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293話─怪盗の真髄

 一気にケリを着けるべく、ローグは四つ目の怪盗道具を呼び出し勇猛果敢に攻め立てる。クレヴォンの刃札を操り、変幻自在の攻撃を繰り出す。


「そらっ、こいつを食らいな! トランプハリケーン!」


「小賢しいマネを……。なラばこうするマで! ディフェンシブ・チェーン!」


 カードによる連撃を防ぐべく、ボーグもどきは背中から八本の鎖を伸ばして自身を覆い隠す。頑強な鎖に阻まれ、カードによる攻撃が通らない。


 だが、その程度でローグが焦ることはない。鎖そのものは頑丈だが、魔力によって作られたものなら対処方法はいくらでもあるのだ。


「ハッ、まるで亀みてぇだな。だがよぉ、その鎖……お前の魔力で作ってんだろ? なら、こうしちまえば無力だなぁ! 怪盗七ツ道具、NO.5! シヴィニョンの宝剣!」


 これまで使っていたのとは別の短剣を取り出し、ローグは思いっきり投げ付ける。鎖に突き刺さった短剣が魔力を吸い取り、鎖を消し去ってしまう。


「むウ、これハ……!」


「っし、これで邪魔な鎖は消えた! そろそろトドメを」


「バカめ、そうハいかぬワ! 蒼のソナタ!」


「ん? なんだこの音楽……!?」


 防御を崩されたボーグもどきは、かつての部下……エージェント・アッチェレランドの技を使う。幻影世界を生み出す音楽を奏で、ローグを誘う。


 死の危険に満ちた、幻想の荒野へと。突然周囲の景色が変わったことに、ローグは驚きを隠せず周囲をキョロキョロ見渡す。


「ったく、どうなってんだこりゃ。ちっとやべえな、身を守るか……。怪盗七ツ道具、NO.6……レアッチの幻惑札!」


 それまで使っていた刃の札を仕舞い、ローグは別のトランプを取り出す。幻惑の力で実体を覆い隠し、不意打ちに備える。


「いつの間にかボーグの姿が見えなくなったな。クソ不気味な音楽も鳴ってるままだし、気が滅入ってきやが……ん、誰だ! そこの岩陰にいるのは!」


 ボーグもどきが姿を消し、警戒心を強めるローグ。少しして、近くにある大きな岩の陰に気配があることに気付く。


 短剣を構え、岩陰にいるだろう存在に声をかける。そうして現れたのは……。


「!? おい、嘘だろ……マーヤ、なのか?」


「ええ、そうです。久しぶりですね、ローグ。まあ、私はお察しの通り幻ですが」


 かつての友である、今は亡き先代魔女長のマーヤだった。ローグが驚愕し、動きを止めた瞬間。マーヤは彼の目の前に瞬間移動する。そして……。


「私を救えず、嘆いていたことは知っています。ならば、ここで挽回するチャンスをあげましょう。私のために死になさい、ローグ」


「うぐっ!? ふざけんな、マーヤがそんなこと言うわけねえだろ……!」


 素早く手を伸ばし、幻影の守りをすり抜けローグの首を掴んで万力のようなパワーで締め上げる。短剣を突き立てて振り払おうとするローグだが……途中で動きが止まる。


(動け、動けオレ! 目の前にいるのはまやかしだ、攻撃したってどうってことねぇ! 早くしねえと殺されるぞ!)


 頭の中では分かっていても、身体がついてこなかった。かつて志を共にした仲間を……敵が作り出した幻影とはいえ傷付けられない。


 ローグの中に彼女を救えなかったという負い目がある限り、幻影を打ち倒すことは不可能。万事休すかと思われた、その時。


「気をしっかり持って、ローグ! 大丈夫、ここからは僕が共に戦います!」


「んなっ、お前フィル……にしちゃあ小せえな!? 何があったんだ一体!」


「詳しい話は後! まずは、この幻想世界を破壊します! マナリボルブ!」


 二人に分身し、仲間を助けるため城を駆け回っていたフィルの幻影が現れたのだ。驚くローグにそう声をかけた後、幻想世界を創り出しているスピーカーを魔力の弾丸で撃ち抜く。


