288話─旧敵の逆襲
「さて、フィルくんに助けてもらったし先に進まなきゃ。それにしても……ここはどこかしら? なんか地下っぽいけど」
フィルの幻影と別れ、闇の部屋から脱出したアンネローゼは一人廊下を進んでいた。また変なところに引きずり込まれてはたまらないと、廊下の真ん中を進む。
目下のところ、彼女の目的ははぐれた仲間との合流だ。だが、城は広くそう簡単に合流することは出来そうにない。
「せめて一人くらいは合流……ん? 気配が三つ……この先ね、もしかしたら誰かいるかも!」
廊下を歩いてしばらくした頃、アンネローゼは前方から微かに三つの気配を捉える。もしかしたら、イレーナたちの誰かが合流しているのかもしれない。
そう考え、同時に罠の可能性も考慮しつつ警戒しながら急ぎ足で向かう。少しして、巨大なワインセラーの前にたどり着いた。
「気配はこの中からね。……やだ、思いっきり戦闘してる音がするわ。多分気配のうち一つか二つは敵ね。ちょっとがっかり……」
扉に耳を当て、中の様子を探るアンネローゼ。すると、分厚い扉の向こうから辛うじて物が壊れる音が響いてきた。
恐らく中で仲間の誰かとロストメモリーズが戦っているのだろうとアタリを付け、戦乙女は扉から顔を離す。
「ま、いいわ。誰が相手だろうとぶっ飛ばせばいいだけよ! それっ、突撃!」
少し後ろに下がり、勢いをつけてショルダータックルを扉にぶちかます。その勢いを維持したまま、ワインセラーの中に飛び込むと……。
「おお、アンネローゼ殿! ちょうどいいところに来てくだされた、この者たちの相手を共に!」
「オボロ! 無事……って、コイツらは!」
「来ましたか、アンネローゼ。貴女が助太刀に来るとは驚きましたよ」
「それ以前に……よくここに来られたな。ブロロ……恐らく奴の手引きか」
ワインセラーの中にいたのは、アンネローゼが予想した通り三人。一人はオボロ、残る二人のうち片方はカンパニーの精鋭、チェスナイツの一人ゴライア。
そしてもう一人は……かつてアンネローゼたちと刃を交えた新世代魔神の一人、盾の魔神ソロン。この二人が新たなロストメモリーズとして、オボロを襲っていたのだ。
「なんちゅう組み合わせしてんのよコイツら。オリジナル同士だったら絶対あり得ないわね、このコンビ」
「ブロロ……御託を並べる暇があるなら、自慢の槍を抜いたらどうだ? オレたち相手に余裕の態度など……」
「数分も保てばいい方ですね! 食らいなさい、シールドブーメラン!」
ヴァルツァイト・テック・カンパニーの精鋭と、正義を掲げる魔神の一族の次世代。オリジナルなら絶対に組むことの無い者たちのコンビに、アンネローゼは苦笑する。
だが、そんなことをしている間にソロンもどきが飛刃の盾をアンネローゼ目掛けて投げ付けてくる。攻撃を避け、オボロの元へ向かう。
「よっと! オボロ、大丈夫!?」
「うむ、それがしは問題ない。とはいえ、一人で勝てる相手でもなくてな。手をこまねいていたところなのだ、助太刀感謝する」
「気にしないで、こんな奴らさっさとやっつけてイレーナたちを探しに行きましょ!」
無事オボロの元にたどり着き、無事を確認するアンネローゼ。後は二人のロストメモリーズを打ち倒し、ワインセラーを出るだけだが……。
「ブロロ……余裕だな。なら……これを食らえ! ディスクショルダー・タックル!」
「先に進ませるとでも? 二人ともここで気絶していただきます……チェンジ、破槍の盾! バンカーナックル!」
二人のロストメモリーズが許すはずもなく、今度は接近戦を挑んでくる。接近しての戦いなら得意分野だと、アンネローゼたちは相手を迎え撃つ。
「ハッ、来なさい! そっちのデカブツはともかく、アンタは一回やっつけてんだから怖くもなんともないわ!」
