24話─天空の根性合戦!
一方、地上にて戦っているフィルはと言うと……。
「食らえ、マナリボルブ!」
「ぐああっ!」
「一人で戦うな! 全員で囲んで叩け!」
カンパニー本社から派遣された軍団を相手に、単独で大立ち回りを繰り広げていた。数の差をものともせず、一気に十人単位の敵を薙ぎ払う。
そこで、闇の眷属兵たちは十数人で束になり、フィルを取り囲む。今度こそ数の暴力で仕留められる、と思っていたが……。
「ムダなことです。武装展開、漆黒の刃:チェインソーサー!」
「な、なんだ!? 全身から刃が!」
「まずい、全員止まれ! 止ま……ぎゃああ!!」
自分から攻めるより、相手の自爆を誘うべきと判断したフィルは武装を展開する。その場にしゃがんで背を丸め、全身から駆動する刃を生やす。
それを見た最前列の兵士は、慌てて急ブレーキをかける。が、後続の兵士たちはそうもいかない。止まれなかった仲間に押し出され、前から順に餌食になっていく。
「包囲の層が薄いのは……あそこですね。死にたくないなら退きなさい、兵士たち! チェインソーサー・タックル!」
「ひえっ! ひ、退け退けぇぇぇ!! ちんたらしてると挽肉にされるぞぉぉぉ!!」
スプラッターな死に様を見せた仲間を見て、兵士たちは完全に戦意を喪失した。そこにフィルが突っ込んでくるのだから、もう耐えられない。
挽肉になるのはご免だと、全員矢も盾もたまらず逃げ出していく。木っ端の相手は騎士団でも問題無しと判断し、フィルは先に進む。
「さて、本陣の奥に行きますかね。ポータルゲートを破壊して、増援が来るのを止めないと」
そう呟き、血塗れの刃を切り離した後フィルは走り出すのだった。
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「食らエ! フェザーダーツ!」
「そんなもの当たらないわよ! シャトルエスケープ!」
その頃、アンネローゼは熾烈な空中戦を繰り広げていた。バルーゼの放つ羽根を避けつつ、相手に接近しようとするが……。
「ムダなこトを。メタルフェザーウォール!」
「ああもう、邪魔ぁ! この羽根、ホンット鬱陶しい!」
バルーゼは宙に浮かぶ羽根の盾を操り、アンネローゼの進路を阻む。相手が止まっている間に突撃し、クチバチで貫こうとする。
今度はそれをアンネローゼが避け、反撃するより前に遠くに離脱する敵に歯噛みする……という流れが、かれこれ十分は繰り返されていた。
(このままじゃダメね、闇雲に攻撃を繰り返すだけじゃこっちが疲れちゃうわ。かと言って、フィルくんみたいに頭良くないし……いい作戦なんて思い付かないわね)
進路を邪魔する盾を蹴り飛ばしつつ、アンネローゼは思案する。以前戦ったリバサとは違い、今度の相手には単純な力押しは通用しない。
有効な作戦を練り、的確に反撃しなければいつまで経っても勝つことは不可能。それを頭では分かっているのだが、中々アイデアが湧かない。
「どうシた、逃げ回ってイルだけデは私にハ勝てぬゾ!」
「うっさいわね、そんなことくらい言われなくても分かってんのよ!」
盾を遠隔操作で飛ばしつつ、挑発するバルーゼ。アンネローゼは槍を振るい、盾を弾き落としつつ大声で怒鳴る。
スピードは相手が上、このまま攻防の応酬をしていても勝ち目は薄い。そんな中、アンネローゼはふととあるアイデアを思い付く。
(! あ、いいこと考えた。これなら、あいつのスピードなんて関係なくぶっ殺せるわ。そうと決まれば、まずは……)
「来ないノか。ならバ、こちらカら」
「まずはその盾を全部吹き飛ばす! バルキリー・ハリケーン!」
攻撃を放とうとしていたバルーゼの機先を制し、アンネローゼが動く。直立した状態で翼を広げ、身体を横回転させる。
すると、激しい風の渦が巻き起こり、空を漂っていた盾を遠くへ吹き飛ばしていく。バルーゼは必死に翼を羽ばたかせ、墜落しないよう耐える。
「ぐうっ……!! なんと凄まじイ風だ……! 危うク私マで吹き飛ばサれるとこロだったゾ」
「さあ、これで邪魔な盾はなくなったわ!」
「だガ、それダけで私に勝てルと思うナ! 今度こソお前ヲ貫いてクれる! ビークスピア!」
全ての盾を吹き飛ばされ、アンネローゼへの妨害を封じられたバルーゼ。が、そんなのは関係ないとばかりに、風が止んだ直後に攻撃を仕掛ける。