 隠されていたスピーカーが壊されたことで、景色が元の図書館に戻る。同時に、マーヤの幻影も消え……ボーグもどきが姿を現す。


「バカな、何故貴様ガここにイる!? まさか、守護者かラ分離したノか!?」


「お前に話すことは何もありませんよ、ヴァルツァイト・ボーグのまがい物。本体から与えられた使命を遂行するためとはいえ、お前はやり過ぎた。ここで消えてもらいます」


「ああ、そうだぜ。てめぇはオレを怒らせた。よりによってマーヤの幻影をけしかけるたぁ、よっぽどボコボコにされたいようだなテメー!」


 ローグにとって、マーヤは最大の弱点であり……同時に、最大の逆鱗でもあるのだ。彼の怒りに触れた以上は、もうボーグもどきは無事で済まない。


「フッ、そうハ言うが……お前はモう七ツ道具のウち六つヲ使ったデはないか。残り一つでナにが出来る?」


「おう、出来ることなんて山ほどあらぁ。それに、こっちはフィル……の幻影もいるんだ。もうてめぇなんぞにゃ負けねえんだよオラァ!」


 そう叫びながら、ローグは糸を再び図書館じゅうに張り巡らせる。触れたものを全て切り裂くトラップを仕掛け、ボーグもどきを両断するつもりだ。


 その糸の隙間を縫うように、フィルの幻影も移動を開始する。魔力の弾丸を撃ちつつ、ボーグもどきに近付き刃を振るう。


「武装展開、漆黒(シュヴァルツ)の刃(シュヴェルト)! 覚悟しなさい、ボーグもどき……いや、ルインブリンガー!」


「来い、守護者ノ意思に逆らう者ハ生かシておかヌ! 消滅させ」


「っせえんだよオラァ! オレの怒りのドロップキックを食らえ!」


「う、グおっ!?」


 同じく剣を呼び出してフィルとつばぜり合いを繰り広げる中、そこにローグが突撃してくる。仕掛けた本人だけが糸をすり抜けられるという特性を有効活用して、強烈なキックを叩き込む。


 つばぜり合いをしていたボーグもどきが攻撃に対処出来るわけもなく、おもいっきり吹っ飛ばされる。その先には、仕掛けられた糸が。


「まずい……! シャトルエスケ……」


「させるかっつーの! 今度は魔力弾を食らえ!」


「ウガッ!」


 背中に翼を展開し、アンネローゼの技を使って逃れようとするボーグもどき。が、そうはさせまいとローグは容赦なく追撃をブチ込む。


 魔力の塊をぶつけられ、糸の方に飛ばされる。あらゆるものを斬り裂く糸に激突し、右腕を根元から両断された。


「へっ、ざまあみやがれ! そんじゃ、そろそろ七つ目の怪盗道具を見せてやるよ」


「そういえば、一度も見たことありませんでしたね。一体どんな道具なんですか?」


「へっ、そりゃあ決まってるだろうがよ。どんな厳しい警備に守られてるお宝でも盗み出してやるっていう……クソ度胸が最後の七ツ道具だーっ!」


 フィルの幻影に問われ、ローグは得意気にそう返しつつ走り出す。糸を操り、ボーグもどきが逃げられないよう包囲網を構築する。


「ぐっ、糸ガ……! これでハ外に出ラれぬ!」


「おうよ、出してやるつもりはねえ。……今度こそ眠れよ、ゆっくりとな! これで終わりだ! 奥義……アリアドネの揺り篭!」


「チイッ、そうハ行くか!」


「無意味だぜ、どれだけ魔力を装甲に集めようが……この糸は防げない!」


 球状に束ねられた糸に包囲され、もはや逃げ場はないと悟ったボーグもどき。最後の足掻きに、装甲に魔力を集め強度を上げて耐えようと試みる。


 だが、そんな小細工を弄したところで運命が変わることはない。糸が一気に締まり、ボーグもどきをバラバラに斬り刻んだ。


「グッ、がはっ! ……破れタか、私が。口惜しいが……お前ノ言う通り、眠ルとしヨう。さらバだ、我が……運命変異体よ」


「おう、あの日の約束は違えねえから安心しな。……これからは、オレがオリジナルとしてお前の分まで生きてやる。だから心配はいらねえよ」


 最後にそう言葉を交わした後、ボーグもどきは消滅した。やりとりを見届けた後、フィルの幻影は図書館を去ろうとする。


「待てよ、一緒に来ちゃくれねえのか? フィル」


「ええ、そうしたいのは山々なんですけどね。守護者本人に追われてますし、他にも仲間を助けないといけないので」


「そうか……ならしゃねえな。ありがとよ、フィル。もうちっとだけ待っててくれ、オレが鮮やかにお前の本体を盗み出してやっからよ」


「ふふ、分かりました。その時を楽しみにしていますから……」


 ローグに呼び止められ、そんなやりとりを行う二人。微笑みながら答え、フィルの幻影は今度こそ図書館を去って行った。


 残ったローグも、糸を消し去り出口へと向かう。別の場所で戦っている仲間と合流するために。


「やれやれ、随分時間がかかっちまった。他の奴ら、やられてなきゃいいんだが」


 そう呟き、下の階へと向かうローグ。そうして、彼らは集うこととなる。地下のワインセラーにて戦っている、アンネローゼの元へと。

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― 新着の感想 ―
[一言] 記憶ベースでも死者が死者を偽るのはやっちゃいかんのだよ(ーー;) 今をもって終わらせてやるからさっさと寝な( ´-ω-)
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