274話─ロストメモリーズ、現る
「排除セヨ、排除セヨ、排除セヨ……」
「チッ、いつまで湧いてくるんだこのドローンどもはよ! おいクラヴリンにレジェ、こいつら何機いるのか分かんねえのか!?」
「そうだな……確か十万機はあったような……」
「多過ぎィ!」
次から次へと湧いてくるドローンの対処に追われ、てんやわんやなアンネローゼたち。死角を作らないよう円陣を組み、撃墜していくが……。
いかんせん、数があまりにも多すぎた。段々対処が困難になり、被弾が増えはじめた頃。逆転の策をアンネローゼが閃く。
「もう、ホントめんど……あ、そうだ! レジェ、久しぶりに力を貸してもらうわよ! あなたの爆弾と私の盾で、ドローンを一網打尽にするわ!」
「あいあ~い、アンネちんとのきょ~ど~さぎょ~入りや~す」
「行くわよ! 武装展開、ローズガーディアン! 青い薔薇よ、輝け! ウォーターウォール!」
アンネローゼが盾を掲げると、表面に描かれた青い薔薇が光を放ち円筒状の水の壁が一行を包む。それを確認した後、レジェはラグビーボールのような形をした黄色い宝石を取り出す。
「おい、何するつもりだ? その宝石なんかバチバチ鳴ってるぞ?」
「んっふふ~、こうしちゃうもんね~。そ~れ、トパーズサンダー!」
「おお、これは……! 水の壁に電撃が拡散している……!」
レジェがトパーズを投げ込むと、宝石に秘められていた電撃の力が解き放たれる。水の壁を伝って外側に放電が行われ、ドローンを破壊していく。
アンネローゼが上手く水の壁を操っているため、なかにいる彼女たちに電撃が当たることはない。物理的な攻撃には強いドローンも、電撃には弱いようだ。
「エラー……エラー……エラー……」
「基盤ショート……機能維持……不可……」
「おお、やったぜ! 面倒なドローンどもが全部おシャカだ!」
「これで先に進めるな。お手柄だぞ、レジェ」
「いや~、それほどで」
「困ったものだ、君たちには先に進まれたくないというのに。こうなれば、私が直接仕留めねばなるまい」
ローグとクラヴリンに褒められ、得意気になるレジェ。水の壁を消し、いざ歩みを再開せんとしたその時だった。
彼らの進むべき道の先から、アルギドゥスもどきが姿を現す。面識のあるアンネローゼとレジェは、かつて倒した相手の登場に仰天する。
「え? は!? な、何でアンタがここに!? アンタはジェディンがぶっ殺したはずでしょ!?」
「え、これ夢……? ウチまた死ぬん……?」
「まずい、レジェ殿がトラウマを刺激されているぞ!」
まさかの敵の登場により、かつてアルギドゥスに殺された時のトラウマがよみがえるレジェ。彼女を庇うようにオボロが立ち塞がる中、アンネローゼは敵を睨み付ける。
「よくも復活してこれたわね、性懲りもなくフィルくんを狙うつもり? そんなキモい姿になったからって、私たちに勝てると」
「何を勘違いしている? 私はオリジナルのアルギドゥスではない。ましてや、並行世界にいる彼の運命変異体でもない。私はある者の記憶より生まれし……ロストメモリーズの一人」
「ロスト……メモリーズ? 何よそれ、じゃあアンタを創り出したのは誰なのよ?」
「それはお前がよく知っているはずだ、アンネローゼよ。お前の愛する者が、私を生み出した。お前たちを阻むためにな」
「何よ、それ。つまり……フィルくんが、アンタを生み出したってこと?」
アンネローゼが愛する者など、この世にたった一人しかいない。双子大地を救うため奔走し、最後は己の身を捧げミカボシと共に消えた英雄。
フィル・アルバラーズ以外にはいないのだ。そんなフィルが、袂を分かったはずの兄のまがい物を作り出し、自分たちに刺客として差し向ける。
そんな話は、アンネローゼだけでなくその場にいる全員がにわかに信じられるものではなかった。
「嘘、嘘よ! フィルくんがそんなことするはずがない! 今だって、私たちの助けを待ってるはず! デタラメを言わないで!」
「そうだ、フィル殿がそれがしたちの妨害をするわけがない。貴様は……」
「いいや? 忘れたのか、アンネローゼ。フィルが何故ミカボシと運命を共にすることを決めたのかを。その答えを知っているはずだ、お前は」
アルギドゥスもどきの言葉を否定しようとするアンネローゼとオボロだが、それを遮るように冷ややかな発言が被せられる。
その時、アンネローゼは思い出す。ミカボシに乗り込んだフィルが、彼女にかけた言葉を。
