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226話─その名はシルバリオ・スパルタカス

 本来、シルバリオ・スパルタカスの相手はジェディンがする予定だったが……ローグの参入により、急遽プログラムが書き換えられる。


「シルバリオ・スパルタカス起動。マジックエネルギーチャージ、スタンバイ」


「早くしろ、こっちは時間がねえんだよ。これ以上イライラが募る前に、さっさと始めようぜ」


「モウ、せっかちネェ。いいわ、そこまで言うならヤッちゃうワヨ! エネルギー急速充填!」


 すっかりやさぐれてしまったローグちゃんに急かされ、スーマンは通常の三倍の速度でエネルギーをマキーナに送る。


 シルバリオ・スパルタカスの目が金色に輝き、ついに起動する。同時に、空間拡張の魔法が発動して実験室が八倍の広さになった。


「これでヨシ、と。サ、みんな集まってネ~、結界の中で安全に観戦しまショ?」


「そうだな、今のローグは荒れている。こっちに流れ弾が飛んでこないとも限らんからな」


 スーマンやジェディンたちは、結界ごと部屋の隅っこへ移動する。一方、ローグちゃんたちは逆に部屋の中央へと向かう。


「ターゲット確認、バトルモジュールロック解除。いつでも戦闘可能です」


「そうかい、なら先制攻撃させてもらうぜ! 怪盗七ツ道具、NO.3! ダレイアスの剛柔縄!」


「ターゲットの敵意を確認。目標、ターゲットの武装解除。直ちに鎮圧します」


 ローグちゃんは先端にフックが付いた縄を取り出して、ヒュンヒュン振り回しはじめる。それを見たシルバリオ・スパルタカスは盾を構える。


 自身に向かって投げ付けられたロープを盾で防ぎ、フックを弾く。守りの姿勢を維持したまま突進し、盾の脇から剣を突き出す。


「っと! 基本に忠実ってわけか? だが、あいにくそんなお行儀のいい戦法じゃオレには勝てねえよ!」


「来るワヨ、ローグチャンの攻撃が。シルバリオ・スパルタカス! 防御するノヨ!」


「了解。さらに守りを固めます」


「へっ、何をす……ああっ!? 翼が生えただと!?」


 剣を避けたローグは、器用にロープを使い刀身と鍔にフックを引っ掛ける。剣を相手の手から弾き飛ばして追撃しようとする、が。


 白銀の戦士は、背中の装甲を二カ所スライドさせてウィングモジュールを展開する。一枚一枚が鋭いブレード状になった羽根を持つ、鋼鉄の翼を使い後ろに下がった。


「フン、飛べるのか。だが、武器がねぇんじゃどうしようもないだろ!」


「否定、武装はまだあります。パルサーショット、発動!」


「んなっ!? っぶねぇ!」


 ローグちゃんが挑発すると、シルバリオ・スパルタカスはそう答える。フリーになった右手を相手に向けて、魔力の塊を発射した。


 不意を突かれたローグちゃんは、慌ててロープを束ね盾に変える。攻撃は防げたが、その間に武器の回収を許してしまう。


「ふむ、ここまでは想定通りに動けているな。戦い方も悪くない」


「エエ、でもここからが正念場ヨ。ローグチャンがあいてだモノ、油断は出来なイワ」


 戦いを観戦していたジェディンは、スーマンとそんな会話を行う。それ以外の魔女たちは、データを採りながら歓声をあげていた。


「それー! いけいけシルスパー!」


「やれー! あんなけしからんボディになったローグなんてやっつけちゃえー!」


「巨乳死すべし! 慈悲はなーい!」


 若干数名、持たざる者の嫉妬を一切隠さずおおっぴらに叫ぶ魔女がいた。が、面倒なのでジェディンは何も言わない。


 それよりも、ローグちゃんを相手にシルバリオ・スパルタカス……通称シルスパがどれだけ戦えるのかを見極める方が重要なのだ。


「フッ!」


「っと、いい剣筋だな。だが……このダレイアスの剛柔縄は簡単に斬れねえぜ! 食らいな、フックナックル!」


「敵の攻撃を確認。回避します」


 ロープの端に魔力を込め、フックを巨大化させるローグちゃん。相手の脳天に叩き付けようとすると、シルスパはスライディングで避けた。


 そのままローグちゃんの背後に回り込み、立ち上がりつつ無防備な背中にシールドバッシュを叩き込んで体勢を崩す。剣を振りかぶり、追撃を放とうとするが……。


「ハッ、この程度でオレを倒せると思ったら甘い! ロープディフェンサー!」


「攻撃不発。切り口を変え攻撃を続行します」


「来やがれ、そう簡単にオレに勝てると思うな!」


 素早く背中にロープを回し、剣を受け止めるローグちゃん。シルスパはしゃかんでローキックを放ち、相手を転ばせようとする。


