表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

264/311

256話─かつての敵は今の友

「……いや、驚きました。まさか貴女がこちら側に渡ってくるとはね。……もう一人のぼくを守る者、マーヤ」


「お恥ずかしいことです。私は本来、世界を守るために自害しなければならなかったのに。こうして、クウィンのオリジナルである貴方に頼ってしまった……」


 カルゥ=オルセナ、鏡の中の世界。絶海の孤島にある城に、二人の男女がいた。片方は、封印の御子の片割れクルヴァ。


 そしてもう片方は、魔女連合及びベルティレム一派が行方を捜しているマーヤだ。イゼルヴィアが崩壊した後、彼女はオルセナに渡った。


 裏切り者であるベルティレムに、鏡の世界に入る魔法を奪われないように。本来、彼女は人知れず自害するつもりだったが……。


「そう嘆くこともないよ。命を粗末にしてはいけないんだ、生き延びたことには何かしら意味がある。そう思って頑張ろうよ、ね?」


「……そう、ですね。ならばこの老いぼれを、精魂果てるまで酷使してください。貴方の計画を成就させるため、この命と力を使いましょう」


「ありがとう、マーヤ。……リーファ、情勢は変化したかな?」


 自害する決断を下せず、結局クルヴァを尋ね匿ってもらっていたのだ。そのことを恥じるマーヤを慰めつつ、少年は従者を呼ぶ。


「はい、カルゥ=オルセナから複数の生命反応が消失しました。恐らく、向こう側に拉致されたかと」


「……状況は悪化するばかり、か。どうにかして、世界の壁を越えて団結出来ればいいんだけど……そうすれば、ぼくの計画を実行に移してミカボシを滅ぼせるのに」


 カルゥ=オルセナとイゼルヴィア。二つの大地を行き来するのは簡単なことではない。ウォーカーの力を使えるのは二人しかおらず、世界再構築不全は魔女しか使えない。


 オルセナ側の人材で、二つの大地を自在に移動出来るのはフィルだけ。この状況を打破出来なければ、逆転は不可能に近い。


「……考えてても仕方ないか。リーファ、とりあえずシュヴァルカイザーの仲間に連絡しよう。マーヤを保護してることを伝えないと」


「よろしいのですか? これまでは敵対者によるインシデントを防ぐため、出来る限り干渉を避けていましたが……」


「もうそんなことを言ってる場合じゃない。ぼくやクウィンが健在な今でも、少しずミカボシの目覚めが近付いてる。動く時が来たんだよ、リーファ。ぼくたちにしか出来ない仕事(しめい)を果たす時が」


