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229話─全面戦争、第二ラウンド

 レジスタンス、ルナ・ソサエティの両軍が出撃してから三十分ほどが経過した。朝露が草木を濡らす中、両軍は以前と同じ空域を目指す。


「トゥリ、計器の反応は?」


「ナウ、反応ナッシング! バット、もうじきエンカウントするはずデース! 先行させた部隊との連絡を怠らないようにするデース!」


「そうね、いつ敵が現れるか分からないもの。こっちの位置を捕捉して、挟み撃ちにしてこないとも……」


「シゼル隊長、トゥリ隊長! 先行部隊からの伝令です! 前方に敵影アリ! ただちに迎撃準備を整えよとのことです!」


 いつ接敵してもいいように慎重に進軍する中、ついに五十人の先遣隊がソサエティの軍勢と接触したようだ。報告を聞いたシゼルは、トゥリとアイコンタクトする。


 結果、シゼルが先遣隊と合流して指揮を執ることが決まった。ジェディンやシルバリオ・スパルタカス二十機を引き連れ、シゼルは急加速する。


「サラ、ジュディ。敵との距離は!?」


「はい、計器を確認したところ敵の先頭とは約七十メートルの距離があります! じきに敵と」


「サラ、下がれ! ディフェンシブチェーン!」


 先遣隊の一員として参加していたサラが報告を行う中、何かが飛来してくる。真っ先に気付いたジェディンは、サラを庇うように前に出た。


 四本の鎖を束ねて盾を作り、飛んできたものを弾き落とす。よく見てみると、それはネクロモートが装備している槍だった。


「七十メートル近い距離を……投げたのか。今回は、最初からリミッターを解除してきているわけだ」


「ありがとうございます、ジェディン様。おかげで助かりました」


「気にするな、ネネから頼まれたからな。お前のことを」


「え? お姉ちゃんから? もう、お節介な……」


「ノロケてる場合じゃねえぞ、サラ! 敵が来る、構えろ!」


 ジェディンにしがみつき、モジモジしているサラ。そんな親友に、ジュディがそう叫ぶ。直後、先遣隊の数メートル先にソサエティの魔女部隊がテレポートしてきた。


 ホウキに跨がった五十人の魔女たちを守るように、少し遅れてネクロモートが百機出現する。そのうちの一体は、槍を持っていない。


 先ほど攻撃してきた機体なのだと、誰の目にも分かった。


「我が名はメンダーソン! 第一魔女隊の指揮官である! 偉大なるルナ・ソサエティに刃向かう愚かなレジスタンスたちよ! いざ尋常に勝負だ!」


「ふぅん、真正面から宣戦布告ってわけ? いいわ、そういう愚直なの嫌いじゃないわ」


「フン、正義は我らソサエティにあるのだから、わざわざ卑劣な真似をする必要などないのだよ。平和を乱す貴様ら反乱分子と違ってな! 行け、偉大なる魔女たちよ!」


「おおおおお!!!」


 魔女隊を束ねる、メンダーソンと名乗るヒゲ面の男が前に進み出てだみ声で宣戦布告する。シゼルが答えると、横柄な態度でそう返してきた。


 彼にとって、ソサエティはカルゥ=イゼルヴィアを守る正義の組織であり、そこに属する自分たちは逆徒を討つ英雄なのだろう。


「傲慢な男だ。シゼル、ネクロモートの相手は俺とシルバリオ・スパルタカスたちでやる」


「大丈夫? 敵はこちらの五倍の数がいるけど……」


「数の差だけが、勝敗を決定付けるわけじゃない。大事なのは質と数の両立だ。シルバリオ・スパルタカスの方が上だと、奴らに教えてやるさ」


「何をごちゃごちゃ言い合っている! 我らの相手をしろ! それとも、臆して逃げる相談でも始めたかぁっ!」


 魔女の人数は互角だが、キカイ戦力は敵の方が上。心配するシゼルに、ジェディンがそう答えている途中でメンダーソンが割り込んでくる。


 右手に持った長い杖の先端に、湾曲した魔力の刃を生やして薙刀のように変化させながら大将首を討ち取らんと突っ込む。


 シゼルも長い杖を呼び出し、先端に細長い金属の塊を被せてハンマーへと変える。臆病者だと言われては、引き下がる訳にはいかない。


「臆す? そんなわけないでしょう、相手をしてあげるわ! みんな、ネクロモートの相手はシルバリオ・スパルタカスに任せて! 私たちは敵の魔女たちを撃滅するわよ!」


「イエス・キャプテン!」


「フン、ネクロモートの贋作でも作ったか? ムダなことを、まがい物がオリジナルに勝てるわけなかろうが! 行け、ネクロモート! 全機攻撃開始だ!」


「了解、攻撃を開始します」


「こちらも打って出る! シルバリオ・スパルタカスよ! 俺に続け、奴らを返り討ちにするぞ!」


