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222話─仮称Xとの接触

 作業を開始してから、数時間後。夕方になる頃に、一回目の複製が完了した。研究室に隣接した、広い実験室の中にソレは立っていた。


 無骨な灰色のフレームが剥き出しになった、肉付けされる前のインフィニティ・マキーナだ。魔女たちは興味深そうに、マキーナを見ている。


「へえー、オルセナではこんな兵器が流行ってるんだー?」


「これを着て戦うの? 凄く重くて動きにくそう」


「あんまり可愛くないわねぇ。ちょっとガッカリ」


 天井から吊り下げられ、直立しているマキーナ・フレームを見て魔女たちは好き勝手批評する。言いたい放題な彼女らに、ジェディンは苦笑する。


「やれやれ、かしましいものだ。さて、とりあえずは一機複製出来たな」


「ええ、助かったワァ。ジェディンチャンがいなかったら、夜までかかってたカモ。まずは、このコを自律機動出来るように改造しないトネ」


「任せておけ、力を貸すさ」


 そう会話しながら、ジェディンは吊り下げられたマキーナ・フレームに近付く。腰に巻いてある、外装を外された状態のドライバーに触れた。


 プロテクトを解除した時のように、バックル部分のボタンを押す……が、今回は音がするまで押し込まずに素早く三回操作を行う。


 すると、プロテクト解除時とは違う、緑色をした長方形のホログラムが浮かび上がる。そこには大量の数字や記号、謎の文字が記されていた。


「あら、なぁにソレ」


「これがインフィニティ・マキーナを構成するプログラムだ。俺も見るのは、これで二回目だ」


「複雑なコードが大量にあるわネェ。これ全部イジらなくちゃいけないんデショ?」


「いや、そうでもない。書き換える必要があるのは一部だけだ。ただ……そのコードを探すのに、中々骨が折れるだけさ」


 インフィニティ・マキーナは、複雑に構成された魔力コードによってプログラミングされている。変身機構や自己修復能力、武装の展開魔法式。


 それらを機能させるためには、巧妙に紐付けされた魔法コードを大量にプログラミングしなければならず……どれかを打ち間違えるだけで、すぐバグが起きてしまう。


「大変なのネェ。教えてくれたら、アタシも手伝えるケド?」


「そうか、助かる。ホログラムパネルをコピーするから、このコードを見つけたらこっちに書き換えてくれないか。そうすれば、完全自律機動モードに移行する」


 他の魔女たちがオリジナルのドライバーのさらなる解析を進めている中、スーマンはジェディンの手伝いを行う。


 ジェディンは懐からメモ帳を取り出し、目的の魔法コードと、それをどう書き換えればいいのかを走り書きして渡す。


「ふぅん、このコードを探せばいいノネ。オッケー、すぐ始めルワ」


「急ごう、もうそろそろ夜になる。明日の朝までには、自律機動モードにしたマキーナを百機は複製しておきたいからな」


「マァ、すんごいハードスケジュール! でもイイワ、そういうのアタシ燃えちゃうタイプなの。みんなー、今日は徹夜ヨ! チャキチャキ作業進めちゃってー!」


「はーい!」


 ネクロモート軍団に対抗するための切り札を作り出さんと、ジェディンたちは急ピッチで作業を進めていく。その頃、ローグは……。


「さて、こうしてソサエティ本部に潜り込むのは久しぶりだな。マーヤの奴、この三百年何してやがるってんだ……」


 レジスタンスのアジトを去り、単独でルナ・ソサエティ本部に潜入していた。目的は、魔女長にしてかつての同志、マーヤとの接触。


「やっぱり、オレがソサエティを去るべきじゃなかったのかもしれねえな。オレがあいつを支えてやりゃ、ちったぁマシに……いや、今更言っても無意味か」


 怪盗七ツ道具の一人、クレイオスの生き縄を使って細長いロープに変身したローグは、狭い排気口の中を進んでいく。


 その中で思い返されるのは、かつて月輪七栄冠としてソサエティの改革に辣腕を振るっていた頃のマーヤとの思い出。


