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262話─ミカボシの核を潰せ!

 天に無数の魔法陣が現れ、そこからミカボシの分身たちが降り注ぐ。牙を剥くケモノたちを返り討ちにしながら、フィルたちは散開する。


「それじゃ、手筈通りに行くわよ! フィルくん、こっちに!」


「はい! みんな、必ず生きて戻りましょう!」


「うっす! アタイたち全員で、勝利の宴をするっすよ!」


「マジ絶対勝つしぃ~! テンアゲ全開、やっちゃいましょ~!」


 四つの核を破壊するため、アンネローゼたちは二人一組になり別々の方向へ向かう。まずは、アンネローゼとフィルが離脱して頭部へ突き進む。


 続いて、イレーナとレジェのコンビがミカボシの尾の方向へと飛んでいく。ケモノたちが阻止しにかかるも、砲撃を食らい爆散した。


「っし! 今日もアタイの射撃はゼッコーチョーっすね!」


「向こうは大丈夫そうだな……オボロ、俺たちも行くぞ。持ち場は背中だ、お前の斬撃であの手を斬り落としてやれ」


「御意!」


 三組目、ジェディンとオボロのペアは大量の腕がうごめくミカボシの背中へと向かう。彼らを握り潰さんと、無数の腕が伸びてくる。


「来るか……なれば! 九頭流剣技、捌ノ型! 九頭牙爪連斬!」


「全て破壊してくれる! デストラクトチェーン!」


「ギィ……ガァァァ!!」


 オボロの放つ無数の斬撃と、ジェディンの伸ばす鎖の一撃によりミカボシの腕は斬り刻まれ、貫通され潰されていく。


 素早く進軍して腕の生えていない部分を見つけ出し、斬撃を叩き込んで背中を斬り裂くオボロ。一足先に、ミカボシの体内に入り込む。


「仕事が早えな、あいつらは。ボーグ、オレたちは腹に回り込むぞ。心臓付近にある核がオレらの担当だからな」


「承知シた。でハ行こウか、最後ノ戦いヲ制するタめニ」


「おう、足引っ張るなよな! 突撃だ!」


 残ったローグとネオボーグのコンビは、伸びてくる腕を掻い潜り魔法陣に隠れた腹側へ回り込む。心臓に近付くには、そちらから入り込んだ方が早いのだ。


 そんなこんなで、全員無事にミカボシに接触を果たすことが出来た。まずは、真っ先に体内に侵入したオボロたちが動く。


「酷い匂いだな……。気を付けろオボロ、全身を守りの魔法でコーティングしてるとはいえうっかりミカボシの体液に触れるな」


「封印の御子殿たちの話では、ミカボシの体液は猛毒だとか。慎重に進まねばなりますまい」


 ミカボシの体内は、空間魔法によってひずみ広大な空洞が広がっていた。二人が侵入した直後、体表の裂け目が閉じ治癒してしまう。


 天井からしたたる体液に当たらないよう注意しながら、二人はクルヴァとクウィンにかけてもらった探知の魔法を頼りに進む。


「こっちで合っている……はず。しかし、ネチョネチョして動きにくい足場だ」


「うむ、油断していると足を取られ……む? ジェディン殿、何かが近付いて──危ない!」


 核がある場所を目指して歩いていたその時、天井から何かが降ってくる。いち早く気配を察知したオボロがジェディンに体当たりし、共に攻撃から逃れる。


「済まない、助かっ……なんだ、あのブヨブヨした物体は?」


「恐らく、ミカボシの細胞であろう。奴にとって、我々は病原菌と同じ。排除に動いても不思議ではない」


「なるほど、なら逆に排除してしまえばいい。いくぞ、オボロ!」 


「御意!」


 天井から降ってきたのは、ドギツいピンク色をした肉の塊だった。不気味にうごめく肉塊は、ジェディンたちを異物として排除しにかかる。


 鋭いトゲのようなものを表面にいくつも生やし、全身を震わせ跳躍した。上から押し潰すように飛びかかるも、鎖に止められる。


「フン、今更そんな原始的な攻撃を食らうわけがないだろう。邪魔だ、すっこんでいろ」


「おお、よく飛ん……奴め、トゲを飛ばしてきたか!」


「そのくらい、防ぐのは簡単だ。ディフェンシブチェーン!」


 下手に潰したり斬ったりすると何が出てくるか分からないため、邪魔にならないよう遠くへ放り投げるジェディン。


 すると、肉塊の動きが忙しないものに変わる。その直後、トゲが射出されオボロたちに襲いかかる。間一髪、鎖で盾を作り防げたが……。


「! こいつ、分裂したな。ジェディン殿、どうする?」


「面倒だが、遠距離から潰すしかないな。オーバークロスはしない、こんな気色悪いモノに触れる死者が可哀想だ」


 ジェディンはすかさず四本の鎖をバラしてから伸ばし、肉塊を串刺しにして機能不全にする。内部の水分が抜け、肉塊は萎んで動かなくなった。


 肉塊から漂う悪臭に辟易しながら、二人は探知魔法を使い核を目指す。道中、ミカボシの細胞たる肉塊が度々襲ってくるも全て返り討ちにしていく。


「全く、嫌な匂いだ。服どころか身体に染み付いてはシエル殿に嫌われてしまう。こういう時の生身の身体は、不便なものだな」