「かしこまりました。全機、ターゲットロックオン。攻撃を始めます!」


 魔女部隊とキカイ攻撃隊に別れ、両軍が激突する。剣や杖、小型の魔導砲等それぞれの得意とする得物を呼び出し、魔女たちは攻撃を行う。


「ジェディン様にいいところを見せないとね! ジュディ、敵を倒すわよ!」


「へーへー、わあってるよ。あんま先走んなよ、仲間からはぐれるといい的になるからな!」


「それくらいは分かってるわ、安心して。こうやってね……」


「死ね、反乱分子め!」


「相手を誘い込んで倒すのよ!」


「しまっ、罠……ぐあっ!」


 サラとジュディは、わざと隙だらけの姿を晒して相手を誘い込む。一人の魔女がまんまと罠にかかり、ジュディが隠し持っていた小型の魔導砲に撃ち抜かれ墜落していく。


「ぬぅ、おのれ! レジスタンスの小娘どもめ、卑劣な手を用いるとは!」


「悪いわね、私たちは生き延びるのが最優先なの。そのためには、多少汚い手は使うわ。戦争中に奇麗事なんて言ってられないしね」


「フン、まあよい。そんな小手先の手に頼らねば戦えぬ小者だと、自分から宣言するような奴らなど我が部隊の敵ではない!」


 その様子を見ていたメンダーソンは、サラとジュディの戦法を非難する。それに対して、彼と刃を交えていたシゼルの反応は冷ややかだ。


 これが単なる親善試合か何かであれば、メンダーソンの言い分は正しい。だが、これは互いの生き残りを賭けた全面戦争。


 そこにあるのは、生き残り勝利を掴むための純粋なる闘争のみ。よほど戦争倫理から逸脱した外道な行いでもなければ、咎められるいわれはないのだ。


「あら、随分言いたい放題じゃない。なら、正々堂々戦っても強いってことを、隊長である私が示さないとね!」


「ハン、やってみろ! 貴様なぞ我が敵では……むごっ! な、なんだ!?」


 薙刀とハンマーがぶつかり合う中、メンダーソンに何かが飛んできて後頭部にぶつかる。振り向くと、ネクロモートが一機破壊され、墜落していくのが見えた。


「ターゲット撃滅、次の機体への攻撃に移ります!」


「いいぞ、よくやった! よし、俺も負けてはいられないな……。フィルの名代として、キッチリネオボーグをあの世に送り返してやらねばな! デストラクトチェーン!」


 ネクロモートVSシルバリオ・スパルタカスの戦いは、数の差を覆しシルスパ側が優位に立っていた。手にした剣が、死の天使を両断していく。


 ネクロモートも必死に反撃しているが、強靱な盾やボディを貫けず、返り討ちにあっている。そこにジェディンも加わっているため、無双状態だ。


「はあ……やっぱり、ジェディン様って素敵……」


「よそ見してるんじゃないわよ! 隙あ……ぐえっ!」


「とっても強いわ……いつまでも見ていられちゃう」


「おーい、サラ。ジェディンさんの方見てんのはいいけどさー、ちゃんと相手も見てやれよ? よそ見されたまま叩き潰されるって、かなり屈辱だぞ?」


 勇猛果敢に戦うジェディンを、うっとりしながら見つめるサラ。そんな彼女に、剣を持った敵の魔女が襲いかかる。


 が、無骨なメイスを脳天に食らい頭蓋骨を砕かれて返り討ちにされた。敵の方を見ることもなく、気配を感じ取るだけでサラは戦っているのだ。


 そんな相方に呆れつつ、ジュディは落下していく遺体を憐れみの目で見る。まともに相手してもらえずに死ぬのは、どんなに無念なことか。


「ふム、中々面白いコとになっテきたな。ククク、ここは一つ……私ガ直々に場を引っ掻き回しテやるとシようか」


 全体的にレジスタンスが優勢になる中、不穏な動きを見せる者がいた。ただ一機、敵と戦うことなくフラフラ戦場を飛び回っているネオボーグだ。


 彼の狙いは、先遣隊やジェディン、シルスパではない。これから到着する、レジスタンス本隊なのだ。己の新たな顔である、微笑む聖女の仮面を撫でる。


「さテ、もうジき敵ノ本隊ガ来る。それマでに、魔力ヲ溜めてオくか。クフ、クハハハハ!!」


 天空の戦場に、波乱の嵐が巻き起ころうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 双方全軍出撃まであと少しの所で(ʘᗩʘ’) 両軍共に戦力増強の為に量産型の無人機を大量投入してるが(٥↼_↼) こっから戦況をひっくり返すなら使う手段は恐らくアレか(´-﹏-`;)
[一言] >「え? お姉ちゃんから? もう、お節介な……」 お前、雷オババの雷撃確定な^^ って何でオレにィィィィ!!?><
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