270話─涙の終戦
「一体どんな策なの? フィルくん」
「今のミカボシは、ウォーカーの一族の残留思念によって操縦されている状態です。なら……同じウォーカーの一族である僕の力で、乗っ取ることが出来るかもしれません」
フィルの閃いた策。それは、ミカボシのコントロールを奪い無力化することだった。話を聞き、アンネローゼとマルカは驚く。
「マジか……。出来んのかよ、そんなこ……待て、今ウォーカーの残留思念って言ったか? ベルティレムじゃなく?」
「ええ、実は……」
時間がないため、手短にマルカへ説明をするアンネローゼ。ベルティレムに巣食っていたウォーカーの一族の残留思念が全ての元凶だと知り、マルカは怒りをあらわにする。
「そういうことだったのか……! あのクソ一族め、やってくれやがって! この事は他の連中にも通達しとくぜ。で……話を戻そう。どうやってコントロールを奪うんだ?」
「まずはミカボシの頭に向かわないと。内部にいる残留思念を引きずり出して、僕が入り込みます。そうしたら、無限の魔力とウォーカーの力でミカボシを操作し無力化します」
「私たちが全力でサポートする、絶対に成功させましょ!」
レーザーをかわしながら、作戦内容について話す三人。準備が整った後、マルカは懐から通信用の魔法石を取り出し仲間たちに呼びかける。
フィルの考案した作戦の内容、そして黒幕がウォーカーの一族の残留思念であることを知り生き残っている魔女や英雄たちは闘志を燃やす。
「そういうことなら、まずあのレーザーを発射してる目ん玉を全部潰してやるっす!」
「ああ、それがしたちならば出来る!」
「多くの魔女が死んでいった……彼女たちのためにも、やり遂げてみせる!」
「ウチも本気出しちゃうし~! 気合い入れてこ!」
「ネオボーグのためにも、負けるわけにゃいかねえ。やってやるぜ!」
イレーナたちが真っ先に動き、ミカボシの目を潰すために接近していく。そこに、生き残っている魔女たちが追走する。
メイナード、シゼル、トワイア、エスタール、トゥリ……元レジスタンスの魔女たち。そして、マルカとヘカテリームを筆頭とする旧ソサエティの魔女たちによる反撃の始まりだ。
「全員怯むな! 一斉に畳み掛けろ、目を潰せばそれだけ奴の攻撃が弱まる!」
「そうなれば、あの子たちがミカボシに到達するのが楽になる。例え命を散らそうとも、最後まで戦うのよ!」
「おおおおお!!!」
『チッ、ゴミどもが。大半を仕留めてやったのに、まだ向かってく……ぐっ!?』
『やっと、目覚められた。これ以上の暴虐は、私が許さない……!』
レーザーの出力を上げ、一気に残りを仕留めようとする残留思念。だが、ミカボシのコントロールと強化に力を割いた結果。
これまで封じ込めていたベルティレムの人格が眠りから覚め、肉体を取り戻そうと妨害を始めた。動きを止められ、ミカボシへの魔力供給が途切れる。
「見て、フィルくん! ミカボシの攻撃が止まったわよ!」
「何が起きてるかは知らねえが、ラッキーだ! 今のうちに飛び込むぞ!」
「はい! 二人とも、行きますよ!」
ベルティレムの人格を抑え込むのに必死になり、攻撃どころではなくなったところにフィルたちが作戦を決行する。レーザーさえなければ、到達は容易い。
「フィルくん! アンネローゼ! こっちは任せて、あなたたちはミカボシのコントロール奪って!」
「ええ、任せておば様! 必ずやり遂げてみせるから!」
「お前ら頼んだぞ! 死んでいった魔女たち……そしてネオボーグの仇を!」
「! そうですか……彼も、亡くなったのですね。なら、必ず全てを終わらせます!」
途中、シゼルやローグから激励の言葉をかけられるフィルたち。死んでいった仲間たちのため、必ず勝利を掴み取る。
決意を固め、イレーナたちがミカボシの目を潰す様を横目に敵の元へと向かう。その様子を見て、残留思念は焦りを募らせる。
『くっ、このままでは! そうだベルティレム、身体はお前に返そう。俺たちが裏からサポートする、だから力を合わせて奴らを倒そう!』
『嫌だね。全部知ったよ、お前がペラペラ喋ってくれたおかげで。ミシェルの死がお前の仕業だと分かった今、私がすべきことは一つ。この命と引き換えに、全力でお前を妨害する! それが私の償いだ!』
『やめろ、ふざけるな! こんな時に……クソッ、あと少しだというのに!』
無理矢理眠りに着かされていたベルティレムだが、話は全て聞こえていた。かつて力を托してくれた相手が悲劇を仕組んだ元凶と知り、反逆を敢行する。
今は亡き愛する弟、ミシェルの真の仇討ちのため。そして、これまでずっと暴走してきた償いのため……命を捨ててでも、残留思念を止めるつもりだ。