「なるほど、そうですか。ですが、私たちをこれまで戦ったロストメモリーズと同じだと思わないでいただきたい。進化した守護者より与えられた、新たな力をお見せしましょう!」
「ふぅん、何をするつもりかしら? 期待を裏切……え、翼!?」
当時はフィルとイレーナの三人がかりだったとはいえ、一度撃破した相手のまがい物であれば恐れることはない。アンネローゼはそう考えていた。
だが、その慢心が早速彼女にとって仇となった。なんと、ソロンもどきの背にダンスレイルの翼が生えてきたのだ。
「驚きましたか? 私たちは守護者によって新たな力を与えられました。オリジナルの私の記憶を元に、さらなる強化を己に施せるようになったのですよ!」
「ブロロ……その通り。例え守護者の記憶にない技や仲間の力も……オレたちのオリジナルが記憶に留めてさえいれば、問題なく使えるのだ」
「なによそれ……チョー面倒じゃない!」
ソロンもどきの攻撃を盾で受け止めた後、アンネローゼはそう叫び舌打ちする。これまでは、フィルがロストメモリーズについての記憶があやふやなら付け入る隙が多分にあった。
だが、これからは違う。守護者となったフィルに依存することなく、まがい物たちはそれぞれの記憶から新たな力を得られるのだ。
「不味いな……まさかこのような隠し球を持っていたとは。ならこうするのみ! アンネローゼ殿、ゴライアのまがい物はそれがしが! 同じ釜の飯を食った者同士、勝機はある!」
「ブロロロ……笑わせるな。一介の戦士に過ぎなかったお前が、チェスナイツであるオレの何を知っているというのだ? その思い上がり、貴様ごと叩き潰してやろう! ディスクガイズ・ソーサー!」
「っと、そう簡単には当たらぬ。ゴライアよ、確かにお前と共に戦場で戦ったことも、任務を行ったこともそれがしは無い。だが、アーカイブされた個人データを見ることくらいは出来るのだ! さあ、こちらに来い!」
高速回転する円盤型の大盾を回避しつつ、オボロはワインセラーの奥へとゴライアもどきを誘い込む。所詮は格下と、ゴライアもどきはオボロを舐めきっているらしい。
「ブロロロ……なら、少し遊んでやろう。同志よ、そちらは任せるぞ」
「ええ、では彼女の相手は私が。ちょうどいい機会だ、オリジナルに代わってリベンジさせていただきましょうか」
「言ってくれるじゃない、二対二ならともかくタイマンなら負けるつもりはないわ! もっかいぶったおしてやるから覚悟しなさい! 武装展開、エアーリッパー!」
相方の言葉に応えつつ、ソロンもどきはアンネローゼの反撃を盾で受け止める。両者共に、単独でも敵を倒せると自負しているようだ。
連携すれば楽にアンネローゼたちを倒せるものを、わざわざ自分たちから分断戦法を選んだ。これが吉と出るか凶と出るか、まだ分からない。
「ふむ、風の刃ですか。ムダですね、伯母上の翼を得た今の私に! そのようなそよ風など当たることはありません! オウルエスケープ……からの! バンカーナックル!」
「くっ! 参ったわね、アイツの能力は覚えてるけど問題は他の魔神の力も使えるってことよね。……本当に単独で勝てるか自信なくなってきたわ」
アーマーを展開し、大量のカマイタチを放つアンネローゼ。だが、ソロンもどきは背に生やした翼を使い悠々と攻撃を避けてしまう。
ビッグマウスを叩いたはいいが、相手はアンネローゼが戦っていない魔神たちの力も使えるようになっている。ストレート勝ち出来る自信が、戦乙女にはなかった。
「えーい、こんなとこで弱気になってどうすんの! 大丈夫、私は勝てる! ここまで来て負けるなんて無様晒せるもんですか! 気合い入れてくわよオラー!」
「勇ましいものですね。貴女が敗北した時、その表情がどう曇るのか……楽しみです」
地下ワインセラーにて、強敵たちとの死闘の幕が上がった。




