261話─ミカボシの復活
三日をかけて、フィルたちはミカボシ討伐のための準備を整えた。クルヴァとクウィンからミカボシの特性を聞き、作戦を立てる。
それぞれの役割を割り振り、ミカボシと戦うメンバーとベルティレムによる妨害を阻止するメンバーに別れて話し合いを行った。
そうして、三日目……ついに、ミカボシ討伐作戦が幕を開ける。
「準備はいいかな、フィルくんにアンネローゼさんたち。一度この本を起動させたら、もう後戻り出来ないよ」
「ええ、もちろんです。この日のために、僕たちは作戦を練ってきたのですから」
「フィルくんの言う通りよ。ここで臆してるわけにいかないわ。封印の御子さん、始めましょ」
「分かった。それじゃあ……行きます!」
三日目の朝、フィルたちシュヴァルカイザーの一味とローグ、そしてネオボーグはクルヴァと共にカルゥ=オルセナに戻ってきていた。
クルヴァの一族が時間をかけて作り上げた、封印の本の中にカルゥ=オルセナに住む全ての命を封じ込めて安全を確保するために。
「いよいよ本番っすね! アタイ、ちょっと緊張してきたっす……しっこ漏れそ……」
「ホントに漏らすなよ、流石にシモの世話はしたくねえからなオレは」
「もう、みんなシャキッとしてください! これから最後の戦いなんですからね! クルヴァさん、やってください!」
「うん、それっ!」
いよいよ最終決戦が始まる、という状況でもいつも通りな仲間たちに喝を入れた後、フィルはクルヴァに作戦を始めるよう促す。
分厚い本が開かれると、高速でページがめくられカルゥ=オルセナに住むあらゆる生命体が吸い込まれていく。人も、獣も、鳥も、魚も、草花も。
フィルたちはあらかじめ楔の魔法をかけてもらっており、本に吸い込まれることはない。十分ほどの時間をかけて、全ての生命体が本に収納された。
「これでよし、と。今から、オルセナに封じられているミカボシの半身の封印を解くよ。封印を解いたら、イゼルヴィアのように分身たちが出てくる。気を付けてね」
「心得た。その時には作戦通り、魔女たちを呼ぶゆえ問題はない」
「オボロの言う通りだ。そのためにオレがこっちに来てんだからな」
ミカボシの封印を解除すれば、大量の分身たちがカルゥ=オルセナに現れることになる。ベルティレムが解き放ったものより、さらに多い数が。
当然、フィルたちだけで処理するのは不可能。そこで、イゼルヴィアで待機している魔女たちの出番というわけなのだ。
「封印を解いたのに合わせて、世界再構築不全を起こす。タイミングを合わせていくぞ! いち、に……」
「……さん! 今だ! 我、封印の御子クルヴァの名において宣言する。かの災いを封じし楔を緩め、今ここにミカボシを復活させん!」
岩山の頂上に立つクルヴァは両手を天にかざし、全身から魔力を放出してミカボシの封印を解除する。空が赤く染まり、巨大な黒い魔法陣が現れる。
魔法陣を覆い尽くしている無数の鎖が一つ、また一つと砕けていくにつれ、邪悪な気配がオルセナの各地に満ちていく。
「感じルぞ。これホどに邪悪ナ気配、暗域ニいた頃デさえ感じタことハない」
「いよいよ、か。ミカボシが……よみがえる」
ネオボーグとジェディンが呟くなか、ついに全ての鎖が砕け散った。直後、今度は魔法陣そのものに亀裂が走っていく。そして……。
「ギギィィィ……アアアアアアア!!!」
「ひいっ!? や、ヤバいのが出てきたっす……! あれが、ミカボシなんすかぁ!?」
「思ってた以上にキモい姿してるわね、しかもめっちゃデカいし……夢に出そうね、あれ」
「ええ、本当ですよ……」
亀裂の中から、鋭い爪を備えた細長い腕がいくつも飛び出してくる。腕は亀裂を押し広げ、ミカボシ本体が通れる隙間を作り出した。
そうして現れたのは、ドス黒くぬめった表皮を持つワニに似た、巨大な体躯を持つおぞましいナニカだった。身体のあらゆる箇所に口があり、その中にはギョロリとした目玉がある。
背中から生える無数の腕をワサワサと動かしている姿は、あまりにも気色悪いものだった。ミカボシは頭を動かし、遙か遠く……地表にいるフィルたちを視界に収める。
「ミィィィ……ツケタァァァァァ。イマワシキィ……フウインノミコォォォォォ!!!」
「今だ、来い魔女ども! 最終決戦の始まりだ、景気よく大暴れしてやれ!」
