29話─ヒーローたちの戦い
「ほーれほれ、そのアーマーを粉々に蹴り砕いちゃうよー! ホッパーマシンガン!」
「速い……! 以前よりも格段に!」
アンネローゼがブレイズソウルと死闘を繰り広げている頃、フィルもキックホッパーと激しい戦いのまっただ中にいた。
鋭い蹴りの嵐を避け、盾で弾きつつ反撃の機会を窺う。しかし、以前とは違い最初から本気モードなキックホッパーに隙は無い。
「それっ、いただきぃ!」
「! しまった、盾が!」
脚を振り上げ、フィルの手から盾を弾き飛ばすキックホッパー。相手が仰け反ったところに、すかさず必殺の一撃を叩き込む。
「食らえっ! ターボキックキャスト!」
「ぐうっ!」
キックホッパーは強烈な回し蹴りを放ち、フィルの左脇腹に炸裂させた。流石のフィルも無事では済まず、吹き飛ばされてしまう。
草原を転がり、全身を打ち付けるフィル。頑強なシュヴァルカイザースーツのおかげで大怪我は免れたものの、ある程度の傷は負ってしまった。
「うう、いたた……。今の攻撃で、脇腹を負傷しましたね。メディカルシステムをオンにしないと……」
「とおおおりゃぁぁぁぁ!! 逃がさにーぞ、シュヴァルカイザー!」
「くっ、こんな時に!」
怪我を治そうとするも、そこにキックホッパーが走ってくる。体力を消耗したままでは、勝率が著しく落ちてしまう。
フィルの心の中に、そうした焦りが生まれる。焦れば焦るほど、ドツボに嵌まる。頭ではそれを分かっているのだが、気持ちが付いていかない。
「そーりゃ! 全力爆裂キック!」
「させない! もう一度盾を……うっ、ぐっ!」
「おろろろ? 苦しそうじゃーん。脇腹逝っちゃったかなー? わっちの蹴りの威力、思い知ったか!」
「がふっ!」
新たに盾を作り出し、攻撃を防ごうとするフィル。だが、脇腹の痛みで一瞬動きが止まってしまった。
その隙を突き、キックホッパーは跳び蹴りを食らわせる。左腕の付け根に蹴りが当たり、嫌な音が鳴り響く。
「まずい、腕が……」
「へいへいへーい、こないだの勢いはどこ行ったのかなー? そんじゃ、そろそろトドメ刺させてもらっちゃおうかなー! チェンジ、ドリルレッグ!」
蹴りが当たる直前、キックホッパーの脚がパイルバンカーのように押し出された。加速が付いた一撃は、フィルの左腕を脱臼させるのに十分な威力があった。
一気に畳みかけて撃破してしまおうと、キックホッパーは切り札を放つ。両足を融合させてドリルへと変形させ、地中に潜る。
「消えた……一体どこから攻撃を……」
「そーれっ! キーック!」
「うわっと!」
「あーあ、外れちった。ま、いっか。お前が死ぬまで、こーやって攻撃してればいいだけだもんにー!」
地中へと姿を消したキックホッパーの奇襲に備え、周囲を警戒するフィル。直後、背後から敵が現れる襲ってきた。
咄嗟に左へ飛んで攻撃を避けるも、相手は着地と同時に地面に潜ってしまう。反撃しようにも、その暇がまるでないのだ。
(まずいですね、どうにか相手を引っ張り出さないと攻撃が当てられません……。まずは、落ち着いて観察しましょうか。必ず隙があるはず!)
劣勢に追い込まれながらも、フィルは逆転のきっかけを得るべく神経を研ぎ澄ませる。脇腹と腕の痛みを我慢しつつ、相手の猛攻を凌ぐ。
そんな中で、フィルはキックホッパーの攻撃に隠されたとある『法則』に気が付いた。
(ん? 待てよ……。あいつの攻撃、もしかして。もし僕の考えが正しいなら、形勢逆転出来る! そのためには、まず……)
勝利への希望を見出したフィルは、逆転のための仕込みを始める。その間にも、キックホッパーは地中からの強襲を繰り返す。
「ほれほれー! いい加減諦めて、わっちの餌食になれー!」
「そうはいきませんよ、こんな生ぬるい攻撃なんかでは死にません!」
「ムカッ、言ったな! なら、わっちの全力の一撃で葬ってやる! 覚悟しろー!」
フィルの挑発に乗せられ、キックホッパーは地中深くへ潜っていく。勢いを付け、一気に相手を貫き殺すつもりなのだ。
(くへへへへ。魔力探知センサーのおかげで、シュヴァルカイザーの居場所はバッチリ分かるもんね。どれどれ、動く気配は……無し。なら、これで終わらせちゃえ!)
