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202話─封魂の指輪

「言っとくけど、手加減なんてしないから。まずは邪魔なアンデッドどもを消してやる! 白き薔薇よ、輝け! セイクリッド・ライト!」


「ほう……アンデッドを浄化する技か。だが、おれがいる限りそんな技は使わせんぞ!」


「来なさいよ。こっちには封魂の指輪があるんだからね! アンタなんて怖くないわ!」


 懐から指輪を取り出し、魔力で作り出したひもに通して首から下げるアンネローゼ。指輪に取り付けられたブラックオパールが輝きはじめる。


 直後、ネクロディーンや彼の周囲にいたアンデッドたちの身体からドス黒いもやのようなものが溢れ出してきた。


「ぐうっ!? こ、これは……魔力を吸われているのか!」


「そうよ、驚いた? こうやって魔力を吸い尽くされたら、アンタらどうなっちゃうのかしらね。干物みたいにカラカラになるか、それとも……」


「なんだ、ただ魔力を吸うだけか。なら、好きなだけ吸わせてやる。お前たち、魔力を放出してやれ。あの指輪にたっぷりと魔力を食わせろ!」


 ガクッと魔力を奪われ、全身の力が抜けるネクロディーン。そんな中で、彼はあえて部下ともども魔力を放出する。


 封魂の指輪にわざと大量の魔力を送り込むことで、キャパシティオーバーを引き起こし自壊させようと狙っているのだ。


「オオオオォォォォ……!!!」


「な、何よコイツら……一斉に魔力を……まさか!」


「狙いに気付いたか? だがもう遅い。その指輪は確かに恐ろしいものだ。今もこうして、立っているのが精一杯。だが……その指輪、無限に魔力を溜めておけるわけではなかろう。いつまで耐えられるかな?」


