295話─大いなる獣を超えよ
「六対一、ですか。単純な数だけなら圧倒的に私が不利ですね。まあ、魔神を相手に数を誇ったところで無意味ですが」
「ほー、言うじゃねえの。マジンだかなんだか知らねえが、調子コいてると後で恥かくぜ?」
「これを見てもそう言えますかね? ビーストソウル・リリース!」
ついに全員が集結し、戦力が揃ったアンネローゼ陣営。そんな彼らを前に、ソロンもどきは透き通った透明なオーブを呼び出す。
そして、オーブを取り込み……全ての魔神が持つ切り札たる、獣の力を解き放つ。かつてオリジナルがそうだったように、巨大な猫の姿になる。
「おー……ぷっ、ただのでっけぇネコチャンじゃねえかよ。ネコジャラシでもくれてやへぶう!」
「では貴方自身がネコジャラシになってもらいましょうか。ふんっ!」
「ああっ、ローグがペッシャンコに!」
オリジナルとは違い、透き通るような美しい白色の体毛を持つ巨大な猫となったソロンもどきを見て吹き出すローグ。
アンネローゼが止めようとする間もなく相手に近寄り挑発するが、ゴキブリのように前脚で叩き伏せられてしまった。
いいようにオモチャにされた後、クチャクチャの紙くずみたいにされた状態でローグがぺっと放り捨てられた。
「ぐおお……なんだあのネコ野郎、聞いてねえぞ……」
「ずいぶん派手にやられたな……。相手を甘く見るからそうなる。お前は魔神の知識に乏しい、ここは俺たちに任せておけ」
「ぐぐぐ……悔しいがそうするぜ……」
ボロ雑巾にされたローグが一時離脱しつつも、アンネローゼたちはソロンもどきへ攻撃を行う。まずはジェディンとイレーナが動く。
「ローグをボロ雑巾にしてくれた礼だ、食らえ! レクイエムエコー!」
「うりゃー! 心眼一閃撃ち!」
「この姿になった私の機動力を舐めてもらっては困りますね。当たりませんよ、貴方たちの攻撃は! ま、当たったところで即回復しますので無意味ですが」
ハンドベルから放たれる衝撃波と、イレーナが放った弾丸がソロンもどきを襲う。が、猫の化身となり俊敏さが増した相手に当てられない。
二人の攻撃を避け、反撃に移ろうとするソロンもどき。だが、この瞬間すでにオボロが追撃を放つため動いていた。
「さあ、今度は……」
「まだこちらの出番は終わっておらぬぞ! 九頭流剣技、陸ノ型……双龍飛翔閃!」
「! 左後ろ脚を……このっ! キャッツテイルハンマー!」
「ぐおっ!」
ソロンもどきの意識がジェディンたちの攻撃に向いている隙を突き、相手の背後に回り込んだオボロ。着地の隙を狙い、一撃を食らわせ脚を一本奪う。
が、すぐに反撃を食らい吹っ飛ばされてしまった。さらなる攻撃でリタイアさせようとするソロンもどきだが、そこにレジェが立ちはだかる。
「さっせないよ~ん! えいっ!」
「むっ、なかなかやりますね。私の一撃を……おおおおおおお!?」
「よ~いしょ! ネコちゃんだいかいて~ん!」
「おお、すげぇ……。あいつあの猫野郎をブン回してやがる」
尻尾の一撃を斧で防いだ後、レジェはそのまま尻尾を鷲掴みにしてジャイアントスイングを行う。他の仲間が巻き込まれないよう離れる中、ローグがそう呟く。
「そーれ、飛~んでけ~!」
「っし、次はこいつを食らうっす! ビブラゼート・アームハンマー!」
「私も加勢するわ! ホロウストラッシュ!」
「は~い、ウチも後ろから追撃~! キラデコ☆ジュエリートレイン!」
「それがしも! 九頭流剣技、肆ノ型! 瞬閃・青天霹靂!」
勢いよくブン投げられたソロンもどきに向かって、前からはアンネローゼとイレーナ、後ろからはレジェとオボロが。
容赦なく挟み撃ちにし、一気にソロンもどきを仕留めようと動く。だが……。
「これで終わりよ!」
「フッ、笑わせてくれますね。お忘れですか? 私が盾の魔神であることを。そして、こういう時……どうやって窮地を切り抜けたか覚えているはずだ、アンネローゼ! 出でよ、凍鏡の盾!」
「! ヤバい、すっかり忘れてた! みんな、攻撃中止ー!」
絶体絶命の状況の中、ソロンもどきは余裕の態度を崩していなかった。彼には切り札があるのだ。偉大なる父、リオより受け継いだ盾の妙技が。