「出来るだけ早く終わらせて、さっさと……待て、あそこに誰かいるぞ。まさか、奴は……!」


「あっははははは! やあやあ諸君、はじめましてかなぁ? 違ったっけ? ま、どうでもいいや!」


 どこまでも続く空洞の終点に、無数の管で肉壁と繋がれた不気味な物体が鎮座している。脈動する赤黒い核の前に、かの者がいた。


 かつてヘカテリームに消し炭にされたはずの、ベルティレムの魔魂転写体の一人……歓喜の君が。狂ったように笑いながら、オボロたちを出迎える。


「バカな、貴様は魔女が滅したとフィルから聞いたぞ。何故ここにいる!?」


「なんでって? そりゃあ死んだのは外で活動するための魔魂転写体だからね、ボクたちは核を守るために作られた別個体なのさ! あっははは! 記憶は共有だけどね!」


「……なるほど、通りでベルティレム本人の動きが鈍いわけだ。本人が動かずとも、分身に核を守らせればいいのだからな」


 ミカボシの復活という大願を成就させるため、ベルティレムはすでに策を講じていた。長い時をかけて封印されているミカボシに働きかけ、核に己の魔力を宿らせた。


 その魔力が成長し、彼女の魔魂転写体となってジェディンたちの前に立ち塞がったのだ。ここまでは、ベルティレムの目論見通り。だが……。


「あっはははは! さあ、ボクと遊ぼうよ。二人ともここで」


「九頭流剣技、肆ノ型……瞬閃・青天霹靂!」


「殺し……はれ?」


「悪いが、それがしたちは貴様と遊んでいる時間などないのだ。早急に核を破壊し、外で戦ってくれている者たちに加勢せねばならぬ。故に……」


「あはは、おかしいな? 視界がどんどんズレて……いく、よ……」


「……斬り捨て御免」


 オボロが得意とする神速の抜刀居合い斬りを受け、首を斬り落とされた歓喜の君。数多の修羅場をくぐり抜け、生き延びてきたオボロの敵ではなかったのだ。


 ミカボシの魔力を糧として成長し、同じ名を持つ魔魂転写体と記憶を共有しているとはいえ。実戦経験の無い分身が、神速の剣を見切れるわけがない。


「流石だな、オボロ。相変わらず惚れ惚れするような一撃だったぞ」


「光栄にござる。とはいえ、今ので瞬殺出来ていなければそれこそ長期戦になっていたやもしれぬ。それだけ、底知れぬおぞましい魔力を放っていた……こやつは」


 物言わぬ死体となった歓喜の君を見下ろしながら、オボロはそう口にする。彼らは知らなかったが、核の守り人として配備された分身には厄介な特徴がある。


 非常に高い学習能力と成長性を持ち、核を破壊しに来た者の技術や戦法を即座に学んで対抗出来るようになってしまうのだ。


 そうなれば、長期戦は必至。無限に湧いてくるミカボシの細胞と挟み撃ちにされ、返り討ちに会っていただろう。


 知らず知らずのうちに、オボロは学習される前に瞬殺するという最適解をやってのけたのだ。


「さあ、急いで核を破壊するぞ。流石に手こずってはいられん、気は引けるが皆の力を借りるぞ。デュアルアニマ・オーバークロス! レクイエム・レギオン……オン・エア!」


 核は薄く頑強な魔力結界に包まれており、ジェディンとオボロの二人がかりでも壊すのは骨が折れる。また肉塊が来ないうちに仕事を終えるべく、ジェディンはさらなる変身を行う。


「皆、済まないがまた力を貸してくれ。あの核を壊し、ミカボシを滅ぼすために」


「私たちに任せて。没せし地は違えど……救うべき大地のために、この力を使います!」


「おおおおお!!!」


 現在、カルゥ=オルセナに住む生命は全て本の中に封印してあるため、双子大地から死した魔女たちの魂を呼び寄せる。


 ぬいぐるみに宿った八人の魔女たちは、一斉に核を攻撃する。オボロとジェディンも加わり、魔力結界を破壊していく。


「ジェディン殿、結界が砕けた! 今なら……」


「ああ、肉塊どもが来る前に終わらせる! 奥義……レクイエム・コール・プレッサー!」


 十分近い攻撃の末、ようやく核を守る結界を破壊出来た。肉塊たちが近寄る気配を背後に感じつつ、ジェディンはハンドベルを核に叩き込む。


 すると、耳をつんざく悲鳴のような音が核から放たれ……粉々に砕け散った。直後、核からのエネルギー補給が絶たれたことにより肉壁の腐敗が始まる。


「まずい、ここにいたら死ぬ! オボロに魔女たちよ、脱出だ!」


「御意!」


「了解です!」


 崩れていく肉壁をブチ破り、急いで脱出するジェディンたち。こうして、第一の核の破壊を成し遂げたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 始まったか(٥↼_↼) この戦いの結果が未来に(キルトに)繋がってるなら余程の事にはならんと思うが(ʘᗩʘ’) 何人無事に生き残れるか(-_-メ)
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