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233話─暗殺者、胎動

 時のリセットが行われて、全てが元に戻る。死んだ者たちも、壊されたキカイの兵隊も。戦いが始まる前の朝に巻き戻されたのだ。


 だが、今回はインターバルを挟まない。即座に軍を纏めて、ルナ・ソサエティの軍団が出発していった。次の狙いは、敵の防衛拠点だ。


「さて、始まったわね。今回はどれだけ戦果をあげられるのか……気長に待つとしましょうか。カーリー、汗をかいちゃったからお風呂に入りたいわ」


「かしこまりました、すぐにお湯を沸かします」


「頼んだわ。お湯が沸いたら、いつものように背中を流してちょうだいね」


「ひゃ、ひゃい……」


 時の固定を解除するのに魔力を使い、汗だくになったヘカテリームは風呂を所望する。側に控えていた従者を連れ、部屋に帰っていった。


 彼女が去ったのを契機に、マーヤたちも退出していく。最後に一人だけ、偽ベルティレムだけが残り悪巧みを始める。


「さてさて、時のリセットが出来るのは後二回。いつ仕掛けるか、タイミングを計らないとねぇ。ふふふふふ」


 彼女の目的は、レジスタンスの壊滅。そして……同胞たる月輪七栄冠の一人、ヘカテリームの排除。二つを達成するため、ついに動く時が来た。


 そう判断し、どのタイミングでヘカテリームの暗殺をネオボーグにさせるかを考える。だが、少なくとも今ではないと判断していた。


(このタイミングでヘカテリームを抹殺したら、レジスタンスを処理しきれなくなる……すでに魔女部隊もネクロモートも倒されている以上、数の暴力で押し切れるか怪しい)


 ルナ・ソサエティ側の手札は、ほぼ出し尽くしたに等しい。下級・中級の魔女のみならず、上級魔女や自分たち七栄冠の魔法は相手にほぼ把握されている。


 相手の防衛拠点や兵器の情報が無い現状では、七栄冠も含めた全戦力によるゴリ押し突破が有効なのか判断がつかないのだ。


 そんな状態で数を頼みに総攻撃を仕掛けたところで、勝てる見込みはほとんどないと言っていい。もう一回分は、時の固定とリセットを利用しておきたかった。


「ま、今すぐ決める必要はないか。ヘカテリームもだいぶ消耗してきてるし……ネオボーグ程度でも仕留められるようになるまで、あと少し。それまで待てばいいさ、今までみたいにね……」


 そう呟き、偽ベルティレムは席を立つ。もうすぐ、彼女とその本体の悲願が叶う時がやって来る。ミカボシは微睡みから覚め、誰も知り得ぬ闇の底でうごめいている。


「……もうすぐ、準備が整う。最後の計画を実行するまであと少しだ。ミシェル……必ず、仇を取るからね」


 部屋を去りながら、亡き弟の名を口にした。



◇─────────────────────◇



「うわぁぁぁぁん、トゥリさ~ん! よかった、よかったっすぅぅぅぅぅ!!」


「オゥ、イレーナガール! 心配かけマーシたね、でもドントウォーリー! ミーは無事リバイバル! ピンピンしてるデース!」


 その頃、レジスタンスのアジトでは死んだ事実が消えたトゥリが生えてきていた。ひょっこり出てきた彼女の元に、部下やイレーナが集まる。


 自分のミスで彼女の死の一因を作ってしまったことを悔いていたイレーナは、わんわん泣きながらトゥリに抱き着く。


 そんな彼女を、トゥリは優しく抱き締める。普段の言動からは想像も出来ない、母性に溢れた微笑みを浮かべていた。


「……これで、イレーナはもう大丈夫だろう。次は上手くやれるな」


「ええ、一時はどうなるかと思ったわ。私の努力がムダにはなったけど、ま、結果オーライってことでいいわね」


 アジトと一室ではしゃいでいるイレーナやトゥリたちを、僅かに開いた扉の隙間からジェディンとシゼルが覗く。


 今の彼女たちなら、次の戦いに問題なく参加出来ると判断して安堵していた。そこに、背後から声をかけられる。


「……ここにいたか。総裁がお呼びだ、二人とも着いてこい」


「ん? お前は……ああ、以前の作戦会議にいた隊長の一人か」


「……エスタール。レジスタンスの暗殺部隊を率いる隊長だ。覚えておけ」


 黒い忍装束に身を包んだ、褐色の肌を持つ女はそう口にする。レジスタンスには、全部で六つの部隊が存在している。


 シゼルとトゥリがそれぞれ率いる第一、第二戦闘部隊。トリンが率いる、裏工作や仲間のアシストを行う工作部隊。


 スーマンが率いる、兵器や医薬品等の研究開発を行う研究部隊。六人目の魔女、トワイアが率いる拠点の防衛部隊。最後の一つが、エスタール率いる暗殺部隊だ。


「……総裁、連れてきた。これでいいか?」


「ありがとう、エスタール。では、早速話を始めようか。ジェディン、悪いが君は次の戦いはアジトで待機していてほしい」


 エスタールに案内され、総裁の部屋に向かうジェディンたち。部屋に入ると、開口一番にメイナードがそう告げた。


「どういうことだ? 何故俺が残らねばならない?」


「君には、エスタールと共同で()()()()を行ってもらいたい。彼女の率いる部隊から、ある程度推測していると思うが……暗殺してほしいんだ。月輪七栄冠のトップ、魔女長マーヤをね」