それを見たアンネローゼは、待ってましたとばかりに笑みを浮かべる。槍を突き出し、真っ直ぐバルーゼ目掛けて突進していった。
「待ってたわよ、この時を! アンタに追い付けないなら、真正面からぶつかってやりゃいいのよ!」
「!? お前、正気カ!? そンな槍一本で、我がクチバシに対抗出来るトでも思ってイるのか!」
「出来る! 気合いと根性があれば、どんな不可能だって可能になるのよ!」
根性論全開なアンネローゼは、急加速して突っ込んでいく。対するバルーゼも、相手の無謀な挑戦を受けて立つことを決めた。
「良かろウ。我がクチバシに貫かれテ死ぬのが好みトあらば、望み通りニしてくレるわ!」
「返り討ちにしてやる! メテオドリルナイナー!」
クチバシと槍、敵を貫かんと二つの武器がぶつかり合う。互いの意地とプライドを賭けた激戦を制するのは、果たしてどちらか。
「ぐヌぬぬぬぬぬ……!!!」
「おりゃああああああ!!!」
一歩も退くことなく、一人と一羽は全身全霊を込めて得物を押しつけ合う。そんな中、勝敗を分ける決定的な音が空に響く。
バルーゼのクチバシが負荷に耐えきれず、亀裂が走ったのだ。予想外の出来事に、バルーゼは目を見開き驚愕する。
「バ、バカな! 我がクチバシはウルの陽鉄製なのダぞ!」
「残念だったわね、こっちの槍はウルの陰陽鉄製なの。アンタのクチバシより、強度は……遙かに上なのよ!」
自慢の武器に亀裂を入れられ、動揺するバルーゼ。ほんの一瞬、出力が弱まったその時。隙を見逃さなかったアンネローゼが、戦いを制した。
クチバシを粉々に砕き、アンネローゼは相手の全身を貫く。再起不能に陥ったバルーゼは、全身からバチバチ火花をスパークさせながら墜落していく。
「この私ガ……敗れル、とは……。ホロウバルキリー……見事、なリ!」
「アンタも強かったわ、バルーゼ。気合いと根性が足りてなかったら、私の方が負けてたかもね」
相手の勝利を讃えながら、バルーゼは人のいない平野に落下して粉々に砕け散った。最期を看取ったアンネローゼは、そう呟いた後敵陣へ向かう。
シュヴァルカイザーことフィルと合流し、残る敵を殲滅するために。数分後、アンネローゼはかつて敵の陣地だった場所に降り立つ。
「うっわ、凄い惨状。そこかしこで死屍累々なことになってるわね。……惨状に参上……ぷっ、ふふっ」
自分で自分のジョークに吹き出した後、アンネローゼはあちこちに散らばる死体を避けて奥へ進む。すると、そこには……。
「あ、いた! おーい、フィルくーん!」
「アンネ様! そちらは終わったんですね。無事なようで良かったです」
「ふっふーん、そう簡単には負けないわよ! ……ところで、フィルくんは何やってるの?」
「ポータルゲートを破壊しようとしてるんですが、これが中々頑丈で……ちょっと手間取ってたところなんですよ。よければ手伝ってもらえませんか?」
陣地の最奥部にて、大きな紫色の球体を攻撃しているフィルがいた。彼曰く、このポータルから闇の眷属たちが現れているのだという。
これさえ破壊出来れば、援軍が来ることは不可能になり大勢が決する。のだが……シュヴァルカイザーの武装を以てしても、中々壊せないらしい。
「いいわよ、じゃあ……あ! いい作戦閃いちゃった。フィルくん、ちょっと耳貸して」
「? ええ、いいですよ」
「あのね、ごにょごにょごにょ……」
「ふんふん、なるほど。いいですね、じゃあやってみみしょうか!」
アンネローゼの考えた作戦を聞き、フィルは早速実行することにした。宙に浮き上がり、フィルはアンネローゼの脚を掴む。
そして、槍を構えたアンネローゼごと身体を縦に回転させる。十分に勢いを付けたところでポータルゲートに向けてアンネローゼをブン投げた。
「いっけー! 合体奥義、漆黒魔砲台!」
「からの! 戦乙女弾道弾!」
二人のコンビネーション攻撃を受け、ポータルゲートは木っ端微塵に粉砕された。後は、生き残っている敵を殲滅するのみ。
「やったわ、フィルくん! ちょっと目が回ったけど、作戦成功よ!」
「ええ、やりましたね! さあ、この調子で残りの敵もやっつけちゃいましょう!」
「おー!」
お互いに見つめ合い、二人は笑顔を浮かべた。