「オオオオオオオ!!!」
ミカボシが雄叫びを上げると、フィルたちのいる岩山のふもとに大量のケモノたちが現れる。宿敵たる封印の御子を抹殺するべく、勢いよく登ってきた。
それに対抗し、ローグが世界再構築不全を引き起こしてカルゥ=イゼルヴィアから魔女の軍団を呼び寄せる。最後の戦いの始まりだ。
「クルヴァさんは鏡の世界に避難を! ここからは僕たちが戦いますから!」
「最後まで一緒にいられなくてごめんね。みんな……死なないで。一人も欠けることなく勝ってくれるって信じてるよ!」
ローグによってイゼルヴィアに送られる中、クルヴァはフィルたちに激励の言葉をかける。力強く頷いた後、フィルたちはダイナモドライバーを起動した。
「さあ、行きますよみんな! 二つの大地を救う、最後の戦いです! ダイナモドライバー、プットオン! シュヴァルカイザー、オン・エア!」
「誰一人死なずに戦いを終わらせるわ。みんなでハッピーエンドを掴み取る! ダイナモドライバー、プットオン! ホロウバルキリー、オン・エア!」
「アタイは負けない……! シショーたちにどこまでもお供するっす! ダイナモドライバー、プットオン! デスペラード・ハウル、オン・エア!」
まずはフィルとアンネローゼ、イレーナの三人が変身し、空色からやって来る飛行型のケモノたちの迎撃を行う。
時空の歪みを通して現れる魔女たちと協力し、次々に撃墜していく。そんな中、ジェディンたちもダイナモドライバーを使い変身する。
「俺はまだ死ねない。メイラ、リディム。もう一度、俺たちに力を貸してくれ。ダイナモドライバー、プットオン。クリムゾン・アベンジャー……オン・エア!」
「ここまで来たら~、ウチもバチクソ全力全開、みたいな~。パーペキに世界救っちゃうっしょ~! ダイナモドライバー、プットオン! ラグジュアリ・ミッドナイト! オン・エア~! いぇーい!」
「……シエル殿。それがしは戦う。貴殿の愛したこの大地を守るために! オボロ、いざ参る!」
ジェディンとレジェ、オボロの三人も変身を行い戦いに身を投じる。岩山を下り、登ってくる異形のケモノたちを蹴散らしていく。
「あいつらに負けるな、アタシたちも続くぞ! 元ソサエティとレジスタンスの魔女の力、ミカボシに見せつけてやろうぜ!」
「ヘーイガールズアンドボーイズ、フォローミー! 因縁のエネミーをジャッジメントするデース!」
「おおーーー!!!」
ケモノたちを滅しながらミカボシの元へ向かうフィルたちを援護しながら、マルカとトゥリが仲間たちを鼓舞する。
魔女たちも気合い十分、魔法を駆使してケモノたちを撃破していく。その様子を、砕けた魔法陣にしがみつきながらミカボシが眺める。
「チカラ、マダフカンゼン。イゼルヴィア、イク。ワガハンシン、フッカツサセル!」
「案の定、動き出したな。ネオボーグ、行くぞ。オレたちの任務を始める」
「了解シた。掴まレ、振り落とサれなイようニ気を付けロ」
イゼルヴィアに半身が封印されているため、思うように力を使えないミカボシはどうにかして双子大地に渡るべく動き出す。
最後まで残っていたローグとネオボーグは、それを阻止するため飛び立つ。目指すのは、ミカボシの身体の中だ。
「ベルティレムがいつこっちに来るか分からねえ、早いとこミカボシの体内にある四つの核をぶっ壊さねえとな!」
「私たちノ役目ハ、最奥部ニある四つ目ノ核の破壊。必ズ成し遂げテみせヨうではナいか、ローグ」
「ああ! フィルやアンネローゼたちにばっかりいいカッコはさせねえぜ!」
この三日間、フィルたちは封印の御子二人からミカボシの倒し方を徹底的に教え込まれた。その内容を、ローグは思い出す。
『いい? ミカボシの体内には九つの核があるんだ。その全てを破壊することで、ミカボシを完全に滅ぼすことが出来る』
『オルセナ側の半身に四つ、イゼルヴィア側の半身に五つ。まずはオルセナ側に眠る半身を滅ぼして、ミカボシを弱体化させるんだ。そうすれば、勝機はグンと上がるからね』
「……上等だ、やってやる。怪盗ヴァルツァイト・ローグ、一世一代の盗みをしてやるぜ。奪ってやるよ、ミカボシの命をな!」
こうして、双子大地の運命を賭けた最後の戦いが幕を開けた。戦いに勝つのはフィルたちか、それともミカボシか。答えは、誰にも分からない。




