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241話─不穏なる道しるべ

「ぐ、う……ここ、は……」


「ローグ! 良かった、目が覚めたんですね。一時はどうなることかと思いましたよ」


「フィ、ル……? ああ、そうだ。オレは……無事にオルセナに渡れたのか」


 舞台は変わり、カルゥ=オルセナ。シュヴァルカイザーの基地内にあるメディカルルームにて、ローグは目を覚ました。


 看病をしてくれていたのだろう、心配そうな表情を浮かべたフィルの顔がローグの視界いっぱいに入ってくる。


 身体を起こすと、全身に鈍い痛みが走る。目線を下に向けると、身体中包帯で覆われていた。


「ローグ、一体何があったんですか? あなたを見つけた時、酷い怪我をしていて……今にも死にそうなのを、大急ぎで連れて帰って治療したんですよ」


「悪いな、助かったぜフィル。……アンネローゼやギアーズのじいさんらも呼んできてくれ。全員に話さなきゃならない」


 アンブロシアと和解し、彼女を並行世界に送り出した直後。突然血だらけ傷だらけのローグが転移してきたため、驚いてしまったフィルたち。


 イゼルヴィアで何か異変が起きたのだろうと察し、問いかけるフィル。そんな彼に、真剣な表情を浮かべてローグは答えた。


 少年は頷き、つよいこころ軍団を使い基地で寛いでいるアンネローゼたちを呼び寄せる。全員が揃ったところで、これまでのいきさつが語られた。


「……なるほどのう、イゼルヴィアではそんな大戦争が起きておったのか」


「いよいよルナ・ソサエティと一戦を交えたってわけね。皆、無事かしら……」


「幸い、時のリセットのおかげで誰も死んじゃあいないが……待て、オレがここに運び込まれてから何日経った?」


「えーと、もう五日は経ったかしら」


 ルナ・ソサエティとレジスタンス間の全面戦争の勃発、ヴァルツァイト・ボーグの復活……そして、仮称Xの正体。


 これまでにあった出来事を総べて伝え終えた後、ふとローグは気付く。自分が逃げ延びてきてから、どれだけ時が経ったのか。


 場合によっては、手遅れになってしまっているかもしれないと。そんな彼の胸中など知らず、呑気な口調でアンネローゼが答えた。


「五日!? クソッ、そんなに経っちまってるのかよ! もうとっくに決着がついてるはず……早くイゼルヴィアに戻らね……うぐっ!」


「あああ、ダメですよ! 昨日やっと、傷が塞がったところなんですから! 大人しく寝てないと、傷が開きますよ!?」


「んなこと言ってる、場合じゃねえ。止めないと……仮称X、いや悦楽の君を。奴はとんでもねえことを企んでる……そんな予感がするんだ」


 無理矢理にでもイゼルヴィアに帰還しようとするローグを、全員で押しとどめる。無理矢理メディカルマシンの中に放り込み、ガスで眠らせた。


「……ねぇ、フィルくん。ローグの話でさ、いろいろ見えてきたわね」


「ええ。アンブロシアの言っていたことと合わせて考えると……恐らく、その悦楽の君という人物はベルティレムという魔女の魔魂転写体だと思われます」


 場所を談話室に移して、話し合いを続けるフィルたち。ローグとアンブロシア、双方の話を聞き……フィルは黒幕の正体を悟る。


「しかし、そのベルティレムという魔女が仮称Xの真の正体だとして……一体、何を目的に暗躍していたのだろうか」


「さあね、一つ分かるのは……すっごくロクでもないことが目的ってことね」


「おー、さすがアンネちん! あったまいー!」


「これ、真面目にやらんか! ……しかしどうする、フィルよ。ローグがあの状態では、イゼルヴィアに連れては行けんぞ」


 オボロの言葉に、アンネローゼやレジェが答える。少々不真面目な空気が出てきたため、ギアーズが一喝して場を収めた。


 次いで、これからどう動くかについてフィルに尋ねる。難しい顔をして、少年は考え込む。ウォーカーの力を使えば、すぐにでも移動は可能だ。


 だが、傷が癒えていないローグを一人で残していけば何をするか分かったものではない。焦りから一人で無茶をし、事態が悪化する可能性もあるのだ。


「……仕方ありません。誰か一人ここに残って、ローグの傷が癒えるまで待つしか」


「ごめんなさい、失礼するよ。久しぶりだね、英雄のみんな」


「きゃあっ! ちょっと、いきなり出てこないでくれる!? ビックリしたじゃないの!」


 今後の方針を纏めようとした、その時。突如談話室の出入り口の扉を鏡が覆い、そこから封印の御子……クルヴァが飛び出してきた。


