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206話─二人のアン、再会

 陽が高く昇り、正午を迎えた頃。ようやく、アンネローゼとクラヴリンはログハウスのある針葉樹林に到着した。


 ……はいいものの、すんなりとログハウスに着くことは出来ない。留守番として残っていたスケルトンやゾンビたちが、妨害してきたからだ。


「やれやれ、やっとここまで来たってのに。邪魔すんじゃないわよ! 今度はカラッカラになるまで魔力を搾り取ってやるから!」


「今回は、封魂の指輪の力を逆手に取れるだけの知能のある敵がいないからな。楽に蹴散らしていけるな、これは」


 とはいえ、ネクロディーンのような切れ者はおらずただノタノタ襲ってくるだけ。そんなアンデッドなど何体いようが、二人の敵ではない。


 ホロウバルキリーの姿に戻ったアンネローゼは、クラヴリンと共にアンデッドの群れを蹴散らしつつ森の中に足を踏み入れる。


「気を付けろ、アンネローゼ。敵が罠を仕掛けていないとも限らん。足下も頭上も、警戒を怠るな」


「ええ、分かってるわ。これだけ雪が深いと、罠なんて好きなだけ隠せるしね。ちゃんと注意しないと、足下を掬われ……ん?」


 雪はかなり積もっており、足首まで埋まってしまうほどの量があった。とはいえ、二人の身体能力であればさほど苦労せず進める。


 が、そんな中アンネローゼは何か堅いものを踏んだ感覚を覚える。刹那、何かが飛来する気配を察知して咄嗟に身を屈めた。


「おあっ!? ……っぶなーい、矢が飛んでくるなんてやんなっちゃう。矢だけに……あいたっ!」


「今のは聞かなかったことにしておいてやる。次に言ったら強めにはたくぞ」


「ひっどーい、乙女の頭殴るなんてあり得ないわ!」


「……レジェに毒されているな。あいつに似てきているぞ、アンネローゼ」


 直後、近くにある木のうろから矢が放たれた。しゃがんでいたおかげで直撃を免れ、思わずアンネローゼは駄洒落を口にする。


 それがお気に召さなかったのか、クラヴリンは無言でアンネローゼの頭をはたく。文句ぶーぶーな彼女に呆れながら、クラヴリンはそう答える。


「いいじゃない、むしろ親友同士お揃いなのって素敵だと思わない?」


「やめておけ、事実上あいつが二人になるのは周囲の心理的な負担がかなり増える。レジェの色に染まるのはおすすめしな──!?」


「また罠!? クラヴリン、早くこっちに!」


 他愛ないやりとりをしながら、新たに湧いてきたアンデッドたちを滅していたその時。クラヴリンの頭上に、円に囲まれた髑髏の模様を持つ魔法陣が現れた。


 魔法陣が降下していく中、嫌な予感を覚えたアンネローゼはクラヴリンに手を伸ばし助けようとする。しかし、その行為も虚しく。


 クラヴリンは落ちてきた魔法陣に吸い込まれ、どこかへと転送されてしまった。一人残されたアンネローゼの元に、雪を踏み締める音が近付く。


「ようやく来たんだ。グズなオリジナルにしちゃ、早い方なんじゃない?」


「……今の魔法陣はあんたの仕業ね? アンブロシア」


「そうよ。邪魔者がいると面倒だから、お仕置き部屋に送り込んでやったわ」


 そこに現れたのは、アンネローゼの運命変異体にしてルナ・ソサエティの最高幹部。『屍纏』の魔女アンブロシアだ。


 ログハウスに寄ってフィルを置いてきたようで、鎧の腹部はほっそりした体型にフィットするものに変化している。


「お仕置き部屋……?」


「そう。この森の一角を改造して生み出した特殊な空間よ。そこはネクロヒューマンやアンデッドたちを生み出す畑が見渡す限り広がってるの」


「嫌なところね。そこでクラヴリンをなぶり殺しにするつもりなんだ?」


「もちろん。復活させた四人のネクロヒューマンにアンデッドをしこたま詰め込んでおいたから、数分で死ぬかもね? うふふふふ」


 アンデッドたちが退いていく中、アンネローゼとアンブロシアは互いにゆっくりと近付いていく。鼻先がくっつくほど距離を詰め、相手を睨む。


「仲間を助けたいなら、ここをすぐに去ることね。グズグズしてたら、無残な惨殺死体になって再会することになるわよ」


「あら、問題ないわ。クラヴリンなら大丈夫。レジェも認める折り紙付きの強さがあるもの。それより……返してもらうわよ、『私の』フィルくんを」


「あ~? 何かしら、聞こえないわね~。誰のフィルくん……ですって? あの子はアタシのものになったから、あんたの出る幕はないの。さっさと帰ってくれない? 負け犬さん」


