279話─マルカの奇策
翌日、たらふく食べて飲んでリフレッシュしたアンネローゼたち。ルナ・ソサエティが管理していた鍵の片割れさえ手に入れれば、最初の目的は達成出来る。
ここまで来てのんびりしてはいられないと、手掛かりを得るため再建されたソサエティ本部へ向かう。何か進展がないかと、淡い期待を抱いていたが……。
「よう、アンネローゼ。わりぃな、まだゴッドランド・キーの片割れは見つかってねんだわ」
「そう……。まあ、そう簡単に見つかったら苦労しないわよね」
「わりぃな、マーヤが手掛かり残してくれてりゃもっとスムーズに行くんだがよ……」
マルカと会い、進捗を聞くもあまり変化はないようだった。アンネローゼとしては、早急に鍵を見つけて聖礎に乗り込みたいと考えている。
ロストメモリーズによる妨害、ミカボシ奪還を狙う新ウォーカーの一族の介入……。そして、守護者となったフィルの思惑。
のんびりしていると、足下を掬われかねない要素がドンドン現れてきているのだ。焦りが募るのも仕方ないと言える。
「……なあ、アタシから一つ提案があるんだけど。聞いてくれねえか? アンネローゼ」
「なに? 珍しいじゃない、そっちから案を出してくるなんて」
「おう、思ったんだがよ。いっそさぁ、片割れ探すの諦めて新しく造っちまえばいいんじゃねえかなぁって」
応接室にて、アンネローゼにそんな提案をするマルカ。鍵が見つからないなら、つくってしまえばいい。逆転の発想に、アンネローゼは目を丸くする。
「ええっ!? 出来るのかしら、そんなこと」
「片割れは確保済みなんだしさ、それを使えば複製なり新造なり出来るんじゃねえか? まあ、こっちの世界は神々も闇の眷属も大きく衰退しちまってるから、頼るとしたらそっちのになるけどよ」
「そうねえ……とりあえず、アゼルくんかコリンくんあたりに相談してみる。ありがとね、マルカ。有用なアイデア出してくれて」
「へっ、気にすんな。アタシとしても、さっさとフィルに戻ってきてもらいたいからよ。今ヘカテーと話し合っててよ、アイツを新しい七栄冠に迎え」
「はー!? そんなのはダメですー! 絶対に認めませーん!」
「いーじゃねーかよ、減るもんじゃなし! 今人手不足で大変なんだよ、ケチケチすんなって!」
途中まではいい感じに話が纏まったが、マルカの言葉にアンネローゼがぎゃあぎゃあ文句をぶつける。その後、異変に気付いたヘカテリームが来るまで二人は取っ組み合いのケンカをすることに。
勿論、鬼の形相を浮かべるヘカテリームにたっぷりこってり怒られることになるのであった。
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「ゴッドランド・キーの複製……もしくは新造、ですか?」
「ええ、そうなの。アゼルくんって、神々と懇意の仲なんでしょ? どうにか口利きして、手伝ってくれそうな神様紹介してほしいなーって」
数時間後、ヘカテリームのお説教地獄から解放されたアンネローゼはカルゥ=オルセナに戻り、そこからギール=セレンドラクにいるアゼルを尋ねた。
事情を聞いたアゼルは、しばし考え込む。確約は出来ないと前置きした上で、アンネローゼに対し返答する。
「一応、ぼくの方からムーテューラ様を通して六神の方々に打診してみます。色よい返事が貰えるかは分かりませんが……」
「そう、でも協力してくれるのは嬉しいわ。ありがとう、アゼルくん」
「いえいえ、お礼なんていりませんよ。あ、そうだ。今この大地に魔神の一族の方が来てるんですけど、会っていかれます? 魔神さんたちにも協力してもらった方が確実だと思いますよ」
「魔神ね……。ま、もう和解してるし問題はないか。じゃあ、案内してもらえる?」
「いいですよ、確か今はメリトヘリヴンにいるはずですから……うん、ひとっ飛び出来ますよ!」
確定ではないものの、天上の神々の協力を打診出来たアンネローゼ。せっかくなら魔神たちにも話をしてはどうかと提案され、承諾することに。
アゼルの駆る骨の怪鳥に乗り、アンネローゼはメリトヘリヴンなる都市へ向かう。アゼルの居城、凍骨の宮殿を経ち、長距離テレポートを使い……。
「はい、着きましたよ! ようこそ、魔道都市メリトヘリヴンへ!」
