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214話─魔女たちの作戦会議

 二時間後……ヘカテリームは目を覚ました。隣で眠る少年の額に口付けしてから、ゆっくりと起き上がる。着替えをしていると、部下からの念話が届く。


『ヘカテリーム様、ネクロモート全機のメンテナンスが完了しました。いつでも出撃可能です』


『そう、分かったわ。こちらの打ち合わせが終わり次第、指揮を取る。スタンバイモードにしておいて』


『ハッ!』


 部下とのやり取りを終えた後、ヘカテリームは戦装束である赤いドレスアーマーを身に着ける。金属部分が鮮やかな紅、布部分が淡い赤になっている鎧だ。


 着替えを終えた魔女は、すやすや眠っているカーリーを優しく揺すって起こす。時は満ちたと、従者に伝えるヘカテリーム。


「わたしはこれから七栄冠……とは言っても、もう三人しかいないけれど。最高幹部の会議に出席してくるわ。また部屋の片付けをお願いね」


「はい、いってらっしゃいませ! あの、ヘカテリームさま……」


「なぁに? カーリー」


「……死なないでくださいね。僕、いつものようにお待ちしていますから。ヘカテリームさまのお帰りを」


「ふふ、安心して。必ず勝って戻ってくるから」


 不安がる少年の頭を撫で、ヘカテリームは優しく微笑む。無事で帰ると約束し、腰から伸びる布をひるがえしながら部屋を出た。


 ルナ・ソサエティ本部、最上階にある月輪の間へと向かい、マーヤ及びマルカと合流する。レジスタンス討伐に向け、いよいよ動くのだ。


「来ましたね、二人とも。それではこれより、月輪七栄冠による会議を始めます」


「会議、ねぇ。たった三人しかいねってのに、わざわざやる意味あんのかこれ?」


「マルカ。如何なる時も報告、連絡、相談は大事なものです。特に今は、レジスタンスとの決戦を控えているのですから。独断専行は身を滅ぼす元ですよ」


「へえへ、相変わらずねちねちうるせぇな」


 空席が過半数を占めるようになってしまった円卓に座り、会議を始めようとするマーヤたち。その時、会議室の扉が開いた。


「やあ、間に合ったかな? 遅れて済まないね、私も参加するよ」


「てめぇ、ベルティレム! 今の今までどこほっつき歩いてやがったんだ!」


「随分とのんびり屋さんね。まるで昨夜のわたしみたい」


 会議室に、ベルティレム……に変装した悦楽の君が姿を現す。見た目や声、動作のクセ等全て本体と同じにコピーしている。


 正体に気付いていないマルカとヘカテリームは、これまで何の連絡も寄越してこなかったベルティレムの偽者に文句を言う。


「いや、悪いね。カルゥ=オルセナの調査についつい夢中になってしまって。……部下から聞いたよ。テルフェとペルローナが死んだってね」


「惜しい者たちを亡くしました。彼女たちが生きていれば、心強い戦力になったのですが」


 オリジナルとその分身たちが死に関与しているというのに、いけしゃあしゃあとお悔やみの気持ちを表明する偽ベルティレム。


 顔で泣いて、心では大笑い。計画の邪魔になる最高幹部も、()()()()()マルカとヘカテリームの二人だけだ。


「そうだね、マーヤ魔女長。……で、今はどんな状況だい?」


「これから作戦会議すんだよ。良いんだか悪いんだか、よく分からんタイミングで帰ってきやがって」


「いえ、これはいいタイミングよマルカ。指揮官が増えれば、それだけ多くの部隊を編成出来るもの」


「それもそうだけどよ……なーんか嫌な予感するんだよな、虫の知らせっつーか」


 そう呟き、マルカは二つ左に離れた席に座った偽ベルティレムを見つめる。完璧に本体をトレースしている自信はあったが、それでも本能から来る勘までは誤魔化し切れないようだ。


(マルカ、か。猪突猛進タイプで学術面での知能はさほどでもないが、機転の良さと勘の鋭さは以前から警戒していた。迂闊な動きを見せたら、すぐ見破られるかもね)