 頭部に内蔵された高度な人工知能は、人間と変わらない柔軟な思考が出来るようプログラムされている。ローキックをかわされても、すでに次の手を考えているほどだ。


「っと、んなローキック当たるわけ」


「好機! ウイングバックナックル!」


「ハァ!? へばっ!」


 ローキックを避けられたシルスパは、翼を広げてぐるんと身体を回転させる。ジャンプ中で隙だらけなローグちゃんが避けられるわけもなく、盛大に吹っ飛んでいった。


「ほう、自己判断能力が思っていた以上に高いな。こちらの指示がなくても、状況に応じて的確に戦略を練れるとは」


「フフン、アタシたちの技術力を舐めてもらっちゃあ困るワネ。そんなことも出来ないAIなんて、搭載する価値がないノヨ」


「そうです! スーマン隊長は普段の言動とか性格とかいろいろアレですけど、技術力だけは誰にも負けな」


「はーいルルカチャン、おねんねしましょうネー」


「めひゅっ!」


 スーマンの片腕、ルルカという魔女が話に入ってくるも即座にデコピンを食らい黙らされた。おでこから煙を出しつつ、ルルカは崩れ落ちる。


「んもぅ~、上司のイケナイコト軽々しく口にしちゃだめヨ~、ルルカチャン」


「きゅう……」


(……事前にシゼルやローグから言われた通り、だいぶクセが強いな。この魔女は……)


 撃沈されたルルカを見て、ネネをはじめとする魔女たちはまたやられたのか……という顔をする。こんなことは日常茶飯事らしい。


 高笑いしながら戦闘データを記録しているスーマンを横目に、ジェディンは心の中でそんなことを思うのだった。


「んにゃろ、こいついい加減倒れやがれ! あったまきたぜ、こうなりゃ意地でも勝ってやる! ロープワーク・アームハンマー!」


「強力な攻撃を確認。パワーガード展開、受け止めます!」


「ぶっ壊してやらぁぁぁ!!」


 一方、中々シルスパを倒せないローグちゃんは業を煮やして大技を放つ。対するシルスパは、盾を真正面に構えて腰を落とす。


 さらに翼を曲げて自身の身体を覆い、絶対防御の態勢となる。そこに、ロープを巻いて巨大化させた右腕を振り下ろすローグちゃん。


 女体化したことで体内の魔力の流れが変わってしまっているため、これが今の彼に出来る最大威力の攻撃だ。とはいえ、その破壊力は十分。


「うるぁぁぁぁぁ!!!」


「ふんっ……はっ!」


 ローグちゃんの腕とシルスパの盾がぶつかり合い、凄まじい衝撃波が放たれる。直撃を受けた結界が振動する中、ジェディンたちは静観する。


 少しして、シルスパがバランスを崩して尻餅をついた。特に目立った損傷はなく、完全に無傷で攻撃をやり過ごしたようだ。


「ふっ……ははははは! 尻餅をつかせてやったぜ! オレの勝ち、ああオレの勝ちだとも! オレの攻撃に屈したってことだもんな、そうだろお前ら!」


「あー、はいはい。そうですね、もうそれでいいでーす」


「テストへの協力、ご苦労だったなローグ。もう行っていいぞ」


「ドライだなてめぇら!? もうちっとオレを褒めろや! ……まあいいや、そろそろ仕事に取り掛かるか」


 ちびっ子みたいに勝利宣言をしはじめたローグちゃんを見て、変にツッコむと面倒になりそうだと判断したジェディンたち。


 データの記録に忙しいスーマンに代わり、ネネとジェディンがローグちゃんを適当にあしらう。結界が解かれ、魔女たちがシルスパのチェックをする。


「スーマン隊長、外部装甲及び内部機構共に損傷ありません!」


「そう、よかっタワ。ローグチャン相手にこれだけ戦えれば、実戦でも役に立てそウネ」


「はい、仰せのままに戦います。それが、この私シルバリオ・スパルタカスの役目です」


「ウンウン、頼もしいワネ! よーし、次はこのコの量産を始めるワヨ! みんな、気合い入れてくワヨー!」


「はーい!」


 本来の仕事を思い出したローグちゃんが去って行く中、スーマンたちは次の目標……シルバリオ・スパルタカスの量産に向けて準備を始める。


 ひとまず、最初の目的は三百機。果たして、次なるソサエティとの戦いに間に合うのだろうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] あの伝説になった科学の子と呼ばれたロボット少年並みの知能くらいはありそうだな(ʘᗩʘ’) 決定的な違いはこの子は戦闘マシーンで生まれたから三原則の類は無いって所か(↼_↼)
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