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最終話─永遠の愛を、あなたに

 名を忘れた守護者との戦いから、一ヶ月が過ぎた。その日、カルゥ=イゼルヴィアにあるセレモニーホールにてアンネローゼとフィルの結婚式が行われようとしていた。


「どうですか? 博士、おかしなところはないですかね?」


「うむ、よう似合っておるよ。……まさかなぁ、わしが生きておる間にこんな嬉しいことが起きるとは。長生きはするもんじゃのう、本当に……うっうっ」


 新郎側の控え室では、ギアーズとジェディンがフィルのお色直しを行っていた。本当の孫のように思ってきたフィルの晴れ姿に、ギアーズはもう決壊寸前だ。


「もう、今から泣いちゃったら本番が大変ですよ? でも、ありがとうございます。僕も、晴れ姿を博士に見てもらえて嬉しいです」


「ああ、俺も感無量だよ。……ん、そろそろ時間になるな。では、俺は参列席の方に。フィル、先生、また後で」


「ええ、ジェディンさんもありがとうございます」


 式の時間が迫る中、手早くお色直しを終わらせるフィルたち。一方、式の会場には世界を超えて多数の参列客たちが集結していた。


「楽しみだねえ、結婚式! みんなで来てあげたかったけど、流石に一族全員じゃあ……ね」


「ま、その分妾たちが来られなかった者たちの分まで祝えばよいさ。……ところでリリン、もう少し奥に詰めぃ! リオが窮屈じゃろうが、この雷ババア!」


「バカを言うな、これ以上詰められたらアゼルが椅子から落ちるだろう! そっちこそ詰めろ、この一万年ババア!」


 最初にやってきたゲストは、ベルドールの魔神を束ねる首領リオと、その姉にして第一妃アイージャ。そして、命王アゼルとその妻リリン。


 相も変わらず、アイージャとリリンはぎゃあぎゃあ言い争いながら押し合いへし合いしていた。その後ろの席では、他の仲間たちが座っている。


「ったく、リリンの奴相手がアイージャだとすぐあんな調子になるな」


「ま、あれも一種のコミュニケーションさ。そう気にすることはないよ、シャスティくん?」


「もうこっちも慣れっこだしな。にしても、早く始まんねーかなー」


 七魔神やアゼルの妻たちがいる場所から通路を挟んで反対のところには、魔戒王コーネリアスと配下たる十二星騎士たちがいた。


 こちらはお行儀よく、結婚式が始まるのを待っているようだ。流石に、アイージャやリリンのような大騒ぎはしない。


「全く、あやつらいつもとまるで変わらぬではないか。他の参列客が引いておるぞよ」


「ええ、外様ながら恥ずかしいものです。……皆さんは大人しく待てますね? 特にアシュ虫さんにアニ虫さん?」


「あ、あたりめーだろ! っつーか、アタシらだけ名指しはひでーぞマリアベル!」


「そうだよ、ドレイクとかも注意しなよ!」


「おいコラ、さりげなく人を巻き込むな!」


 が、こちらもこちらで結局賑やかにぎゃあぎゃあ言い争いはじめる。彼らから少し距離を離した席に、シュヴァルカイザーの仲間たちや各国の招待客、魔女たちが座ってその時を待つ。


 しばらくして、式の始まる時間がやって来た。式場の扉は開き、まずはギアーズを連れ添った花婿……フィルが入場する。


「ヒュー! シショー、似合ってるっすよー!」


 参列客は一斉に立ち上がり、白いタキシードを着たフィルに拍手を贈る。イレーナに微笑み返した後、フィルは神父役を務めるへかテリームの前に立つ。


 続いて、花嫁……アンネローゼが叔母であるシゼルを伴って会場入りする。純白のウェディングドレスを纏った姿は、絵になる美しさがあった。


「アンネち~ん、似合っ……ふがふが!」


「静かに、レジェ。あまり大声を出すと周囲に迷惑だ」


 今度はレジェが声をかけようとするも、隣に立っていたクラヴリンに止められてしまった。アンネローゼもヘカテリームの元に着き、ついに式が始まる。


「……来たわね。新郎フィル・アルバラーズ、そして新婦アンネローゼ・フレイシア・ハプルゼネク。これより、両者の結婚式を執り行うわ。さあ、まずは賛美歌の斉唱を」


 へかテリームに促され、参列客たちは結ばれる二人への祝福の歌を斉唱する。その後も、式は淡々と続いていく。


「新郎フィル、汝は病める時も健やかなる時も……妻アンネローゼを支え、愛することを誓いますか?」


「はい。誓います」


「うむ、では新婦アンネローゼよ。汝もまた病める時も健やかなる時も……夫フィルを支え、愛することを誓いますか?」


「……はい。誓います。未来永劫、この愛は変わらないことを」


「よろしい。では、指輪の交換を」


 誓いの言葉を口にした後、アンネローゼとフィルはそれぞれの左手の薬指に嵌められている指輪を交換する。全員が見守る中、最後は……。


「では、最後に……誓いのキスを」


 へかテリームの言葉に頷き、フィルは少し背伸びをし、アンネローゼは膝を曲げ身をかがめる。お互いを見つめ合った後──二人は、互いの唇を重ねた。


「これにて、二人は夫婦となった。みな、かの者らに祝福を!」


「おめでとう、おめでとうフィル! アンネローゼ! 末永く幸せになー!」


「お幸せにー!!!」


 万雷の拍手が鳴り響く中、フィルとアンネローゼは微笑みを浮かべる。艱難辛苦を乗り越え……ついに二人は結ばれたのだ。



◇─────────────────────◇



 ……その後の彼らの軌跡を、カルゥ=オルセナの歴史書はこう記している。


──イレーナ。彼女は敬愛する師が結ばれた後、クラヴリンとの交際を開始。彼と同じ時間を生きるため、コーネリアスの導きにより闇の眷属へと転生し……暗域での新生活を楽しみ、今日に至るまで生存している。