 疑問を口にするジェディンに、メイナードはそう答えた。彼女の言葉を聞き、シゼルの身体と表情が強張る。


 ルナ・ソサエティを束ねる、七人の最高幹部たる月輪七栄冠。そのトップであるマーヤを暗殺する……そらが意味するところは一つ。


「なるほど、これが最後だから一気に内外からの攻め崩しを狙うわけだ」


「ああ。マーヤが死ねば、ソサエティの結束力はたちどころに失われるだろう。上手くいけば、彼女一人の犠牲で……無用な殺戮を行わずとも、勝利を手に出来る可能性が高い」


 総指揮を執っているマーヤが死ねば、ソサエティの統制は乱れ完全に崩壊する。他の七栄冠が健在でも、立て直しにはかなりの時間を要するだろう。


「テルフェやアンブロシアが消えて、マーヤ死後の統率を効率的に回復出来る者はゼロになった。今がチャンスなんだ、私たちが勝つには」


 テルフェがいれば、暴力的な手段で魔女たちを無理矢理纏め上げることが出来ただろう。アンブロシアがいれば、アンデッドを使い統制回復までの時間稼ぎが出来ただろう。


 だが、前者は死に、後者は今カルゥ=イゼルヴィアにいない。マーヤを暗殺し、ルナ・ソサエティに致命的なダメージを与える絶好の機会が来たのだ。


「なるほどな、話は理解した。だが……ローグに話さなくていいのか? 奴はマーヤと顔馴染みなのだろう」


「……とっくに話はしたよ。かなり渋っていたが、最終的には承諾してくれた。彼によるマーヤの説得が失敗したら、という条件付きでね」


「……奴は今、ソサエティに再度潜入している。リセットのせいで多少遅れるだろうが、奴のことだ。マーヤと会って話をつけてくるだろう。どんな結果になろうともな」


「ジェディンたちに動いてもらうのは、ローグが帰還してからだ。もし彼が上手くマーヤを懐柔し、降伏するよう仕向けられればそれでよし。そうでなければ……」


 エスタールと共に説明をした後、メイナードはあえて最後まで言い切らず言葉を濁した。彼女とて、危険の多い暗殺という手を出来るだけ使いたくない。


 だが、最終戦はこれまで以上の激戦になることは火を見るより明らか。下手をすれば、レジスタンスが敗れ全滅するかもしれない。


 彼女はレジスタンスを束ねる者として、部下たちを生き延びさせる義務があるのだ。仲間たちを生き延びさせることが出来るなら、暗殺も行う。


 そんな強い決意と覚悟を、メイナードは全面戦争の開始時から固めていた。


「……分かった。なら、俺も力を貸そう。危険な任務になるだろうが、必ずやり遂げてみせる」


「……お前の実力は、他の魔女たちから聞いている。共にやり遂げよう、この困難な任務を」


 ジェディンはメイナードの意思を汲み、暗殺作戦への参加の意を表明する。そんな彼に向かって、無表情を貫きながらエスタールが声をかける。


 表情こそ替わらないが、声には暖かみがあった。彼女なりに、感謝しているのだろう。


「……では、ジェディンが次の戦いに参加しない旨をみんなに伝えてくるわ。そのために私を呼んだのでしょう?」


「ああ。トゥリはあの性格だからな、必要以上に喧伝して変な尾ヒレが付きかねん。頼んだぞ、シゼル」


「任せて。でも、ローグが説得に成功したら暗殺部隊が動く必要は無くなるんでしょう? その場合は何をするの?」


「ああ、その時は他の七栄冠たちを暗殺してもらう。マルカもヘカテリームもベルティレムも、生かしておくのは危険な相手だからね」


「なんだ、結局暗殺するのは変わらないのか」


 シゼルの質問にメイナードが答え、それを聞いていたジェディンがやれやれと首を横に振る。かくして、彼らがどう動くことになるのかは……ローグに託されることとなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 戦争も正面衝突だけでなくなってくるのは今じゃ必然だしな(ʘᗩʘ’) でも果たしてターゲットがするなり発見できるか?少し前は失敗だったが(٥↼_↼)
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