「チッ、なら限界が来る前にアンタをブッ殺してやるだけよ! ローズ……」


「させん! 行け、ゾンビたちよ! 奴に組み付いて動きを止めろ!」


「オアアアア!!」


「ギャシイィィ!」


「ちょ、こっち来んなっての! あああもう、臭いキモい汚いぃぃぃぃ!!」


 ゾンビの数を物理的に減らさなければ、あっという間に指輪の限界が来てしまう。アンネローゼが動こうとした瞬間、ネクロディーンが指示を出す。


 すると、それまでの緩慢な動きが嘘のように俊敏さを発揮したゾンビたち。アンネローゼに前後左右から飛びかかり、動きを封じてしまう。


「上出来だ。後は指輪が砕けるのを待つだけ。あの指輪さえなければ、恐れるものなど」


「残念だったな、あの指輪が一つしか存在しないといつから錯覚していた?」


「!? 貴様、なにも……ぐおあぁぁ!!」


 絶体絶命の状況の中、上空にポータルが開く。そこから、封魂の指輪を起動させたクラヴリンが飛び降りてきた。


 アンネローゼを拘束していたゾンビたちを蹴散らしながら、彼らが放出する魔力を己の鎧に内蔵した指輪へ吸収させる。


「バカな、二つ目の指輪……だと!?」


「ふむ、やはり先の戦いで指輪を温存しておいて正解だったな。お前たちアンデッドが何らかの方法で情報を共有していないとは断言出来んからな、あえて使わずにおいたのさ」


「助かったわクラヴリン! ……さて、これで形勢逆転かしら?」


「まだ油断はするな、窮鼠猫を噛むと言う。まだ何かしてくる可能性が高い」


 二倍の速度で魔力を吸い取られ、ゾンビたちはバタバタと倒れていく。流石のネクロディーンも耐えきれず、片膝をついた。


「がっ……。ふふ、こんな事態になるとはな……そうでなくては面白くない。さあ、もっと吸え。おれの魔力を吸い尽くすがいい!」


「……貴様、何を考えている? 魔力を全て奪われたら、もう活動出来まい」


「いいや? お前たちは分かっていない。アンブロシア様の偉大なる力をな……!」


 明らかに相手は何かを企んでいる。それはふたりとも分かっているが、ここで一つ問題が発生した。封魂の指輪を止める方法が分からないのだ。


 レジェが指輪の魔力吸収を止める方法をアゼルから聞かなかったため、無制限に魔力を吸い尽くす状態になってしまっている。


「止まって、止まってよ! このまま魔力を吸ってたら、絶対ヤバいことになるって!」


「レジェめ……肝心なところでアホなのも変わっていないな!」


「ああ……魔力は消えた。もう空っぽだ。お前たちもそうだろう? なら……一つになろうじゃないか。おれとお前たちで、一つ上のアンデッドへと進化するのだ!」


 数分もしないうちに、ネクロディーンの魔力が全て二つの指輪に吸い込まれた。ミイラのように干からびた姿になった彼は、両手を天に掲げ叫ぶ。


 すると、一足先に機能停止したはずのゾンビたちが溶けるように消えていく。黒い光の粒子になったゾンビたちは、ネクロディーンに吸い込まれる。


「ねえ、ちょっと不味くない? これ、かなりの緊急事態だと思うんだけど」


「思う、ではないな。すでになっている。最悪の事態にな……!」


「礼を言おう。魔力を完全に吸い取ってくれたおかげで、『空き容量』が大幅に増えた。おかげで……アンブロシア様より授けられた力を、カタコンベの外でも扱える!」


 そう叫ぶと、ネクロディーンの身体から凄まじい輝きを持つ黒い閃光が放たれる。アンネローゼたちが思わず怯む中、彼の姿が変化していく。


 鎧が砕け、膨れ上がった身体があらわになる。取り込んだゾンビたちを用いて巨大化し続け、やがて……七つの首を持つ、地竜へと変身を遂げた。


「な、なによあれ……! コイツら、こんな切り札を持ってたってわけ!?」


「ふふふ、驚いたか? 本来であれば、この屍融合はアンブロシア様のホームであるカタコンベで造られた時でなければ行えない。外の土地だと、不純な魔力が混ざるのでな」


「そうか、それで貴様はわざと魔力を全て吸い取らせたのか!」


「そうとも。不純な魔力が消え、空き容量が増えればカタコンベの外で造られたおれたちでもこの姿になれる。もっとも、長くて三十分程度が限界だがね」


 七つの首のうち、真ん中にある首がアンネローゼたちを睨みながらそう告げる。彼は二人に、暗に告げているのだ。


 お前たちなど三十分もあれば殺すのは容易いと。


「ふぅん、言うじゃない。図体は大きくても、魔力がすっからかんな状態で何が出来るってわけ?」


「知りたいか? ならその身体に教え込んでやる!」


「アンネローゼ、来るぞ! まずは奴の手の内を暴く。我輩の後ろに隠れろ!」


「仕方ないわね……誰かの後ろに隠れて守ってもらうなんて、性に合わないんだけどね!」


 巨大なヒュドラゾンビと化したネクロディーンは、前脚を振り上げる。ゾンビたちの体内から抽出した骨を変形させた、鋭い爪を備えたソレが振り下ろされる。


 迎撃のため前に出ようとしたアンネローゼだったが、大盾を構えたクラヴリンにそう言われ大人しく彼の後ろへ移動する。


 本音を言えば、フィル以外に守ってもらうのはかっこ悪いので断りたかったがそうもいかない。相手の実力が未知数である以上、チームワークが重要なのだ。


「死ねッ!」


「ぐうっ! なんと重い一撃だ……だが、耐えられないほどではないな」


「それはどうかな? 忘れたか、こちらには首が七つあるのだ! ネクロヘッドパンツァー!」


 踏みつけを受け止め、耐えきったクラヴリン。が、そこに容赦なく追撃が打ち込まれる。七つの頭をハンマーのように振り下ろし、上から盾を殴る。


「ぬうっ、我輩を雪に埋めるつもりか!」


「そうはさせないわ、ここは私が前に出る! あの首を三つくらいぶった斬ってやるわ!」


「済まない、頃合いを見計らって我輩も反撃に出る。力を合わせてこやつを撃破するぞ!」


「やってみろ、このパワーと手数の差を覆せるものならな!」


 予想外のパワーアップを遂げたネクロディーン。彼を倒さねば、アンネローゼはフィルを救うことは出来ない。


 槍と盾を持つ手に力を込め、アンネローゼは翼を広げる。僅かに身体を後ろに滑らせ、真上に飛翔していく。


「言われなくてもやってやるわ。アンタなんかを倒せないようじゃ、私の運命変異体は倒せない。ウォーミングアップのつもりでサクッと倒してやるから、覚悟しなさい!」


「面白い、ウォーミングアップときたか。その言葉、無様な敗北によって後悔させてやる!」


「負けるのはアンタよ! いつの世も、邪悪なアンデッドは聖なる力には勝てない! こっちにはアンタらから吸い取った魔力がたっぷりあるのよ。全力で潰してあげる!」


 封魂の指輪に溜め込んだ魔力を取り出し、己の魔力と混ぜて浄化しながら取り込んでいくアンネローゼ。巨大竜との死闘が、幕を開けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 封印武器で有利かと思えばまさかの逆王手(ʘᗩʘ’) しかし寄り集まって混ざって七つ首の竜(?・・) やっぱり七魔女だからそれに因んだか?(↼_↼) 普通なら九首のヒドラだが(⌐■-■)
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