 突然の登場に、アンネローゼは驚いて椅子からずり落ちてしまう。尻を床にぶつけ、涙目になりながら文句を言う。


「ごめんね、だけど……まずいことが起きたんだ。イゼルヴィアで、ミカボシの力が目覚め始めてる。封印の力を押し退けて、どんどん強くなってるんだ」


「なんですって!? ってことは、イゼルヴィアの封印の御子が……殺されたってこと?」


 クルヴァの発した言葉に、フィルたちは衝撃を受ける。恐る恐るアンネローゼが尋ねると、封印の御子は首を横に振った。


「ううん。感じるんだ、ぼくの運命変異体はまだ生きてるって。だからこそ不可解なんだ。封印の力が維持されてるのに、どうしてミカボシの力が……」


「……もしかして。ベルティレムの目的は、ミカボシを復活させることなんじゃないでしょうか」


「え……!?」


「ずっと考えてたんですよ、ベルティレムのその魔魂転写体が何のために暗躍してるのか。あまりにも不可解な行動が多すぎて、真意を掴めませんでしたが……今、ようやく分かりました」


 双子大地を股にかけた、ベルティレムの暗躍。彼女が何のために活動しているのか、これまでフィルには理解出来なかった。


 わざわざ記憶を消して隠蔽工作をしてまで、仲間である七栄冠の排除に動く意味が分からなかった……これまでは。


「ミカボシをよみがえらせるのに、七栄冠が邪魔になるんだとしたら? だから、ベルティレムは……」


「こっそりアンブロシアを消す必要があったってことね」


「だとしたら、最終的に狙うのは……ぼくたち封印の御子だね。そのベルティレムって人が、どっちの大地にいるか分からないけど……」


 点と点が繋がり、一つの線になりつつあった。考察を重ねる中、クルヴァがそう呟く。ミカボシの完全な復活を果たすには、二人の封印の御子を殺さねばならない。


 そこまでは分かったものの、問題はここからだ。ベルティレムがオルセナとイゼルヴィア、どちらの御子を先に始末しようとしているのかが分からないのだ。


「ううむ、こうなった以上はますます全員で動くわけにいかないのう」


「そうですね……なら、こうしましょう。僕とアンネ様の二人で、イゼルヴィアに行きます。オボロたちはローグの看病をしつつ、クルヴァさんを守ってください」


「ああ、それがいいだろうな。クルヴァ殿も、それでいいだろうか」


「ぼくは構わないよ。敵の能力が分からない以上、鏡の中の世界が絶対に安全だとは言い切れないしね」


 アンブロシアとの戦いに続き、今回も二手に別れることに。こうなれば善は急げと、フィルとアンネローゼは双子大地に向かう。


 金色の門を作り出し、座標をレジスタンスのアジトに設定しようとするフィル。だが、途中で表情が変わった。


「こ、これは……!?」


「フィルちん、どったのー?」


「向こう側で、誰かが座標を勝手にいじってます! これは……ソサエティ本部? のようです」


 イゼルヴィアにいる何者かが、フィルに力に干渉して強引に座標を指定してきたようだ。罠の可能性が非常に高い……が、躊躇していられない。


 すぐにでも双子大地に渡り、もう一人の封印の御子を守らねばならないのだ。それだけでなく、イレーナたちの安否も確認する必要がある。


「……仕方ありません。アンネ様、このまま向こうに渡ります。覚悟はいいですね?」


「ええ、フィルくんと一緒ならどこにだって行ってやるわ。向こうに着いた瞬間、最終決戦なんてことになっても驚きゃしないわ」


「分かりました、では行きましょう。博士、オボロ、レジェ。オルセナの方は頼みましたよ!」


 そう言い残し、門を開いてフィルとアンネローゼは飛び込んでいった。残されたギアーズたちは、クルヴァを守るため行動に移る。


「ささ、とりあえず基地の奥に行こうかの。セキュリティレベルを最大にして、敵襲に備えるとしようか」


「あ、じゃあリーファも呼ばなきゃ。今、ぼくの帰りを待ってるから」


「そうだな、彼女にも事情を話しておいた方がいい。しかし……大変なことになったものだな」


 オルセナとイゼルヴィア、重なり合う二つの大地はどのような運命をたどるのか。その答えは、まだ誰も知らない。

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― 新着の感想 ―
[一言] ローグの緊急脱出から早5日(٥↼_↼) 急いで出向く先から行き先変えられてるけど果たして歓迎か?罠か?(ʘᗩʘ’)
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