 お互いの放つ殺気が膨れ上がるのと同時に、どんどん会話も不穏かつ攻撃的なものへと変わる。心なしかアンデッドたちは震えていた。


 これから、とんでもない規模の戦いが起こる。それに巻き込まれないよう、こっそりと何体かが逃げ出そうとするが……。


「負け犬? それはここから先のアンタのことよ。見た目だけ若い処女こじらせたクソ【ピー】なんぞに、この私が負ける道理はないもの。ねぇ?」


「はぁぁぁぁ? だ、誰が処女よ! いや、確かにそうだけど……ぐぅぅ」


「あっはっはっ! なによ、図星突かせて言い返せないわけ? ダッサいわね、あんなにイキッて」


「調子に乗ってんじゃないわよ小娘ぇ! そんなに死にたいなら、望み通りぶっ殺してやる! 爆ぜろ、灼炎のイスタナギオ!」


 とうとう堪忍袋の緒が切れたアンブロシアが、先制攻撃を放った。素早く後ろに飛びつつ、死纏斧ナーザヘイトを呼び出す。


 斧を赤熱させ、指向性を持つ強烈な熱波をアンネローゼめがけて発射する。アンネローゼは翼を広げ、飛翔して攻撃をかわす。


「いきなり攻撃ってわけ? あーヤダヤダ、歳取ると怒りっぽくなるみたいねぇ!」


「黙りなさい! 魂は永遠の十七歳なのよ! あんたこそ自活能力ゼロなションベンたれのクセして、デカい顔してんじゃないわ!」


「はー? そういうアンタは何が出来るわけ? どうせ何にも出来ないんでしょうが!」


 熱波が直撃した木が、一瞬で消し炭に変わる。その威力の高さなどそっちのけで、もう一人の自分との口喧嘩に没頭するアンネローゼ。


 アンブロシアに槍を突き出しつつ、口撃も行う。相手の反論に対し、余裕の態度でそうのたまうが……。


「あーら残念、アタシ炊事洗濯掃除に裁縫、家事は一通り全部こなせるの。昨日も、フィルくんに美味しい美味しいビーフシチューを作ってあげたのよ」


「う、嘘でしょ……私のクセに料理出来るなんて!」


「あんまりにも美味しかったみたいで、お鍋半分の量をぺろっと平らげてくれたわよ。言葉じゃ嫌がってても、身体は素直ってわけ。あんたにフィルくんを満足させるなんて無理よ、何も家事が出来ないもんね!」


 年齢マウントで優位に立っていたアンネローゼであったが、相手の家事マウントによる逆襲に合ってしまう。


 ついでに、槍を弾かれナーザヘイトによる反撃も受ける。これまでの攻勢をひっくり返され、今度は彼女が攻められることに。


「ていうか、そもそも何で私が家事出来ないって知ってんのよアンタ!」


「決まってるでしょ? あんたが同調不全でダウンしてる時に記憶を同期させてこれまでのことを覗き見してやったのよ。あんたさっきアタシを処女だとバカにしてたけど、あんただってそうじゃない」


「う、うっさいわね! 今そんなのは関係ないでしょうが!」


 すっかりやりこめられたアンネローゼは、怒りを込めて槍を振るう。アンデッドたちが逃げ惑う中、再び斧から熱波が放たれる。


「はぁ? 大アリに決まってんでしょ? 人をコケにしたんだから、あんただって同じ目に合わないと不公平よねぇ!」


「チッ、処女煽りしたのは失敗だったか……でも、私は十七年モノだけどアンタはその何倍かしらね? いや、下手すると私の何十倍もの年月こじらせた処女ってことになるわね! ふっ、ダサッ!」


「あ゛? 若いだけで何も家事が出来ないお荷物クソ【ピー】がいっちょ前に吠えてんじゃないわよ。あんたみたいなのが結婚しても、すぐに幻滅されて愛想尽かされるのがオチだって気付かない? 哀れな頭してるわね、脳みそ腐ってんじゃないの?」


「あ゛あ゛!? ああ言えばこう言う、ホント何様なのよアンタ!」


「決まってるでしょうが! アタシはあんたなのよこのボケナス!」


 口喧嘩が白熱し過ぎて、もうどうやっても止められない領域にまでヒートアップしてしまった。お互いの放つ熱波や真空の刃で、森がどんどん破壊されていく。


 ついでにアンデッドたちも巻き添えを食らって急速に数を減らしているが、今の彼女らからすればどうでもいいことだろう。


「……っ殺す。アンタだけはこの手でブチ殺がしてやらないと気が済まないわ! はらわた引きずり出してマフラーみたいに首を絞めてやる!」


「やってみなさいよ。あんたの未使用【ピー】に爆炎ブチ込んで一生使えないようにしてやるから覚悟しなさい小娘ぇ!」


 アンネローゼとアンブロシア。二人の戦いは、過激な口撃の応酬で幕を開けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 遂に始まったか女と女の戦いが(ʘᗩʘ’) 今更ながらも今までのシリーズはハーレムタグがあったからヒロイン同士の戦いも口喧嘩、殴り合い喧嘩、保護者兼メイド兼教育係からのお仕置きで済んでたが(٥…
[一言] 運命変異体といえど過激な言葉を言うのは変わらぬのだな(悟り
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