センサーで逐一フィルの居場所を確認しつつ、身体を反転させる。潜るのをやめ、勢いよく上へと昇っていく。
「死ーねー、シュヴァルカイザー……ってあれ!? いない!?」
「残念でしたね、キックホッパー。僕ならここですよ!」
勢いよく地面を突き破り、空高く飛び出すキックホッパー。だが、肝心のシュヴァルカイザーがどこにもいない。
落下しながらキョロキョロしていると、地面に空いた穴の一つからフィルが飛び出してくる。それを見たキックホッパーは、目を丸くして驚く。
「アイエエエ!? 何で!? センサーで居場所を捉えたのに!?」
「残念でしたね、お前が認識していたのは僕が作った魔力の塊……マナスポット。そこに誘導されたのですよ、まんまとね!」
そう口にしながら、フィルは剣を呼び出しつつ跳躍する。跳ねるべき地面にいないキックホッパーに、迎え撃つすべはない。
「お前の攻撃を避け続けている間に、気付いたんですよ。お前は必ず、地中に潜ってから十七秒キッカリに攻撃してるとね」
「だ、だからなんだってのさ!?」
「攻撃してくるまでの時間が分かれば、こちらもスムーズに反撃の策を進められるんですよ。おかげで、回避してる間にマナスポットの作成を楽に出来ました。キカイのような正確さが仇になりましたね」
「ぐっ、ううう……!!」
キックホッパーはフィルの言葉を受け、悔しさに歯噛みする。が、そんなことをしたところで何の意味もない。
空中で放つ蹴りほど、無力なものはないのだ。フィルは剣を構え、相手を見据える。必殺の一撃を以て、決着をつけるつもりでいた。
「これで終わりです、キックホッパー! 奥義……シュヴァルブレイカー!」
「チックショォォォォォ!!!」
漆黒の剣閃が走り、キックホッパーの身体が両断される。断末魔の叫びを残し、エージェントは大爆発して機能を停止した。
着地したフィルは、剣を振って刀身に付着した疑似体液を払う。キカイの残骸が降ってくる中、アンネローゼの元へ向かう。
「これで、こちらはケリが付きました。アンネ様、すぐに助けに行きますからね」
そう呟き、フィルはメディカルシステムを作動させつつ歩を進めた。
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一方、アンネローゼはブレイズソウルと一進一退の攻防を繰り広げていた。火の粉が舞い、陽炎が揺らめく中アンネローゼは攻める。
「食らいなさい! ていやっ!」
「フン、ムダなことを。さっきから執拗に私の胸板を狙って突きを繰り出しているが……そんな攻撃は無意味だ! ブレイズレイン!」
一点を集中攻撃してくるアンネローゼを振り払い、ブレイズソウルは炎のフレイルを振るう。先端に接続した火球を切り離し、炎の雨に変える。
「げっ、なんかヤバそうなのが来た!」
「灼熱の雨で灰となれ、ホロウバルキリー!」
「そうはいかないわよ! こうなったら……とっておきの切り札、使わせてもらう! 武装展開、ローズガーディアン!」
降り注ぐ炎の雨から身を守るべく、アンネローゼは新たな武装を呼び出す。フィルによってリデザインされた盾を構え、バリアを展開した。
メタルシルバーの輝きを放つ盾の中央には赤、青、紫、白の薔薇が描かれている。盾の力で、アンネローゼは炎の雨を防ぎきった。
「ほう、やるな。だが、たかが盾一枚呼び出したところで私には勝てぬ。じきにキックホッパーも来る、そうすればお前は終わりだ」
「フン、その言葉そっくり返してあげるわ。アンタの仲間なんて、シュヴァルカイザーが返り討ちにしてるに決まってるじゃない。もちろん、私もアンタを倒すわ!」
「大きく出たな、ホロウバルキリー。なら、私を倒してみろ! チェンジ、ブレイズワイバーン!」
ブレイズソウルは全身に炎を纏い、巨大な紅蓮の竜へと姿を変える。それを見たアンネローゼは、不敵な笑みを浮かべ槍と盾を構えた。
「アンタに教えてあげるわ。青い薔薇の花言葉はね……『不可能を可能にする』なのよ!」
二人の戦いは、クライマックスに突入しようとしていた。




