフィルとアンネローゼ。彼らの新たな物語が、幕を開けようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鉄屑から自立飛行すらできる(失敗)パワードスーツを自作した?!(゜o゜; これは中々の気骨者だな(↼_↼)悪運強いジャンク屋も有名だけどこの娘(ʘᗩʘ’) 磨けば更に光そうだな(⌐■-■)…
[一言] >「!? 姐御……いい響きね、気に入ったわ。今日からアンタはうちの子よ! こっちこそよろしく頼むわイレーナ!」 アンネローゼちょろいw お腹痛いw
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