285話─激突! 斧使いの決戦!
「……静かね。城に入ったってのに、だーれも来ないなんて。罠かしら? それとも……」
レジェとルテリの戦いが始まった頃、アンネローゼは一階の廊下を歩いていた。今のところ、ロストメモリーズや新たな残留思念が襲ってくる気配はない。
油断を誘い、気が緩んだ隙に不意打ちを仕掛けてくるのではないか。そう警戒しつつ、廊下を進んでいたのだが……。
「本当になんにも起きないわね。一体どうなっ……ん? 何か聞こえてくるわ。こっちからね」
あまりにも何も起こらないことに拍子抜けしていると、ふと人の気配と物音がするのに気付く。アンネローゼが音のする方へ向かうと……。
「なに、この扉……お札がビッシリ貼られてて不気味ね。中で何が起きてるの?」
謎の文字が記された不気味なお札がビッシリと貼られた、錆び付いた扉が現れたのだ。その向こうから、くぐもった悲鳴のようなものが聞こえてくる。
ドアノブに手をかけると、回すことが出来るのにアンネローゼは気付く。鍵はかかっていない、だが……開くのには戸惑いがあった。
「……うん、こんなヤバそうなとこはスルーが一番よね。中にフィルくんがいるわけなさそ」
『いるのか、誰かが外に。なら……お前も俺たちと同じ苦しみを味わえ!』
「え!? ちょ、きゃあああ!!」
嫌な予感を覚えたアンネローゼは、ノブから手を離しその場を離れようとする。が、それよりも早く扉が内側に開き、ミイラのように枯れた複数の腕が伸びてきた。
腕はアンネローゼを掴み、部屋の中に引きずり込んでいく。抵抗することも出来ず、アンネローゼは部屋の中に引きずり込まれてしまった。
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「そーれ、食らいな! 斬雨の斧!」
「ひぇ~、コレ全部撃ち落とせとかマジ無理ゲーなんすケド~。めっちゃTBS~!!」
その頃、レジェは雨あられと降り注ぐ斧の脅威に晒されていた。広い武器庫を自由自在に飛び回り、ルテリもどきは斧を投下する。
直撃をもらわないようあちこち逃げ回りつつ、レジェは悪態をつきながら相手の魔力が切れるのを待つ作戦に出た。
「お前の魔力がすっからかんになれば~、今度はウチがぴょ~んてしてガッ! ってやってからうんこらしょ~って落としてやるし~」
「わーすごーい、何言ってるかまるで分かんない!」
オリジナルのルテリも奔放な性格ではあるが、レジェのギャルっぷりにはついて行けないようだ。だが、斧を落とす手は止まらない。
フィルの記憶から作られた存在とはいえ、その無尽蔵の魔力はオリジナルと遜色ないらしい。このまま待っていても燃料切れにならなさそうだと、レジェは方針を変える。
「む~、全然弾切れしないし! じゃ~こっちからやっちゃうもんね! サファイア・ジェム・パーティー! そ~れっ!」
「ふーん、そんな宝石投げたって……ふぇっ!? お、斧が凍っちゃった!」
「ふっふ~ん、凄いっしょ? ウチのサファイアにわぁ~、キンキンに冷えた氷のパワーがあるのだ~!」
懐からテニスボールほどの大きさがあるサファイアの塊を取り出し、降り注ぐ斧目掛けて投げ付けるレジェ。斧に宝石がぶつかった瞬間、冷気が放たれた。
拡散した冷気が斧を凍らせ、それに触れた別の斧がまた凍り付き……のサイクルを繰り返し、降ってくる武器を全て凍結させてみせた。
「へえ、やるじゃん。そういや、あん時はお前いなかったっけ。いいね、お前の実力を見るのが楽しみになってきたよ」
「お、褒められちった。マジあざまし~」
「だから次は、こいつに対応出来るか見たいなぁ! いけっ、呼び笛の斧!」
敵に褒められていい気になっているレジェだが、ほんの数分後に顔が真っ青になる。ルテリもどきの召喚した片刃の手斧が、ひとりでに襲ってきたからだ。
相手の口笛のメロディに合わせ、変幻自在の軌道を描き襲ってくる斧からまたしても逃げ回る羽目になってしまった。
「ちょ~、そんなの聞いてないんデスケド~!?」
「ほーらほら、逃げろや逃げろー。それ、ぴーひゅるる~♪」