「かしこまりました、クルヴァ様がそうおっしゃられるのなら。ただちに向こうに出入り口を作ります、少しお待ちください」


 主の真摯な言葉を受け、リーファは頷く。今行動に移らねば、二つの大地は滅びる。それだけは、なんとしても避けねばならないのだ。


「門を開きました、クルヴァ様。早速参りましょう」


「では、私も共に。かの大地の者らには、謝罪をしなければなりませんから」


「亡命してきてる人たちにも、だね。さ、行こう。作戦会議してるみたいだし、ぼくらも混ざろうよ」


 ついに、オルセナ側の封印の御子も重い腰を上げ動き始めた。一方、フィルたちはというと……。


「ふう、こんなものですかね。これだけ医薬品を集めれば、当分はなんとかなるでしょう」


「そうね、ケモノどもの駆除も進められたし。今日はもう帰って、ゆっくり休みましょ」


 一休みしたフィルとアンネローゼは、鏡を経由して各地の病院を回っていた。やれる時にやっておこう、と追加で薬や包帯等の医療品の回収に乗り出したのだ。


 時刻はすでに夕方、そろそろ夜の闇が降りてこようとしている。これ以上の活動は危険と、鏡の中に戻ろうとしたその時。


「! アンネ様、何か来ます。新手のケモノか、ベルティレムの分身か……」


「いえ、違うわ。この気配……奴よ!」


 廃墟同然となった病院の屋上で小休憩していたフィルたち。そろそろ帰ろうか……というところで、何者かの接近を感知する。


 感じ取った気配は、懐かしくも憎たらしい知古の存在のモノ。彼らの前に降り立ったのは……。


「しばらくぶりですね、ヴァルツァイト・ボーグ。いえ、今はネオボーグでしたっけ? まさかそっちから会いに来るとは思いませんでしたよ」


「いい根性ね、今度という今度は徹底的にぶっ壊してあげる。さあ、覚悟し……!? ちょ、ちょっと。なんで土下座なんかしてるのよ!?」


「……今更ニなって、何を身勝手ナことを。そう罵倒シてくレて構わナい。だが、まずハ君たちニ謝りたい。これマでの悪行の数々、本当に……済まなカった」


 舞い降りた仇敵を前に、フィルとアンネローゼは身構える。いざ、再びの決戦……と思いきや。ネオボーグが取った行動は謝罪だった。


「な、なんですかいきなり。本当に今更……何の真似なんですか」


「ベルティレムは、この大地だケでなくカルゥ=オルセナをモ滅ぼそうトしてイる。奴はもウ正気でハない。奴に味方スる合理的ナ理由ハ消失しタ」


「……待って、それ本当? アイツ、いよいよトチ狂ってきてるのね。でも、アンタ自分が許してもらえると本気で思ってるわけ?」


「思ってハいない。故に、私ヲここで破壊シてくれテも構わナい。私が機能停止スれば、ベルティレムの作戦ニ少なくナい支障ガ出るダろう。そうナれば、お前たチの勝利が一歩近付ク。そのタめに破壊サれるコとが罪滅ぼしニなるノなら、喜んデ破壊されヨう」


 これまでとは明らかに違う、良心の呵責を感じているのだろう言動をするネオボーグに戸惑うフィルとアンネローゼ。


 本当に信じていいのか。自分たちを油断させ、騙し討ちにするための作戦なのではないか。疑心が二人の中に膨らみ、ぐるぐる渦を巻く。


「そう。そこまで言うなら、アンタをぶっ壊す。立ちなさい、ほら」


「……こうデいいカ?」


「ええ、そのまま動かないで。ハッ!」


 アンネローゼは槍を顕現させ、棒立ちしているネオボーグの右腕を突く根元から腕をもぎ取り、次いで左腕を破壊する。


 さらに両翼、両脚、モノアイと順番に淡々と壊していく。フィルが静観する中、ネオボーグは何もしなかった。


「後はコアを貫けば、アンタはまた死ぬわけだけど。いいの? 抵抗しなくて。ま、しようにももう無理なわけだけど」


「よい。言ったダろう、私ガ壊さレることで罪滅ぼしニなるのナら。喜んデそれヲ受け入れるとナ」


「……そう。分かったわ」


 ネオボーグに最後の問いかけをした後、アンネローゼは槍をゆっくりと後ろに引いていく。もはや何も見えない死の天使は、静かに処刑が執行されるのを待つ。だが……。


「なら、私はアンタを壊さない。本当に改心したってんなら、キリキリ働きなさいよ。ま、とりあえず私からはこれで手打ちってことにしとくから」


「しとくから、ではありませんよ。それならせめて、両腕だけにしてください。これ全部運んで修理するの、大変なんですからね?」


 アンネローゼは槍を投げ捨て、そう口にした。彼女は賭けてみることにしたのだ。これだけの覚悟を示したネオボーグが、真に更生したと。


 誇らしげにそう言ったものの、ジト目のフィルにボヤかれ途端にしどろもどろになる。言い訳を始める姿に、直前までの格好良さはない。


「だ、だってしょうがないじゃない! まさかここまで無抵抗だと思わなかったんだもん! それで、どこまでやってもいいのかなーって冒険しちゃって……」


「冒険しちゃって、じゃありませんよ! ここまで壊しちゃったら、修理するのにかなりの時間と資材が……」


「……ク、ククク。ハーッハハハハ! 全く、お前タちというモのは。こうニも緊張感のナいやりとりヲされるト、こちらマで拍子抜けスるといウものだ」


 フィルに叱られ、しょげ返るアンネローゼ。そんなやりとりを聞いていたネオボーグは、大笑いする。


「修理に関してハ心配スるな。コアさえ無事ナら、ある程度ハ自己修復ガ可能ダ」


「だってさ、フィルくん。よかったわね、そこまで心配しなくても良さそうよ」


「全く、調子いいんですから。……ネオボーグ、一つだけ忠告しておきます。鏡の世界には、お前を心から信用する者は一人もいません。どんな意図があるにせよ、怪しい行動を取れば……即座に破壊しますからね」


「あア、それデいい。ほんノ少しの間だケだが、私も共に戦オう。悲劇の果てニ狂気に染まった魔女ヲ止めルためニな」


 この瞬間、フィルたちとネオボーグの間に和解が成立した。強力な仲間を迎え入れ、フィルたちは本格的に動き出す。


 ベルティレム、そして復活を遂げつつあるミカボシへの逆襲に向けて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ボーグも良心に基づいて筋を通しに来た積りなんだろうが(ʘᗩʘ’) どの道コイツの居場所も無いだろ(゜o゜;企業ほぼ解体、魔戒王除籍、捕まってた刑務所脱獄、全部終わっても捕まるだけだぞ(≧Д…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