250話─オリジナルとの戦い
「このままトドメだ! ライジングボルトアッパー!」
「仕留めてあげる……ホロウスピア!」
「マダ、マダ……!」
アンネローゼとマルカ、二人の放った攻撃が炸裂しようとした次の瞬間。突如、マルガリータの姿がかき消えてしまった。
当然、そうなれば二人がぶつかり合うことになってしまう。激突だけは回避しようと、アンネローゼが強引に軌道修正する。
「あっぶな! あとちょっと身体を捻るのが遅かったら、マルカとぶつかってたわ……」
「クソッ、奴のテレポートが厄介極まりねえな! どうにかして無効化しねえと、ここぞってところで避けられちまうぞ!」
「あいつ、こっちの攻撃にタイミングを合わせてテレポート回避をしてきたわね。あんな言動してても、知恵が働くってのは不味いわ……よっと!」
「ハズ、シタ……ア、グゥアッ!」
着地したアンネローゼたちは、互いそう口にし警戒を強める。何らかの方法で相手のテレポートを封じなければ、同士討ちすることになりかねない。
敵のテレポートを封じる策を考えようとするが、そこにマルガリータが攻撃を仕掛けてくる。そう簡単には、対策させてくれないようだ。
「グウゥアアア!!」
「チッ、さっきからチョコマカと……! だが、なんでだ? あいつの顔を見る度に、なんで胸がザワつきやがる……? こいつはナニモンなんだ?」
「グゥ、フウウゥゥゥ……タス、ケテ……」
「え? 今、なんて……きゃっ!」
テレポートを駆使し、アンネローゼたちの背後に回り込んで槍を振るうマルガリータ。そんな彼女を見る度に、マルカは違和感を覚える。
疑問を呟いたその時、相手の口から呻き声とは違う意味ある言葉が漏れ出す。助けて……不気味な鎧を着た敵が、確かにそう言ったのだ。
「聞こえたぞ、今確かに……あいつ、助けてって言ったよな?」
「ええ、聞こえたわ。一体どういうことなの?」
「ウゥ、アグア……ガッ!」
「二人とも、お待たせしました! ここからは僕も戦います! V:ストラッシュ!」
顔を見合わせ、どういうことか思案するアンネローゼとマルカ。大槍を構え、マルガリータが二人に突撃しようとしたその時。
魔女たちを送り届けたフィルが復帰し、戦線に加わった。少年の放った一撃を背中に食らい、マルガリータは吹き飛ぶ。
「お帰り、フィルくん!」
「早めに戻れてよかったです、アンネ様。戦況はどんな感じですか?」
「ああ、それがな……」
マルガリータは体勢を立て直したいのか、距離を取って様子を窺いはじめる。その間に、アンネローゼとマルカはこれまでのことをフィルに伝えた。
「なるほど、テレポートですか。それは厄介ですね」
「ああ、それによ。あいつを見てると、なんだか胸の奥がザワめくっていうか、変な感覚が」
「そりゃそうでしょうね、あの人マルカさんのオリジナル体ですし」
戦いの中で感じていた違和感をフィルに告げたところ、あっさりととんでもない答えが返ってきた。少年の言葉に、マルカは素っ頓狂な声を出す。
「はああああああ!? ウソだろ!? あいつがアタシのオリジナルだって!?」
「ええ、顔を見た瞬間分かりましたよ。あ、この人はマルカさんのオリジナル体だなって。ただ、そうなると問題は……彼女が何故並行世界にいて、あんな状態になっているのか、ですね」
「それはまあ……ある程度察しがつくわね。ベルティレムって奴の仕業でしょ? あんなヘンテコな言動してるのは」
ウォーカーの一族としての鑑識眼により、フィルはあっさりとマルガリータの正体を看破してみせた。だが、そうなると次の疑問が湧く。
フィルの提示したいくつかの疑問のうち、一つにアンネローゼが答えを出す。というより、現在の自分たちの状況を考えればすぐ分かることだ。
魔女たちによる反撃を無意味なものとするべく、刺客を差し向けてきたのだ。よりにもよって、魔女たちのオリジナル体を。
「あんにゃろ、悪趣味極まりねぇな! ホントに腹が立つぜ、ベルティレムめ!」
「となると、出来れば殺さず解放してあげたいところですが……上手く行く可能性、低いですね。ベルティレムが簡単に手駒を救わせるようなことはないでしょうから」
「ウグルル、アアアアア!!!」
自分のオリジナルと戦わなければならない状況に立たされたマルカは、ベルティレムのやり方に怒りをほとばしらせる。
