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240話─終わりの始まり

「……強い。まさか、俺が敗れるとは」


「なかなかやるわね。でも……私には及ばないわ。単純な攻撃力だけなら、七栄冠最強の私に挑むなら……あと人数を三桁くらい増やしてくるべきだったわね」


 結論から言えば、ジェディンたちはヘカテリームを仕留めることが出来なかった。二時間に及ぶ、長い死闘の末……ジリ貧になり、敗北を喫した。


 不幸中の幸いと言えるのは、大怪我を負ってはいるが三人とも死んではいないことだろう。もっとも、この場から逃げおおせることは不可能に近いが。


「さあ、そろそろ終わりにしましょう。誰から死にたいかしら? 選ばせてあげるわ、最初に」


「そうダな、ではオ前から死ンでもらオうか」


 頭上に五つの小さな火球を半円状に並べ、死刑宣告を下すヘカテリーム。直後、彼女の背後から無機質な声が響く。


 彼女が咄嗟に身体を横にズラした瞬間、胴体があった場所を槍が通過していった。あと少し反応が遅れていたら、そのまま貫かれていただろう。


「お前、ネクロモート……? 何故ここにいるの、全てレジスタンスのアジトに差し向けたはずよ」


「ぐっ、待て……そいつはただのネクロモートじゃない! ネオボーグ……いや、ヴァルツァイト! 何故貴様がここにいるんだ!」


「ククク、随分とボロボロにナってイるじゃなイか。いい姿ダな、ジェディン。私がコこにいル理由、知りタいか?」


 火球ごとテレポートし、距離を取ってから問いかけるヘカテリーム。彼女の問いではなく、ジェディンの叫びに答えるネオボーグ。


 かつての敵がボロボロにされているのを見て、すっかり気を良くしているようだ。槍をヘカテリームの方に向けながら、答えを口にする。


「今日の私ハ気分がイい、教えテやろう。ついニ暗殺スる時が来たカらだ、この魔女……へカテリームをナ」


「何故? お前たちネクロモートは私たちの制御下にあるはず。暗殺なんて出来るわけがないわ」


「出来るサ。私だけハ、他の機体ト違うカらだ。貴様らが保管シていた、ヴァルツァイト・ボーグの残骸カら抜き出サれた人工知能ヲ復元されテ復活したのガ、この私なのダ!」


「……ああ、なるほど。特殊兵器工場(プラント)に封印していたアレを、勝手に使った愚か者がいるのね。で、それは誰なのかしら」


「そこマでは教エない。あの世でゆっクりと考えルのだナ、そこニ転がっテいる者タちと共に!」


 怪我と疲労で動くに動けないジェディンやエスタール、コヨリを尻目に戦いを始めるヘカテリームとネオボーグ。


 体力を回復させながら、ジェディンは思考を巡らせる。何故このタイミングで、ネオボーグが反旗をひるがえしたのかを。


(何故だ? 奴がヘカテリームを殺すメリットなどないはず。……いや、違う。奴自身には無くても()()()()()()()()()()()()にはあるんだ。ヘカテリームを抹殺する理由が! なら、恐らく……)


「ジェディンさん!? なにやってるの、大人しく寝てた方がいいって!」


「そうも、言ってられん。奴は何かを企んでる……それを暴かねば、まずいことが起きる。そんな予感がするんだ」


 力を振り絞り、フラつきながら立ち上がるジェディン。倒れ伏したコヨリに止められる中、彼は覚束ない足取りで進む。


 ネオボーグを阻止し、全てを仕組んだ黒幕が何者なのかを吐かせなければならない。だが……ゲームオーバーの時が来てしまう。


「やれやれ、苦戦しているようだねぇ。せっかく絶好のタイミングを教えてあげたのに、有効活用出来ていないじゃないか」


「!? ベルティレム、何故あなたがここに! まさか、このネオボーグとかいうのを作ったのは……」


「そう私……いや、私の仕業だよぅ。ここまで来たからには、もう正体を隠す必要もないねぇ!」


 火球を叩き込み、ネオボーグを屋上から落としたヘカテリーム。そんな彼女の頭上から、友……ベルティレムの声が聞こえてくる。


 驚くヘカテリームにそう言いながら、偽ベルティレムはついに正体を現す。悦楽の君は大笑いしながら、右手の指を鳴らした。


「ぐっ! なに、これ。身体が動かない……!?」


「貴様か……ヴァルツァイト・ボーグを新生させた黒幕は!」


「んふふふ、そうだよぅ。どうかなぁ、私の束縛の魔法はぁ。気に入ってくれたかぁい?」


 ジェディンやヘカテリーム、エスタールにコヨリの身体が石になったかのように動かなくなる。何とかもがこうとする彼らを見て、悦楽の君は笑う。


 ふわりとヘカテリームの前に降り立ち、右手の人差し指を伸ばして額に当てる。そして、彼女の持つ『時を固定する魔法』と『固定した時をリセットする魔法』の力を奪いはじめた。