『貴様……力を与えてやった恩を忘れたのか!』
『ふざけるな、全ての元凶がどの面下げてそんなことをほざく! ……お前はもう終わりさ、前を見てごらんよ。裁きが下る時が来たのさ』
『なっ……!?』
「たどり着きましたよ、お前の元に。さあ、そこから引きずり出してあげます」
何とかしてベルティレムを抑え込もうとする残留思念だが、もうタイムオーバー。フィルたちが到着したのだ。
『来たね、待ってたよ。さあ、今のうちに。残留思念は私が抑えてる、安心してほしい』
「お前……ベルティレム、なのか?」
『ああ。……済まない、マルカ。私はずっと間違ったことをしてきた。今更謝って、許されるとは思っていない。だからせめて……残留思念は私が道連れにする』
「ベルティレムさん……」
『さあ、急ぐんだ。いつまでも抑え込めない……今にも、主導権を取り返されそうだ……!』
ベルティレムの意を汲み、フィルは彼女が入っている透明な膜に手を触れる。魔力を注いで膜を破壊し、ベルティレムの代わりにミカボシの中に入った。
「入れました! 後は……」
『そうはさせぬ! 我らの野望、こんなところで潰えさせてたまるか!』
ミカボシのコントロールを奪おうとするフィルに、肉体の支配権を取り戻した残留思念が攻撃を仕掛けようとする。
だが、その直後。ベルティレムが片腕に焦点を絞ってコントロールを取り戻し、魔法で短剣を作り出す。そして、それを自らの胸に刺した。
「ベルティレム!? お前……」
「私を、殺すんだ……二人とも。今なら間に合う。私ごと、ウォーカーの一族の思念を滅ぼせる。永遠に」
「アンタ……」
「アンネローゼ……君とその仲間にも、たくさん迷惑をかけてしまった。全ては、私が弱かったから……。遠慮はいらない、私を殺すんだ! そして、ミカボシを止め……終わらせてくれ。この惨劇の連鎖を!」
『やめろ、やめるんだ! あと少し、もう一歩で叶うんだ、我が野望が! 頼む、やめろ!』
少しの間迷ったアンネローゼだが、ベルティレムの意を汲み……彼女の心臓を槍で貫き、介錯した。死の間際、魔女は微笑みを浮かべる。
「あり、がとう。これで……いいんだ。ミシェル……ダメなお姉ちゃんを、あの世でたくさん……叱って、おく……れ……」
『う、ぐ……ああああああ……ああ……』
「……終わったわ。ごめんね、ベルティレム。あなたには、生きて罪を償ってほしかった……」
「……ああ、そうだな」
三千年に渡り、弟の復讐を成そうとしてきた魔女は死んだ。全ての黒幕たる、ウォーカーの一族の残留思念と共に。
アンネローゼとマルカが悲しそうに呟く中、フィルは『あること』を決意する。そして……ついに、ミカボシのコントロール奪取を完了させた。
「やりましたよ、二人とも! ミカボシは完全に僕の制御下に起きました。これでもう、誰も傷付けさせません」
「よかった……! っと、喜んでばかりもいられないわね。無力化はしたけど、ソイツの処分方法を考えなくちゃ」
「……それなら、一ついい方法があります。今からミカボシの力を使って、イゼルヴィアの崩壊を止めてウォーカーの門を作れるようにします」
コントロールがフィルに移り、ミカボシの色が黒から金色に変わる。後はカルゥ=イゼルヴィアを復活させれば、ハッピーエンド。
誰もがそう思っていた。だが……。
「おう、それからどうすんだ?」
「……次元の裂け目を作り、そこにあらゆる機能を破壊し尽くしたミカボシを投棄します。僕諸共」
「え……? フィルくん、何を言っ──!?」
アンネローゼが問いかけようとしたその時、フィルはミカボシの力を使いマルカ共々アンネローゼを金縛りにする。
直後、無限の魔力を用いて大地を再生させながら次元の狭間に繋がる巨大な亀裂をミカボシの背後に作り出す。
「ごめんなさい、アンネ様。この戦いを通して、僕は痛感しました。……やっぱり、ウォーカーの一族はこの世に存在しちゃいけないんだって。それは、僕も例外じゃない」
「そんなことない! フィルくんは悪に染まらず正義のために戦ってきたじゃない! お願い、考え直して!」
「……それは出来ません。どの道、ミカボシを無力化するには僕が力を使って、二度と次元の狭間から出られないようにしないと。僕が内部から封じていないと、また目覚めてしまう。だから……さようなら、アンネ様。あなたのこと……永遠に愛しています」
「嫌、嫌よ! 行かないで、フィルく……」
涙を流しながら、別れの言葉を口にするフィル。そうして彼は、ミカボシ諸共次元の狭間へと身を躍らせ……消えた。
その様子をただ見ていることしか出来ないアンネローゼの頬を、一筋の涙が伝って落ちていった。双子大地を巡る戦いは終わったが……多くのものが、失われることとなった。