そんな中、マルガリータが反撃に出た。テレポートを駆使し、息もつかせぬ連続攻撃でフィルたちを翻弄する。
「あーもう、対処が難しいワンパターン戦法ってホントに嫌い! フィルくん、あいつどうす……あいたっ! もー、ホントに怒った!」
「ああっ、落ち着いてくださいアンネ様! あんまり怒ると冷静な対処が」
「しゃらくさいわ! こうなりゃこっちも本気出してやる! デュアルアニマ・オーバークロス! ラグナロク、オン・エア!」
怒濤の攻撃を避けきれず、ついに被弾してしまったアンネローゼ。幸いにも軽傷で済んだが、延々テレポート戦法をされついにブチ切れた。
切り札である漆黒の堕天乙女へとマキーナを変化させ、重獄槍ゲヘナを構える。そして、おもむろに己の背後へ槍を振るう。
「オラッ! そこよ!」
「アグアッ!」
「おお、いいぞ! 一撃食らわせてやったな! ……にしても、随分すげぇカッコになったなおい。イメチェンし過ぎだろお前」
「それは今はいいのよ。フィルくんなら分かるだろうけど、このラグナロクの一撃を食らった相手がどうなるか……ふふふふふ」
「ア、グア……ハア、ハア……オ、モイ……」
アンネローゼの放った攻撃は、かすり傷程度のダメージにしかならなかった。だが、彼女にとってはそれでもよかったのだ。
当たりさえすれば、重力という鎖で縛り付けることが出来るのだから。神々の黄昏を呼ぶ魔狼のように、マルガリータを。
「お、なんだ? あいつ目に見えて動きがトロくなったぞ」
「そりゃそうですよ、今のアンネ様が操るのは風ではなく重力ですからね。相手の身体を重くして、テレポートどころじゃない状態にしたんです」
「ほー、便利なモンだな。ってか、そんなの使えるなら最初からやれよ!」
「っさいわね、初手でやって通じなかったらこっちが窮地に立たされちゃうでしょ! そうならないように、頃合いを見計らってたのよこっちは!」
ラグナロクの能力に感心した後、ツッコミを入れるマルカ。そんな彼女に、アンネローゼは敵の攻撃を避けながら反論する。
どれだけテレポート出来ようが、肝心の攻撃速度がゾンビ以下では何の意味もない。ノロノロトロトロした攻撃など、目を瞑っていても避けられるのだ。
「アグ、ア……グ、ウウアッ!! ……テ、タス、ケテ……」
「どうやら、彼女も救いを求めているようです。早く無力化して、正気に戻してあげましょう。見ていて……とてもやるせないですし」
「だな、こんなムナクソ悪いモン見せられ続けるなんて我慢ならねぇ。さっさと倒して……」
「グ、ダメ……。クル、ナ……クルナ、オマエタチ……シヌ……ウ、アアアアア!!!」
重力の鎖に絡め取られ、もはやまともに戦えないマルガリータ。彼女をを倒し、洗脳を解こうとするフィルたち。
が、そんな彼らにマルガリータが警告を発する。直後、彼女の鎧に装着されているギプスが明滅しはじめた。
嫌な予感を覚えたフィルは、即座にマルガリータから離れるようアンネローゼたちに声をかけようとした。だが、それよりも……敵の自爆の方が早かった。
「アアアアアア……シニ、タクナカッタ……。モトノセカイニ、カエリタカッタ……ノニ……」
「まずいわ、この距離じゃ逃げ切れな」
「二人とも、掴まれ! ぜってぇ手を離すなよ、離したら死ぬぞ! ライトニング・オーバーラン!」
マルガリータの最期の言葉が耳にこびり付くのを感じながら、アンネローゼは悟る。爆風からは逃れられないと。
そわな彼女やフィルの腕を掴み、マルカが勢いよく商店街の出口目掛けて走り出す。稲妻のような速さで、爆風に追い付かれまいと必死に。
ふわふわアイの回収までは出来ず、爆風に呑まれていくのを気にする余裕もなく……魔女はひた走る。そのおかげで、ギリギリ自爆攻撃から逃れることが出来た。
「はあ、はあ……。無事、切り抜けられたな……。少し、疲れちまった……」
「マルカさん……ごめんなさい。あなたのオリジナル体を、助けられなくて……」
「仕方ねえさ、いきなり自爆するなんてわかりっこねえからな。……ベルティレムめ。この借りは必ず返してやる……覚悟してろよ、クズ野郎め」
オリジナルを救えなかったことにやるせなさを感じ、謝罪するフィル。そんな彼を責めることなく、マルカはベルティレムへの怒りを募らせる。
やりきれない思いを抱えながらも、三人は目的を果たすため進んでいく。この世の地獄のただ中をひたすらに。