「へー、こんな谷の底に街があるんだ! 面白い立地してるわね、オボロたちも連れてきてあげればよかったわ」
しばらく仲間に骨休めさせてあげようと、今回単独で動いていたアンネローゼはボーンバードの背の上でそう口にする。
彼女の眼下には、山々に囲まれた窪地の中に造られた都市があった。崖際にあるリフト乗り場近くに降りつつ、アゼルが説明を行う。
「この街は、聖戦の四王の一人『闇縛りの姫』エルダ様が研究所を構える街でして。エルダ様の弟子でもあり、ぼくのお嫁さんでもある七人の封印の巫女が暮らしてるんですよ」
「へー、そうなん……ちょっと待って、なんか嫁増えてない? 前会った時お嫁さん五人とか言ってなかったっけ?」
「公表しているのが五人で、残りは全員おおやけにはしてません。下手に公表すると、よからぬ輩が危害を加えようとしてきかねませんから。安全確保の一環ですよ」
「ふーん、命王の嫁ってのも大変なのね」
そんな会話をしつつ、リフトに乗って街へ降りていく二人。例の魔神はエルダの研究所にいるらしく、そこへ向かうことに。
「あー、暇……あれ!? アゼル様、どうなされたのです? 今日は訪問の予定はなかったはずですが」
「こんにちは、守衛さん。実は、エルダ様と会合している魔神さんに用がありまして。アポなしで悪いんですけど、会えますかね?」
「あー、ちょっと聞いてみます。少しお待ちを」
研究所の入り口にいた守衛に話しかけ、魔神と会えないか尋ねるアゼル。守衛は一旦研究所内に入り、しばらくして戻ってきた。
「お待たせしました。この後は特に予定がないようで、問題はないとのことでした」
「そうですか、ありがとう。無理を言ってすみませんでしたね、これは手を煩わせた手間賃です。少ないですが受け取ってください」
「ええっ!? と、とんでもない! アゼル様からチップを貰うなんて、エルダ様はともかくリリン様に知られたら怒られちゃいますよ!」
「大丈夫、リリンお姉ちゃんにはぼくから言っておきますから。アンネローゼさん、行きますよ」
「ええ、分かったわ」
守衛にお礼の金貨を渡した後、アゼルはアンネローゼを連れて研究所の中に入る。一階の奥にある応接室に向かい、エルダたちと合流した。
「あら、珍しいわね。アゼルくんがアポなしで尋ねてくるなんて……そちらの娘さんね? 前に話してたアンネローゼっていう娘は」
「よろしくお願いします、エルダさん。アゼルくんから貴女のことを聞いたわ。とっても凄くて偉大な人だって」
「うふふ、褒めても何も出ないわよ?」
「ほー、お前がアンネローゼ……いや、ホロウバルキリーか。オレの名はバルバッシュ、ベルドールの魔神の一人だ。よろしくな」
応接室の中にいた、白いドレスを着た女性……エルダに挨拶をするアンネローゼ。そんな彼女に、エルダの向かいに座っている大柄な男が話しかけた。
サメ柄のバンダナを頭に巻いた男は、自身の名を告げる。続いて、アゼルたちが会いに来た理由を問う。
「……というわけで、魔神の一族にも彼女に協力していただけないかと思いまして。こうして尋ねてきた次第です」
「なるほど、ゴッドランド・キーをねぇ。なら、オレと一緒にリオのところに来るといい。あいつなら喜んで協力するさ」
「そう、ありがとう! ところで、ちょっと気になったんだけど。あなた、何を司る魔神なの?」
「オレか? そうさなぁ……そこはだいぶややこしいからな、なんて言えばいいやら。とりあえず、オレが並行世界から来た運命変異体だってことだけ覚えといてくれればいい」
「え、そうなの!?」
「ああ。そこんところはキュリア=サンクタラムに向かいながら話すぜ。じゃあなエルダ、邪魔したな」
ここからは自分は同行しなくて大丈夫だろうと、アゼルはエルダと共にアンネローゼを送り出す。バルバッシュと共に、戦乙女は魔神たちの大地へ向かう。
「……へえ、フィニス戦役の時に基底時間軸世界にやって来たんだ?」
「ああ、オリジナルの仲間を救うためにな。オレの故郷はフィニスに滅ぼされちまったし、そん時以来オレがオリジナルとしてこっちに居させてもらってんのさ」
魔神の力を使って移動する最中、アンネローゼはバルバッシュの身の上を聞く。魔神たちの大地にて、アンネローゼの奮闘が始まる。




