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28話─リベンジの時、来る

 デートをした日から、数日が経過した。この日もいつものように、アンネローゼは訓練に励む。だが、今日はいつもと少し違っていた。


「ピピピ……急所命中率、九十七パーセント。総合成績、SSランク達成デス」


「やった、やったわ! ついに難易度ルナティックで最高成績を叩き出してやったわよ! はー、ここまで長かったぁ」


 血の滲むような努力を積み重ねてきた結果、ついに最高難度に設定された訓練用ゴーレムを倒すことに成功したのだ。


 それも、最優秀成績で。固唾を飲んで見守っていたフィルは、アンネローゼの元に駆け寄り勢いよく抱き着いた。


「やりましたね、おめでとうございます! こんな短期間で最高成績を出せるなんて、驚きましたよ!」


「ふふーん、もっと褒めてもいいのよ? これだけ強くなれば、きっとアイツにも……」


 フィルの頭を撫でながら、喜びを噛み締めるアンネローゼ。その時、基地全体に警報が鳴り響いた。二人が顔を上げると、ギアーズが飛び込んでくる。


「二人とも、大変じゃ! ラグズラズにまたカンパニーの奴らが現れたぞ!」


「またですか……一度ならず二度までも、しつこいですね」


「うむ、それに……今回は大将二人もおでましじゃ。騎士団だけでは歯が立たん、急行してくれ!」


 ギアーズの言葉に、アンネローゼはピクリと眉を吊り上げる。ついに、惨敗の雪辱を晴らす時がやって来たのだ。


 拳を握り締め、獰猛な肉食獣のような眼光を目に宿らせる。流れる汗も気にせず、小さな声で呟いた。


「……とうとう、やって来たのね。あの日のリベンジをする日が。行くわよ、フィルくん。あいつらを仕留めてやりましょう!」


「はい! あの時は取り逃がしましたが、今度は必ず仕留めてやります!」


 気合いを入れ、二人は訓練場を後にする。特務エージェントとの決戦の時が、訪れようとしていた。



◇─────────────────────◇



「ぐ、うう……」


「人の身で、よくぞここまで持ち堪えた。そこには敬意を表そう。だが……種の壁は超えられぬ。残念だったな、騎士団長よ」


 ラグズラズを囲む防壁、南門前。頑強な壁は無残に破壊され、そこかしこに騎士たちの死体が転がっていた。


 ある者は胴体に大穴を開けられ、またある者は燃え尽きた灰となって。数少ない生き残りを率いて戦っていたバンゲルも、ついに力尽きてしまう。


「せめてもの情けだ。苦しむことがないよう、一撃で息の根を止めてやる。我が業火に焼かれ、灰になるがいい!」


「ここ、までか……ワシは、もう……」


「そうはさせないわよ、ブレイズソウル! ホロウバルキリー、オン・エア!」


「なっ……ぐうっ!」


 ブレイズソウルが倒れたバンゲルにトドメを刺そうとした、その時。バルキリースーツを纏ったアンネローゼが、テレポートで姿を現した。


 虚を突かれたブレイズソウルは、アンネローゼの飛び蹴りを食らい吹き飛ばされた。処刑ショーを見物していたキックホッパーは、ゆっくり立ち上がる。


「おろろ、ブレちん飛んでっちったにー。ってことは、わっちの相手は……」


「ええ、その通りです。あなたの相手はこの僕、シュヴァルカイザーがしますよ。これ以上、誰も殺させはしない!」


 続いて、フィルも姿を見せる。水色のバイザーの奥で、鋭い眼光を宿らせた瞳が輝いている。倒れているバンゲルに手を当て、治癒の魔力を流し込む。


「シュヴァルカイザー、殿……」


「助けに来るのが遅れてごめんなさい、団長さん。ここからは僕が戦います。あなたは生き残っている部下を連れて、街に避難してください」


「済まぬ……奴は強い、気を付けてくだされぃ……」


 バンゲルは立ち上がり、部下たちに撤退の合図を出す。直後、キックホッパーが地を蹴り跳躍する。


「逃がすわけないじゃ~ん! みーんなみんな、ぶっ殺さにーといけないんだよう!」


「そうは……させない! マナリボルブ:アイス!」


「ぷぷっ、ばーか! おんなじ手はねぇ、特務エージェントには二度も通用しないんだよ!」


