216話─魔女と天使の空中戦
レジスタンスのアジト及び要塞を防衛するため、出撃する魔女たち。険しい渓谷が眼下に広がる中、ホウキに跨がり空を駆ける。
ジェディンとイレーナも、それぞれのインフィニティ・マキーナを纏い彼女らに追従する。十数キロ南西に進んだところで、奴らが現れた。
「全員、戦闘準備! 敵性反応を確認、迎撃せよ!」
「おおおおお!!!」
「来たっすよジェディン、あれが……」
「敵の新しい兵器、ネクロモートか……」
南西方面の空に巨大な魔法陣が三つ現れ、そこから大量のネクロモートが飛び出す。紫色の甲冑と、銀色の翼を持つ恐るべき自立機動兵器。
総勢三百機の死の天使たちが、レジスタンスの魔女たちを殲滅せんと一斉に動き出す。魔女たちは左手をホウキの柄から離し、筒状の魔導砲を呼び出して腕に装着する。
「敵性反応、カクニン。全機、散開セヨ」
「シゼル隊長、トゥリ隊長! 敵は三つのグループに別れてこちらに向かってきています!」
先頭集団に混ざっていたサラが、二人の部隊長に向かって大声で叫ぶ。敵を認識したトゥリとシゼルは、すぐに指示を出す。
「オゥケェーイ、ならミーの部隊からツーハンドレッドウィッチーズを左翼の迎撃に向かわせるデース!」
「なら、私の部隊から二百人を右翼の撃滅に行かせるわ。ジェディン、残った魔女たちと一緒に中央の部隊を叩いて!」
「ああ、任せろ!」
出発前にトゥリが計器で確認した敵の反応数は、全部で三百。現在携帯している持ち運び用ミニ計器で確認したところ、百機ずつ三グループに別れていた。
シゼルもミニ計器で確認した結果、敵の各部隊に倍の数の魔女をぶつけて殲滅する作戦に出ることに。三つの部隊に別れ、突撃していく。
「左翼部隊、突撃! ネクロモートの軍勢を迎え撃つわよ!」
「はい、お任せくださいシゼル隊長!」
「あたしたちが全力を尽くすよ!」
「ええ、でも無茶はしないでいいわ。どうせリセットされるんだもの、死なない程度に敵を屠るわよ!」
「おーーー!!」
シゼル率いる左翼部隊が、ネクロモート軍団とぶつかり合う。先陣を切るのは、サラとジュディのコンビだ。
他の魔女と違い、サラの魔導砲はガトリング仕様になっている。ジュディの方は砲ですらなく、鉤状の刃を持つ剣を装備していた。
「敵性反応接近。排除シマス」
「やれるもんならやってみなさいよ! こちとらこの日が来るのをずっと待ってたんだから! 一機残らずスクラップにしてやるー!」
「だから、そんな気張る必要ないんだってジュディー!」
彼女ら二人を先頭に、両軍団が激突する。魔法の砲弾が宙を飛び交い、槍が煌めく。魔女たちは接近戦に持ち込まれぬよう、距離を取って砲撃する。
対するネクロモートたちは、盾で攻撃を防ぎながら魔女たちの懐に飛び込み槍で心臓を貫かんと突撃していく。
「このっ! このっ!」
「こいつら堅いわ! 装甲を貫け……あぎゃっ!」
「みんな、離ればなれになってはダメよ! ツーマンセル、あるいはスリーマンセルを組んで! 仲間と組んで戦うの!」
ネクロモートの装甲は非常に堅く、魔砲弾を十数発叩き込まないと破壊出来ない。一人では連射力が足りず、懐に潜り込まれて殺されてしまう。
シゼル率いる左翼部隊だけでなく、トゥリ率いる右翼部隊やジェディンたちのいる中央部隊も似たような状況にあった。
そこで、シゼルは部下たちに単独ではなく複数人で組んで戦うよう指示を出す。複数で固まっていれば、攻撃と防御の役割分担が出来る。
「殲滅セヨ!」
「来る! 防御は任せたわよ!」
「ええ! そっちの二人は攻撃をお願い!」
「やってやる、あいつがぶっ壊れるまで撃ちまくってやるわ!」
数人の被害が出てしまったものの、すぐに立て直す魔女たち。レジスタンスとして活動してきた猛者たちは、そう簡単に瓦解しないのだ。
「殲滅!」
「っと、そんな攻撃全部防いでやるわ!」
「装甲は分厚くて攻撃の効果が薄いわ、翼と背中の接続部を狙うのよ!」
「オッケー! ぶっ壊れろクソ機械め!」
胴体や頭部への攻撃は装甲のせいで効果が薄いが、翼と胴を繋ぐ部分はそこまで耐久力が高くないことに気付いた魔女たち。
「サーみんな! あのデストロイエンジェルをこっちが逆にデストロイしてやるデース! 防壁隊、シールド形成デース!」
「ハッ!」
「オゥケィ! ネクスト、砲撃部隊フルバースト!」