『ヴァル、トルナ支部で行われていた脱税問題に関する書類を纏めておきました。すでにチェックしてあるので、いつでも処罰出来ます』


『おう、助かったぜマーヤ。ったく、次から次へと汚職だの脱税だの問題が出てきやがる。ちったぁ休ませてほしいもんだな、ホント』


『仕方ありません。組織が円熟すれば、いずれ必ず腐敗が起きます。私たちの仕事は、それが起きた時に適切な対処をし、次の腐敗を未然に防ぐことですよ』


『ヘッ、軽く言ってくれるねぇ。いつになったら、腐敗のないソサエティを実現出来るんだか』


 かつての二人は、理想に燃えていた。ソサエティの中に流行る腐敗を滅し、組織をあるべき姿に立て直すのだと。


 だが、どれだけ改革を進めても汚職や腐敗が消えることはなく……いつしか、二人の心からかつての理想が消えてしまっていた。


「……もし、あいつが意図的にこの状況を作り出してるんだとしたら。オレは……自分の手で決着をつけなくちゃならねえな。それが、オレのケジメだ」


 ソサエティを去ってから、ローグは外からの変革を続けてきた。それでも、状況は好転しなかった。そんな中で、一つの疑念が湧く。


 内部からの改革を成してみせると約束し、一人残留したマーヤが心変わりを起こし……腐敗を引き起こす黒幕になってしまったのではないかと。


 もしそうなのだとしたら、彼女を暗殺することも辞さない覚悟をローグは決めていた。そして、マーヤを手にかけた後は……ソサエティと共に、自身も滅びるつもりでいる。


「もうそろそろあいつの部屋に着くな。さて、なかに居りゃいいんだが──!?」


「おやぁ? 誰かの気配を感じるよぅ。困ったねぇ、見られちゃったかなぁ? くすくすくす」


 ソサエティ本部の九階の奥、魔女長の自室に繋がる換気口のところにたどり着いたローグ。そこから部屋の中を窺おうとした瞬間、彼は驚き固まる。


 部屋の中に、見知らぬ人物がいたのだ。全身を銀色のマントで覆い、鳥のクチバシのような形をした緑色の仮面を身に着けた人物。


 悦楽の君がいたからだ。彼女はローグの気配に勘付き、作業の手を止める。見ると、部屋にある鏡やガラスといった反射物が全て新聞紙で覆われていた。


(なんだ、あいつは? なんでマーヤの部屋に? いや、それより何をやってるんだ? なんで鏡だのガラスだのを封印しやがるんだ?)


「んっふっふっ。こうやって反射物を塞いでしまえばぁ、『鏡の世界』から戻れなくなるからねぇ。これでしばらく、混乱を振りまけるよぅ。んっふっふっ」


 ローグの存在に気付いている悦楽の君は、わざと大声で楽しそうにひとりごとを口にする。それが罠だと理解しながらも、ローグは排気口を破り部屋の中に飛び込む。


「……よぉ。てめぇナニモンだ? マーヤの部屋で何してやがる」


「んふふふ、知りたいのぉ? いいよぅ、教えてあげるさぁ。私は悦楽の君。とある魔女の魔魂転写体だよぅ」


「魔魂転写体だと!? ……ああ、そうか。オレたちが仮称Xと定義してた、裏で暗躍してやがるクソ野郎の正体がてめぇってわけだ」


「おやおやおや、そんな名前で呼ばれてたんだねぇ。んふふ、その通りだよぅ。ま、正確に言えば私の本体が、だけどねぇ」


 予想外の形ではあったが、長い間暗躍してきた宿敵たる仮称Xの正体……その一端を掴んだローグ。当初の目的を変更し、彼女の正体を暴くことを決める。


「なるほどな、そういうことならオレのやることは一つだ。表に出ろ、そのふざけた仮面の下にある素顔を暴いてやるよ」


「んっふっふっ、強気だねぇ。いいよぅ、相手してあげるさぁ。……偶然にも、君を始末するいい機会が来てくれてありがたいよぅ」


 ローグと悦楽の君。二人の戦いが、始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 博士不在をいい事に好き放題言ってるがこれ作るのに博士がどれだけ苦労したとも知らずに(ʘᗩʘ’) 博士が起きて勝手に弄られて作成された量産ドライバーにどんな反応するやら(↼_↼) 博士、緊…
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