 自分の方を見てくるマルカを見つめ返しながら、偽ベルティレムは心の中で警戒を強める。自分が魔魂転写体だとバレれば、いらぬ疑惑を彼女らに抱かせてしまう。


 そうなれば、偽ベルティレムこと悦楽の君の目的を果たすのが困難になる。それだけは、何としても避けなければならないのだ。


「そろそろ本題に入りましょう。マルカ、現在動員可能な魔女の総数は?」


「万一の事態に備える待機要員やら衛生担当やらも含めて、まあ……一万四千ってとこか。実際に戦闘するのは、半分くらいだな」


「七千人、ね。レジスタンスの規模を掴み切れていない以上、()()()()()()()()()()兵を小出しにした方がいいわね」


 マーヤの号令で、ようやく作戦会議が始まる。誰も言わないが、全員ヘカテリームの持つ時の固定及びそれに付随するリセットの力を前提に作戦を立てていた。


「巻き戻る前に死んだ場合、その記憶だけは受け継がれるんだったかな? 確かに、それで戦意を喪失してリタイア……という者が出るのは極力避けたいね」


「そうよ。ま、その点今回は心配いらないわ。アンブロシアが、強力な兵器を量産したくれていたから」


「ネクロモートだっけか? アレがどこまでやれるか確かめるのも大切だもんな」


 七栄冠たちは、手始めにネクロモートを三百機ほどレジスタンスにぶつける腹積もりでいた。ヘカテリームの巻き戻しには、デメリットがある。


 固定された時間の中で死んだ場合……死の瞬間の記憶だけはリセットされず、巻き戻した後も残ってしまうのだ。結果、死の恐怖に怯え戦意喪失してしまう者が出ることになる。


 ヘカテリームの時の固定と巻き戻しは、無制限に使える魔法ではない。ゆえに、もう巻き戻せないという場面で死んでしまったら……と恐怖を抱いてしまうのだ。


「三百機を百機ずつ、三つの部隊に分けて運用します。それぞれの部隊のリーダーは、貴女たち三人を任命します。ネクロモートの性能確認及び、レジスタンスの規模の把握を第一任務とします」


「あいよ、分かった。でも、攻められるならガンガン攻めていいんだよなぁ?」


「構いません。有益な記憶は私が保護し、巻き戻されても持続するようにしますので」


「ヘッ、言質は取ったぜ。これで好きなだけ、ネクロモートで遊べるな」


 どうせ一回は巻き戻すのだからと、マルカは機体の限界を無視した無茶苦茶な運用をすることにしたようだ。


 実際、どこに性能の限界があるのかを自分の目で確かめることも重要なのだが……ウキウキしているマルカを見て、ヘカテリームは呆れてしまう。


「やれやれ。ここにアンブロシアがいたらブチ切れてるところね。会議どころじゃなくなるところよ」


「さ、グズグズしている暇はありませんよ。初戦を始めます、全員準備なさい。巻き戻すのが前提ゆえ、敗北しても問題はありません。ですが、手を抜くことだけはしないように」


「へえへえ、わーってるわーってる。転んでもタダじゃ起きねえ、かならずレジスタンスの情報を得てやるから楽しみにしとけ」


 ある程度方針が決まったところで、会議は終了となった。ここからは、実際にレジスタンスと交戦し……その結果を綱領し、改めて会議することになる。


 解散した後、ヘカテリームは大倉庫へと向かい整備担当の魔女たちに会議の内容を伝える。千八百機あるネクロモートのうち、百機を借りた。


「この胸部の読み取り部分に手を当てて、魔力を流し込んでください。そうすれば、ヘカテリーム様の意思による操作が出来ます」


「なるほどね。でも、一度にこんなたくさん操作出来るかしら」


「問題はありませんよ。コマンダーモードと言って直接操作する一機を起点に、残りの機体に命令を出してオート操作することが出来ますから」


「あら、凄いのね。じゃあ、すぐに魔力を読み込ませるわ。……いよいよね、レジスタンスとの戦争が始まる」


 開戦の時が、ついに訪れようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ネクロモート事態の投入は向こうの世界で行われるなら此方の世界での風評被害は無くて済みそうだな(ʘᗩʘ’)
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