「一斉射! てー!」
「おおおおお!!!」
一方、トゥリ率いる右翼部隊は効率よくネクロモートの軍勢を攻撃していた。防御担当の魔女たちが魔力シールドを展開し、攻撃を防ぐ。
シールドの隙間から大砲だけを外側に出し、砲撃担当の魔女たちが一斉攻撃を行ってネクロモートたちを撃滅する。トゥリの指示により、乱れは一切ない。
統率の取れた動きで、攻撃担当と防御担当が入れ替わりながら戦いを優位に進める。全て、トゥリの持つ優れた指揮能力の賜物だ。
「トゥリ隊長、三割がた撃滅出来たようです。他部隊の救援が必要そうなら、余った魔女たちを向かわせられますが……」
「ノープロブレーム! アレを見るデース、ミーたちのヘルプは不要デース」
敵の左翼部隊との戦闘が有利に進む中、部下の一人がトゥリにそう進言する。それに対し、トゥリは中央部隊の方を見ながら答える。
「最優先撃滅対象発見! コレヨリ駆除ヲ開始スル!」
「デリートセヨ! デリートセヨ!」
「フン、何体来ようが俺は倒せん。スクラップにしてやる! デストラクトチェーン!」
「みーんなお空の藻屑にしてやるっす! でたらめバースト!」
「ググ……機能低下、出力コントロールフノウ……」
中央部隊がいる区域は、ジェディンとイレーナの独壇場となっていた。なにしろ、ネクロモートたちは魔女を無視してジェディンたちばかり狙うのだ。
彼らとしても、仲間の被害を気にせず思いっきり暴れられて都合がいい。ヴァルツァイトの意識の影響か、ネクロモートたちの声の殺意が高い。
もっとも、どれだけ殺意をたぎらせたところでジェディンとイレーナに殲滅されるという結果は変わらないのだが。
「す、凄い……あの二人、あんな簡単にネクロモートをぶっ壊してる……」
「私たち、いらなかったね。下手に加勢するより、離れて見てた方がいいって……」
「二人とも、かっこいいなぁ」
中央部隊に振り分けられた魔女たちは、活躍する機会が巡って来ず暇そうにしていた。そんな中、左翼部隊にいたサラはジェディンを見ていた。
「はあ……ジェディン様の戦うお姿……いつ見ても凜々しくて素敵……」
「乙女心全開にしてる場合か!? こっちキツいんだから加勢しろや!」
ネクロモートの群れを破壊していくジェディンを見て、頬を朱に染めながら惚けているサラ。そんな相棒に、ジュディの喝が飛ぶ。
このまま、一気に殲滅出来る。誰もがそう思っていた、その時。
「ふふ、だいぶ押されているね。やはり、リミッターをかけたままでは勝てないか」
「だから言ったろ? 最初っから出力全開にしてきゃあ、無様にやられることもなかったろうがよ!」
「! この声は……! みんな、気を付けて! 月輪七栄冠の出陣よ!」
ネクロモートたちの後方に、空間の歪みが二カ所発生する。そこから、ルナ・ソサエティの最高幹部……『迅雷』の魔女マルカ、そして『弾撃』の魔女ベルティレムが現れた。
強大な敵の出現、そして不穏な言葉にレジスタンスの魔女たちの間に動揺が走る。ネクロモートはまだ、全力ではなかったのだ。
「嘘でしょ!? これ以上強くなるってわけ!?」
「シット! これ以上スペックがアップしたらベリーベリー不利になりマース! ファッキンセブングローリーデース!」
「ふふふ、焦っているね。その顔を見たかったんだよ、だからあえてリミッターをかけたまま出撃させたんだ」
「……おめー、今更言わせてもらうがホンット性格悪いよな」
「お褒めの言葉、光栄だ。さあ、ネクロモートたちよ! リミッターを解除し、真の力を見せてやるがいい!」
動揺するシゼルたちを見て、ご満悦な様子のベルティレム。マルカが呆れ返る中、ベルティレムは右手の先に小さな魔法陣を呼び出す。
魔法陣に指をくっつけ、時計回りに勢いよく回転させる。回っている魔法陣を拳で叩き壊すと、ネクロモートたちに変化が起きた。
兜のフェイス部分、微笑みを浮かべていた聖女の顔が険しい怒り面に変わる。それと同時に、機体から凄まじい量の魔力が放出されていく。
「な、なによあの魔力……量も濃さも、あり得ないレベルじゃない!」
「さあ、今度はこちらの逆襲と洒落込もうか。楽曲のタイトルは……怒れる天使の行軍だ!」
七栄冠の参戦、そしてネクロモートのリミッター解除。二つの要因で、戦いは激化の一途を辿り始めた。