『ごめんなさい、アンネ様。この戦いを通して、僕は痛感しました。……やっぱり、ウォーカーの一族はこの世に存在しちゃいけないんだって。それは、僕も例外じゃない』
「まさか……本当に、フィルくんは。自分ごとミカボシを消し去るつもりなの? そのために……私たちを止めようとしているの?」
「そうだ。そのために私を含むいくつかのロストメモリーズが生まれた。今、フィルは己の記憶、人格……あらゆる殻を捨て去り生まれ変わった。双子大地を守る守護者……おっと」
「うるさい、うるさいうるさいうるさい! そんなの誰が信じるもんですか! 仮にそれが本当だとしても、私は諦めない! フィルくんに教えてあげなくちゃ、あなたが消える必要なんて欠片も無いってことを!」
アルギドゥスもどきの言葉を遮り、槍を振るうアンネローゼ。もし、フィルが自分の存在が不要なのだと本気で思っているのだとしたら。
彼女が救わねばならない。それが、あの決戦でフィルを止められなかったアンネローゼの願いでもあり……仲間たちの望みでもあるのだ。
「そ~だよ、フィルちんがいないとみんなハッピーになれないし。ウチも悲しいもん。だから、絶対に取り戻すもんね!」
「ウォーカーの一族だから、この世から消えなきゃならない……なんてな、アイツらしい考えしてやがる。だが、そんな理由で消えなきゃいけないような罪人じゃねえんだよ、フィルはな。そうだろ、オボロ」
「そうだ。ローグ殿の言う通り。アルギドゥスとやらの姿を模した者よ、退け。それがしたちは忙しい、邪魔をするならば……斬り捨てるぞ」
「いや、もう斬り捨てて問題あるまい。むしろ、生かしておけば何をしでかすか分からん。またドローンを操って襲ってくるかもしれぬ。そうなる前に、滅しておくべきだ」
レジェ、ローグ、オボロ……そしてクラヴリン。全員の心は一つ、みながフィルの帰還を望んでいる。悲しき宿命を断ち切り、真の大団円を迎えるために。
「斬り捨てる、か。それはこちらの台詞だ。今、フィルはお前たちの知らぬ場所で戦い続けている。二つの大地を守るためにな。その邪魔をするなら、ここで消えろ」
「上等よ、返り討ちにしてやるわ! ひとりぼっちで戦う必要なんてないってこと、フィルくんに思い出させるためにも!」
「やってみろ、アンネローゼ。フィルの記憶より生まれた私に、貴様らの力は通じぬということを教えてやる! ロストブレイド!」
臨戦態勢に入ったアルギドゥスもどきは、右腕の肘から先のブロックを組み替えて大剣に変化させる。そうして、一番近くにいたアンネローゼに斬り掛かる。
「負けない! フィルくんが私たちを拒んだとしても……絶対に救ってみせる! 武装展開、エアーリッパー!」
「ぐっ、ぬうっ……」
「ウチもやっちゃうよ~だ! キラデコ☆ジュエリートレイン!」
アルギドゥスもどきの攻撃を盾で受け止め、全身から風の刃を発射してカウンターを叩き込むアンネローゼ。そこに、レジェが追撃を放つ。
二人の攻撃を受け、アルギドゥスもどきの身体がバラバラになる。口先だけでたいしたことない、とアンネローゼが笑っていると……。
「フン、他愛ないわね。オボロたちが加勢してくれるまでもな」
「言ったはずだが。貴様らの力は通じぬとな。人の話は聞かねばな、そうだろう?」
「! こやつ、身体を再構築したのか! ならばそれがしが! 九頭流剣技、壱ノ型……菊一文字斬り!」
「面妖な相手だ、なら……復活出来なくなるまで突き崩してやればよい! クランプルストラッシュ!」
復活したアルギドゥスもどきに、今度はオボロとクラヴリンが攻撃を叩き込む。斬撃と刺突の連続攻撃により、またしてもバラバラになるが……。
「ふむ、多少は効いた。だが、多少に過ぎない。貴様らの攻撃では、私を滅ぼすには至らないのだ」
「もう、面倒くさいわね! コイツ、どうやったら倒せ──!? な、なによこの地響きは!?」
「お前たちが先ほど倒した分で、ドローンが全滅したとでも? とんでもない、まだいるのさ。私が掌握したドローンはな!」
再び身体を修復したアルギドゥスもどきに向かって舌打ちするアンネローゼ。その時、地響きと共に何かが近付いてくる。
現れたのは……二十メートルほどはある、二脚歩行型の巨大ドローンだった。創造主を思わせる単眼のモノアイを動かし、足元のアンネローゼたちを見つめる。
「挟み撃ちというわけだ。さ、続きを始めよう。戦いはまだ終わらないぞ?」
そう口にし、アルギドゥスもどきはニヤリと笑った。