その存在をすっかり忘れていたアンネローゼは、攻撃が炸裂する直前に思い出し、急ブレーキをかけつつ仲間に呼びかける。だが、もう遅い。
「ムダですよ、反応速度ならば魔神であるこちらが上なのでね! ミラーリングインパクト!」
「しまっ……きゃあ!」
「へぶっ!」
「ひょえ~!」
「ぐうっ!」
ソロンもどきの身体の前後に、青色の大きなカイトシールドが現れる。そこにアンネローゼたちが触れた瞬間、攻撃のエネルギーが瞬時に蓄積された。
それをすかさず解放し、カウンターの衝撃波をゼロ距離でブチ込むソロンもどき。アンネローゼたちが吹き飛ばされ瞬間、待機していたジェディンが動く。
「安心しろ、全員ぬいぐるみで受け止める!」
「おふっ! ありがとジェディン、助かったわ!」
「隙だらけですね。ブリザードブレス!」
「しま……うっ!」
「ああっ、ジェディン!」
反撃された時に備え、リカバリーに入れるようにしていたのが功を奏した。が、仲間の救助のため自身の守りが疎かになったジェディンに容赦なく攻撃が加えられる。
氷のブレスを食らい、下半身を凍らされてしまう。そこへ、ソロンもどき本体が跳躍し襲いかかる。
「ヤバイ! ジェディン、今助けに」
「もう遅い! まずは貴方から脱落し──!? う……?」
「へへへ、さっきはよくもオモチャにしてくれやがったな。こいつでお返しだ、怪盗七ツ道具、NO.5。シヴィニョンの宝剣を食らいな!」
が、直後空中でソロンもどきの動きが止まる。アンネローゼたちが不思議そうにしていると、ソロンもどきの腹の下にローグが現れた。
いつの間に回復して移動したのか、相手の急所である腹部に短剣を突き立てていた。ソロンもどきの身体が落下する中、ローグは素早く避ける。
「ぐっ……! 貴方、いつの間にこんな……」
「ケケケ、あんたらが大乱闘してる間によ、この怪盗七ツ道具の一つ……レアッチの幻惑札で姿を隠しておいたのさ。こっそりとな。で、こうやってチャンスを待ってたわけだ」
「そういや、途中から姿が見えないと思ってたけど……アンタそんなこと狙ってたのね。コスいやり方だけどまあ……助かったわ」
「ああ、礼を言うぞローグ」
やり方はどうあれ、窮地を脱したジェディンはローグに礼を言う。それにサムズアップで答えた後、ローグはソロンもどきを見る。
「さあ、もう降参しちまいな。あんたにゃ勝ち目は無いからよ」
「フ……面白い冗談だ。私は魔神、腹を刺された程度致命傷になど……!? 何故だ、化身の力が消えて……」
「残念だったなぁ、そのシヴィニョンの宝剣はブッ刺した相手から無限に魔力を奪うんだ。今、その速度を最速にしてある。魔力がなけりゃ力も使えないだろ?」
ゆっくりと立ち上がるソロンもどきだが、直後異変が彼を襲う。宝剣の力で獣の姿を維持出来なくなり、人の姿に戻ったのだ。
「よくやってくれたわ、ローグ! ここまで魔力を奪えば、もう再生能力も使えないはず! 一気にケリをつける!」
「くっ……私は、まだ!」
「いいえ、終わりよ! ホロウストラッシュ!」
「う……ガハッ!」
人の姿に戻ってなお、ソロンもどきは戦おうとする。だが、もはや再生能力を使うだけの魔力が残っておらずフラついている。
流石の魔神でもそんな状態でまともに戦えるはずもなく、アンネローゼの奥義が直撃し半身が消し飛ぶ。これで、勝負はついた。
「……負け、ましたか。全く、貴方がたは不思議だ。力を合わせれば合わせるほど、無限に強さを増していく……まるで、我が誇りである父上のように」
「そうね、私たちはフィルくんを助ける……その目的のために力を合わせているんだもの。だから、どこまでも強くなれるのよ」
「……フッ、美しい絆だ。私の負けです、進みなさい。この城の最奥にある玉座の間……そこに、守護者が……座して、いる……」
アンネローゼたちの絆を讃え、守護者……フィルの居場所を伝えた後ソロンもどきは完全に消滅した。一行はそれぞれを見つめた後、ワインセラーを出て歩き出す。
フィルを取り戻す戦いも、ついに終幕を迎えようとしていた。