 以前と同じように、フィルは地面を凍結させて相手を転ばせようとする。が、それを見越していたキックホッパーは足の裏にスパイクを仕込んでいた。


 凍った土を踏み締め、もう一度跳躍する。狙うは、バンゲルの脳天だ。空中で身体を一回転させ、かかと落としを放つ。


「死ぃねぇぇぇ!!」


「なるほど、学習能力はありますか……でも、僕も日々進化しているんですよ! 武装展開、氷の大盾(アイスシュルト)! その一撃、受け止めてみせる!」


「ならやってみなよ! パワーアップしたわっちの一撃を止めてみな!」


 バンゲルを守るべく、フィルは攻撃に割り込んで盾を呼び出し構える。氷の盾と鋼鉄の脚、二つが勢いよくぶつかり合った。



◇─────────────────────◇



 一方、アンネローゼは吹っ飛ばしたブレイズソウルを追って平原を滑空する。数メートル先に、立ち上がる途中の敵の姿が見えた。


「見つけたわ! あの日のリベンジ、させてもらうわよ! 覚悟しなさい!」


「ふむ、この私を吹き飛ばずとはな。中々のパワーだ、気に入ったぞ」


「余裕しゃくしゃく、ってわけ? そのムカつく笑み、泣きべそに変えてやるわ! 武装展開、聖風槍グングニル!」


「来い、ホロウバルキリー。あの日貴様を殺さなかった落ち度、ここで清算させてもらう! ブレイズウィップ!」


 槍を構えるアンネローゼに向かって、ブレイズソウルは燃え盛る炎のムチを振るう。アンネローゼは一撃を避けつつ、着実に接近していく。


「見える……今なら見えるわ、アンタの攻撃の軌道がね! 食らいなさい、ウィンドスピアー!」


「くうっ! ……なるほど、テンプテーションの言った通り……侮れぬだけの力を得たようだな」


 アンネローゼが突き出した槍の一撃を食らい、脇腹を負傷するブレイズソウル。傷口から疑似体液が滲むのを見て、気を引き締める。


 相手はもう、瞬殺出来る雑魚ではない。そのことを改めて認識し、ブレイズソウルは本気を出すことを決めた。


「では、ここからは一切の油断も慢心も、遊びも無しだ。ホロウバルキリー、貴様を仕留める! ブレイズフレイル!」


「来なさい、返り討ちにしてやるわ! エアーリッパー!」


 ブレイズソウルはムチの先端に大きな火球を作り出し、フレイルへ作り替える。アンネローゼを燃やし尽くすべく、得物を振るう。


 対するアンネローゼは、スライディングでフレイルをかわしつつ相手の懐に潜り込む。逃げる暇を与えず、真空の刃を放つ。


「ぐううっ! おのれ、よくも我が仕事着を!」


「なんつー頑丈さよ、こいつ。服しかズタボロに出来ないなん………ふぐっ!」


「社長より賜った一張羅を……! この借りは大きいぞ、必ず後悔させてやる!」


 しかし、サイボーグであるブレイズソウルを倒すには至らなかった。スーツを切り裂き、上半身を剥き出しにすることは出来た。


 が、それが相手の怒りに油を注ぐことになってしまう。みぞおちに蹴りを叩き込まれ、アンネローゼは吹き飛ばされる。


「ゲホッ、ゴホッ! アイツのボディ、たぶんキカイ化されてるわね……生半可な攻撃じゃ、簡単に傷を付けられそうにないわ」


「何をブツブツと……! 死ねぃ! ブレイズインパクト!」


「っと、考え込んでる場合じゃない! 作戦は戦いながら考えるわ!」


 怒り心頭なブレイズソウルの猛攻を掻い潜りながら、アンネローゼは槍による攻撃を叩き込む。しかし、キカイ化されたボディには傷が付かない。


「進化したのは身のこなしだけか? そんなヤワな攻撃、私には効かぬわ!」


「面倒くさいわね! ……いいわ、そっちのボディが超頑丈だってんなら。それを崩すまでよ。私流のやり方でね!」


 振り回されるフレイルを避けながら、アンネローゼは叫ぶ。因縁の戦いが、ついに幕を開けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 因縁の相手にリベンジマッチだけど敵さんもまだまだ本性を隠してそうだが(٥↼_↼) しかしこの戦い(ʘᗩʘ’)恐らく前回出てきた2人も隠れて見物してるだろうな(´-﹏-`;)
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