──ジェディン。彼はシュヴァルカイザー陣営の代表として、新生ルナ・ソサエティを束ねる新たな月輪七栄冠となった。同じく七栄冠となったメイナードやサラと結ばれ、新たな家族と共に双子大地の平和に尽力した。


──オボロ。彼もまた、フィルとアンネローゼの結婚式の二月後にシエルと挙式、正式に夫婦となった。その後はヒーロー活動を続ける傍ら、孤児院の経営と九頭流剣術道場の師範という二足のわらじ生活を生涯現役で続けたという。


──レジェ。しばらくアンネローゼたちと共に生活した後、彼女は新たな夢を見つけて暗域へと戻っていった。彼女とアンネローゼ夫婦の親交は生涯絶えることはなく、その友情は広く知られることに。


──ギアーズ。彼はリオの助けを得て『ギアーズ技術財団』を設立、インフィニティ・マキーナ技術を後世に伝えるための整備を行った。そして、フィルとアンネローゼの結婚から六十数年後……大往生を果たし、安らかに息を引き取った。


──ローグ。ルナ・ソサエティを立て直した後、マルカやヘカテリームに請われ七栄冠に復帰……することはなかった。『怪盗ローグを必要とする世界に行く』と書き置きを残し、姿を消す。今もどこかで、彼は貧しい者たちのため戦っているだろう……。


──フィルとアンネローゼ。数奇な運命の果てに結ばれた二人は、生涯現役のヒーローとして人々を救い続けた。最後は同じ日、同じ時、同じベッドの上で寄り添いながら息を引き取った。


「……と、まあこんな感じね。どう? キルト。家系図調べるついでに、ご先祖様の活躍読んだ感想は」


「うん、すごくかっこいい! ぼくのごせんぞさまって、とってもすごいんだねぇ!」


 全ての大地の歴史が保管される地、フォルネシア機構。そこに、魔導学園の制服を身に着けた二人の男女がいた。


 片方は、真っ赤な髪をポニーテールにした闇の眷属の娘……エヴァンジェリン。もう片方は、幼い大地の民の男の子……キルト。


「ふふ、そうねぇ。キルトのご先祖様、誰に自慢しても恥ずかしくない立派な人よ」


「ねえねえ、エヴァちゃんせんぱい。ぼくもごせんそさまみたいになれるかな!? なれるかな!?」


「なれるわ、キルトならきっと」


「うん、ぼくがんばる! ぼくもいつか、ごせんぞさまみたいなーヒーローになるんだ!」


 先祖の偉業を知り、いつの日か自分も……とやる気をみなぎらせる幼き日のキルト。こうやって、受け継がれていくのだ。


 フィルやアンネローゼが磨き上げた、正義を愛する心が。三百年の時を超えて。



◇─────────────────────◇



「……ふう、楽しい結婚式だったわね。披露宴も凄かったわ、一生の思い出ね」


「ええ、そうですねアンネ様。僕、今とっても幸せです。こうして、あなたと一緒にいられて」


 披露宴が終わった後、フィルとアンネローゼはホールの屋上に来ていた。愛する者に寄り添い、幸せそうに微笑むフィル。


「おっと、まだ幸せを噛み締めるのには早いわよ。だって、これからハネムーンが待ってるんですもの! これまで大変だった分、たくさん楽しんで最高の思い出を作るわよ!」


「ふふ、そうでした。忘れちゃうところでしたよ、ハネムーン。……きっと、アンネ様となら。どこに行っても最高の思い出が出来ますよ」


「そりゃそうよ! さ、下に降りましょ。みんな待ってるから」


 そう会話しながら、二人は手を繋ぎホールの中へと戻っていく。こうして、一人の戦乙女と黒き英雄の物語は幕を閉じた。


 彼らの成し遂げた偉業は、遙か未来へと語り継がれていく。二人の愛は、永遠に不滅なのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大事な問題は未来の話だけに未来で待て(ʘᗩʘ’)なんだろうけど(´-﹏-`;) 本当にフィルもアンネも死んだのか(?・・) リオから始まりコリンまでずっと主要メンバーほぼ全員長命種になって…
[一言] >「ま、その分妾たちが来られなかった者たちの分まで祝えばよいさ。……ところでリリン、もう少し奥に詰めぃ! リオが窮屈じゃろうが、この雷ババア!」 >「バカを言うな、これ以上詰められたらアゼ…
[良い点] これまでのストーリーらしく、ハッピーエンドに終われて良かったです。今作も最高の出来でした。フィルとアンネも、最後は愛する人と共にベットの上で安らかに眠れたのが良かった・・・ [気になる点]…
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