「おま、え……なにを、して……」


「んっふっふっ、ちょっと計画に変更があってねぇ。お前を殺すのは後回しになったのさぁ。一人でも多く、絶望してもらいたいからねぇ。だから、代わりにこの魔法を消し去らせてもらうのさぁ」


「ぐ、ああああ!!」


 黄色いもやのようなものが引き抜かれ、霧散してしまった。同時に、ヘカテリームが苦しそうに呻き声をあげる。


 魔法の力を奪われ、体力を消耗した彼女は束縛から解放されると同時に倒れてしまった。満足そうに頷きながら、悦楽の君は宙に浮く。


「さぁて、これでいよいよ……んっふっふっ。私の本体の目的が、達成される時が来たよぉ」


「……本体、だと? そうか、貴様は……何者かの魔魂転写体なのか!」


「そうさぁ、死にかけの魔女さん? ああ、そうだぁ。いいものを見せてあげるよぅ。ほぅら、見てごらん。君たちのお仲間がぁ、ソサエティの魔女たちやネクロモートと戦ってるねぇ」


 ヘカテリームと違い、いまだ動きを止められたままのジェディンたちの前に大きな鏡を三つ呼び出す悦楽の君。


 映し出されているのは、ぶつかり合う両勢力の魔女軍団とレジスタンスのアジト、並びに要塞を守るため戦っている者たちだ。


「時が満ちる……ミカボシ復活を知らせる、盛大な花火を上げようねぇ。さあ、景気よく弾けてみようかぁ!」


「あ! み、見てください隊長! ネクロモートたちが、どんどん突撃して……」


「……自爆、しただと!?」


 悦楽の君による遠隔操作によって、ネクロモートたちの自爆スイッチがオンになる。要塞目掛けて数百機の死の天使が降り注ぎ、大爆発を起こす。


 映し出されていたイレーナやトワイアたちは、爆風に呑まれ姿が見えなくなる。たった数分で要塞が崩壊し、ついでレジスタンスのアジトが同様の末路を辿る。


「……やめろ、やめてくれ! 仲間たちがいるんだ、そこには! 私たちの、大切な……!」


「んっふっふっ、安心しなよぉ。運が良ければ生き残ってるさぁ。多分ねぇ。ほぉら、見てごらん? こっちももう、みぃんな死ぬところだよぉ」


 三つの鏡のうち、要塞とアジトを映していたものが黒く塗り潰され床に落ちて砕け散った。残る一つに映されていた空の戦場でも、異変が起きていた。


 突如としてルナ・ソサエティの魔女たちの挙動が変化し、一斉に突撃を始めたのだ。嫌な予感をジェディンたちが覚えた、その刹那。


 ネクロモートのように、魔女たちも自爆してしまった。無数の爆風が広がり、全てを呑み込んでいく。


「そん、な……どう、して」


「んっふっふっ、最初からこうするつもりだったのさぁ。私の目的はルナ・ソサエティ……そして、レジスタンス双方を潰すことだからねぇ!」


「……だ。何故だ! 何故貴様はこんなことをする! 言え! ベルティレムに化け、暗躍をしてきた!」


「復讐さ。全てはねぇ……遠い遠い昔に、お前たちが殺したたった一人の男の子のためにしてきたんだよぉ。彼の……ミシェルの仇を討つためにねぇ!」


 エスタールが激高して叫ぶ中、それに呼応するように悦楽の君も咆哮をあげる。悦楽の君はさらに高度を上げ、自身の背後に空間の歪みを作り出す。


「このカルゥ=イゼルヴィアも、滅ぶ時が来た! 終末が訪れるのを、震えながら待っているといいよぅ。()()()生き残らせてあげたんだからさぁ……たっぷり絶望してほしいねぇ! んっふっふっふっふっ!」


「待て! ……クソッ、逃げたか。奴め……一体何をするつもりなんだ?」


 悦楽の君は空間の歪みに飛び込み、姿を消した。ようやく動けるようになったジェディンが呟いていると、エスタールが声をかける。


「……考えるのは後だ。まずはアジトに戻り、生存者をさが……うぐっ!」


「無理をするな、その役目は俺がやる。コヨリ、他の班を探して合流するんだ。このことを伝えて、シゼルたちのところに行かせろ」


「お、押忍!」


「……他の班の者たちが、生きていればいいんだが」


 急ぎ帰還しようとするエスタールだが、身体がついて行かず倒れてしまう。回復が早かったコヨリにそう指示を出した後、ジェディンが代わりにアジトに戻る。


「……頼む。みんな、生きていてくれ。また仲間を失うなんて、俺には……耐えられない」


 絶望的な状況の中、藁にもすがるような思いでジェディンは空を進んでいく。双子大地を巡る物語は、ついに……終焉を迎えようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 遂に動いたか(ʘᗩʘ’) よりによって自爆攻撃で両軍壊滅とは(٥↼_↼) ここ最近ジェディンに色恋沙汰が多かったが、この状況は堪えるぞ(─.─||)
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