レジェが迎撃しようとしても、動きを予知していたかのようにスイッと避けられてしまう。そうして隙が出来たところに一撃入れ、斧が離脱する。
そんなことを繰り返した結果、少しずつラグジュアリ・ミッドナイトアーマーの表面に傷が付きはじめる。幸い、大きくはないがそれが積み重なれば……いつかはアーマーが破損するだろう。
「どうしたの~? さっきみたいにヘンテコジェムで何とかしてみたら? ま、無理だろうけどね! そろそろ首を刈らせてもらうよ!」
「あ~、ヘンテコって言った! は~、マッジでSMなんすケド! なら……エメラルド・ジェム・スライム! と~う!」
天井周辺で滞空しつつ、挑発をかますルテリもどき。ヘンテコ呼ばわりされてプライドが傷付いたレジェは、緑色に輝く宝石を取り出す。
手のひらサイズのラグビーボール型のソレを、自身めがけて飛んでくる斧へと投げ付ける。刃にぶつかって弾かれ……ることはなく、そのまま刃に刺さり付着した。
「ぷっ、なぁにそれ! そんなもんで私の呼び笛の斧を無力化出来ると思ってるわけ? すぐに落としてやるから!」
またしても鼻で笑った後、ルテリもどきは斧を回転させてくっついた宝石を取ろうとする。が、宝石はスライムのようなジェル状に変化し取れる気配がない。
「あれ? あれ? と、取れない? なんで取れないのさ! もうっ、この……」
「今がチャ~ンス! ラグジュラリショット・ジェム!」
「あいった! ヤバッ、落ちる!」
どうにも取れないことに業を煮やし、自分の元に呼び戻して直接ジェルを剥がそうとするルテリもどき。その瞬間を待っていたレジェは、反撃に出る。
大きな丸いダイヤモンドを作り出し、斧を使ってゴルフのように吹っ飛ばす。狙うはもちろん、エメラルドを取ろうとしている敵だ。
レジェから注意が逸れていたルテリもどきは攻撃を避けられず、ダイヤモンドの直撃を食らう。とてもではないが飛行を続行出来ず、墜落していく。
「よくもやったなー! 食らえ! ウィングアクスエッジ!」
「お、体当たり合戦なら負けないし~! キラデコ☆ジュエリートレイン! ドーン!」
床に激突する寸前、ルテリもどきは翼を羽ばたかせ減速する。ギリギリで激突を免れ、お返しとばかりにレジェに突進していく。
対するレジェも、上下を逆さにした斧に乗りブースターを吹かせて突撃する。翼と斧がぶつかり合い、激しい火花が散った。
「うぬおおおお!! 魔神の誇りにかけて負けるもんかー!」
「ウチだって負けるつもりないし~! 鬼デコ斧ちゃー、パワーぜんか~い!」
お互いの意地とプライドをぶつけ合い、一進一退の押し合いを繰り広げる二人。十分近い攻防の末、斧のブースターがオーバーヒートして両者共に吹き飛ばされる。
「あぐっ!」
「いたっ! く~、こうなったら直接ぶっ叩いてやるし~! かくご~!」
「フン、いいさ。そっちがその気なら、返り討ちにしてやるから! 来い、覇斬の斧!」
即座に起き上がったレジェは、ブースターを魔力で冷却しながら再度突っ込んでいく。今度は白兵戦で勝ってやろうと意気込んでいた。
ルテリの両刃の斧を二振り召喚し、二刀流ならぬ二斧流で迎え撃つ。一撃の破壊力に特化した大斧と、攻撃速度に優れた手斧。
それぞれ特性の違う得物を手に、お互いノーガードで暴れ回る。床がくぼみ、壁がえぐれ破片が飛び散る中、二人は楽しそうに笑う。
「へえ、闇の眷属風情のクセにいい一撃してるじゃんよ。流石の私も、それ食らったらタダじゃ済まない……かなっ!」
「おふっ! そっちだって~、ウチより速い攻撃ばんばかして来るじゃ~ん? マジ油断禁物、みたいな!」
レジェが振り下ろした上段からの一撃を、ルテリもどきは斧をクロスさせて受け止める。凄まじいパワーにより、床がくぼむ。
ブースターが使える状態なら、一気に吹かして決着をつけられたが……生憎、まだ冷却は終わっていない。二人の戦いは、しばらく終わらないだろう。
「さあ、来い! お前を負かして、城から放り出してやるから!」
「そ~はいかないもんね。フィルちん助けて、みんなで帰るんだも~ん!」
レジェとルテリもどき、二人の戦いの行方は果たして……。




